ネズミが石に戻ったのを見届け、ジョルノは口を開いた。
「ところで」
「ッ……!!」
「気付いていますか?」
「……な……にがだッ!」
ゴールド・エクスペリエンスの治療には、激しい痛みが伴う。目の前のディオは必死に痛みに耐え、さらにそれをジョルノに気取られないようにしている。ジョルノは溜め息をついた。
「何が、お、可笑しいッ!!」
さっきの溜め息を、ジョルノが噴き出したと勘違いしたようだ。
「別に笑ったわけではありません。……さ、治療は済みましたよ」
ディオは嘘のように消えた傷口に驚きながら、試しに左肩を動かす。痛みは全く無い。傷口も引きつらない。
ちらり、とディオはジョルノを盗み見た。ここでジョルノが得意げな顔をしていたら、きっとディオはプライドを傷つけられたことによって彼に殺意を抱いていただろう。しかし、ジョルノは何の表情も浮かべずに、自分自身を治療し始めた。
「……さっきの話の続きですが……気付きましたか? あなたと彼――リンゴォでしたっけ――が戦っていた時に一回、さっき治療中に一回、地響きが起きました」
「……いいや」
嘘ではない。そもそもディオ自身、そんなことに気が付く余裕などなかった。
しかし、ジョルノの言葉にピンときて顔を上げた。
「その地響きも、スタンドとやらの仕業だと?」
「おそらく」
ジョルノは頷いた。ディオは言葉を続ける。
「……おれが思うに、スタンドというのは使う人間によって能力が違う。例えば、あの男は時間を六秒戻す、そして、お前は生命を生み出すといった具合にだ。……違うか?」
「その通りです」
再びジョルノは頷いた。
「そして、お前もあの男も、霊体のような物が側にいたな」
「見えたのですか?」
今度は、ジョルノは目を丸くした。
「なるほど……スタンドを持たない人間にも見えるのか……」
「どういう事だ?」
「これから説明しましょう。まず、スタンドというのは……」
*
(つまり、おれはこのゲームでは"一番"になれない、と……!?)
ジョルノの説明を聞きながら、ディオは腹の中がムカムカしていくのを感じた。
(ジョジョらの名前を見たときは、少なからず、奴らはこのディオの"引き立て役"になるだろう、と考えた。だが実際はどうだ。おれはスタンド使いどもや荒木にとってのオードブルどころか、その付け合せのパセリにしか過ぎんッ)
「……一つ聞きたいが」
煮えたぎる気持ちを押し殺し、ディオは平静を装ってジョルノと向き合った。
「スタンドは誰でも持てるのか? 例えば、試験に合格するとか、何らかのショックで操れるようになるという事は?」
「ショック……ですか。方法が無いということはありませんが、その手段がここにあるとは思えません。あの荒木とかいう男は、コップの水で溺れそうな顔をしていますが、油断は出来ない人物でしょう。自分に降りかかる危険因子を増やすような真似はしないかと」
"危険因子"。
(なるほど、良~く分かった。スタンドを持っていないと、貴様らと同じ土台にすら立てない、そういう事か。え? おまえもそう思っているのだろう?
ジョルノ・ジョバァーナ)
ディオは奥歯をギリギリと噛み締めた。
(フン!! 面白い……。人間の能力には限界がある。だが、こうなったからにはスタンドを持たない"人間"として……だが、普通の"人間"よりも徹底的にあがいてやろうではないか!!)
「今度はあなたの番ですよ。参加者の中に知り合いはいますか?」
情報を寄越せ、と言いたいらしい。ディオは名簿を取り出し、初めて確認するかのように振舞いながら考えた。
(ジョージは保護する必要があるから知らせた方がいいな。エリナは……フン、強情とはいえど、所詮は小娘。真っ先に襲われて死んでいるのがオチだろう。
問題はジョジョだ……奴をどうするべきか……)
早すぎず、遅すぎないタイミングを見計らい、ディオは名簿から顔を上げた。
「いるな。ジョージ・ジョースター、それに
ジョナサン・ジョースター。おれの義父と義兄弟だ。
世話になっている義父だけは何としても助け出したい」
「ジョナサン……という人は? 義理の兄弟なんでしょう?」
「いや、こいつはきっとこのゲームに乗っている。昔から嫌な奴でね。仲間内からもあまり信用されていない。
坊ちゃん育ちだから見てくれは小奇麗だが、騙されるな。
子供の頃からカラスに石を投げ付けたり、カエルを引きずり回して喜んでいたような奴だ。
無法地帯のこのゲームで何を企んでいるか……なんとなく想像できるだろう? 用心した方がいい」
義兄弟との戦闘の可能性を思い、ディオは苦痛に顔を歪めた――ようにジョルノには見えただろう。
しかし、ディオは笑いを堪えていたのだ。
「……覚えておきます。では、今後の方針について話しましょう」
ジョルノが立ち上がり、服の埃を払った。
「単刀直入に言うと、僕はさっきの地響きの原因を調べたいと考えています」
「あなたも来ますか?」とでも言うように、ジョルノの瞳が揺れた。ディオはわざと気付いていない振りをして言う。
「地響きは二回あったと言ったな。同一のものなのか?」
「……いいえ、一回目はこの近く、二回目は遠くから。僕は遠い方を調べようと思います」
「なるほどな。近くだと、そのスタンド使いと鉢合わせする可能性がある。それに、遠くなら我々が到着する頃には既に事も終わっている。
……無駄足にはならないだろうな? 無駄な事は嫌いだ」
「僕も無駄は嫌いです。戦闘の痕跡を調べてスタンド能力を推測でき、僕のように原因を調べに来た他の参加者と会えるだろうという点を考えれば、赴く価値は充分ある、と僕は思います」
「その参加者がゲームに乗っていたら?」
「むしろ好都合です」
「ほお、自信満々ということか」
ディオは腕を組んで鼻を鳴らした。それを無視し、ジョルノは話を戻した。
「近い方は、微かですが南から音が聞こえました。遠い方はあなたの治療の途中に石をネズミに変えて観察したところ、ネズミは東に逃げました。つまり……」
「震源は西……か」
ジョルノは無言で大きく頷いた。
*
(どこまでおれを馬鹿にする気だ。これじゃあ、"同行"ではなくまるで"保護"ではないかッ!!)
