―――B-2、ダービーズカフェ。
今ここにはなんとも奇妙な空気が流れていた。
緊張からくるピリピリした空気というわけではなく、かといって安息を得られるようなのんびりとした空気というわけでもない。
カフェの中では三人の男性……
ジョルノ・ジョバァーナとグイード・ミスタ、そして
ヌ・ミキタカゾ・ンシが互いに向かい合って座っている。
ジョルノとミスタは顔を寄せ合って相談しており、ミキタカはそれを黙って見ていた。
ちなみに、カフェの周囲はミスタの『セックス・ピストルズ』に分担して見張らせている。
ジョルノとミスタは困惑していた。
自分達の自己紹介はつつがなく終わった―――というよりもジョルノとミスタはもともと知り合いであり、
ミキタカもジョルノに行われた『尋問』を聞いていた以上、新たに付け加えることはほとんどなかったのである。
問題はこのミキタカという男が、自分のことを年齢216歳でマゼラン星雲からやってきた宇宙人と名乗ったことだった。
疑わしげに質問を繰り返すジョルノとミスタだったがその答えは変わらず、結局二人はミキタカの目の前で話し合いまで行う羽目になってしまった。
ただ、この奇妙な自己紹介のせいでミスタはジョルノに対する警戒をほぼ解いており、
ジョルノのほうも必要以上に気を張る必要が無くなってホッとしているあたり、なにが有利に働くか分からないものである。
(おいジョルノ、こいつ本当に『宇宙人』だと思うか?)
(ミスタ、この際彼が何者かはどうでもいいことです。重要なのは彼が本当に殺し合いに乗っていないかどうか、です)
(そりゃあそうだがよ、怪しいにもほどがあるじゃねーか。くそっ、こんなときブチャラティがいてくれりゃあな……)
ミキタカの話は到底信じられるものではなかったが、否定できる証拠もない。
見知らぬ自分達(しかもギャング)に対して素性を隠したいのだとしても、わざわざこんな妙な自己紹介をするものだろうか。
ミスタはどうにも納得できず、上司の『汗を見ることで嘘を見抜ける』特技を思い出して歯噛みしていた。
一方、ジョルノに関しては既に考えるのをやめており、さっさと話を先に進めようとしていた。
先程の『尋問』とは違い、ミキタカに友好的に問いかける。
「それで、あなたはこの殺し合いに乗っていない……ということでいいですね?」
「ええ、わたしはこの星に『闘い』に来たわけではありませんから」
「……で、改めて聞きますがあなたの能力は」
「先程言ったとおり、大抵のものに変身できます。ただし、機械など複雑すぎるものにはなれませんし、人間の顔マネはちょっと無理ですが」
ジョルノは最初に基本的な質問を行う。
相手が『尋問』の際に言っていたことが苦し紛れの出鱈目ではないことを再確認したところで、ミスタが話に入ってきた。
「……目の前で見せられた以上嘘とは思わねーが、ずいぶん素直に喋るんだな、おい」
「イヤー それほどでも……」
「褒めてるんじゃねえ! 話す理由を聞いてんだよ!」
「……? あなた方は殺し合いに乗る気は無いのでしょう? なら素直に話すのは当たり前のことです」
(……コイツ、ギャングとかには向かねータイプだな。警戒心が薄すぎるぜ)
(演技だとしたら大したものですね。とりあえず、情報を聞けるだけ聞いてみましょう)
隠し事どころか緊張感すら無さそうなミキタカに対し、二人は心の中で呆れたような視線を向ける。
もちろんそんなことはおくびにも出さず、ジョルノは質問を続けていった。
「最初のホールにいた、主催者らしき男性に心当たりは?」
「あの男性に見覚えはありませんが、殺された三人のうち一人だけわたしの知っている人がいました」
「『今知り合ったばかりのジョルノさんです』なんて言わねーなら、教えてみな」
「ええ、白いコートを着た男性……あの人はわたしの友達の身内で、
空条承太郎という人です。彼とは―――」
ミキタカが語ったのは、町に溶け込んでいた殺人鬼を住人達が倒す話の断片。
ミキタカ本人は空条承太郎と密接なつながりは無かったものの、数多くのスタンド使い達の話を聞いたジョルノとミスタは再度話し合う。
(どう思う? さっきの自己紹介よりはまだ現実的だが、普通じゃないことには変わりねーぜ?)
