7th Trigger ◆jN9It4nQEM
「ふー、満腹満腹だぜ。ギュードンと比べても遜色ねーな!」
「確かに。美味しく頂きましたわ」
「丸呑みしてた奴が言っても説得力ないなぁ」
「はぁ……メイド服姿の黒子ちゃんもお持ち帰りしたいよぉぉ!」
結衣とレナが作った夕食は黒子達に好評だった。
それなりに量多めで作ったはずが綺麗になくなってしまったことに結衣は笑みを浮かべる。
作った二人からすると、完食されるのは気持ちのいいことだ。
料理人と言えるほど傾倒はしていないが、これぐらいは喜んでもいいだろう。
「七原さんはどうだった?」
「ああ、美味しかったよ。支給されたやつよりは格段に美味いね。
ま、食べさせてもらってる身なんだ、食べれるだけありがたいよ」
残る一人。七原秋也も軽い言葉でレナ達に賛同の言葉を上げる。
綺麗になくなった皿から察するに、彼の口にはあったようだ。
そして、七原は流れる手捌きで、懐からタバコを取り出して口に咥えようとするが、消えてなくなってしまう。
目を丸くして、もう一本取り出すがまた消える。その繰り返しに顔をしかめていると、横に座っていた黒子がじっと七原を見つめていた。
ふと見ると、タバコは黒子の指に挟まっている。能力を使って、没収したのだろう。
「未成年の喫煙は禁じられてますわ」
「確かに吸ってない奴の前で吸うのはマナー違反だな。悪かったな、喫煙コーナーにでも行って」
「そういう問題じゃなく! 倫理上の問題ですわ!」
「堅いこと言うなって。タバコでも吸わなきゃやってられないっての。この味がわからんのは子供だなぁ」
「私達はまだ子供ですわ! 貴方もです! そもそも、タバコを吸うということは」
尚もぶつぶつと小言を言う黒子を無視し、七原は思考に浸る。
食後に首輪など色々なことについて話すつもりだったが、実際は情報の共有は殆ど済んでいる。
首輪についてはレナと粗方推測し尽くしたし、主催者が何処にいるかなんて考えても仕方がないことだ。
食事の最中、さらっと聞いた空間転移能力については自分の理解が済むように噛み砕いた。
大方の考察材料は出し尽くしたのだ。後は、行動するしか道はない。
(先行きは不安だし、見通しも立ってない。正直、行き止まりなんだよな。
だからといって、止まれないってのは辛い所だよ。ああもう、前のプログラムよりたちが悪い)
この殺し合いに巻き込まれて半日以上は経過しているが、自分達にはまだ情報が足りな過ぎる。
故に、今話し合うべきことは次の行動方針、何処に行き先を定めるかといったものだけしかなかった。
「アンタらはどうするんだい? 俺は次の放送が終わったらここを出るつもりだけど。
ま、それまでは休息ってやつだな。落ち着いて考えたいこともあるしな」
「うん、私達も出ようかなって。いつまでもここに留まり続けても何の解決もないしね」
三人を代表してレナが答えるが、大方予想通りのものだった。
いつの間にか意気投合した彼女達はこれからも共に行動をするようだ。
仲良き事は美しき哉、とはよく言うが、こんな状況でもそれが崩れないレナ達は賞賛に値するのだろう。
「そっか。なら、好きに動けばいいさ。
俺にアンタ達の動きを止める権利はないし、俺は俺で勝手に行動するしな」
レナ達からすると、予想していた一言だった。
七原はあくまで友好的な態度を取っているが、一線を引いている。
それは先程の食事でもわかっていたことだった。
七原ただ一人だけが元いた日常について何も話さなかった。
どんな生活を送っているか、どんな学校生活か。革命家とは名乗っているが、実際は何をやっているのか。
彼は何一つ自分のことを話さなかった。
推測するに、自分の邪魔になりそうなものとは深く関わりを持たないようにしているのだろう。
それが、レナ達には少しだけ悲しかった。
「……行動を同じくした方がいいんじゃないかな? かな? 誰一人欠けることなく、元の日常に帰る為にも」
「元の日常、ねぇ……。ま、そうなるわな。そんなことよりも、今生き延びることを考えとけって。
というか、俺を誰だと思っているんだ? 世界を変える革命家――七原秋也だぜ?