ジョルノはディオに「変わったことがあったら、すぐに知らせてください」とだけ言って先を歩き始めていた。
(それにしても妙だ。こいつには奇妙な安らぎと懐かしさを覚えるが、そうかと思うと虫唾が走る程の憎悪を感じる。……一体、何者だ……)
考えながら、ジョルノの背に射るような視線を送る。
(まあ、そんな事は今はどうでもいい。スタンドの存在によってますます立ち回りが難しくなったが……おれはおれの思考で、そしておれのプライドで以て行動する!
ジョルノォ! このディオのプライドを傷つけた貴様の罪は重い。とことんこのディオのために働かせてやろうではないか!)
(不思議だ)
ジョルノはディオの前を歩きながら、顎に指を添えて考えた。
(僕の考えていることが、ときどき彼に知られているような気がする……。ただ単に彼の勘が良いだけなのか、それとも……)
いや、そんなはずはない、とジョルノは首を振った。このディオと名乗る青年には、あの痣が無い。きっと気のせいだ。
(それに、"ジョナサン・ジョースター"。僕は彼を知っているような気がする……)
ディオの口からその名前が出たときに、その名に強く惹かれた。
(一体、何者なんだ……。ニュースに出ていた凶悪犯か何かだろうか? 警戒するに越したことは無いだろうけれど)
――会えば何か分かりそうなものだが。
しかし。
――この人数に、この広さだ。会える確率は低い。
(考えるだけ無駄だ)
ジョルノは思考を断ち切り、再び周囲を警戒し始めた。
【C-4 DIOの屋敷の前左側の路上/1日目 黎明】
【チーム『無駄無駄』】
【
ディオ・ブランドー】
[時間軸]:大学卒業を目前にしたラグビーの試合の終了後(1巻)
[状態]:健康(ゴールド・エクスペリエンスで治療済み)、プライドがズタズタ、スタンド使いへの激しい嫉妬、ジョルノ(と荒木)への憎しみ
[装備]:なし
[道具]:チャーイ(残量1.5㍑)、基本支給品 不明支給品1~2
[思考・状況]
基本行動方針:なんとしても生き残る。スタンド使いに馬鹿にされたくない。
1.このディオが、スタンド使いにむざむざと殺されるために呼ばれただとッ!?
2.ジョルノが憎いが、借りを返すまではジョルノと行動を共にする。返した後は不明(現在は腹を立てているので借りについては保留)
3.勿論ジョルノとの行動の途中でジョナサン、エリナ、ジョージを見つけたら彼らとも合流、利用する
4.なるべくジョージを死なせない、ジョナサンには最終的には死んでほしい(現時点ではジョルノにジョナサンを殺させたい)
5.ジョルノに変な違和感
6.自分もスタンドが欲しい……
[備考]
1.見せしめの際、周囲の人間の顔を見渡し、危険そうな人物と安全(利用でき)そうな人物の顔を覚えています
2.チャーイは冷めません
3.着替えは済んでいます
4.ジョルノからスタンドの基本的なこと(「一人能力」「精神エネルギー(のビジョン)であること」など)を教わりました。
ジョルノの仲間や敵のスタンド能力について聞いたかは不明です。(ジョルノの仲間の名前は聞きました)
5.ジョナサン、ジョージの名前をジョルノに教えました。
エリナは9割方死んでいるだろうと考えているので教えていません。(万が一見つけたら合流するつもりではいます)
【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:メローネ戦直後
[状態]:健康(ゴールド・エクスペリエンスで治療済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~3
[思考・状況]
1.西(鉄塔の方)へ向かい、地響きの元凶を調べる
2.仲間を捜す
3.ディオに変な違和感
4.ジョナサンの名前が引っ掛かる
[備考]
1.
ギアッチョ以降の暗殺チーム、トリッシュがスタンド使いであること、ボスの正体、レクイエム等は知りません。
2.このディオは自分の父親とは同姓同名の他人だと今のところ思っています。
3.ディオにスタンドの基本的なこと(「一人能力」「精神エネルギー(のビジョン)であること」など)を教えました。
仲間や敵のスタンド能力について話したかは不明です。(仲間の名前は教えました)
4.彼が感じた地響きとは、スペースシャトルが転がった衝撃と、鉄塔が倒れた衝撃によるものです。
方角は分かりますが、正確な場所は分かりません。
5.ジョナサン、ジョージの名前をディオから聞きました。ジョナサンを警戒する必要がある人間と認識しました。
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最終更新:2008年11月03日 16:24