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虎目石の逆襲

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「さて、この街近辺でここ数日、イタズラ公認と称してイタズラを続ける
少女が現れるという事件がありました」
「ふぉらめぇーっ!」
「何? 姉さん」
「ふぁんふぇふぁふぁしふぁひぶぁられふぇるほよぉーっ!!」
「何で縛られてるか? それはもちろん、犯人が姉さんだから。さて、
姉さんはふぁと何回言ったでしょうか?」
「ふがーっ!」

 ハロウィンの日は、毎年気が滅入る。
 トリックオアトリックの精神で暴れ回る姉さんを、止めなければならないから。
 特に、姉さんもこの日は特に気合いを入れたイタズラを行う。ある年のハロウィンは
それがあんな事に発展してしまうし……ブギーマン、怖い。
「という訳で、今年は私のハロウィンに付き合ってもらう」
「ふぉろけーっ、ふぁるふつわはふへーっ!」
「解いたら逃げちゃう。猿ぐつわは外してあげる」
 姉さんの背後に回り、タオルで作った即席の猿ぐつわを外す。
「ぷはぁっ。ったくー、まさかあたしがこんな……って解きなさいよー!」
「ダメ」
 そんなことをしたら、真っ先に逃げられるのは当然。
 それに、この場で逃げ出したら次は私がどうにかなるかも知れない。あと、
たまには姉さんとこういうイベントに加わるのも悪くない。
「で、姉さん。ハロウィンといえばどういう日?」
「公認のイタズラ記念日」
「やっぱり犯人」
 まぁ、そう答えるのは分かってたけど。
「む、何よその顔ー。じゃあマイケル・マイヤーズが蘇る日とでも言って……
あぁごめんっ、謝るからそんな泣きそうな顔しないでよっ!」
「ブギーマン、嫌……」

 気を取り直して、今日の本題を姉さんに伝える。もうブギーマンはこりごり。
「ハロウィンは、世間公認のコスプレパーティ」
「コスプレぇ? 仮装って言うんじゃないの、普通」
「いや、コスプレ」
「仮装」
「コスプレ」
「ブギーマンの……ごめん、本当に」
 縛っているせいか、今日の姉さんは本当に意地悪だ。
 ……それよりも、話を続けないと。
「……だから、今日は姉さんの衣装を、作った」
「はぁ? まさかあたしが、コスプレを?」
「私と一緒に」
 その言葉を聞き、口を閉ざす姉さん。
 一体何を考えているのだろうか。
「……双子でコスプレって、なんかヤラシイ響きー」
 あまり良いことは考えてなかったみたいだ。
「で、その衣装で色々と誘惑してあーんなイタズラやこーんな」
「しない」
「ぶーぶーっ。せっかく付き合ってあげようと思ったのにー」
 私はイタズラよりお菓子の方が好きだ。ヘタなイタズラで姉さん達の
お仕置きを受けるのは怖いし。
「あっ、もしかしてお菓子が目当て? ペリドット姉さんの手作りの奴とか?」
 ……時々鋭い。
「図星かぁー。そーかそーか、それじゃあ姉として一肌脱がないとねぇー。
という訳で解いて?」
「……さて、とりあえず姉さんの衣装の説明」
「え、何スルー……ってぇ!」
 姉さんの前に、今回用意した衣装を出す。ちなみに私の手作り。
 それを見て姉さんは、目を丸くする。そしてほんのりと顔が赤く。
「ちょ、あ、あんたっ、これ、ぬ、布地部分少なすぎっ!!」
「サキュバス系コス・生」
「生って何っ、生って!」
「気にしない。その場の勢いだから」
「勢いって! というかその勢いを抑えてもっと肌が隠れる衣装をっ」
「その胸を活かさずしてどうしろと。それに、中途半端な衣装では先方からクレームが」
「先方って誰よ!」
 ブギーマンでうろたえてしまったけど、やっといつものペースに戻ってきた。
 本当、あのハロウィンマスクはもう嫌だ。
「と、とにかくっ、あたしだってしゅーち心ってのがあるんだからねっ。そんな衣装……」
「姉さん……今回街で起こした騒ぎの件、まだペリドット姉さん達には伝えてない」
「絶対着な……え?」
 姉さんの顔が、硬直する。
「ちなみに、私はこの後事の次第を……」
 額から、冷や汗流れるのが見える。
「ちょ……何よ、まさかあたしを脅そうって魂胆……」
「事の次第を、報告……」
「あ、あんたっ、今日はいつにも増して意地が……本気?」
「この前の、ペリドット姉さんの言葉。『次こんなことしたら……うふふふふ』って」
 姉さんの目が焦点を定めてない。
 瞑想する視線。先ほどよりも大きな冷や汗。
「私は、ただ姉さんと楽しくハロウィンのコスプレパーティを楽しみたいだけ」
「だから仮装……あーもおっ、分かったわよ! あたしの負けよ、負け!」
 降参と言わんばかりに、私から顔を逸らす。
「逃げない?」
「逃げませんよー。どうせペリドット姉さんから逃げられる気はしないし」
「……分かった」
 ふてくされてしまった姉さんを、縄から解放する。
 方法が方法だったから、多分簡単には機嫌を直してはくれないだろう。
「ったく、まさか虎目がここまで意地悪に育ってたなんて。どこで道を間違えたんだか」
 言ったとおり、逃げる様子を見せない姉さん。
 ふてくされながら文句を言うその姿は、なんだか笑ってしまいそうになる。
「でも、姉さんとハロウィンを楽しみたいのは、本当」
 だから、そんな姉さんにそっと一言。
 ……先ほどまで逸らしていた視線を、こちらに向ける。視線だけだ。
「……意地悪。そんなこと言われたら怒れないじゃない」
 そう言う姉さんの顔は、衣装を見た時よりも赤いような気がした。
「で、どうしてもそれ着ないとダメ?」
「ダメ。サイズは姉さんに合わせたから」

「とらおねえちゃーんっ、トリックオアトリートォ!」
 子供達の声が、ドアを開ける前から響く。
 こういう賑やかさは嫌いじゃない。皆を出迎えるために、玄関へと向かう。
 身につけた衣装を確認……よし、じゃあ早速。
「……お菓子、いる?」
 ドアを開け、皆を出迎える。小さな妹たちと、同伴のペリドット姉さん。
 ……みんなの顔が、青ざめる。ソーダはすでに、泣きそうな顔を浮かべている。
「あ、あらあらぁ……ずいぶんと凝った衣装ねぇ……」
「本場ハリウッドの技術を使った、ホラー映画の衣装」
「あうぅ……お、置石お姉ちゃんはぁ……あっ、いたー」
 青ざめた顔の天河石が、尋ねてくる。
 だが教える前に、玄関の奥で隠れていた置石に気が付いたようだ。
「な、何よぉ」
 見つかったら仕方ないと、観念した様子でみんなの前に出てくる。
 当然、私の作ったあの衣装だ。
 ……やっぱり、私の目に狂いはない。完璧。
「わぁーっ、お姉ちゃんセクシーっ」
「……ゆーわく?」
「ぽよぽよーっ」
「羞恥心はないのか、羞恥心は」
「う、うっさい! あまり言うとお菓子じゃなくイタズラなんだから!」
 そういう姉さんの顔は真っ赤で、いつもの毒のあるイタズラも一切無かった。



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