君に届け(I for you) ◆j1I31zelYA
神崎麗美から、菊地善人に。
越前リョーマから、バロウ・エシャロットに。
秋瀬或から、我妻由乃に。
高坂王子から、天野雪輝に。
天野雪輝から、我妻由乃に。
碇シンジから、綾波レイに。
そして。
×××から、越前リョーマに。
× × ×
「菊地さん、久しぶりっス」
とことこ、と。
茶髪の少年から菊地たちをかばうような位置取りに歩みを進めると、試合前のスポーツマンよろしくぺこりと一礼。
「神崎さんのこと、間に合わなくてすいません」
「それはいい。むしろ助かった……もっとも、状況はまだヤバいけどな」
「みたいっすね」
後は任せろと言わんばかりに、射るような眼差しを少年――バロウ・エシャロットに向ける。
そんな越前に続いて現れたのは、合流する予定だった二人のもう一人――綾波レイと、菊地には初対面となる少年。
「どういう状況? 杉浦さんは?」
「神崎……マジかよぉ……」
どうやら神崎とは面識があったらしく、沈痛な視線をその遺体に向けている。
本来ならば再会を喜び合いたいところだが、あいにくと正面にいる敵は、既に何人もの人間を殺している異能者だった。
「杉浦たちはこの近くに待たせてる。そこにアイツと戦える仲間もいる。
いったんそこまで走るぞ。あのバロウはヤバ――」
「させると思ったの?」
冷淡な声が菊地の望みを断つ。
同時に、バロウの掲げた砲身から巨大な鉛玉が飛び出した。
ドン、と重たい破裂音を後にひいて、一メートルほどの鉛玉が四人を蹴散らさんと突進する。
「…………!」
「クソッ…」
「う、腕から大砲ぉ!?」
激突までのわずかな時間。
菊地は歯噛みをし、初めて目の当たりにする高坂と綾波になすすべはなかった。
しかし、
「高坂さん、しばらく借りるよ」
越前は、いつの間にかその左手に金属バットを手にしていた。
「ふっ!」
そのフォームは、テニスでリターンエースを取る時のそれ。
左腕が輝きを放ち、巨大な弾丸をバットの芯でとらえ、返す。
次の瞬間。バロウの立っていたすぐ手前で、地面の破砕音が響いていた。
「…………え?」
ギリギリの位置で“鉄”が地面と爆ぜ、風圧に気圧されながらバロウが目を見開く。
「……ってー。やっぱ“百錬自得の極み”が無いとキツイね」
「越前……お前『テニス部』じゃなかったっけ?」
「同感だけど今は突っ込むな! 今のうちに仲間ってのを呼んでこい!」
今だけは高坂が菊地を急き立て、近くにいるらしい仲間の元へ急がせようとする。
バケモノじみた能力には怖じ気づきかけたけれど、マリリンと戦った時のように『Neo高坂KING日記』を使って越前をサポートすれば、時間かせぎぐらいはできるはずだと思った。
しかし、動揺から脱したバロウはそれを許さない。
“鉄”の衝撃で尻もちをつきながらも、右手をかざして唱えた。
「“旅人(ガリバー)”!」
その声を起点とするように、一瞬で地面を光る網目模様が駆け、
「のわっ!」
――網目の一角、リョーマをのぞく三人が立っていた地点を取り囲んで“壁”が生えた。
時間にしてほんの0.5秒足らずで、“蓋のついた壁”は“箱”として閉じる。
菊地たち三人は、それだけで“箱”の中に隔離されてしまった。
「菊地さん!?」
リョーマは慌てて壁へと駆けより叩いたが、“箱”は分厚い石材か何かのように、内側の一切をシャットアウトする。
「心配しなくていいよ。ボクの神器なら簡単に壊せる。もっとも――」
腕からふたたび“鉄”の神器を出現させて、バロウが淡々と説明した。
その巨大な砲身を“箱”に向け、狙いを定めて。
「そうなった時、中の三人は無事じゃ済まないだろうけどね」
「ふーん。そういうこと、するんだ」
それが意味するのは、リョーマを先に始末してから一方的に残りの三人を虐殺するのでも、
逆に三人を集中的に狙ってリョーマの反撃を封じるのでも、どちらも自由にできるということ。
実質的に人質を取ったといっていい状況に、バロウを見据える眼光が鋭くなる。
「四人も一気に殺せるって時に、植木くんに邪魔をされても困るからね。
……そもそも君たちは仲間を呼んで、多対一でボクを倒すつもりだったんだろ?
手段を問わないというならお互い様だと思うけど」
「あ、それもそっか」
「え……納得した?」
「でも、まだまだだね」
リョーマは己のディパックを地に落とし、テニスボールを数個つかみだして、構える。
「オレなら、そこは『全員かかってきやがれ』って言うよ」
「君、生意気だよ」
苛立ちを顔にあらわすバロウだったが、視線は目の前のリョーマ自体ではなく、別のところに向いていた。
先ほど、撃ち返された“鉄”が着弾した跡へと。
苦々しく、嫌な思い出でもあるかのように。
「こいつ、もしかして……」
◆
我妻由乃は、雪輝日記を持っていた。
つまり、天野雪輝がちょっとやそっと距離を空けようとも、補足することは容易い。
結論を言えば、天野雪輝は未だ我妻由乃に追われ続けていた。
未だに殺されていないのは、最後の命を燃やして遠山金太郎が突撃をした、それだけの間にかせいだ“距離”のおかげ。
しかし、それでも。
誰よりも愛しい少女の呼び声が、何よりも冷たい温度を持って、雪輝の背後から降りかかる。
「どうして、ユッキー?」
たとえば遠山金太郎が残した功績のひとつは、ミニミ機関銃による狙撃の機会を奪ったことだろうか。
いくら我妻由乃といえど、姿勢を維持して反動を殺さなければ撃てないそれを追走しながら連射するには無理があった。
追撃される側だったマリリン戦とは違い、追撃して仕留める側となれば、その武装はそこまで優位ではない。
だから、かろうじて殺されずに逃げ続けている。
「どうして、私を愛してるのに、私の“願い”を邪魔するの?」
一万年ぶりに得た『友達』の犠牲に、おそらく意味はあった。
最大の証拠に、今の雪輝は死ぬわけにいかないと必死になって走っているのだから。
ここで殺されてしまえば、『ともに星を見に行く』という願いが叶わなくなるから。
『行けよ』という友の言葉に、背中を押されたから。
しかし、それでもなお、疲れを知らぬとばかりに駆ける追手との距離はつきはなせない。
「ここで逃げることに意味なんてないじゃない。
私を殺して最後の一人を目指すならまだしも、そうしたくないんでしょう?」
念を押すような有無を言わせない声に、雪輝は逃げながら叫び返した。
「僕は、君と二人の未来が欲しいからだよ!