(ブチャラティやアバッキオじゃないんですから確かめることなんてできません。しかし、出鱈目ではないと思います)
(なんでだよ?)
(ミキタカの話の中に、ちょっとした知り合いの名前が出てきましてね……スタンド能力も一致しています)
(へえ……『信頼』できるのか?)
(ぼくの考えでは、ひとまず信じても大丈夫だと思います)
―――広瀬康一。
ギャング組織パッショーネに入団する直前に僅かだが関わった、スタンド使いで『いい人』だった少年のことをジョルノは覚えていた。
彼の知り合いならば少なくとも極悪人の可能性は低い―――そう判断し、ミキタカの話を(言っていること全てではないが)信用することにしたのだった。
#
自己紹介はこれくらいに―――と道具を確認し始めた二人をよそに、ジョルノは思う。
(しかし、そうなるとこの殺し合いにはぼくや『空条承太郎』、そして『マフラーの男』の知り合い達が参加させられているということか……?
そもそも、なぜあの主催者は知り合いでもないぼくを見せしめにした……? ぼくとあの二人に何か関係があるとでもいうのか……?)
先程の『自分達』について考えるが、わからない。
頭の回転が速いジョルノといえど、今はそれ以外の答えが出せなかった。
ふと気がつくと、ミスタとミキタカの二人が会場の地図と睨めっこをしている。
「しっかし、見れば見るほどミョーな地図だぜ。元はローマっぽいが、あるはずの無い建物とか地域がごろごろありやがる。
なんなんだ?この……シャオーチョー?とかいう一帯は?」
「あ、それは杜王町と読みます。先程話したわたしが潜伏している町です」
「あーハイハイ、そいつはわかったから。……で、これからどこに行くんだ? つーかここって地図のどのあたりなんだよ?」
(そうだな……今は結論が出せるような段階じゃない。考えるだけ『無駄』だ)
ジョルノは思考を切り替えると、同じように地図を見て二人の会話に入っていく。
「そうですね、周りを見るにここはカフェのようです。ミキタカ、杜王町のカフェ・ドゥ・マゴという場所はこんな造りでしたか?」
「いえ、似ても似つきませんね。数日行かないうちに大幅に改装したとかなら話は別ですけど」
「ならおそらく、ここはB-2にある『ダービーズカフェ』でしょう。周りにある建物も、ここがカイロ市街地の中だと考えれば頷けます」
「カイロ……ってエジプトだったか? それにしたってこの『DIOの館』ってのはなんだよ? そんな観光名所なんて聞いたことねーぜ」
「そうですね……仗助さんや億泰さんの家がわざわざ記されているのを考えると、参加者の中にDIOという人か、あるいはその知り合いの方がいるのかもしれません」
二人の言葉にジョルノの眉がピクリと動く。
(DIOの館がなにか、か……聞きたいのはぼくの方だ。ぼくの父と関係があるのか……?)