そんじゃそこらの奴等に殺られる三下じゃねーんだから、その心配は自分達に全部注いでおけ。
戦力的にはそっちの方が十全だが、油断するとサクッて逝っちまうぜ?」
七原は軽く肩をすくめ、レナの言葉を跳ね除ける。
考えが合わないことはお互いに承知済みだし、無理に合わせても碌なことが起きないだろう。
故に、別行動を提案したのである。
もっとも、そんなのお構いなしにあちら側はフレンドリーに接してきたが、ここで揺らぐ訳にはいかない。
余計な荷物を背負って死ぬのは、七原は御免なのだ。
「数時間前にも言っただろ? 俺はアンタらを否定しない。
その綺麗な想いで救えるものもあるってのは、証明してくれたし理解できるよ」
彼女達の掲げる正義も、想いも七原は理解している。
それは自分が過去に通ってきた道だから。
かつて願った理想そのものだから。
「だからこそ、俺はその想いに殉じることが許せない。いいや、許しちゃ駄目なんだよ」
故に、七原は綺麗事に浸ることを拒むのだ。
彼女達を見ていると、思い出してしまう。
キラキラと輝いていた過去を。現実を思い知り、諦めを覚えてしまった自分を。
もっと早く割り切っていれば、救えたはずの友達を。
全部、七原の決断が早ければ乗り越えられたはずの悲劇だから、許せない。
「つーことだ、んじゃ、食後の一服行ってくるんで」
これで話はお終いと手を振り、七原は部屋のドアに手をかけて。
悠々とした足取りで外へと出て行った。
振り返ることもせず、一人何処かへと消えていく。
「はぁ……ちょっと急すぎたかなぁ」
「そんなことないだろ。ただ、アイツが捻くれてるだけだ」
「何か、七原さんについてわかることがあればいいのですけれど。
彼、結局は何も教えてくれませんでしたもの。せめて、どんな学校生活を送っていたかぐらい教えてもいいと思うんですの」
「そう、だよな。それぐらい教えてもいいのに」
わかっていたことだった。
彼との隔たりが食事一回で消える訳がないことぐらい。
同じ世界で生きているはずなのに、どうしてこんなにも違うのか。
「だけど、私は諦めないよ。今は話してくれなくても、いつか秋也くんの口から聞かせてくれるって」
これから先も、七原とは意見を衝突させるだろう。
何を切り捨てて、何に手を伸ばすか。
お互いに考えをぶつけ、言葉を交わして。
「私達は、『これから』なんだよ」
全員が笑って前を向ける未来が、一番と信じているから。
レナは諦めることを諦めたのだ。
「だから……って、結衣ちゃん、どうしたの? 急にリュックサックを漁ったりして」
「……思い出したんだよ。私に支給された物の中にあったんだ!
