「あ、あの、お待ちになってください!」
(ヒェ~、あのマシンガン女、まだ追って来やがるゥ~~!)
アレッシーは必死で逃げるが、背中の刺傷と体中の打撲の痛みにより、彼の疾走スピードは徐々に落ちていく。
それを見て取り、エリナは再び声を掛ける。
「私に敵意はありませんわ! 私は看護婦です!
見たところ、あなたはお怪我をされている様子。手当てをさせていただけないでしょうか?」
アレッシーはちょっと考えた。そういえば、あの女はさっきも自分を助けに来たな……。
善良な大人が見ていない所でコソコソと悪事を働くアレッシーは、まさにエリナが"善良な大人"であると睨んだ。
ゲームに乗っていることも、急に襲ってくることも無いだろう。
とりあえず、ミスタにボコボコにされた恨みをあの女にぶつけてやるとするか……。
それに、女が持っているマシンガンも、できれば欲しい。
「ああ~、痛いぃ~。痛いよォォ。もうだめだァァ~~ぼくちゃん死んじゃう~~~タチケテ~~~」
傷がひどく痛むふりをして、アレッシーはその場に座り込む。
「大丈夫ですか?」
演技だとは露知らず、エリナは急いでアレッシーに駆け寄った。
「まずは止血をしますね。服を脱いでください」
アレッシーの背中の傷の具合を見て、エリナは自分のドレスの裾を破こうと上体を屈める。
エリナが体勢を崩したのを切っ掛けに、アレッシーはセト神を出現させた。
「きゃあッ!?」
屈んでいたお陰で、エリナは視界に入った不気味な影に気が付き、すぐに飛びのくことが出来た。
「おおっとお~~、逃げちゃうなんて、エラくないネェ~」
「い、一体……」
エリナは自分に違和感があったが、自分を襲った影がアレッシーの足元から伸びていることに気付き、そのまま言葉を続けた。
「一体、何をするんですか! わたしがキズの手当てをしてあげようと思ってたのに! ひどいわ!」
「うるせーぞ、このガキがッ!!」
アレッシーはエリナを憎々しげに蹴り飛ばす。その衝撃に耐えられず、彼女は小さく呻いた。
「こちとら弱い者いじめしたくってしたくって堪らないんだもんねェ~。ヒヒッ……」
アレッシーは下卑た笑いを浮かべながら、木刀で自分の肩をトントンと叩いた。
「弱い者いじめ……大ィィィー好きッ! オレってえらいネェーーー」
アレッシーは、思いっきりエリナの腕を引っ張った。
「いやあ~ん! 離して離して、手が取れるゥ!」
しかし子供になったエリナが敵う筈も無く、逃げられないように押さえつけられてしまった。
エリナは激しく後悔した。
よく覚えてはいないが、とにかく、このおじさんに付いて行ってはいけなかったのだ。
なぜかエリナはシマウマに謝りたい気持ちでいっぱいだった。その謝罪の言葉に喉が押し潰され、涙が頬を伝った。
「シクシク……」
「おやおやおンやぁ~~? 泣き虫みたいだネェ~~。こりゃあいじめ甲斐がありそうだぜェ~~!
よ~し、まずはそのキレーな顔をひっぱたいて、も~っと泣き喚かせちゃおうかなァ~~~♪」
そんな事をしたら他の参加者に見つかってしまうかもしれない、なんてことはアレッシーの頭の中には無い。
ただただ、子供をいじめられるという快感だけに浸っている。
* *
ああ、もうだめなんだわ……。わたしは、このおじさんに殺されちゃうんだ……。
エリナが絶望に身を包まれそうになった瞬間――
――「やめろォ! 人形を返してやるんだッ!」
――「知らない子だが、ぼくには戦う理由があるッ!」
誰かの声が、胸の中に響いた。
誰だろう、とエリナは戸惑った。
ううん、わたしはこの声の主を……この男の子を知っている。
――「ぼくは本当の紳士をめざしているからだ!」
覚えてないけど、知っている……。
とても、とても特別な気持ちで、いつも彼に接していたような気がする……。
いつも、いつだって……あの日から――
「ジョ……」
――「相手が大きいヤツだからって、負けるとわかってるからって
紳士は勇気を持って、戦わなくてはならない時があるからだぞッ!!」
* *
(ジョジョ……!!)
