『自作自演』って言葉があるじゃない?
アレって、なぜか知らないけど悪いイメージで使われることが多いんだよね。
あまりやりすぎると、『えっやっぱりこれって自演合戦だったの?』なんて言われるし。あ、心当たりあるなら気を付けてよ。
でそれが……あ~、いやいやその話じゃなくて。なぜ自作自演が悪いイメージになってしまうのか?って事だ。話が脱線するところだった。
多くの人が『そうだよ悪いイメージだよ』と言うと思うけども、この解釈は間違ってると思うんだよ俺は。
だってホラ、生物界を見てみたらどうよ?石に、木の枝に、あるいは死体となった自分を演じて敵を欺く。そういう生物たくさん居るでしょ?彼らは悪い?
最近なんかはこの『自作自演』を名前に入れた格闘家も……あぁ、今はプロレスラーだっけ、いるじゃん。彼に非はあると思う?いや八百長とかじゃなくて……ないでしょ?
で、まあ何が言いたいかってぇと、つまり『適材適所』だと思うのよ、俺に言わせりゃね。
さっき話した……あ、枝に擬態の方。アレなんかは進化の結果そうなったんだから一生をかけて自作自演するんだろ。やめろって言ったってやめられないし、やめたらすぐに死んじゃうだろうね。
で、まあ『適材適所』って言えばみんなも分かるでしょ、スタンドの強い弱いの概念。アレとまったく同じさ。そんなもんは無いって事。
生き残るために、勝つために必要なら迷わず自作自演するべきだ。時にはそれが最強にもなりうる。もちろん使いどころが悪ければ最弱の一手だけども。
あ……この『最強』の話もまたいずれするつもりだから。とにかく今回は『自作自演』についての話をしよう――
●●●
「ハァーッ……ハァッ……」
肩で息をする少年の名は
ジョルノ・ジョバァーナという。
なぜ彼はバトル・ロワイヤルが始まって間もない内からここまで疲弊しているのか?
答えは数十分前に遡る。と言っても、このゲームに巻き込まれ、且つそれが開始される前……という奇妙な時間が原因だ。
スティーブン・スティールがゲームを開催したあの場において、幸か不幸かジョルノは集団のほぼ先頭にいた。
悪魔の所業と言っても過言ではない彼のゲーム説明を聞きながらいつでもスタンドを叩き込めるように構えていたジョルノの目が一瞬にして驚愕の色に染まる。
スポットライトの下、目の前に現れたのは間違いなく自分自身であった。頭脳ではなく、体感で理解できた……理解してしまった。
そしてその直後、ボスッともボムッとも言えぬ音で自分の身体がまるでスポンジのようにちぎれ始めたのだ。吹っ飛んだ身体の部品は塵となって消えていった。
『目の前の』ジョルノに変化は無いように見えるが背中の部分からちぎれているのかも知れない。一方自分の方は足元から。たまらず崩れ落ち、スタンドも出せなくなる。
説明を聞き終え、全く違う場所に飛ばされるまで傷を負いっぱなしでいたにも関わらず意識を失わなかったあたりは流石ジョルノだと言ったところか。
さて、集団の先頭にいたことを不幸とするなら、ジョルノに存在した幸運はこのあとに起こる。それでプラスマイナスゼロとでも言いたいのだろうか、主催者は。
まずは這いつくばっているよりは遥かに楽な姿勢で飛ばされたこと。そして、コップにスプーン。その気になればテーブルまで、ありとあらゆる物品が――つまり身体の部品の元が大量にある場所に飛ばされたこと。
彼はあるカフェの――地図で言うならばB‐2、ダービーズカフェの――座席、その一つに飛ばされていた。
自分の身に起きた状況はどうあれ、現在はこの幸運を生かさない同理はない。早速治療を開始する。まずは足から。次いで血液の補充、腕に肩。切り飛ばされた身体はすっかり元通り。
とはいえ、いきなり大量の怪我を負い、その状態でスタンドを行使したジョルノは疲弊した……と、こういった経緯があったのだ。
「ハァーッ……ふう……」
「よう、ケガはもういいのか?」
呼吸が落ち着いてきた頃、不意に背後から声をかけられた。治療に専念していたから周囲の警戒を怠っていた、なんてのは言い訳にしかならない。
命の危険を感じたが、相手が声をかけてきたことから視界に入った相手を無差別に殺す人間ではないことがわかる。そして――
「その声は、ミスタですか?」
「おっと、振り向くな。いくつか質問に答えてもらってからだ」
「わかりました……質問をどうぞ」
声の主は彼の同僚、今では部下の
グイード・ミスタに他ならなかったが、彼は即在の再会を拒否。いくつかの尋問を要求してきた。