君にとって、僕はたくさんいる『雪輝』の一人かもしれないけど。
僕にとって、我妻由乃はただ一人の人なんだ!」
叫んだことの答えは、拳銃の発砲音を持って返された。
雪輝に語りかけたのはあくまで心を折る為であり、対話する意思は無いということか。
一発目の弾丸は、ちょうど雪輝が横断した路上のガードレールに阻まれて金属音を立てる。
しかし二発目の弾丸が、踏み出そうとした雪輝の右足を強く掠めた。
「ぐぅっ……!」
熱と痛みに足をすくわれ、前のめりに膝をついた。
それを狙っていたのか、由乃は温存していたスタミナを使いきるように加速を果たす。
これまで日記所有者やその配下を葬ってきたように、同じ殺戮が雪輝へと振りかかる。
振り向き、日本刀を振り上げながら疾駆する由乃を、雪輝はスローモーション映像のように目に焼き付けていた。
「僕は、君のことを愛してるんだ……」
「私は、愛してなんかいない」
冷徹な眼差しが見下だしながら、日本刀が振り下ろされる。
雪輝は、無力だった。
「その言葉は、聞き捨てならないな」
――だからこそ、雪輝を救うのは誰かの助けでしか有り得ない。
下方向から振り上げられた刃が、由乃の日本刀を受け止めていた。
ギィン、と金属同士のぶつかる音。
それはしばらくの鍔迫り合いを演じた後、刃を雪輝からそらすように横に払われる。
「秋瀬くん……!」
「秋瀬、或っ……!」
「頃合いからいって、そろそろ再会があるとは思っていたけどね」
木製の刀身に、黒曜石の刃を埋め込んだ鋸のような剣。
それが、秋瀬或が右手に持つ最後の支給品にして、天野雪輝を守るために戦うという意思表示だった。
「邪魔を、するなっ……!」
ふたたび切りかかる日本刀を鋸の刃で受け止め、秋瀬はその背中でかばう雪輝に問いかけた。
「雪輝君、改めて聞こう。――望みは、決まったかい?」
間髪いれず、雪輝は答える。
「僕は、由乃と星を見に行きたい!
――叶える道が見えなくても、ワガママでも、絶対にそうしたい!」
そう宣言した時。
瞬きするほどの間だけ、秋瀬或が悲しげな微笑を浮かべる。
それを、背中を向けた雪輝に見せることはない。
「なら、僕はその“願い”を叶えるために力を尽くす」
宣言して、憎悪の眼で睨み据える我妻由乃を意に介さず、ただ雪輝に告げた。
「我妻さんはボクが止めるよ。今は逃げてくれ」
「それは……」
それは、ついさっき遠山金太郎に言われたことと同じ要求。
だからこそ、雪輝は目をみはって実行を躊躇う。
しかしだからこそ、数瞬で決断をすると踵を返して逃走を再開した。
遠山金太郎の時には言えなかった言葉を、後ろへと呼びかけながら。
「助けを……絶対に、助けを、呼んでくるから!
だから、持ちこたえてくれ!!」
天野雪輝は、友達を見殺しにして泣きもしない人でなしだと自認している。
それでも、我妻由乃のようにほかの人間を『駒』だとは思えなかった。
新たな友によって、生かされたのだから。
彼のおかげで、“願う”ことができるようになったのだから。
だから、それが厚かましくとも、無関係な人間を巻き込む行為だろうとも。
友を救うためならば『助け』だって探しに走る。
◆
神崎麗美は、最後に『ごめんね』と言った。
小さな声だったけれど、リョーマたちに向けた謝罪なのかさえも確かではないけれど。
それでも、あんな状態だった少女が、あんな状態から可能性を見せたのだ。
別に越前リョーマは、困っている人を片っ端から助けて回るような正義の味方ではない。
それでも『柱』を名乗るなら、影響を与えた人に対して責任があることぐらいは分かっている。
最後の最後で、『撃たなくてよかった』と思わせてくれたのだ。
その思いにこたえないわけにはいかない。
だから今は、仲間を守る。
「ねぇ……この“箱”って時間がたったら消えてくれたりしないの?」
仲間を閉じ込めた“箱”の上に立って全方位を警戒するように見渡し、リョーマが尋ねた。
「僕に聞いても意味ないと思うけど……こんな使い方をしたことがないから分からないね。期待しない方がいいよ」
「あっそう」
淡々と事実を答えて、『ドン!』とバロウの腕が更なる“鉄”を打ち出した。
それだけならば、威力はあれど単純な直線攻撃に過ぎない。
しかし、
「また来た……!」
どういうわけか、“箱”から見て両側面からも同じ打球が迫り来ている。
全ての攻撃を視界におさめ、リョーマは跳躍した。
“箱”から飛びおりざま利き腕を“百錬自得”のオーラで包み、まずは左側方から迫る打球を横殴りに返球。
バロウめがけて打ち返すと、一瞬で自らの両足へオーラを『移動』させた。
「その技……左腕以外にも使えたんだね」
「人にもよるけど、ね!」
オーラを纏った両脚で加速を果たし、正面からの砲弾へと対処。
オーラの位置を左腕へと戻して、打ち返す。
さすがに非現実的なことやってるなぁという自覚は出てきたけれど、それが却って幸いしたのか、いい加減に修羅場慣れしてきたのか、神崎麗美のマシンガンのような萎縮はなかった。
そのまま一気に右側面からの“鉄”をリターンして、ついでに“箱”の裏手へと回り込もうとしていたバロウの進路にぶつける。
足を踏み出した地点を“鉄”が掠めて、バロウは身をひねり己の半身をかばうようにした。
「ちっ!」
前後左右からの“鉄”による挟撃が失敗して、舌打ちをひとつ。
どうやらバロウは謎の“多方向からの攻撃”を得意戦術としているらしかった。
それが証拠に、バロウを進路妨害するように“タメ”をつくって攻撃をぶつけると、目論見の達成が遠くなったように苦々しい顔をする。
だからリョーマも、なるべくバロウを動かさないような返球を心掛ける。
鉄球が体をかすめ続けたことで、バロウはすでに細かなダメージの蓄積を見せていた。
ボロボロに汚れたダッフルコートを羽織り、息を切らせる。
「ただの人間にしては、しぶといじゃないか……もっとも、そんな攻撃なんかいつまでも続かないよ。
掠めるような打球ばかりで、殺意が無い」
しかし、戦況そのものはバロウが圧倒的に有利。
リョーマのあがってきた息の乱れも、重たくだらりと垂れた腕も、全身をつたう尋常ならざる量の汗も、それを如実に示していた。
どういう仕組みかほぼノーリスクで多方向の鉄球を呼び出せるバロウに対し、リョーマは駆けつけて“箱”の破壊を防がねばならないのだから。
加えて、バロウの一撃は当たりさえすれば致命傷になるのに対して、リョーマには相手を殺す意思までは持てないことがあった。
自分の力を殺人に使うことを良しとしない精神もあったし、神崎麗美の一件で殺す重さを実感してしまったことがある。
しかしどこかで決定打を当てなければ、ずっとこのままでは“箱”の中にいる菊地たちが酸欠になってしまう。
「やっぱり君も“甘い”んだね。本当にうんざりする」
そんな葛藤は、バロウにとって理解しがたいものだったらしい。
次の攻撃を見計らうように間をおいて、吐き捨てるように言った。
「前にも会ったよ。君と同じように、仲間を守ろうとして自分の命を危険にさらすようなお人よし。
そいつも、最後までボクを殺さないように気を使って、甘っちょろい説得の言葉を吐いてきた」
その『お人好し』のことが、よほど気にらなかったのか。
そいつを否定することで、邪魔をする存在をすべて否定しようとするかのように、バロウは疑問を投げかけた。
「どうしてみんな、切り捨てるってことができないんだろうね。
いくら欲しいものがたくさんあるからって、自分が死んだら何も叶えられないじゃないか。
