それでも、しあわせギフトは届く  ◆Ok1sMSayUQ


 いつだったか。
 そんなに遠くない昔に、こんな話をしたことがある。
 喧嘩にもならず、翌日になれば自分自身でもころりと忘れるくらいの。
 ささやかな痛みを伴う話。

「……ただいま、黒子」
「あらお姉さま。そんなお顔をなさらずとも、寮監の目は誤魔化してありますから」

 湯浴みを済ませ、風呂場の扉を開けて出てきた白井黒子の目に飛び込んできたのは、今しがた『用事』を終えて戻ってきた御坂美琴だった。
 本当に丁度戻ってきたようで、鍵を開けておいた窓が開け放たれ、美琴は窓に足をかけていた。靴を脱ごうとしていたのか、片方の靴が床に落ちてひっくり返っている。
 加えて黒子がバスタオル一枚というあられもない姿で戻ってきたからか、間が悪いとも思ったようで美琴の表情はばつが悪いといった風情だ。
 が、黒子自身は特に気にすることもなくタオルを巻いたまま、すたすたと美琴の元まで歩いてゆきてきぱきと靴を片付け、もう片方の靴も寄越すように指示した。
 ほぼ裸なのは問題ない。勝手知ったる美琴との仲であるし、今時分の季節はすぐに着替えずとも体を冷やすこともない。何より、『用事』を済ませた美琴はいつも疲れている。
 窓際で待たせるわけにもいかなかった。

「いや、あんた先に着替えな……」
「お姉さまが先です。それとも」

 いつも奔放に行動しているくせに、こういうときだけは遠慮というか、自分を後回しにする美琴に、多少腹立たしい思いがないではなかった。
 にっこりと笑って「私の裸が見たいんですの?」と言ってやると、素直に美琴は靴を渡してきた。
 それはそれで多少残念ではあった。頑固にこちらを優先してこようものなら「私の裸を見たいお姉さまなら襲ってもいいですわよねー!」という屁理屈を捏ねて飛びかかれたのに。
 室内用のスリッパを投げてやると、美琴はそれを器用にキャッチして履き、ようやく窓から部屋へと『入った』。

「お帰りなさいませ、お姉さま」
「……ただいま」

 美琴は苦笑していた。ただ疲労はかなりあるらしく、そのままベッドに歩いていったかと思うとバタリ、と倒れるようにして動かなくなった。
 黒子は『用事』の中身は知らない。だが毎日のように夜遅くまで出て行っては疲弊しきって戻ってくる。それだけで大変どころではないものだとは分かるし、
 そこまでして為さなければならない『用事』が、少なくとも美琴にとってはかなりの重みがあるのに違いなかった。

「もう、お眠りになられます?」
「あー……。ううん、違うの。眠くはないんだ。疲れてる、だけ」

 ごろりと寝返りを打って、美琴は黒子に返事した。
 黒子は丁度着替え終わったタイミングであり、電気を消そうと思えば消せたが、こちらに視線を寄越す美琴は、まだそうしないでくれと言っているように見えた。
一つ息をついて、黒子は自分のベッドに腰掛ける。本来なら無理矢理にでも寝かせるべきなのだろうが――、美琴が夜に殆ど眠れていないのも、知っていた。

「全く、何をしてらしているのか知りませんが」
「うん」
「話してくださる気はないんですのね」
「……うん」

 ごめん、と小さく美琴は付け加えた。
 それだけで追及する気にはなれず、黒子は苦笑する以外になかった。

「そんな私がさ、こういうことを聞くとキレられそうなんだけど」
「はい?」
「黒子、無理矢理聞き出そうとかそういうことしないんだよね。意外に思ってる。なんでか、知りたいっていうか」
「あら、怒って欲しいんですの?」
「そういうわけじゃないんだけど……」
「ふむ」

 理由は、と聞かれられれば。
 お姉さまを信じているから……というのが究極的な答えになってしまう。そうとしか表現しようがないのだ。
 細かい理屈も、道理もない。学園都市第三位、正々堂々にして威風堂々。その上で努力も欠かさず、それを鼻にかけることもない。
 御坂美琴は黒子の考える理想像だったのだ。