当然といえば当然の権利。生殺与奪は自分にあるという有利な立場をキープしたままの質問が始まる。気付けば彼のスタンドが周囲に浮かんでいるのも確認できた。
「あまり視線を動かすな。さて質問その1。お前の名前とスタンド能力は」
「ジョルノ・ジョバァーナ。ゴールド・エクスペリエンスと言う名のスタンドを持っています。能力は生命を生み出すこと」
「動きはゆっくりだ。その位置で出してみせろ――スカートをまくるようにゆっくりとな」
「はい、『ゴールド・E』……どうですか」
「よし、ひっこめろ」
スタンドの出し入れに疲労は感じなかった。つまり疲弊したのは単純に体調の問題であり、精神面でも問題はないと自己分析するジョルノ。
その冷静さをミスタが確認できたのかどうかは定かではないが、彼は即座に次の質問に移る。
「では質問その2。さっきお前は俺の名をミスタだと言ったが、その理由は」
「当てずっぽうではない、という証明ですか」
「余計なことはいいんだ、さっさと答えな」
「イタリアのギャング組織・パッショーネに所属する
ブローノ・ブチャラティ、僕はそのチームの新入りとして入団しました。
その際にブチャラティに紹介されたチームの仲間、その中にグイード・ミスタがいました。その声を覚えています」
その後自分達がどうなったかを説明するのは省いた。今話すべきでは無い、と感じたのは尋問されているからというのもあるし、ゆっくり話す機会など後でいくらでも設けられるからだ。
「なるほど、確かに俺のことを知っているジョルノだと分かった――おいまだ振り向くな。
質問その3。ゲーム開催とかいうあの場で死んだ3人のうち、金髪だったアイツは誰だ。一緒に死んだ二人の男との関係は」
「まず、マフラーの男と帽子の男について。あの二人の事は僕も知りません。
そして金髪。あれは……ジョルノ・ジョバァーナです。理由は分かりませんが僕がもう一人いた、ということになります。
鏡とか変身とか、そういう能力やトリックではないと思います」
「そこまで聞いてねえ。というか今から聞く……なぜあれが自分自身だと思う」
重要な質問である。自分に分かりうる、あるいは感じた全てを話さなければならないし、かと言って推測ばかりで話を進めるとそれが間違いだったときに問題になる。
まして相手はミスタだ。判断力や行動力はあれどお世辞にも頭が切れるとは言いにくい。ジョルノは慎重に言葉を選ぶ。
「僕が僕を――死んだほうの僕を――目で見た瞬間に『あれは僕だ』と感じました。頭で、というよりは心で。
そしてその瞬間、僕の身体がスポンジケーキの様にちぎれ始めたんです。向こうの僕に異変があったかは確認できませんでしたが。
これは推測ですが、例えば時間を行き来できるスタンド使いが『未来の、あるいは過去の僕』を連れてきた場合『今の僕』と出会ったらその存在が吹っ飛んでしまうとか――そういった理由で身体がちぎれたんだと思います。」
「なるほど。それで今までスタンド使って治療をしてたって訳か。よし振り向け」
振り向いた先にいたのは間違いなくジョルノの知っているミスタだった。その指の間にはカフェから拝借したであろう皿が何枚か挟まっている。銃は持っていなかった。
「ふむ……正面のツラもジョルノだな。では最後の質問――ジョルノ・ジョバァーナならこの状況、どうするッ!?」
言うが早いか、彼は持っていた皿をブン投げる。スタンドを行使して対処してみせろということか。
皿の起動は様々。もともと投げるために作られたものではないし、ミスタに皿投げ選手権優勝者というスキルがある訳でもない。
だが、その起動を正確にスタンド・セックスピストルズが補佐する。狙いも威力も申し分ない凶器の食器がここに完成した。
「ジョルノならッ!」
「こんな皿全部ッ!」
「蛙とか花とかッ!」
「そういう物にッ!」
「変えれるだろッ!」
「やってみろよッ!」
「「「「「「イイイイィィィィィーーーーーーーハアァァァッッッ!!!」」」」」」
一斉に蹴り出された皿が六枚。本体のミスタはジョルノの挙動を見逃すものかと凝視して姿勢を崩さない。
一枚目、右拳で叩き落とす。床に小さな花が顔を出す。
二枚目、振り抜いた右腕を戻す勢いで裏拳。壁に叩きつけられたカエルがゲッと小さい悲鳴を上げる。
三枚目、左手で払いのける。空中でハエに変化したそれはかつて置かれていた棚に到達すると元の皿に戻った。
四枚目、腰を捻った勢いを乗せ右手でひっぱたく。皿が『イテッ!』と呻き声を上げる――え、声を?