思い浮かぶのは、写真でしか見たことの無い実の父親の姿。しかも、館はカイロ――父が死んだエジプトの地形の中にある。
館を訪れてみたいという好奇心はあるが、まずは状況の整理が先決――そう自分に言い聞かせ、会話の中に戻る。
ミキタカの出現でうやむやになっていたが、ジョルノはミスタに聞いておくことがあったのを思い出したのだった。
「現在位置はそれでいいとして……ミスタ、一つ確認しておきます。あなた『銃』を持っていませんね?」
「……いきなりなんだ、ジョルノ」
「先程の『尋問』のとき、あなたは銃を構えてすらいませんでした。ぼくの知るグイード・ミスタという男は一般人相手でも怪しい場合はとりあえず銃を向ける男です。
もちろん、撃つかどうかは別の話ですが」
「……それで?」
「そういう用心深い男が死んだはずの仲間や自分を宇宙人と名乗る怪しい人間に対して、銃を突きつけないというのはありえません。
それこそ、突きつけたくとも銃を持っていない、という場合を除き」
ジョルノの正確な指摘に隠しても無駄だと悟ったのか、ミスタはすぐに両手を挙げて降参のポーズをとった。
「マイったな、確かにその通りだ。オレがあのホールで気がついたときには、銃も弾丸もいつの間にか消え失せてたよ」
「ミスタ、正直に答えてください。今の状態で『戦闘』はどの程度できます?」
「オレのスタンドは軌道を変えるだけだからな……相手が銃を持ってて、うまく『ピストルズ』を近づけられりゃ相手の弾丸をはじくぐらいは出来るが、
正直、それ以外は見た目通りの一般人ってとこだな」
返答を聞き、ジョルノは一度ミキタカのほうに視線を移す。
ジョルノとミスタの能力は先程の『尋問』の最中に両方とも知られてしまったため、半ば開き直る形でミキタカも話し合いに参加させることにしていた。
「ミキタカ、あなた銃にはなれますか?」
「銃ですか……形だけならともかく、自分以上の力が出る物にはなれませんから、弾丸の発射はできません。
わたしの銃は宇宙船においてきてしまいましたし」
「……わかりました」
いちいち構っていては時間の無駄になるため後半の発言はスルーし、ジョルノはミスタの方へと視線を戻す。
ともあれ、現状ミスタはスタンド使い相手の『戦力』としては数えられないことが判明してしまった。
「なら、どこかで銃を手に入れなければなりませんね」
「だな。ったく、弾丸はあるのに銃がないってのはもどかしいぜ」
「……? ミスタ、あなたさっき弾丸も消えていたと……」
「ん? ああ、こいつだよ」
そう言いながらミスタはデイパックから紙を取り出す。
「まだ開けちゃいねーが、この中に弾丸が……」
誰にともなく呟きながら紙を開いていく。
二度、三度……最初の大きさからは考えられないほどに紙は広がっていく。
ようやく開き終わったとき、そこには銃の弾丸―――
「………………ミスタ」
「えーと、これはだな……」
―――は一発もなく、立派な白馬が四本足で立っていた。
サンタ・ルチア駅へ向かっていた途中ほどではないが、空気が凍りつく。
「………………」
「い、いや、オレはその……紙に『シルバー・バレット』って書いてあったからてっきり……」
冷めた目で見つめるジョルノに対し、ミスタは聞かれてもいないのに言い訳を始める。
ちなみにミキタカは馬とじっと見つめあっていた。
「で、でも馬だって役に立つだろーがよ? 西部劇じゃあ馬に乗ったガンマンだってたくさんいるしな」
「銃はありませんけどね。それに、乗馬なんて出来るんですか?」
「お手」
「え?いや、やったことねーが……ジョルノはどうなんだよ?」
「できません。ぼくが生まれたときには既に自動車という文明の利器がありましたから」
しれっとした顔で言うジョルノ。
『無駄』が嫌いな彼は現代社会を生き抜くのにそんな不必要な技能は持ち合わせていなかった。
空気に耐え切れなくなったのか、ミスタは強引に話題を変えようとする。
「……ま、まあこれはこれとしてだ。オメーらの支給品は何だったんだ?」
「あ、わたしのはこれです」
振り向いたミキタカがテーブルに置いたのはなにやらスプレー缶のようなものが五つと、地図が一枚。
ミスタがスプレー缶の方を一つ手にとって調べる。
「こっちは……閃光手榴弾か。そっちの地図はなんだ?」
「多分、この会場の地下の地図だと思います。さっきの地図と同じ地形に下水道や地下トンネルが記してありますから」