最短距離の道を選んで、全部大事にしたいなんて理想は捨てる。幸せになりたなら、そうするしかないんだよ」
「幸せになりたいから、アンタは殺し合いに乗ったんだ」
「そうだけど?」
それがどうした、それ以上の理由は語ってやらないとばかりに、バロウがみたび右手を大砲に変えようとする。
しかし先んじてリョーマは動き、その右手が変化する前にテニスボールをぶつけていた。
痛そうに手首をおさえるバロウへと、静かに問答を続ける。
「じゃあ聞くけどさ、最短距離で、現実的に、そうするしかないやり方で、夢を叶えようとしてるアンタは――」
「――どうしてそんなに面白くなさそうな顔してるの?」
ぴくり、とバロウが表情をひきつらせた。
いや、楽しく人を殺すのも問題あるんだけどさ、と前置きして、さらに言う。
「ベストの道を選んだわりには、ずいぶんと辛気臭そうな顔してるじゃん。
そんな顔して歩いてきて、楽しい?」
日野日向は、その目を見て自分たちとは違う生き物だとみなした。
月岡彰は、その顔を見て絶望に浸かりきっていると評した。
植木耕助は、その態度を見てこんな奴から犠牲者を出してたまるかと憤った。
越前リョーマは――
――なんかしんどそうだなと、そんな風に思った。
殺し合いのように世界の暗部で行われていることではなかったけれど、全国のテニスプレイヤーと試合をしていれば色々な奴らとも出会う。
コンプレックスだとか高すぎる目標に抑えつけられて、好きなことをまっすぐに楽しめない奴とか。
三連覇をすることばかりに必死になって、その為なら心を鬼にして、イバラの道を歩いているつもりになっていたヤツとか。
人殺しとひとくくりの問題にするのは失礼だけれど、彼らの印象とも少し似ていた。
自分の身をボロボロにしてでも意地を通すヒトはいるし、目的の為なら手段を選ばないヤツだっているけど、きっとこいつはそういうのとは違う。
世の中楽しいことばかりではないし、我慢や妥協だってあることは知っているけれど、こいつの『楽しくなさそう』はそういうのとも違う。
人を殺すことを嫌々こなしているというより、自分の能力を使っている時さえどこか投げやりに見える。
自分を救いたいのに、手段を見失っているヤツだ。
そのバロウを説得したというお人好しが、助けたくなったのも分からないではない。
「ふざけないでよ。目的を達成するのが楽しいだって?」
こいつは、潰さなければいけないヤツだ。
そういう認識を、バロウもまた手にしていた。
バロウにとって、能力とは母親を傷つけた罪そのものであって、必要がなければ使うどころか目に触れることさえ嫌なものだ。
バロウにとって、夢を叶えるということは、母に存在を許されるという贖罪であって。
絶対に成し遂げなければいけない悲願であって。
どいつもこいつも、
お前は人間として生きていけるとか、
人を犠牲にするなんて許されないとか、
勝手なことばかり言う。
「君にひとつだけ言ってなかったね。
そいつは、手塚って呼ばれてたよ」
やっぱり、と。
リョーマは、そんな風に呟いていた。
そうでなければ、こんな唐突に語り始めるきっかけに乏しい。
いや、そこまで論理的に予想していたわけでなく、推測だったのだけれど。
これまでにも、神崎麗美から『跡部を殺した』と告白された一件があった。
それに、部長はどうして死んだんだろうとか、考えていたこともあった。
「ふーん。それで」
こんなヤツに殺されたのか、とは不思議と思わなかった。
神崎にとっては不本意だろうが、先に彼女と出会っていたおかげかもしれない。
あるいは、きっと。
手塚をあざけったバロウが、この上なく苦々しい顔をしていたからだろう。
大事なのは、部長が馬鹿にされているとかそういう表層のことじゃない。
もっと本質を、見極めろ。
「その時、部長はアンタに、なんて言ったの?」
斬りこむ。
「君はこれから死ぬのに、教える意味がない」
「これから死ぬ予定なら、なおさら教えてくれたっていいじゃん。死なないけど」
「これから死ぬなら、なおさら満足させてなんかやらない」
その態度だけで、察することぐらいはできた。
きっと部長は、こいつにも厳しくて優しかったんだろう。
とはいえ、リョーマは手塚ほど自己犠牲精神にあふれた人格者ではない。
怒っている。
冷静でいられる自分がこわいぐらいには、怒っている。
とりあえずぶっとばして泣かせて膝をつかせたいぐらいには、怒っている。
でも、『部長を殺したヤツに出会ったらどうするか』なんて、とっくに決めていた。
「ま、いいか。オレがアンタを止めたら、その時に教えてよ」
「そんなことができるなら、理由どころか、僕の過去を丸ごと教えたっていいさ」
バロウもまた、怒っている。
一度は完全に否定したヤツが、また目の前に現れたようだったから。
また邪魔されたことに、怒っている。
「オレは、殺し合いに乗った相手に――」
「ボクは、ただの人間なんかに――」
「「絶対に負けないって、とっくに決めてる!!」」
二つの宣言が重なり、それぞれの武器が構えられた。
バロウが新たに行使したのは、“鉄”よりもさらに凶暴な性質を持つ神器。
「“唯我独尊(マッシュ)”!」
凶暴な立方体の“顔”が、あぎとを開いてリョーマに突進。
その脇を固めるように、数発の“鉄”が再現されて繰り出される。
ホッチキスのようにカチカチと開閉される顔は、初見でも『噛みつかれる』と恐怖させるのに十分なものだ。
「でも、遅いよ!」
でも、だからこそ攻略法が閃くのも一瞬のこと。
標的への到達速度ならば、砲弾の形で放たれる“鉄”の方が早い。
“風林火陰山雷”の『雷』を発動。
動くこと、雷霆のごとし。
先に“鉄”をさばいて返球し、最後の“鉄”の一球を“唯我独尊”の“口の中”へと叩き込んだ。
倍返しの威力を持った“鉄”は“口の中”の牙と激しく衝突し――それでも最終的には、噛みくだかれる。
しかしそれでも、“唯我独尊”はその一撃を攻撃終了とみなしたのか、相打ちのように消失した。
「ちぇっ……攻撃は通らないんだ」
「一面への破壊力なら、“鉄”よりはるかに上だからね……心が折れた?」
「まさか!」
そしてバロウは休む間も与えず、さらなる“顔”と“鉄球”を呼び出す。
速攻で片づけたいのは向こうも同じかと推測し、越前は地を駆けながら攻略を思案しはじめた。
◆
「くそっ……神崎の支給品の中にも、使えそうなものは無しか」
“旅人”の中に閉じ込められた菊地たち三人は、必死に脱出策をめぐらせていた。
神崎麗美のディパックまでもを検めてみたものの、“旅人”の壁をぶち破って脱出できるような支給品は無し。
いや、綾波レイには心音爆弾という隠し武器もあったのだが、この場でそれを使えば確実に菊地と高坂を道連れにしてしまうだろう。
早く脱出しなければ、外側にいる越前が殺される。
その焦燥が三人の胸を焼き焦がし、無力感は爆発しそうになっていた。
そんなもどかしい時間だった。
ザザッと、ノイズのような音が壁の中で反響したのは。
高坂が、歓喜の声をあげたのは。
「よっしゃああぁぁぁぁ! 予知が来やがったぜ!」
「予知……それ、未来日記か!?」
「『Neo高坂KING』日記だぜ! 数分後に『越前がバロウの作った壁をぶち破る』って書いてあるぞ!」
「本当?」
「ちょっと待て! 画面を見せてくれ」
未来日記の予知の確実性は、菊地ならば『友情日記』の一件で知るところである。
携帯電話から予知画面を確認して、菊地の頬にたちまち喜色がさした。
「よし、各自でここにあるだけの装備を持って、壁が崩れたと同時に突貫だ。