「私はお姉さまを信じておりますので」

 恐らくは追及の口を開こうとしたのだろう、納得していなさそうに「それは嬉しいんだけど……」と言いはしたものの、後が続くことはなかった。
 美琴自身言えるような立場ではないからなのだろう。黒子としてもこの感覚的な信頼を上手く言葉にできる自信がなく、ならば『言えないことはお互い様』という落とし所にすることが正しかった。

「……嬉しいんだけどさ」

 それでもなお、美琴は未練がましそうにしていた。
 こういう正直すぎる性格もまた、信頼できる要素の一つだった。

「……もし、私がいなくなったら」
「あり得ませんから」
「そう言うと思った」
「仮定の話でもあり得ません」
「聞くだけは聞いてよ」

 そう言われては頷かざるを得ず、とはいえ真面目に聞くつもりなどひとつもない黒子はわざとらしく耳を塞いでやった。
 舌でも出してやろうかと思ったくらいだったが、それは流石に小学生でもやらないことなので我慢することにする。

「いなくなったらさ、きっと、なくしてしまった自分を責めると思うんだ」
「そうさせないようにお姉さまは頑張ってくださいな。応援はしてますから」
「努力はするからさ」

 冗談めかして言うかと黒子は思ったが、美琴は思いの外真剣な表情を崩さないままだった。
 いつものように寝転がったままの、いつも見ているはずの御坂美琴の、しかしひどく憂いたような言葉が、

「少しは考えてくれると、もっと……嬉しい」

 なぜだか、胸に突き刺さったのだ。

「……人のこと、言えますの?」
「そうね。ごめん。分かってる、でも、ごめん」

 だから刺のある言葉になってしまい、それ以上の会話は続かず、黒子は明かりを消してすべてを打ち切った。

     *     *     *

 そんな、夢を見た。

 思い出したのは全ての情報を知って、少し間が開いた後。
 食事ということになって、料理が持ってこられるまでの間だった。
 殆ど調理が完了していたために黒子ができるようなことはなく、テーブルについて待つことしかやることがなかったのだ。
 やることがなければ――人は思いを巡らせる。正確に言えば、やることがなかったわけではない。黒子の周囲には人がいる。
 七原秋也に、竜宮レナ。今まさに最後の仕上げに取り掛かっている船見結衣。テンコだっている。
 話そうと思えばできた。できたのだが、できなかった。

『あかりを理由にして諍いを起こすのは、止めてくれねぇか』

 テンコの言葉が痛烈に響いていたことが、黒子に沈思の時間を与え、夢のことを思い出させた。
 なくしてしまったらどうするかなど、考えたこともなかった。いや、考えようとすらしなかった。
 あり得ないと本気で思い込んでいたからなのか。それとも、あり得ることを想像したくなかったのか。
 今の黒子には、本当に分からなかったのだ。

(……私に、正義を名乗る資格はないのかもしれない)

 想像さえしてこなかったことが、最後まで幸せを願っていた赤座あかりの想いを無視する結果になりかけ、
 考えるのを拒否したことが、自分の矮小さをここに至るまで覆い隠してきた。
 他者の想いを遠ざけ、自分に振り向きもしない。……それは、自分自身がもっとも嫌ってきた卑劣な悪ではなかったか。
 美琴は恐らく自分の内奥に潜むものの正体を見破っていた。自分は、気付かれたくなくて痛みを棘にして返した。
 自分は他者に依存しすぎているのだと。

(いいえ、それも少し違う……。信じたかったのは、自分を仮託できるもの……)