「なるほど、会場の地図とは別に支給される秘密の地図というわけですか……最後はぼくですね」
ジョルノも自分の紙を開き、支給品を取り出す……が、ミスタは出てきた『それ』を見て眉をひそめる。
「……そいつはメガホン、いやスピーカーか?」
「拡声器……そう呼ぶのが最適でしょうね」
言いながらも複雑な表情で拡声器を眺めるジョルノ。
周囲が全く分からないこの状況で不用意に『目立つ』ことは多大な危険を伴う。
そのことを理解しているからこそ、ジョルノは難しい顔をしていた。
そんな彼に気を使ったのか、ミスタはジョークを交えて言葉をかける。
「まあなんにしてもだ。そいつで呼びかけながら歩き回りゃ、あっという間に全員集合ってわけか」
「ミスタ、わかっているとは思いますが」
「当然だろ。オレがゲームに乗ってたら、そんな迂闊なヤツはさっさとズドン!……だ」
「ええ、そうです。便利ではありますが、それ故に使い方が難しい……」
ジョルノはそういうと口元に手を当て、使用方法について考え始めた。
それを見て、ミスタとミキタカはそれぞれ思いついたことを口にする。
「ジョルノ、オメーの能力で口だけ作って遠くから喋らせるってことはできねーのか?」
「無理です。声を出すには口以外にも肺や声帯も必要ですから。まだあなたの『ピストルズ』を使う方が現実的です」
「あの、なんならわたしが使いましょうか? お二人には離れてもらって、近くのイスか何かに変身しながら呼びかければ」
「呼びかけの場に拡声器だけあって誰もいない、という状況はマズイです。見られたら罠と思われて、誰も集まらなくなりますから。
結局、人間かスタンドが見える範囲内にいる必要があります」
「馬に乗って走りながら呼びかけるってのはどうだ?人間の足じゃあまず追いつけねーぜ」
「ミスタ。相手が徒歩とは限りませんし、馬に追いつける、あるいは動きを止めるスタンド能力なんていくらでもありますよ」
様々な意見が出るが、どうも決定的といえるものは無い。
ジョルノは出された案に一つずつ問題点を挙げていき、なおも口を開こうとする二人を一旦制止する。
「落ち着いてください、すぐにこれを使うと決まったわけではありません。それに誰が呼びかけるか、というのも重要です。
仮にぼくが呼びかけたとして、死んだはずの人間の声が聞こえてくる、
という場所にはたとえブチャラティ達であっても近づいてくるとは思えません。あなた達がぼくを怪しんだように」
「ナランチャあたりは『生きてたんだァァァ』って飛び込んできそうだけどな」
「それなら、ミスタが呼びかける方が確実だと思いますが……もう一つ、呼びかける内容も考えないと敵まで呼び寄せてしまう危険性が非常に高いです」
「そのあたりは、オレらにしかわからない情報を使って集合場所を決めるとか、そういうのでいいんじゃねーのか?」
「あ、もしよければ仗助さんや億泰さんにもわかるような伝言がいいです」
「………………」
ジョルノは目を閉じて口元に手を当て、再び考え込むしぐさを見せる。
しばらくして、ゆっくりと口を開いた。
「拡声器に関しては保留としましょう、やはりこれは危険すぎます。じっくりと作戦を練らなければ命取りになりかねません。
ブチャラティ達が参加しているかどうかも分からない以上、名簿が配布されるまで待つ、というのも一つの手です。
……それで、あなた達はこれからどう行動するのがいいと思います?」
「どうするって……そりゃあブチャラティ達を探して、あの主催者をブッ倒すに決まってるぜ」
「わたしも、知り合いの皆さんと合流したいです。皆さんいい人ですから、きっと力になってくれると思います」
「だよな、こんなとこで喋ってても何にもならねーし、とりあえず出発しねーか?」
ミスタとミキタカは仲間との合流のため、行動を促す。
しかしそんな二人に対し、ジョルノはハッキリと自分の意見を述べた。
「ぼくは反対です。今はまだ、ここを動くべきじゃない」
その発言を聞き、立ち上がろうとした二人の動きが止まる。
ミスタはイスに座りなおし、真剣な表情でジョルノに質問してきた。
「……オメーがそういうってことはなにか根拠があるんだよな?」
「もちろんです。まず、あなた達は仲間を探しに行くと言いましたが、具体的にどこへ行くつもりですか?」
「どこって……そう言われてもな……」
「そうですね……杜王町にある仗助さんや億泰さんの家に行けば彼らがいるかもしれません」
