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歯磨き粉

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 天は、歯磨きが好きだ。
 虫歯になるはず無いのに……まぁ不思議な話だが、とにかく好きなのだ。
「はみがきぃー♪」
 今日も、歯ブラシ片手にご機嫌な様子の天。
 一体これの何が楽しいのか、俺にはちっとも理解出来ない。
 まぁ、悪い習慣ではないから別にいいのだが。
「えへー」
 相変わらずの笑顔で、歯ブラシの上に歯磨き粉を付ける。
 ピンク色の、イチゴ味の奴だ。

 次の日の朝。
 休日ということで、いつもより遅い朝食を取っていたら、珊瑚が例の天の歯磨き粉片手に、
俺に話しかけてきた。
「なぁ主、最近天河石の歯磨き粉を使っているか?」
「はぁ? そんな訳ないだろぉ」
「そうか……いや、最近ずいぶんとこれの減りが早いと思ってな」
 減りが早い?
 確かに、共用している物でもないのに、最近月に何度か買いに行ってるような。
「天が多く使ってるんじゃないのか?」
「そんなことはないと思うが……」
 あごに手を当て、考え込む珊瑚。
「あうー……おはよぉ」
 そこに、寝ぼけ眼の天がやってくる。
「よお。今日は遅いんだな」
「んゅぅ……お姉ちゃんに、遅くまでごほん読んでもらってたのぉ」
「そうか。もっと早く寝ろよー」
 はぁいと、どこかぼんやりした返事をしつつ、珊瑚の方へ顔を向ける。
 そして、その手にあるイチゴ味の歯磨き粉へ。
 ……先ほどの、寝ぼけ眼とはどこか違う視線を、そちらへ向けている。
「ん、某がどうかしたか?」
「にゃっ、な、なんでもないよぉ」
 ……俺は、あんな目をしている時に天が考えていることを、知っている。
 アレは、プリンを見ている時の目だ。
「まぁいい。天河石、あまり歯磨き粉はたくさん使うな。ただでさえ某達には必要がないのだから」
「は、はぁい。それじゃあ、天河石お顔洗ってくるねっ」
「ああ。ついでにこれも置いてきてくれ」
 天に歯磨き粉を渡し、天は洗面所へ、珊瑚は台所へ向かう。
「さてと」
 とりあえず、天の様子を見に行ってみるか。
 おそらく、俺の予想が当たっていれば……。

「んー」
 洗面台を前に、天は顔を洗って……いなかった。
 手に持った歯磨き粉を見ながら、何か期待に満ちた顔を浮かべる。
 そして、歯磨き粉の蓋を取り、チューブから中身を出し、少しだけ指に乗せる。
 一体何をするか? この先は俺もガキの頃経験があるので、よく分かる。

「あむっ」
 ……歯磨き粉を乗せた指を、口に入れる。
 やはりそうだ。天はあの歯磨き粉の味が気に入っているのだろう。
 だから、いつも歯磨きしていたのだろう。
「天ー」
「んみゃっ!?」
 指をくわえたまま、イタズラがばれたかのような驚きを見せる天。
「ま、まま、まふたぁ~?」
「いいから口から指を離せ」
「ふぁい……んぅ」
 口から指を抜き、洗面台で手と顔を洗う。
 そして、まるで何事もなかったかのような笑顔を見せた。
「マスタぁー、綺麗になったぁ?」
「ごまかすな」
「にゅ……な、なんのことぉ?」
「歯磨き粉のこと」
「朝もちゃんと歯ブラシするよぉー」
「そうだな、歯ブラシするための物だ。食べる物ではない」
 そこまで言われて、顔から冷や汗を垂らす天。
 怒られると思っているのか……。
「え、えへっ」
「えへじゃない。まぁ、気持ちは分かるが、あまり食べるなよ……」
「はぁい……マスタぁーもやったことあるのぉ?」
 と、そこで急に顔色が変わる天。
「え? いや、ガキの頃だけど」
「そうなんだぁ。じゃあねぇ、マスタぁーも、はいっ」
 そして何故か差し出される、歯磨き粉のチューブ。
 ……これを俺にどうすれと。
「あのねぇ、すっごく美味しいんだよっ」
「食べ物じゃないっつーの」
「あう……で、でも甘いよっ!」
「甘くてもおやつじゃないって……気持ちは嬉しいけどな、あまり無駄遣いするな」
 歯磨き粉を天から受け取り、それに蓋をして元の場所に戻す。
 どこか名残惜しそうな顔で、俺の様子を見つめる天。
「……まぁ、たまには使ってみてもいいけど」
 そう付け加えてやると、ずいぶんと嬉しそうな顔を浮かべるのであった。
 相変わらず、見ていて飽きない奴だな。

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