 己で結論を出さずとも、それを信じて従っていれば、己を安心させ、満足させてくれるもの。
 大義。正義。人であれ言葉であれ、白井黒子という人間は常にそれを探し続けてきた。
 正しいもの。善いもの。幸せなもの。信じれば、それを実現してくれるもの。
 《風紀委員》に入ったのもその一環だった。学園都市の治安を守り、風紀を取り締まる組織。
 そこで与えられる仕事は黒子の求めるものに近かったことはある。
 与えられた仕事の内容を見るだけで心が納得したものだし、こなしていれば相応に満たされた気分になれた。
 自分で考えずとも、自分が一番欲しいものを与えてくれていたのだ。
 大きくて、立派で、人生の一部を請け負ってくれるだけの価値がある、甲斐というものがあった。

(それでいいと、思ってた)

 黒子の能力はカテゴリーとして、《レベル4》、大能力者と分類される。
 学園都市の能力者としては上位に入るが、最高峰である《レベル5》には到底及ばないクラス。会社で言えば中間管理職的なものだ。
 下のクラスの能力者からはエリート層と妬まれることもあれば、上位の能力者からは歯牙にもかけられない位置でしかない。
 上層にいながらにして、学園都市の方向性を決定づけるような力を持たない。それが《レベル4》だった。
 必然、そんな中途半端な立場の《レベル4》は顧みられることも少なかった。上位能力者という肩書こそあるものの、その実情は《レベル5》の成り損ないというものに近かった。
 適正にもよるが、能力の伸びしろがない場合が多いのだ。黒子の『空間移動』にしても、個人で扱う分には強力無比なのだがあくまで個人レベルの話であり、
 戦術・戦略クラスの応用力を得るには至らない。能力の発動には黒子が触れていなければならないという制約もあり、数百、数千単位の空間移動を行うのは不可能に近い。
 その事実は、黒子の能力では決して《レベル5》には至れないことを示していた。発展性のない能力者に付き合うほど、学園都市の研究者は暇を持て余してはいなかった。
 黒子にとって、レベルがどうであるかはあまり気にすることではなかったが、そうして顧みられず、自由という名の放逐を受けた黒子は何をすればいいのか分からなかった。
 大能力者として正しい行いをしたいという気持ちはあれど、実際どのような形で貢献したらいいのかなど、能力研究者達が教えてくれるはずもなかった。
 だから、身を委ねた。
 何をすればいいのか分からないなら、分かっている者に任せればいい。自分はそれを信じればいいと。
 己が充足できるなら、それでいいのだと断じて。

(その結果が、これだというのなら)

 後悔も、懺悔も、全てが遅い。
 白井黒子はもとより、全てを守れるような正義を持っていなかったのだから。
 御坂美琴のような、自らの想いを成し遂げるような心根の強さなど、なかった。

「……あの」

 認識の至らなさ。想像の欠如。そんなものしか持ち得ない自分自身に打ちのめされていた黒子にかけられた声は、つい先程まで七原と口論していたはずの船見結衣だった。
 手に持っているのはたっぷりと具が敷き詰められている肉じゃがの皿。見渡してみれば、七原にもレナにも皿が行き渡っていた。

「できたから、食べよう?」

 そんなただの呼びかけが、黒子の胸を突いた。
 こんな自分になにかを分け与えてくれることが、無性にやさしく感じたのだ。
 表情を変えまいとしたが、無理だった。
 口元がへの字に曲がった。瞼が震えた。七原との対話を経て感情を消化し、変えることのできた結衣が羨ましく――自分が、情けなかった。
 悔しい、悔しい。自分で自分を決められる、たったひとつの心を使いこなせない自分に、無力感よりもただ悔しさがこみ上げて仕方がなかった。

「ちょ、ちょっと」

 狼狽した風の結衣。七原もレナもテンコも黒子の異変に顔色を変えていた。
 おかしな話だった。守りたかったはずの赤座あかりの死を聞かされても、どうにか堪えていたはずなのに。
 涙が一筋、流れた。悲しいからではなく、あまりに自分が不甲斐なくて流した涙だった。
 守れなかった無念や罪悪感からではなく、自分がこの場の誰にも及んでいないことが悔しくて流した涙だった。
 こんなこと、少年漫画に出てくるような暑苦しい男でもなければないものだと思っていたのに……。