「その可能性は低いです。ぼくはネアポリスの中学に在学し、なぜか地図にも記されているこの寮に住んでいますが、スタート位置はこのカフェでした。
彼らが都合よく自分の家に飛ばされているなんてまず考えられませんし、なによりここから杜王町までは距離がありすぎます」
「………………」
逆に返された質問に対しミスタは答えを出せず、ミキタカも反論を受けて黙ってしまう。
ジョルノはやれやれ、とかぶりを振って口を開いた。
「先程も言いましたが、そもそもぼく達の仲間がこの殺し合いに参加しているかどうかすら定かではないんです。
ここにいる三人が全員スタンド使いということを考えると、おそらく殺し合いに積極的な参加者もスタンド使いと見ていいでしょう。
目的地が特に無いのなら、わざわざ移動することでそういう連中に遭遇するリスクを高める必要はありません」
「だがよ、『あの時』とは違うんだ。ただ待ってても誰かが連絡をよこしてくれるなんてことは無いと思うぜ」
あの時―――すなわち『トリッシュの護衛任務』のときはボスからの連絡や別行動中の仲間を待つときを除けば、常に『移動』をしていた。
しかし、今は指示を与えてくれるような存在はいないし、仲間達もどこでどうしているか全くわからない。
ならば、自分達が動かねば何も始まらないのではないか。
そう考えていたミスタに、ジョルノは順番に説明していく。
「いいえミスタ。確かに連絡が来る可能性はほぼゼロですが、誰かがこのカフェにやってくるという可能性は十分あります」
「……どういうことですか?」
「まず最初に、ホールにいた人数は軽く百人を超えていました。会場が9×7に区切られていることと合わせると、
ここB-2とその周囲8マスの地域にはぼくらを入れて20人近くの参加者がいると考えられます」
「まあ、完全にランダムに配置するっていうならそのくらいだろうな……それで?」
「参加者の思考はそれぞれでしょうが、他の参加者を始末するにしろ仲間を増やすにしろ、
最初は『人が集まりそうな』近くの施設に行ってみるということを考える者は多いでしょう。
周辺の施設の数からすると、2~3人程度はこのカフェを訪れるとしてもおかしくはありません」
ミスタとミキタカは互いに顔を見合わせた後、ジョルノの言わんとするところを理解して言葉をつなぐ。
「つまりこういうことですか……? 『ここで待っていれば誰かが来る』……と」
「そして『そいつらと接触して仲間を増やすか、殺し合いに乗ってるようなら倒す』……ってとこか」
「その通りです」
二人の答えに頷くジョルノ。
彼としては『情報』も『戦力』も足りず、『目的』も決まっていない現在は迂闊な移動自体がハイリスクであり、
最低限どれか一つが満たされるまでは待機したほうがよいという考えだった。
しかし、なおも二人は食い下がってくる。
「ですが、推測も多いですね。本当に誰かがやってくるんでしょうか?」
「確実にとは言い切れませんが、来ない場合はこの拡声器があります。幸い、周辺の街は道が入り組んでいますし、他の道具も逃走するには便利な物ばかりです。
しっかりと作戦さえ立てておけば、呼びかけた後に危険な参加者がやってきたとしても生き延びることは十分に可能でしょう。
この場で待機しつつ拡声器をどのように使うか考えて、そのうえでどう動くか決めたほうがいい……というのがぼくの意見です」
「……言いたいことはわかったがよ、オレらがのんびりしてる間に味方が全員やられちゃいました……って可能性もあるぜ」
「かといって当ても無く歩き回り、ぼく達の方がやられてしまってはそれこそ本末転倒です。
三人いるとはいえ、スタンド使い相手に正面きって戦えるのは今のところぼくだけですから」
「………………」
「ブチャラティ達のことは信じるしかないでしょう。彼らだってギャングでスタンド使いなんですから、最低限自分の身は自分で守れます。
彼らと無事に合流するためにも、焦りは禁物です」
説明を終え、ジョルノは二人の反応を待つ。
ミスタ達としてもジョルノの言う通り、広い会場を当てもなく歩き回るよりしっかりとした目的地があったほうがいいのは当然だった。
加えて、現在『戦闘』はジョルノ頼みにならざるを得ないことを考えればなおさらである。
先に口を開いたのはミスタの方だった。
「わぁーったよ。オメーの言ってることは今までだって大体正しかったし、ここはじっくり作戦タイムといくか。ミキタカもそれでいいな?」