まず越前の無事だけは確保するぞ。壁をぶち破る瞬間までは生きてること確定だからな。
これでシンジの時の二の舞は避けられる」
安堵したところを、気が緩んで。
――口を滑らせたとしか、言いようがなかった。
いずれ聞かせる話とはいえ、この場で明かしてしまうことは、綾波レイを動揺させる以外の何をも期待できない。
「いま、碇くんのことを言った?」
しかし、ひとたび露見させてしまえば、ごまかすなど到底無理な話だった。
綾波レイが、こればっかりは聞き逃せないとばかりに、
暗闇でも分かるほど、鋭く強い目つきで菊地を見据えていた。
◆
「うおおおおぉぉぉぉっ!!」
“百錬自得の極み”と“十球同時打ち”を用いて鉄球をさばいたリョーマは、最後の一打を上空へ向かって打ちあげた。
直後、ひと飛びに己自身を跳躍させ、くるくると体を丸めて宙返りするような不可思議な動きで飛翔する。
「自分の打った弾に、追いついた!?」
あらたな動きを見せたことにア然とするバロウをめがけ、その剛球は放たれた。
超(スーパー)ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐。
技名は恥ずかしくて口に出せたものではないが、好敵手の遠山金太郎から模倣した大技だ。
超最大級に重いスマッシュの打撃。
その破壊は風圧だけで周囲にあったすべてを吹き飛ばし、近くを浮遊していた“唯我独尊”でさえも突風で軌道をそらした。
バロウもかろうじて直撃は避けたものの、余波だけで宙を舞って後ろの巨木へと背中から激突する。
「ちぇっ、そのまま当てるつもりだったのに……」
いくらリョーマに殺意が無いとはいえ、体のギリギリを鉄球が掠めても動じないことから察しはついていた。
もしかしなくても、こいつの体は頑丈だ。
きっと、鉄球の一発や二発をぶち当てられたところで死ぬことはない。
ボールをぶつけて相手を吹っ飛ばすようなプレイスタイルなんて普段はあまりガラでもないけれど。
(ウソつけドライブAを打ってたじゃないかというツッコミが聞こえた気がする)
それでも、相手を傷つけずに解決できる段階は通り越してしまった。
想いがあるだけではダメで、力で潰すだけでもダメなことがあって。きっとそれが今だ。
「なんて威力だよっ……でも残念。ひとつ取りこぼしてる」
風圧に襲われる前に、放物線を描いて飛来していたらしい。
上空から降りかかるように、“唯我独尊”が牙をむいて迫っていた。
「やばっ――」
「空中では身動きが、とれないよね?」
「……とれる!」
空中で身をひねり、スマッシュを打つフェイントをかける時の要領で方向転換。
かろうじて“口”に挟まれることだけは回避したものの、開閉する上顎に鈍く右腕を強打された。
「ぐぁっ……」
骨に、ヒビくらいは入ったかもしれない。
冷静に分析した次の瞬間には、地面にたたき落されていた。
土埃をのんでゲホゲホと咳きこみながら立ち上がるのと、大車輪山嵐に飛ばされて叩きつけられたバロウが立ち上がるのはほぼ同時だった。
「すごいね……ここまで止められるとは、思わなかった」
ふぅ、と息を吐くバロウ。
どちらも、いっそう傷だらけ。しかし、疲労困憊ではリョーマのほうが格段に濃い。
「でも、次で終わりだよ。いくら偉そうなことを吼えたって、力で敵わないなら何の意味も無い」
「にゃろう……」
右腕の痛みを無視して、思考を冷静にしていく
バロウの攻撃の手数は、時間が経過するごとに増えていくらしい。
そろそろ、バロウを一撃で仕留めるか“箱”から三人を解放するかしないとまずい。
これ以上の手数を増やしてしまえば、“箱”がどうにか消えてくれたとしても、次の瞬間に全方向からの“鉄”で死なせるようなことになってしまう。
かと言ってバロウの攻撃を“箱”にぶつけてしまっても、その衝撃で中にいる菊地たちが――
――“一面への破壊力なら”
「あ……そっか」
思いついてしまえば、簡単なことで。
あとは、成功するかどうかだった。
「これで、終わりだよ」
バロウの方も、戦況が長引いて助けが駆けつけてはまずいのだろう。
この一撃で決めるとばかりに、正面と左右から鉄球の群れと“顔”が雪崩かかった。
“鉄”はリターンできるのだから、返しようのない“顔”だけを出せばいいのにとも思ったけれど、
どうやら“顔”だけで総攻撃をかけるといった器用なことはできないらしい。
“無我”のオーラを頭に移し、“才気煥発の極み”を発動。一瞬で計算式を作り上げる。
オーラを足に戻して光速で疾駆し、鉄球の中から相互に軌道干渉できる打球だけを選んで打ち返していく。
“手塚ゾーン”ほど完璧には軌道を操ることはできないが、それでも打球にカーブをかけて、別の打球を妨害させるぐらいはできた。
鉄球同士がぶつかり合って軌道をそらし合うわずかな間、勝負を決める一瞬が待つ。
残っていた正面からの“鉄”を、まっすぐに打ち返す。
そして、遠山金太郎のステップをコピー。その打球へ、脚力を総動員して追いつき――
――リョーマの動きを追尾しきれずまごついている“唯我独尊”の背部、口と反対側の面へ向かって打った。
「何を――!?」
本来ならば、“箱”に到達するまえ、さっきまでリョーマがいた地点であぎとを閉じるはずだった“顔”が、少しだけ押し出されて。
“旅人”の壁を、一面だけ粉砕した。
「やった……」
埃の舞い上がる“箱”のあった場所を確認して、会心の笑みが浮かぶ。
三人が壁際に立っていたら巻き込まれたかもしれないが、そこは高坂にも未来日記があったのだから、予知を見てくれたと思いたい。
あとは、バロウにとにかく一撃を入れてしまえば――
「“百鬼夜行(ピック)”!」
――勝てる戦いだと、思っていた。
“箱”を破られて焦ったバロウが、普段なら使わない神器を解放しなければ。
それは、前回の戦いで、植木耕助を屠ろうとして、碇シンジを仕留めた凶器と同じ。
その武器の速さは“鉄”の比ではないほどに疾く、破壊力もいっそう上回る。
六角柱の鋭い杭が、リョーマの胴体をえぐるように迫っていた。
(しまっ――)
ひときわ重い打球を打って崩れた体勢から、左右に飛ぶなどできるはずがなく。
どん、と常人には耐えきれぬ一撃が、胴を打ち抜いていた。
◆
「越前、無事か!?」
菊地にはジグザウエル、高坂にはクロスボウガン。
手に手に神崎の遺品を持って突入した菊地たちの視界は、
デジャブを以って、迎えられることになった。
「まさか、ただの人間がボクに神器を四つも使わせるなんてね。
でも、最終的な結果は変わらないよ。彼は死んだ」
そこには、体をくの字にして力無く転がる越前リョーマの姿。
「ッ貴様ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
碇シンジを殺された。
神崎麗美を殺された。
たった今、また新たに仲間を殺された。
いとも簡単に、こんなヤツに。
いくら菊地善人でも、冷静さを保つことなど不可能だった。
怒りにとりつかれ、何発もジグザウエルの引き金を引いていく。
バロウは冷淡な目でそれを見て、“威風堂々(フード)”の盾を出現させた。
さんざんに手こずらされた『手塚の置きみやげ』は始末したけれど、こうも五月蠅くされては植木を呼んでしまいかねない。
ここはふたたび“旅人”で閉じ込めてから、“鉄”で三人まとめて始末しよう。
“威風堂々(フード)”の盾から流れ弾に気を付けて顔をのぞかせ、
拳銃を撃ち続ける菊地の姿と、泣きそうな顔で越前とやらをゆさぶる高坂の位置を確かめる。
――ひとり、足りない?