「なんなんだよ、大丈夫か?」

 結衣は一旦皿を下げようとして――、

「……ちっくしょーーーーーーー!!!」

 直後いきなり奇声を張り上げた黒子が、
 黒子の豹変ぶりについていけず、硬直した結衣の手から肉じゃがの盛られている皿をむんずと奪い取り、
 まるでジュースを一気飲みでもするかのように、
 がーっと皿を傾け、口の中に流し込み、もりもりと頬張ったかと思えば、

「……ぅ」

 顔を青ざめさせて、

「白井さん!?」
「黒子ちゃん!?」
「お、おい白井!?」
「喉に詰まらせやがった!」

 倒れた。

     *     *     *

 いつだったか。
 少しだけ遠い昔に、こんな経験をしたことがある。
 翌日になれば自分自身でもころりと忘れるくらいの。
 ささやかな痛みを伴う話。

 道に迷ったことがある。言ってしまえば迷子だ。
 小さかったし、その頃は能力も弱ければ街に慣れていきたばかりの状況でもあった。
 まだ日はそこそこ高かったのだが、このままでは日没になっても帰れない。
 もう道は知っているから大丈夫と、少しばかり近道して帰ろうなどと思ったのが間違いだった。
 気がつけば巡り巡って、黒子は全く知らない場所にいた。
 自分が住んでいるはずの街なのに、そこは別世界のように見えた。
 立ち並ぶ高層ビルも、道を歩く人々の姿も、空の色でさえも、普段見慣れているもの全部が正体不明のものにしか思えなかった。

 正しく恐怖だった。
 どこへ行けばいいのか分からないし、周りを歩いている人も言葉の通じない外国人のようにしか感じられない。
 何も頼れるものはなかった。何をすればいいのか分からなかった。
 いや、何もできなかった。泣き喚くことさえできなかったのだ。
 どうにもならないかもしれないという思いが、やってしまった後の先を想像することが怖いという思いが、感情の発露さえさせなかった。
 当て所もなく歩くしかできなかった。それで事態が解決するのかという問いは端から存在しなかった。出来ないという答えが出ることを恐れたからだ。
 だから、誰も黒子が迷子だなんて気付きはしなかった。普通に歩いているだけの子供にしか見えなかっただろう。
 よく見れば今にも崩れそうな表情で、前に出す足も細かく震えていることは見て取れるのだが、よく観察しないと気付けない程度でしかなかった。

「ねえ、きみ」

 誰にも顧みられない。今にしてみれば自業自得でそんな状況に追い込んだはずの、救いようのない情けない自分に手を差し伸べてくれたのは、

「さっきからずっとうろうろしてるけど、どうしたの?」

 正義、だった。

「そっか、迷子か。怖かったよね。もう大丈夫だから」
「私? いいのいいの、実はあっちにも用事あったからね」
「にしても、そんなちっさいのにちゃんとお礼言えるのは偉いなぁ」

 どうしたのと言われ、迷ったと答えただけの自分を、その人は意を汲み取って、住所まで案内すると申し出てくれた。
 すみませんと言うと、その人は朗らかに笑って安心させてくれた。
 ありがとうと言うと、その人は褒めてくれた。
 そして、ずっと手を繋いでいてくれた。

「ま、人助けするのなんて《風紀委員》の当たり前の仕事だし、気にしなくていいよ。きみが気にするべきは、きみを待っててくれる人にだ」

 別れ際、もう一度礼を言おうとすると、その人は照れくさそうにそう言った。
 仕事だから。ついでだから。そう言いつつも本気で助けてくれたと黒子は信じたかったし、《風紀委員》の腕章をつけた姿はとても格好のいいもので。
 ただ甘えていただけの自分が、とても恥ずかしくもなって、身が引き締まった思いがして。
 ――そんな自分自身を、変えたかった。その人みたいな『正義』に、なりたかった。