慌てて五枚目と六枚目の皿は左右の手でそれぞれ受け止めた。ミスタの方も驚きの色を隠せない。
「これも……なにかのテストですか、ミスタ?」
「い、いや――俺はテーブルにあった皿をひっつかんで投げただけだが……」
「スぅイぃマぁセぇンンン……そぉれぇはァァァワぁタぁシぃぃでぇ……すゥゥ」
ゆっくりと……皿が喋り出す。この症状はゴールド・エクスペリエンスの能力によって感覚が暴走しているためだ。ジョルノが本物だという証明でもある、がそれどころではない。
ギャングの二人はその様子を黙って見守る。もちろんすぐに攻撃できる体勢で。やがて皿に手が生え足が伸び――ひとりの人間が完成した。殺気を感じたのか、両手を高く上げたまま話し始める。
「ハァハァ……失礼しました。私の名前は
ヌ・ミキタカゾ・ンシと言います。
能力……あなたがたはスタンドと呼んでいましたがそれで良いのでしょうか、物品に変身することができます。
私はここで隠れて知り合いの方を待っていようと思ったのですが……そちらの方に投げられてしまって」
それからはジョルノとミスタがミキタカに対し先と同じような尋問をすることになったのは言うまでもない。
待っていた仲間の名前、能力の詳細、この場において自分がどう行動するつもりなのか。そして――
「で、お前は結局なんなんだよ」
「ですから……何度も言ってる通り私は宇宙人なんですって」
「まあまあ。とにかく全員の疑いがもう少しハッキリと晴れるまでじっくり情報交換しましょう。尋問というよりは自己紹介ですね。
そういえば皆さん支給品はどうでしたか?僕はまだ見てないんですが――」
●●●
自作自演の話、どうだった?とは言っても『自作自演』と言い切ってしまうと少々語弊がありそうだけど。
主催者によって呼び出され、自分が役者ではないかと疑われたジョルノ。
物品を演じて、あるいは自分が宇宙人だと演じて――ん、こっちは本当か?――突如現れたミキタカ。
それを混乱しながら見てきたミスタ。
どの人間もとった行動に間違いはないと思う。このうち誰かが抜けた二人でのやりとりだったらもう少し話し合いがスムーズだっただろうな、そんな程度の話だろう。
もちろん、『自演』をしていくのはこの三人、この一瞬だけに限った話じゃないだろう。それはまたその時にね、それじゃ――
【B‐2 ダービーズカフェ店内 / 1日目 深夜】
【ヌ・ミキタカゾ・ンシ】
[スタンド]:『アース・ウィンド・アンド・ファイヤー』
[時間軸]:JC47巻、杉本鈴美を見送った直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:
基本支給品一式(ランダム支給品1~2、確認済、未開封)
[思考・状況]
基本的思考:ゲームには乗らない、ただし未確定
1:目の前の二人(ジョルノ・ミスタ)との自己紹介・情報交換をする
2:承太郎サンが……死んだ?
[備考]
基本的思考『ただし未確定』とは、ゲームには乗らないけど明確な行動方針(行き先など)を決めていない、という意味です
【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(ランダム支給品1~2、確認済、未開封)
[思考・状況]
基本的思考:ゲームには乗らない、ただし未確定
1:目の前の二人(ミキタカ・ミスタ)との自己紹介・情報交換をする
2:死んでいった自分は何者なんだ?
[備考]
基本的思考『ただし未確定』とは、ゲームには乗らないけど明確な行動方針(行き先など)を決めていない、という意味です
【グイード・ミスタ】
[スタンド]:『セックス・ピストルズ』
[時間軸]:JC56巻、「ホレ亀を忘れてるぜ」と言って船に乗り込んだ瞬間
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(ランダム支給品1~2、確認済、未開封)
[思考・状況]
基本的思考:ゲームには乗らない、ただし未確定
1:目の前の二人(ミキタカ・ジョルノ)との自己紹介・情報交換をする
2:死んでいったジョルノは、目の前にいるジョルノは何者なんだ?
[備考]
基本的思考『ただし未確定』とは、ゲームには乗らないけど明確な行動方針(行き先など)を決めていない、という意味です
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最終更新:2012年07月19日 21:37