そのことを、やっと疑問に思ったとき。
『見えない誰か』が、横殴りの当て身をバロウに充てていた。
「なっ!?」
完全に油断していたことと、相手の姿がまったく『見えなかった』という誤算から、面白いようにその当て身は決まり、バロウはぐるぐると転がったのちにマウントポジションで倒される。
衝撃で背負っていたディパックの口が外れ、支給品である絵筆や画材や軽いマントが地面へと投げ出される。
同時に、そのもう一人の体を隠していた『透明なマント』も剥がれ落ちた。
“威風堂々(フード)”が解除されて、その姿が他の二人の視界にも開けた。
「綾波……」
仰向けに倒れたバロウにのしかかり、綾波レイがベレッタM92をバロウの額にあてていた。
「あなたは、許せない」
表情の宿らない顔から、絞り出すような声が漏れる。
綾波レイが、バロウ・エシャロットを殺す。
菊地は、それを止められなかった。
杉浦綾乃の『先生』として、仲間を『ヒトゴロシ』にしてはならないと、頭では理解していて。
更に言えば、バロウが近距離戦の備えをしているかもしれない以上、綾波のそれは命を危険にさらす行為だと理解していて。
それでも、自分が同じ立場だったら、同じことをしたのではないかと。
そんな葛藤を、持ってしまった。
だから、菊地は制止ができない。
しかし、制止の声はあがった。
「撃ったらダメだ!!」
もう聞けないかと思っていた声を、全員が聞いた。
「えち、ぜん、くん……?」
「そんな……確かに“百鬼夜行”は当たったのに」
口でも切ったのか、血を吐き出しながら。
越前リョーマが、必死に上体を起こしていた。
◆
“百鬼夜行”は、確かに回避不能だった。
だから、リョーマは金属バットで六角柱の先端を受け止めながら。
風林火山の“風”の技を使って、『自分から後方に吹き飛ばされ』ていた。
かつて、真田弦一郎と初めて対決した際に、超火力の打球から同じ手段で身を守ったように。
金属バットはへし折られ、衝撃でしばしの間だけ意識を持っていかれて。
それでも致命傷は、回避していた。
その取り戻した意識で、リョーマが綾波を止める。
かつて、己が綾波レイから制止されたように。
バロウもまた、可能性を持っている一人だと、対峙するうちに理解できてしまったから。
「確かにそいつは、自分のためにもう何人も殺してるんだろうけど……殺した方がいいって言う人もいるかもしれないけど!
でもそいつも、救われたがってるから……神崎さんの時と同じだから、綾波さんが撃ったらダメでっ゛……」
最後の方は言葉をとぎらせ、呼吸の止まっていた反動で咽る。
綾波は、そんなリョーマを見て、安堵したように肩を落とした。
しかし、それでも。
「ごめんなさい。それは、できない」
人を殺してはいけないとか、復讐は許されるのか否かとか。
そんな、人が成長するにつれて身につける倫理観が歯止めをかけるには、綾波はまだ幼すぎた。
彼女は、見た目ほどの年月を生きていない。
許せないという感情しかなかった。
立ち上がらせてくれた仲間の制止をも振り切って、引き金へと指をかける。
リョーマは、“百鬼夜行”のダメージが尾を引いて、動けない。止められない。
引き金にかかった指が、引かれて。
「ちょっと待ったぁ!!」
ふたつのことが、同時に起こった。
ひとつは、ただ一人だけ、高坂王子が制止に動いたこと。
至近距離からでは撃ちにくいクロスボウガンを捨て、バロウがディパックからこぼした『大きな布』を走りながら拾い。
その布で、バロウを覆って綾波の視界から隠し、同時に綾波を押しのけた。
それ自体は、バロウの視界をふさいでとっさの反撃を防ぎつつ、布で縛り上げてしまおうという作戦。
しかし、いまひとつの出来事が起こる。
殺されると直観したバロウが、せめてもの道連れにと、ゼロ距離から“百鬼夜行(ピック)”を放とうとしていたこと。
どうにかして綾波に抑えつけられていた体勢から右手を動かし、撃たれながらでもその体を打ち抜こうとした。
だから、それが起こったのは同時。
高坂が“百鬼夜行”の直撃を受けて吹き飛び。
バロウが、高坂に支給品である“死出の羽衣”をかぶせられて、その姿をくらませた。
【???/一日目 午後】
【バロウ・エシャロット@うえきの法則】
[状態]:左半身に負傷(手当済み)、全身打撲、疲労(大)
[装備]:とめるくん(故障中)@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式×2(携帯電話に画像数枚)、手塚国光の不明支給品0~1
基本行動方針: 優勝して生還。『神の力』によって、『願い』を叶える
1:???
[備考]
※名簿の『ロベルト・ハイドン』がアノンではない、本物のロベルトだと気づきました。
※『とめるくん』は、切原の攻撃で稼働停止しています。一時的な故障なのか、完全に使えなくなったのかは、次以降の書き手さんに任せます。
(ただし、使えたとしても制限の影響下にあります。次に使用できるのは2時間以後です)
※死出の羽衣の効果で、F-5以外のどこかのエリアに移動しました。次の書き手さんに任せます。
※同人誌制作セット@ゆるゆりの画材がF-5の現場付近に散乱しています。
◆
戦況は、膠着していた。
「さて、これで、雪輝君が『一万年後』の住人だという説明は終わったけれど」
戦いながら語り続けて、秋瀬或は一息をはさんだ。
日本刀を、もう何十回と鋸状の剣でいなしただろうか。
その黒曜石が、刃にあてられてひとつ欠けた。
「それでもなお、君は雪輝君を『守る』というのかい?