     *     *     *
「ぅ……」

 うめくような魘され声が静寂を破ると、視線が一斉に集まる気配がした。
 ソファの上に寝かせられていた、白井黒子へと。

「ここは……?」

 覚醒の兆しを見せてから、皆が集まるまでは早かった。

「……ようお姫さま、遅いお目覚めだったな」

 若干呆れるような響きがあり、それが前回とは違う点だった。

「ったく、アホだろお前」
「アホだよね」
「魅ぃちゃんくらいアホだったよ」

 ついでに悪口が三つほどオマケでついてきた。
 げんなりとした気分になったが、不快な気分ではなかった。
 泣いて、無茶して、少しだけ昔のことを思い出したからだろうか。

「そうですわね、私、アホなのかもしれません」

 軽く笑って起き上がる。そこで黒子は、自分に毛布がかけられているのにも気付いた。
 やさしいのだな、という実感が湧く。
 一時は一触即発になりかけた七原と結衣も、自分に冷や水を浴びせたテンコも、互いのことを殆ど知り得ていないはずのレナも。
 心配して、気遣って、仲間のような扱いをしてくれる。
 だから、白井黒子という人間は――。

「やっと、目が覚めました」

 自分で自分を決められる、たったひとつの心を使おうと思うことができた。
 正義や大義がなくとも、敬愛する御坂美琴がいなくなってしまうかもしれないのだとしても。
 その可能性を受け入れ、受け入れたうえで運命を様々に切り拓いてゆくことができるようになりたかった。
 失うことを是としたのではない。失ってしまうかもしれない現実を、ようやく受け止められたのだ。
 見向きさえしてこなかった当たり前のことを……、赤座あかりが、その方向に振り向かせてくれた。
 あかりだけではない。桐山和雄の行動だって、きっと無駄ではなかったはずなのだ。

「そうか、ならまぁいいんじゃねえの?」
「いいのかな……?」
「不満なのかよ?」
「いや、うん、なんというか……頑張って作った肉じゃがあっという間に飲み干されて倒れて、そんでもって自己解決してるみたいだし」

 あぁ、とテンコとレナが、結衣のぼやきに頷いていた。
 七原は涼しい顔をしていた。我関せずである。

「い、いや、美味しかったですわよあなたの肉じゃが」
「百歩譲ってそれはいいよ」
「え?」
「無駄に心配させるな、ばか」
「……すみません」

 照れ隠しなどではなく、本気で恨みがましい目を向けられれば、素直に平謝りするしかないのが黒子の立場だった。
 それもそうだろう。あかりという大切な友人を喪っている分、結衣の傷は黒子などよりも遥かに深い。
 これ以上自分の目の前で人死にを出したくない気持ちが、辛辣な言葉を吐かせるのだろう。
 小さくなるしかない黒子を助けてくれる者はいなかった。必要なことだと誰もが思っていたからだった。

「反省するんだよ黒子ちゃん。いっちばん心配して看病してくれたの結衣ちゃんなんだからね」
「う……」
「……余計なこと言わなくていいから」

 態度で身に沁みて分かってるだろ、と言葉尻に付け足した結衣に、黒子は頭が上がらない思いをすることになった。
 実際に一番心配していたと言われれば申し訳ない気持ちでいっぱいになる。自分のあやまちに気付くための代償は大きかった。
 けれども、怒られて自分の中に芽生えた思いは『では何をしていたら良かったか』ではなく『この借りを、いつか彼女を助けて返してあげたい』であり、
 少なくとも自責の念を重石にしてしまうようなことは、今はなさそうだと認識し、消化することができている。
 そう。白井黒子は弱い。誰も守れないのかもしれない。守れなかった事実があり、この事実がいつかまた、黒子を苦しめるのかもしれない。
 やっと自覚できた心を引き裂き、潰され、以前よりも巨大になった絶望が自分を襲うのかもしれない。
 でも――。守れなくても、助けられるかもしれない。なにかを届けられるかもしれないし、伝えることができるかもしれない。
 全ては自分次第。自分に従って行動するというのは、きっとそういうことなのだろう。
 でも、ただで潰されてやるつもりだって毛頭ない。それでも自分は、『正義』を目指したいのだ。

(そうですわよね、お姉さま?)