当時の私は、それどころじゃなかったから忘れてたけど!」
レナの言葉を聞いて、突然に結衣は支給されたデイパックを漁り始めた。
いきなりの奇行にレナ達は驚くが、結衣は構わず漁り続けている。
さすがに、止めようと黒子が声をかけようとした時、結衣が取り出したのは――。
「これに、全部示されているんだ! アイツのことが!」
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「一緒に日常に帰ろう、ねぇ」
一人、喫煙所でタバコを吹かしながら、七原は噛み締めるようにつぶやいた。
「帰る日常なんてどこにもありやしないのに、俺は何をひよっちまったんだか。
もし、生きて帰れたとしても待っているのは戦いだけだ。国を相手取った戦争しか俺を歓迎してくれない」
プログラムで友人と帰るべき日常を奪われ、この世界では愛する人を失ってしまった。
中学生という多感な時期に一人で生きていかなければならない絶望は、重い。
世界から爪弾きにされた七原にとって、帰れる場所があるだけで羨望できたのだ。
「帰れる居場所もない、いや、そもそも俺の存在自体、あの国では抹消されてるだろうな。
『七原秋也』は元の世界ではいてはいけない訳だ。はっ、こいつはなかなかに痛快だぜ」
気づいてしまったからには戻れない。
彼女達と違い、帰れる日常すらない七原にとって、甘さは毒なのだから。
「けれど、今更それがどうしたっていうんだ。俺はもう止まれない、走り続けるしかない。
後ろを振り返ったって、横を見たって誰もいないんだ……」
クラスメイトの命を糧に生きた自分と、無残に死体になっていったそれ以外。
更に、典子が死んだ今、ここから先はたった一人の戦場だ。
自分を導いてくれる先導者も、支えてくれる大切な人もいない孤独な道をひた走る。
誰かに救いの手を伸ばすことはできるが、七原自身が救いの手を求めることはできない。
誓ったはずじゃないか、強く生きると。願ったじゃないか、一人になっても戦い続けると。
綺麗な理想で人は救えないと身を持って体験したじゃないか。
「引き金が重い訳だよ。俺は思い出しちまったんだな」
あの時、典子の死を聞いて泣かないと決めた覚悟が、嘘になる。
誰にもバレずに『ワイルドセブン』を貫いた意志を解いてはならない。
「竜宮、船見、白井。お前らは『俺』がなりたかった『理想』だったんだ。
プログラムに巻き込まれる前になりたかった夢みたいなものなんだよ」
彼女達との触れ合いで思い出してしまった。
かつて、自分がいた日常を。
プログラムに巻き込まれる前までは持っていた甘さを。
「だけど、そんなものに意味はない。結果が伴わない想いなんて……捨てちまえ。
理想で人が救えるなら幾らでも救えたさ。信じたいと願って貫いた結果があの様じゃあ、どうしようもねぇな。
だから、俺は――ハッピーエンドを信じれない。信じることをやめたんだ」
けれど、ここから先は、そのような甘さは許されない。
必要なのは引き金を躊躇なく引ける覚悟と判断力だ。
全部を救い取るのではなく、成し遂げなければならない目的だけを胸に秘めればいいのだから。
「ったく、アイツらは『七原秋也』を見事に思い出させてくれたよ。
完敗だ、ここでクールになっていなかったらきっと俺は――――。
ま、IFを口にした所で何になる訳でもないけど」
なればこそ、もう七原は定まった。
過去を振り返り、現実を再確認し、役割を貼り付ける。
その過程で邪魔なものを削ぎ落としていく。
かつての自分を捨てる決意を込めて、七原は選んだ。
「甘さなんて置き去りにしちまえばいい。それが、一番冴えたやり方だ。
これで終わりだ、『七原秋也』のアンコールはこれっきりだぜ」
けれど、せめて切り捨てる前にしっかりと吐き出しておきたい。
『七原秋也』が生きていた証を、命を削ってでも護りたかったものを。
「ああ、畜生。どうしてこんなことになっちまったんだろうな。ホント、世界は納得出来ないことばっかりだ。
こんな血生臭い戦場に慣れちまって。大切な人が死んだのに、俺は冷静で、すぐに切り替えることが、できて……」
そして、せめてもの手向けに。『七原秋也』を出せる最後の瞬間だけは。
「……典子とずっと一緒にいたかった。失ったものは多かったけれど、大切なモノを護れることが出来たと思ったんだ。
これからも横でアイツが笑ってくれるなら、『七原秋也』を覚えてくれる人がいるなら、俺は笑えるって信じていたのに」
悲しみの涙を流そう。後悔の言葉を呟こう。
思い出の幸せに縋り付こう。
「何で、典子がいないんだよ。俺を見てくれる人は、誰もいないなんてそんなのありかよ。そこまで追い詰めるのかよ」
浸れた幸せは、もうない。
再び巡りあった理不尽に奪われ、彼方へと飛び去ってしまった。
「なぁ、どうしてだよ。もういいじゃないか、十分悲劇も惨劇も味わったじゃねぇか。
どうしてこれ以上奪われなくちゃいけねぇんだよ。
俺には帰れる場所も、待ってくれる人もないのに、どうして……っ!」
大切なモノを全部奪われた自分は、誰が為に銃を持てばいい?