サバイバルゲームを勝ち抜いて神様になったところで、雪輝君は絶望するだろう。
君の『守る』はただの押し付けでしかないんだよ」
お前の『雪輝を失いたくない』は欺瞞でしかないと。
そう糾弾して、秋瀬或は打ちおろすような一閃を放った。
バックステップで避ける我妻由乃の髪が尾を引いて、髪のひと房が剣のさびになる。
「問題ないわ。だってこのゲームを開いた神様は、デウスよりずっと強い力を持ってるもの」
初めて、我妻由乃が秋瀬或の言葉に答えを返した。
「それなら今度こそ、全てを0(チャラ)にすることだってできるかもしれない。
そうすれば、二人で幸せになれるじゃない」
「……それは、雪輝君が望む幸せの形とは違う気がするよ。もういい」
剣戟を交わし、
交錯して、
回避して、
ステップを踏んで踊るように場を巡っていた二人のうちの片方が、遊びを終わらせるように後退して距離をとった。
「我妻さん……君を刺激しないためとはいえ、どうして僕が、基本的に君と雪輝君の交際を容認して、一時は応援さえしてきたか、分かるかい?」
「ユッキーの機嫌を損ねたくなかったからでしょう?」
「それもあるけど、それだけじゃない」
その一瞬で、秋瀬或は身に纏う空気を一変させる。
視線が、鋭く研がれた氷の刃のように。
冷たく、冷たく、どこまでも冷たく。
それは、秋瀬或が生まれて初めて、私怨から他者に殺意を向けた瞬間だった。
「君の方が、雪輝くんのことを、僕よりも愛していると思ったからだよ」
そこだけは、勝てないと認めていた。
歪んではいても、本物だと思っていた。
『我妻由乃は最終的に雪輝を殺すつもりではないか』と勘違いしていた時も、
雪輝への愛情自体には偽りが無いかもしれないと、どこかで信じていた。
「だから素直に人を愛せない今の我妻さんを、容赦するわけにはいかないな」
(ハッタリか?)
その気迫に由乃は驚き、しかし冷静さは崩さない。
秋瀬或は、基本的に雪輝の意思を尊重する。ならばここで由乃を殺しまでするとは思えない。
しかし今の秋瀬は、後から雪輝にいくら恨まれようとも、由乃を生かしておくわけにはいかないという鋼の意思を宿しているようにも見える。
それが由乃をひるませるハッタリなのか、判断する材料はない。
両者の戦闘力そのものは、拮抗している。
ささいな怯えでも、それが反映されるだけで勝機は大きく遠のくことだろう。
だが、しかし。
それでも。
『雪輝をも殺せると言い張っている』分だけ、今の由乃の方が有利だ。
我妻由乃は、思いついていた。
秋瀬或が、条件反射的に隙を見せてしまう、その手段を。
刀剣を構えて疾駆し、弱点でもある『雪輝日記』をめがけて突きの構えを取る秋瀬。
そんな彼を前にして。
胸ポケットから、雪輝日記を取り出す。
ただ、それだけ。
(雪輝君……!?)
雪輝日記は、無差別日記と組み合わせない限り、きわめて貧弱な予知性能しか持たない。
天野雪輝の行動をしか予知できない日記だ。
つまり――我妻由乃がそれを使う時は、天野雪輝を利用した作戦を立てる時でしか、ありえない。
それは、我妻由乃と天野雪輝を長く観察し続けてきた、秋瀬或だからこその隙。
『その日記が機能するとき、雪輝は由乃に利用されている』という条件反射。
この場に、天野雪輝が戻ってきたかもしれない。
天野雪輝を利用した、一発逆転の秘策が発動したかもしれない。
有り得ないと分かっていても、このまま踏み込むのが上策だと理解していても、思考にノイズが走る。
集中力が『雪輝のいるかもしれない』周囲へと拡散される。
我妻由乃は、それを待っていた。
もう片方の手に握っていた、凶器を振るう。
秋瀬は片足でブレーキを踏んで回避しようとするが、遅い。
斬、と。
日本刀が一閃した時に、秋瀬或の右手首から先がすっぱりと切り落とされていた。
◆
「わたしの、せい……?」
「ちげぇよ……バカ」
腹部を、痛々しい形に変形させて。
息も絶え絶えの高坂は、それでも否定した。
菊地善人の助けで上体を起こして、血を吐きながらも綾波を見上げて。
「お前をかばったわけじゃなくて……上手く言えねぇけど。
たとえ、さっきのがなくても、お前じゃなくても、とびだしてた気がするんだよ。
……あの状況じゃ、どのみち殺すかどうかになって……止めてた……。
バカなこと、したぜ…………」
だからこれはオレの責任だ、と高坂は認めた。
ふだんの高坂なら失敗の責任を自分でかぶるなんてことはしないけれど。
それでも、綾波レイのうろたえるさまを見て、自分を責めさせるのは良くないと、そんな風に気が利いてしまった。
「だったら、どうして……?」
それはつまり、あくまでバロウの命を助けるために、あの場に乱入したということ。
神崎麗美を殺したバロウに対して、高坂が命懸けでそこまでする義理は全くさっぱりなかったはずだ。
ずいぶん、長いこと黙ってから。
残された最後の呼気を吐き出すようにして、高坂は言った。
「なんか……アイツが救われることを否定したら。
…………雪輝も、救われない気がしたんだよ」
多くの人間を殺して、恨まれている。
それは、高坂が大嫌いな、あの少年も同じだった。
高坂は、ツインタワービルに突入する以前の時点で、彼の動向を詳しく把握していない。
ただ、両親を殺されたショックで殺し合いに乗ったらしいとか、ぼんやりと聞いている程度だった。
それでも、あのバロウと似たような行為をしたらしいぐらいのことは、把握していたから。
救われたがっているだけの、殺してはいけないヤツだと聞いて。
バロウの無様な姿を見て、雪輝のことを思い出して。
気が付いたら体が動いていた。
「勘違いするなよ……オレは別に、雪輝を救いたいなんて、思っちゃいねぇんだ……」
思いがけないことを言われて、黙りこむしかできない三人へと。
へへっと、力なく笑った。
「……ただ、救われてもいい……ぐらいには、思ってた」
それで、残った命の大半を燃やしつくしたらしい。
長いこと仲間だった二人への別れの言葉は、とても簡素なものだった。
「だから、まぁ……せいぜいがんばれや……仲良くやれよ」
「はい」
「うん」
綾波がまた座りこんでしまわないように、リョーマが綾波の手を繋いでいた。
それを高坂は、羨まし気に見ていた。
顔をうつむけている綾波に、せめて高坂が生きてる間に顔を上げさせてやりたいと思ったのか。