エリナはハッと目を見開き、自分を押さえつけているアレッシーの腕に、目にも留まらぬ速さで噛み付いた。
「ウギャアアアーーッ!! こ、この糞ガキャアアア!!」
アレッシーが悶絶している隙に、エリナは素早く状況を判断する。
すぐ側にある身を守れる武器は木刀だが、アレッシーの足元に転がってしまっている。ノコノコ拾いに行くのは危険だ。
だとすると――
「えらくない! えらくない! ぜ……ぜって~に許さね~ぞォォォ!!」
エリナは一目散に自分のデイパックに駆け寄り、無造作に入れていたマシンガンを引っ掴む。
アレッシーは、たじろいだ。
さっき噛まれた衝撃で子供化は解けているが、彼女の決意に輝く瞳、引き締まった顔つき――見た目だけでなく、さっきまでと気迫が明らかに違う。
気を付けていないと、何をしでかすか分かったもんじゃない。引き金を引く前に、もう一度子供化させておかないと――。
『ジョナサン……もう一度、私に力を貸して……!』
震える手で、エリナは銃身を握った。
アレッシーを撃つ気など、さらさら無い。だが、銃は鈍器としても使えることをエリナは知っていた。
ハンマーのように振り回せば、あの男に届くかもしれない。
「残~念でちたァ~♪」
だが、あともう少しというところで、エリナとアレッシーの影が交わってしまった。
エリナは慌ててマシンガンを遠心力に頼りながら投げるも、目線がぐんと低くなるのを感じた。
背中にツララを当てられたように、冷たい汗が流れる。
しかし、"数日間も飲まず食わずで海を彷徨いながらも無事に救出される" ――そんな未来の幸運が、ここに転じた。
「ぎにゃあああああっ!」
マシンガンは彼の体にこそ届かなかったものの、足のつま先の上に落ちたらしい。
当たり所が悪かったのか、目を白黒させて痛がっている。
エリナはこのチャンスを逃さなかった。
「私は――もう"泣き虫エリナ"ではありません!」
再び、マシンガンを拾い上げる。
「あの方の――誇り高き
ジョナサン・ジョースターの妻です!!」
そして、渾身の力で、アレッシーの鼻面にマシンガンを叩き付ける。
叫ぶ間も無く彼の顔面に血の華が咲き、そのまま白目を剥いたまま倒れた。
うっかり殺してしまったかのと青ざめたが、彼の脈がまだあることを知り、安堵した。
もちろん、「自分が殺人を犯さなかったこと」ではなく、「この人が生きていること」に対して。
* *
「これは私が預かっておきます」
伸びているアレッシーに向かって言い、マシンガンが入っていた不思議なあの紙の中へ木刀を入れようとした。
が、どうしても入れることが出来なかったので、訝しがりながらもデイパックの中に仕舞った。
そして、少し躊躇しながらもアレッシーの荷物を探り、武器の類が入っていないか確認した。
彼は悪人だ。いつまた誰かを襲うか分かったものではない。
結局、武器らしいものは何も見つからなかった。足早にその場を去ろうとしたが、ふと気になった。
――武器を取り上げてしまったら、この人はどうやって自分の身を守るのだろう?
慌てて自分の荷物の中身を見る。何かないだろうか……薬でも何でもいい。
何か、この人が生き延びられるようにできる物……。
ゴソゴソやっていると、あの折りたたまれた紙の中に筒のようなものが入っていた。
「何かしら、これ……」
妙な感触のする紙で出来ている、初めて目にする物体だった。周りに細かい文字が書かれている。
説明か何かが記されていないかと思い、目に止まった部分を読み上げた。
「え~っと……"かやくを入れ"……? 銃……ではないわね。紙で出来た銃なんてあるわけないもの。花火か何かかしら……」
危険な物ではないかと思いを巡らせた挙句、火薬、もしくは火が無ければ使えないだろうと考え、残しておくことにした。
例え使えないとしても、無いよりは、ましだろう。
エリナはふと、空を見上げた。あまり星は見えなかったが、不思議と不安は感じなかった。
――近くにいる。あの人の鼓動を感じる……。
風より軽く、水よりも柔らかく、一つ一つの音に口付けするかのように最愛の夫の名を囁く。
彼の名に、彼の言葉に、彼の存在に何度助けられたことか。
――今すぐエリナが、そちらへ参ります。
決意を胸に、立ち上がった。
――例えこの身が滅びようと、私はあなたのお命をお守りいたします。
マシンガンを肩に掛け、エリナは迷わず真っ直ぐに歩き始めた。
そしてすぐに歩き辛いことに気が付き――ドレスの裾を躊躇無く引き裂いた。
【C-2・1日目 深夜】
【
エリナ・ペンドルトン】
[時間軸]:ジョナサンと結婚後
[状態]:少々の疲労、先程の戦闘とジョナサンの気配を知ったことによりやや興奮
[装備]: サブマシンガン(残り弾数不明)
[道具]:木刀(元々はアレッシーの支給品です)、支給品一式。
不明支給品残り0~1
[思考・状況]
1.私がいま向かっている先に、あの人がいる!(確信)
2.ジョナサンを守るための戦いの覚悟はできている。
3.でもなるべく人は殺したくない。
4.もし再び会えるのならば、あの男性(ミスタ)に謝罪をしたい。
※ C-2辺りで、アレッシーとエリナが争う音、少し前にサブマシンガンの轟音が響き渡りました。
※ アレッシーの支給品には武器が無いと判断しました(あくまでエリナの判断です)
※ 自分の支給品、アレッシーの支給品を確認しました。
※アレッシーを、「危険人物」と認識しました。
※現在は【C-2 ジョースター邸】に向かっています。
【アレッシー】
[スタンド]:『セト神』
[時間軸]:不明
[状態]:顔面に殴られた痕(ミスタからとエリナからの分)、背中に刺された傷(浅い)、地面を転がり蹴られたのでドロドロ、
片腕に少女エリナの歯型、足のつま先に痛み。
※現在は鼻血を盛大に出しながら気絶中。
[装備]:なし(※木刀はエリナに没収されました)
[道具]:カップラーメン(しのぶが浩作の夕食として用意したもの。元々はエリナの支給品です)、支給品一式。
不明支給品残り0~2(※エリナは、彼が武器を持っていないと判断しました。あくまで彼女の判断です)
[思考・状況]
1.ゲームに乗るつもりは今のところないが、明らかに自分よりも弱い奴がいたら虐めてスカッとしたい
2.意識が戻ったらミスタとエリナに報復を考える…か・も
※ セト神の持続力が弱体化しているようです。アレッシーが気絶しなくても、
アレッシーに何らかの異常があれば子供化は解除されるようです。
※C-2にて絶賛気絶中。デイパックも傍にあります。
※アレッシーは数十分で意識を取り戻せそうですが、最悪、失血死する可能性があります。
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最終更新:2008年11月13日 07:59