自分以外誰も残っていないのに、戦わなくちゃいけないのか?
「返してくれよ……っ! 楽しかった日常を! 友達を! 典子を!」
そんな疑問を無理矢理握り潰して、七原は慟哭する。
身を焦がす苦痛が常に付き纏おうとも、走り続けなければならないし、止まってはならない。
それが、彼らを犠牲にして生き残った自分に課せられたものだと理解しているから。
「幸せだったよ、いつまでも続けばいいのにって思ったさ。
それに、どいつもこいつもいい友達だった! 死んで当然な奴なんかじゃなかった!
忘れるなんてできるかよ。今でも、心のどこか願っているさ……っ、取り戻したいって!
またあいつらと過ごせたらどんなにも幸せかってな!
宗屋、お前はわかってなかったけど、俺だって同じくらい願っていたんだ!」
けれど。それでも。明日の見えない絶望が、七原を襲っても。
七原は全てをチャラにする願いに傾かない。
取り戻せないからこそ、大切なんだと知っているが故に、傾けないのだ。
「だけど、それは……! それだけは駄目なんだ! あいつらの精一杯をやり直せるなんてできない!
俺の自己満足で、勝手にチャラにしていい訳がねぇ! 死んじまうからこそ、必死で生きていたんだ! それを背負って俺はここまで来たんだよ!
アイツらの死を引っくるめて、今の俺がいる。疼く痛みもはっきりと感じるんだ。
それをなかったことにしたら――俺は、俺でなくなってしまう。そんなことしたら、俺は自分自身を許せない」
元通りにしてしまえば消えてしまう。
慶時を無情に殺された怒りを。
三村達が知らない所で死んだ理不尽を。
川田が自分達を護って死んだ後悔を。
典子を護り切れなかった絶望を。
離すまいと決めたあのぬくもりを奪った世界を。
それら全てが今の『ワイルドセブン』を型どっている大事なものだ、絶対に消してなるものか。
「だから、俺は最後まで進んでやる。これからは絶対に止まらないし、振り返らない。
どんな手を使ってでも、卑怯と罵られても、冷たいと切り捨てられても――必ず、辿り着いてやる。お前達の所まで」
この感情は七原だけのものであり、誰にも渡せないし汚させない。
もう、これ以上に奪わせてなるものか。手放してなるものか。
「どうせ、どこかで聞いてるんだろ? 宣戦布告だ、クソ野郎」
彼が叫ぶのは好きだった音楽でもなく、革命の咆哮。
取り零した過去を踏み越え、前だけを見続ける不屈の意志。
「俺は竜宮達を切り捨ててでも『プログラム』を終わらせる。誰も彼もがお前達を許しても、手を差し伸べても。
俺だけは許さないし、伸ばさない。未来永劫、憎み続けてやる。
あいつらが邪魔をしようとも、俺を切り捨てようとも。これだけは絶対に曲げない」
摩耗したロックンロールも、夢も、全部どこかに置き去りにしてしまった自分には、革命しか残っていない。
残った想いの残骸を拠り所にして、強く生きると決めたのだ。
そして、犠牲に慣れ、妥協を覚え、大人にならざるをえなかった現実が、七原を強くした。
もう、これ以上悲劇が起こらないように。
不条理がまかり通る世界を変える為に――七原は戦う。
(だから――お“願い”だ。竜宮、船見、白井)
故に、これが最後だ。
涙はもう、流さない。
決意はもう、揺らがない。
(もう、俺に手を差し伸べるな)
悲しみの涙を無理矢理に瞳の奥へと押し込めて、今度こそ『七原秋也』を踏み越える。
夢を思い出させてくれた彼女達を振り払う。
かつて、自分がいたひだまりを――――置いていく。
【D-4/海洋研究所前/一日目・午後】
【七原秋也@バトルロワイアル】
[状態]:健康 、頬に傷 、『ワイルドセブン』
[装備]:スモークグレネード×2、レミントンM31RS@バトルロワイアル、グロック29(残弾9)
[道具]:基本支給品一式 、二人引き鋸@現実、園崎詩音の首輪、首輪に関する考察メモ 、タバコ@現地調達
基本行動方針:このプログラムを終わらせる。
1:レナ達を切り捨てる覚悟、レナ達に切り捨てられる覚悟はできた。
2:走り続けないといけない、止まることは許されない。
3:首輪の内部構造を調べるため、病院に行ってみる?