菊地があえて、別れの時間を壊す覚悟で言葉をかけた。
「止めなかったオレも同罪だ
……でも、さっきみたいな無茶はやっぱりやめてくれ。でないと、シンジも浮かばれないさ」
「碇君が……?」
菊地は綾波の耳元へと顔をよせ、先刻は伝えきれなかったことを伝える。
それは、碇シンジが、人生で最後に遺した言葉だった。
「え……」
後悔に包まれて暗くなっていた綾波レイの面差しが、驚きにつつまれていく。
それは、仲間を失おうとしていたばかりの少女には、唐突すぎて、大きすぎて、重すぎた。
驚くばかりで、咀嚼できずに、ただ言葉を頭で反響させるしかできない。
しかしそれでも、顔を上げさせるというだけの効能は確かにあった。
高坂はそれを見て、少しだけほっとしたようだった。
リョーマはそれを、興味深そうに見ていた。
そんな、あとは臨終を見送るはずだっただけのわずかな時間。
どんな因果律の采配が起こったのか。
「高坂……?」
天野雪輝が、その場に現れた。
呆然と、立ち尽くしていた。
◆
その時、ぼやけていた高坂王子の視界が、くっきりと定まった。
雪輝だった。
天野雪輝がいた。
情けなさそうなバカ面を、ぼけっと晒して立っていた。
力の入らなくなっていた体が、執念を注ぎ込まれたかのように活力を取り戻す。
言葉さえ惜しむように身振り手振りで、菊地に連れていくようにと指示した。
天野雪輝の元へ。
何を言いたかったのだろう。
確かに高坂王子は、天野雪輝を探して、問い詰めようとしていたはずだ。
たしか、この殺し合いはどういうわけだと、そんなことを問い詰めたかったはずだ。
いや、違う。
何か言うよりもまず、コイツには『こう』してやるのがいいんだ。
両脇を、菊地と越前とに支えられて進み出る。
天野雪輝の姿が、目の前にあった。
――ドゴ
拳を握って、殴るだけの力がどこにあったのか。
熱い一撃が、雪輝の頬を横殴りに撃ちぬいていた。
「友達(ダチ)が死にかけてんだから……もっと、泣きそうな顔、しろよ……」
言えた。
殴れた。
そのことを、満足するように、もう一度だけ拳をつきあげて。
それが、本当の本当に最期になった。
拳が、握られたまま、だらりと垂れ落ちる。
死にかけの人間に殴られたと思えないほどに無様によろけて、天野雪輝は尻餅をついた。
「あ………あぁぁ………」
誰かに殴られたのは、それこそ一万年ぶりだった。
思い出させる。
遠くにぼやけてかすんでいた記憶が、よみがえる。
この痛みと熱を、雪輝は知っている。
――やりたい放題やっといて泣くんじゃねぇ。テメェは自分の都合で友達(ダチ)を殺した悪党だろうが。
最後の最後で、雪輝のことを友達だと認めていた。
その拳は、一万年の時を越えて、ふたたび届いた。
「あの時はっ……! 『泣くんじゃねぇ』って言ったくせに!」
雪輝が、泣くことはなかったけれど。
その顔は、誰もがそう見えるほど、『泣きそうな顔』だった。
◆
「僕の友達を……秋瀬君を、助けてください!!」
天野雪輝が最初にしたことは、土下座だった。
それはもう、完璧なまでにかしこまった土下座だった。
「おい、お前は殺し合いに乗ってたはずじゃ……」
日野日向から聞いた情報は、菊地に雪輝を警戒させてあまりあるものだったけれど。
「もう、高坂さんが殴ったよ」
「……それもそうか」
越前の言葉で、それも霧散する。
高坂が殴った理由は、雪輝を反省させる為というより、高坂らしい行動をした結果の産物だろうけれど。
それでも、その時に交錯した高坂と雪輝の表情は、警戒をとくに足りるものだった。
「急ぐんでしょ。案内して」
「おい、越前。お前はまだ怪我が」
「もう平気っスよ。だいたい話してる時間も勿体ないんだし」
「わたしは越前君と行く……さっきの責任はあると思うし、混乱もしてるけど。
でも、もうこれ以上、失うことだけは嫌だから」
「分かったよ、俺も……いや、まず植木を引っ張ってくる。オレ一人が付いて行くより役に立てるだろうし。
それに全部が終わったら、こいつらを埋葬することもできるからな。
なんなら、綾波は杉浦に任せても……」
「いい、落ち着いたら、植木君から碇君のことを聞きたいけど。
今は聞いても、また動けなくなって足を引っ張るかもしれないから。
それに、さっきの放送の後に、越前君たちについて行くって決めたから」
「越前……」
その名前に聞き覚えがあるらしく、雪輝は思いがけず反応を見せた。
「君……もしかして、コシマエくん?」
【F-5 南東部/一日目 午後】
【菊地善人@GTO】
[状態]:健康
[装備]:デリンジャー@バトルロワイアル
[道具]:基本支給品一式×2、ヴァージニア・スリム・メンソール@バトルロワイアル 、図書館の書籍数冊 、カップラーメン一箱(残り17個)@現実 、997万円、ミラクルんコスプレセット@ゆるゆり、草刈り鎌@バトルロワイアル、
クロスボウガン@現実、矢筒(19本)@現実、火山高夫の防弾耐爆スーツと三角帽@未来日記 、メ○コンのコンタクトレンズ+目薬セット(目薬残量4回分)@テニスの王子様 、売店で見つくろった物品@現地調達(※詳細は任せます)、
携帯電話(逃亡日記は解除)、催涙弾×1@現実、死出の羽衣(6時間後に使用可能)@幽遊白書
基本行動方針:生きて帰る
1:急いで植木たちと合流し、綾波レイたちの元へ再合流。
2:落ち着いたら、綾波に碇シンジのことを教える。
3:次に仲間が下手なことをしようとしたら、ちゃんと止める
[備考]
※植木耕助から能力者バトルについて大まかに教わりました。
※ムルムルの怒りを買ったために、しばらく未来日記の契約ができなくなりました。(いつまで続くかは任せます)
◆
我妻由乃の持つ『雪輝日記』に、本当に予知のノイズ音が走った。
「由乃ぉっ!!」
名前が呼ばれるのと、ほぼ同時。
高速でテニスボールの弾丸が放たれ、我妻由乃の武器を持つ手を強かに直撃した。
「いたっ……」
日本刀を取り落しそうになり、かろうじて堪える。
しかしその動作は、今度は我妻由乃にとっての隙となるものだった。
秋瀬或が、動く。
『まだ切られた右手が柄を握っている刀剣』を左手でつかみあげ、二撃目を叩きこもうとしていた。
雪輝日記のある、左手に向かって。
(ハッタリ、じゃない……?)