 美琴ならこうするだろう、という問いかけではなかった。
 白井黒子という人間としての考えを示したかったから、空想の美琴に呼びかけてみたのだ。
 案の定、答えてなどくれなかったが……。

「さ、そういうことだし白井にはきっちり責任とってもらわないといけないな? 何しろ俺ら、お前が倒れてから食事に手を付けてないんでな」
「えぇー……」
「自業自得だ。さぁ温めなおしてもらうぞクロコ。給仕やれ、給仕」
「給仕! メイドさんだよ! はぁうぅぅぅ~! メイド服とか欲しいよね~!」
「……そういえば、荷物の……支給品かな、ちらっと見たら服があったようななかったような」
「げっ」

 結衣の発言に黒子が頬をひくつかせたのと、レナが瞳を怪しげに光らせたのは同時だった。
 逃げたくなった。七原ががしっと肩を掴んでいた。テンコが頭に乗った。重い。逃げられなかった。
 結衣がふっと小さく笑った。嵌められたと気付いたのはレナが怒涛のように走りだしていったときだった。
 寝ている間に、こいつらはグルになっていたのだ。

「まあ頑張れ。俺じゃあの二人と一匹は止められなかった」

 七原が真顔でそう言った瞬間、黒子は空を仰いで嘆きたくなった。生憎と室内だった。空も太陽も見えない。
 絶望的な気分だった。日本の未来は暗い。

「あぁ……不幸な……」

 皮肉なことに、黒子が発した言葉は、敬愛する美琴をよく困らせているツンツン頭の口癖とそっくりだった。

【D-4/海洋研究所前/一日目・日中】

【七原秋也@バトルロワイアル】
[状態]:健康 、疲労(小)、頬に傷
[装備]:スモークグレネード×2、レミントンM31RS@バトルロワイアル、グロック29(残弾9)
[道具]:基本支給品一式 、二人引き鋸@現実、園崎詩音の首輪、首輪に関する考察メモ
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:今はとりあえず、飯を楽しみにする。白井は諦めろ
2:食べ終わったら、白井も含めて話す。白井の能力についても確認したい。
3:首輪の内部構造を調べるため、病院に行ってみる?
4:……こういうのも悪くはないか

【船見結衣@ゆるゆり】
[状態]:健康
[装備]:The wacther@未来日記、ワルサーP99(残弾11)、森あいの眼鏡@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式×2、裏浦島の釣り竿@幽☆遊☆白書、眠れる果実@うえきの法則、奇美団子(残り2個)、森あいの眼鏡(残り98個)@うえきの法則不明支給品(0~1)
基本行動方針:レナ(たち?)と一緒に、この殺し合いを打破する。
1:白井さんは諦めろ
[備考]
『The wachter』と契約しました。

【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:穴掘り用シャベル@テニスの王子様、森あいの眼鏡@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式、奇美団子(残り2個)、不明支給品(1つ。服っぽいのがある?)
基本行動方針:正しいと思えることをしたい。 みんなを信じたい。
1:黒子ちゃんをおもちゃ……じゃなくてメイドさんにしよう!
[備考]
※少なくても祭囃し編終了後からの参戦です

【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:精神疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式 、正義日記@未来日記、不明支給品0~1(少なくとも鉄釘状の道具ではない)、テンコ@うえきの法則、月島狩人の犬@未来日記
基本行動方針:自分で考え、正義を貫き、殺し合いを止める
1:不幸だ……。
2:初春との合流。お姉様は機会があれば……そう思っていた。
[備考]
天界および植木たちの情報を、『テンコの参戦時期(15巻時点)の範囲で』聞きました。
第二回放送の内容を聞き逃しました。

※寝ていたのは10数分程度です。殆ど時間は経過していません



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四人の距離の概算 七原秋也 7th Trigger
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四人の距離の概算 船見結衣 7th Trigger
四人の距離の概算 竜宮レナ 7th Trigger


最終更新:2021年09月15日 21:47