4:プログラムを終わらせるまでは、絶対に死ねない。
【船見結衣@ゆるゆり】
[状態]:健康
[装備]:The wacther@未来日記、ワルサーP99(残弾11)、森あいの眼鏡@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式×2、裏浦島の釣り竿@幽☆遊☆白書、眠れる果実@うえきの法則、奇美団子(残り2個)、森あいの眼鏡(残り98個)@うえきの法則不明支給品(0~1)
基本行動方針:レナ(たち?)と一緒に、この殺し合いを打破する。
1:今は、レナ達といっしょにいたい。
[備考]
『The wachter』と契約しました。
【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:穴掘り用シャベル@テニスの王子様、森あいの眼鏡@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式、奇美団子(残り2個)
基本行動方針:正しいと思えることをしたい。 みんなを信じたい。
1:できることなら、七原と行動を共にしたい。
[備考]
※少なくても祭囃し編終了後からの参戦です
【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:精神疲労(大)
[装備]:メイド服
[道具]:基本支給品一式 、正義日記@未来日記、不明支給品0~1(少なくとも鉄釘状の道具ではない)、テンコ@うえきの法則、月島狩人の犬@未来日記
基本行動方針:自分で考え、正義を貫き、殺し合いを止める
1:とりあえず、レナ達と同行する。
2:初春との合流。お姉様は機会があれば……そう思っていた。
[備考]
天界および植木たちの情報を、『テンコの参戦時期(15巻時点)の範囲で』聞きました。
第二回放送の内容を聞き逃しました。
※寝ていたのは10数分程度です。殆ど時間は経過していません
それでも。それでも。
彼女達が、手を差し伸べることをやめないならば。
まずは、『七原秋也』の根幹を知ることから始めなければならない。
彼が過ごした日常を。彼が味わった地獄を。彼が失ったものを。彼が奪ったものを。彼が到達した世界を。
戦闘実験第六十八番プログラム報告書。
船見結衣が手に取った冊子には七原秋也が『七原秋也』でいられた時を記している。
彼を知る手掛かりとなる欠片が、結衣達は今開こうとしているのだ。
けれど、知ったからといって彼女達のしあわせギフトが『ワイルドセブン』に届くは別問題だ。
彼女達の言葉が『ワイルドセブン』に不都合なものであるならば、容赦なく切り捨てるだろう。
強さを保つ為に。走り続ける為に。
綺麗な想いを信じていた“中学生”は、何処にもいないのだから。
【戦闘実験第六十八番プログラム報告書】
船見結衣に支給。プログラムに関わる様々な情報を記載した冊子。
どんな目的で行われるか、どのクラスが巻き込まれたか。プログラムに関わる情報が色々とつめ込まれている。
その中には、『七原秋也』がどのような人物か。どんな人生を歩んできたかも当然含まれる。
彼らが奪われた“日常”が事細かに写真付きで記されているのは、何かの皮肉も込められているのだろう。
………もう取り戻せない優しい日々を嘲笑うかのように、写真の中で生きていた彼らは、幸せに生きていた。
最終更新:2021年09月09日 19:58