一瞬で視線をめぐらせ、状況を把握。
逃げ出したはずの雪輝が、拳銃を手に駆け寄ってきている。
そんな雪輝に並ぶように、細長い棒を掲げてボールを撃とうとする少年。
それを援護するように拳銃を構える、白髪の少女。
秋瀬は片手を失っても、なお危険。まさに雪輝日記を破壊しようとしている。
この状況でそれでもなお殺そうと粘るとしたら、
まるで『ユッキーに対してこだわっている』みたいだった。
そんなことは無い。
雪輝への思いを否定する考えが、撤退を決断させた。
「……次は無いわよ」
「由乃っ!!」
くるりと踵を返して逃亡する背中を、雪輝の叫びが突き刺す。
「必ず! いつか君を迎えに行くから!!」
【F-5南西部/一日目・午後】
【我妻由乃@未来日記】
[状態]:健康、見敵必殺状態、
[装備]:雪輝日記@未来日記
来栖圭吾の拳銃(残弾0)@未来日記、詩音の改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に、真田の日本刀@テニスの王子様、霊透眼鏡@幽☆遊☆白書
[道具]:基本支給品一式×5(携帯電話は雪輝日記を含めて3機)、会場の詳細見取り図@オリジナル、催涙弾×1@現実、ミニミ軽機関銃(残弾100)@現実
逆玉手箱濃度10分の1(残り2箱)@幽☆遊☆白書、鉛製ラケット@現実、不明支給品0~1 、滝口優一郎の不明支給品0~1
基本行動方針:真の「HAPPY END」に到る為に、優勝してデウスを超えた神の力を手にする。
0:一時撤退。
1:雪輝はしばらく泳がせておく(出会えば殺す) 。
2:秋瀬或は絶対に殺す。
3:他の人間はただの駒だ。
※54話終了後からの参戦
※秋瀬或によって、雪輝の参戦時期及び神になった経緯について知りました。
◆
「あー……………疲れた」
「さっきは平気って……」
「運動が終わったら一気にくるタイプなんスよ。
綾波さんも……考えること多いけど、まずは休憩して」
「うん……」
天野雪輝が学校の保健室から調達してきた救急セットで、喪失した右手から血を止めて。
初めて見る顔の少女と少年が、秋瀬の元へ歩み寄ってきた。
「はい」
差し出されたのは、テニスボールらしきただの球体だった。
脇の下にでもはさんで、止血の手助けに、ということらしい。
どっかと腰かけ、そして力尽きたのか、そのままごろんと仰向けに寝ころぶ。
少女がそばに控えるように座ると、少年の手当をする為らしく、救急箱を取って薬品と湿布を見つくろい始めた。
「ありがとう。君は……」
天野雪輝が、先んじて答えた。
「越前リョーマ君だよ。遠山の、友達」
「まだその話はぜんぜん聞いてないけどね」
越前リョーマ。
何度も聞いたことのある、名前だった。
ここに至るまでに、色々な人物から。
釣り目がちの大きな瞳が、秋瀬或をじーっと見上げる。
どうやら、疲れて寝ころびながらでも、詳しい事情を聞きたい意思はあるらしい。
「そうか……それなら、説明しないといけないね」
幾つかの出来事を、思い返す。
手塚国光の、遺言を受け取ったこと。
真田弦一郎から、忠告を受けたこと。
月岡彰の、宣言を聞いたこと。
遠山金太郎から、叱咤されたこと。
跡部景吾から、情報を得たこと。
「君に、伝えたいことがあるんだ。たくさんの人たちから」
× × ×
そして。
みんなから、越前リョーマに。
【高坂王子@未来日記 死亡】
【残り 21人】
【F-5南西部/一日目・午後】
【天野雪輝@未来日記】
[状態]:右足にかすり傷
[装備]:スぺツナズナイフ@現実 、シグザウエルP226(残弾4)
[道具]:携帯電話、学校で調達したもの(詳しくは不明)
基本:由乃と星を観に行く
1:越前リョーマに、遠山のことを話す
2:僕は助けを求めても、いいのか…?
※神になってから1万年後("三週目の世界"の由乃に次元の壁を破壊される前)からの参戦
※神の力、神になってから1万年間の記憶は封印されています
※秋瀬或が契約した『The rader』の内容を確認しました。
【秋瀬或@未来日記】
[状態]:右手首から先、喪失(止血中)
[装備]:The rader@未来日記、、携帯電話(レーダー機能付き)@現実、セグウェイ@テニスの王子様、マクアフティル@とある科学の超電磁砲、リアルテニスボール@現実
[道具]:基本支給品一式、インサイトによる首輪内部の見取り図(修復済み)@現地調達、火炎放射器(燃料残り7回分)@現実
基本行動方針:この世界の謎を解く。天野雪輝を幸福にする。
1:越前リョーマに、知り合いのことを話す。
2:天野雪輝の『我妻由乃と星を見に行く』という願いをかなえる
[備考]
参戦時期は『本人の認識している限りでは』47話でデウスに謁見し、死人が生き返るかを尋ねた直後です。
『The rader』の予知は、よほどのことがない限り他者に明かすつもりはありません
『The rader』の予知が放送後に当たっていたかどうか、内容が変動するかどうかは、次以降の書き手さんに任せます。
【越前リョーマ@テニスの王子様】
[状態]:疲労(大)、全身打撲 、右腕に亀裂骨折(手当て中)
[装備]:青学ジャージ(半袖)、太い木の棒@現実、ひしゃげた金属バット@現実
リアルテニスボール(ポケットに2個)@現実
[道具]:基本支給品一式(携帯電話に撮影画像)×2、不明支給品0~1、リアルテニスボール(残り3個)@現実 、自販機で確保した飲料数種類@現地調達、
S-DAT@ヱヴァンゲリオン新劇場版、壊れたNeo高坂KING日記@未来日記、『未来日記計画』に関する資料@現地調達
基本行動方針:神サマに勝ってみせる。殺し合いに乗る人間には絶対に負けない。
1:秋瀬或の話を聞く。
2:疲れた……秋瀬らの話を聞きがてら休息する。
3:バロウ・エシャロットには次こそ勝つ。
4:ちゃんとしたラケットが欲しい。
[備考]
NEO高坂KING日記はバロウの百鬼夜行によって破壊されました。
【綾波レイ@エヴァンゲリオン新劇場版】
[状態]:疲労(小) 、傷心
[装備]:白いブラウス@現地調達、 第壱中学校の制服(スカートのみ)
由乃の日本刀@未来日記、ベレッタM92(残弾13)
[道具]:基本支給品一式、 天野雪輝のダーツ(残り7本)@未来日記、第壱中学校の制服(びしょ濡れ)、心音爆弾@未来日記 、隠魔鬼のマント@幽遊白書
基本行動方針:???
1:自責と後悔……今は、越前君の手当て
2:天野雪輝らに、高坂のことを話さないといけない
3:今は、越前と行動。もう誰も失いたくない?
4:落ち着いたら、碇君の話を聞きたい。色々と考えたい
5:いざという時は、躊躇わない…?
[備考]
※参戦時期は、少なくとも碇親子との「食事会」を計画している間。
※碇シンジの最後の言葉を知りました。
【マクアフティル@とある科学の超電磁砲】
秋瀬或に支給。
実在する南アメリカ(アステカ)の刀剣「マクアフティル(macuahuitl)」
12世紀頃~16世紀ほどまで使用されていた。
アステカ魔術師のショチトルが携行している武装。
木製の刀身の両側面に細かい石の刃をいくつも並べ、ノコギリのように『引き切る』構造をしている。
超電磁砲9巻にも使用者ごと登場しており、佐天涙子の危機を救っている。
最終更新:2021年09月09日 19:51