「ええ、わたしにも当てはないですし、それでかまいません」
「……決まりですね」
まずミスタがジョルノの意見に賛成し、ミキタカもそれに頷く。
指導者的立場となっていたジョルノのおかげか、はたまたシンプルなミスタの気質ゆえか、この三人はいつの間にかすっかり打ち解けていた。
「なあジョルノ、参加者と接触っつうのは別にかまわねーがよ、ここに誰か加わるってことは『四人』になっちまうんじゃあ……」
「下らないこと言ってる暇があったら武器になりそうなものでも探しててください。『目的』さえできればすぐにでも行動を開始しますから」
「ったく……オレにとっては重要なことだってのによ」
「それにしても、ジョルノさんはすごい頭をお持ちですね。ミスタさん、彼は一体何者なんですか?」
「さあな……あいつは新入りで、ラッキーボーイで……っていうか、すごい頭って髪型のことじゃねーよな?」
ミスタとミキタカが席を立つのを見て、ジョルノは静かに目を閉じる。
彼にとって、現在考えなければならないことはあまりにも多かった。
―――見たこともない主催者と、彼らへの反抗方法。
―――目の前で殺された自分達の正体。
―――拡声器の使い方と、使用後の対処。
―――行動の際の目的地。
―――そして、自己紹介のときにわかったことでまだ情報が少ないため秘密にしているが、ミスタと自分の認識には数日程度の『ずれ』があったこと。
さらに、行動を開始したらしたで探すべき人物も片手の指では数え切れない。
―――仲間であるトリッシュやポルナレフ、そしてフーゴ。
―――ミキタカの知り合いである康一や、仗助に億泰という人物。
―――殺されたはずだが、自分と同じようにこの会場内にいるかもしれない『空条承太郎』や『マフラーの男』。
(そして、時間のずれがあるのなら……いるのか……? ブチャラティ、アバッキオ、ナランチャ、それにかつてのボス、
ディアボロも……)
死んだ人間はいかなる能力を持ってしても生き返ることはない。
しかし、ミスタが自分よりも『過去』から連れてこられたとしたら……?
死ぬはずの人間を『死ぬ前から』連れてこられるとしたら……?
思考は新たな疑問を呼び、留まる所を知らない。
(やれやれ、冗談抜きで『自分がもう一人いれば』と思ってしまうな……まあ、わからないことは後回しにするとして、
やはり最優先事項は他の参加者にぼくが生きている理由をどう説明するか……だろうな)
ジョルノは目を開けて辺りを見渡す。
ミスタはカウンター内を物色し、使えそうな物を探している。
ミキタカは馬の前に座り、どこから持ってきたのかアイスティーを飲んでいた。
(この二人は、ぼくのことを『信頼』してくれるだろう……だが、他の参加者は……)
パッショーネのボスであるディアボロを倒した後、ジョルノは自分達以外にボスの正体を知る者がいないことを利用し、
以前から自分がボスであったように振る舞うことで『今の組織をそのまま自分のものにする』つもりであった。
そうすることで、パッショーネが今まで築きあげてきた資金、人員、コネクション、そして『信頼』も全て自分のものにすることが出来るからである。
しかし、今のジョルノが考えているのは少ない人員と限られた物資を使い、どこで何を行うかということ。
さらには自分の存在を何も知らない者に対して説明し、『信頼』を得なければならない。
例えるなら『一から組織を作ろうとする』ようなものであった。
(以前のボスがやったのと似たようなことを、殺し合いの場でぼくが行う、か……)
ディアボロはかつて、たった一人からのし上がって強大な組織である『パッショーネ』を創り上げた。
果たして、自分は『ボス』として『組織』を創り上げる―――この殺し合いの場で協力者を増やし、主催者を倒すことが出来るかどうか。
今のパッショーネのボスの座を継ぐのにふさわしい『器』かどうか。
それを確かめるためにも、ジョルノは自分の『役目』を再確認していた。
(このジョルノ・ジョバァーナには『夢』がある! そのためにも必ず全ての謎を解き明かし、夢を阻む主催者を倒さねばならない……!)
自分にどこまで出来るのか、とは考えない。
出来て当然と考えるからこそ、『夢』は現実のものとなる。
ボスを倒し、後一歩のところまで迫ったはずの『夢』に向かい、若きギャング・スターは改めて心に誓いを立てるのであった。
―――かくして、三人は『待機』を選択した。
時間ではなく、行動の『無駄』を無くすために行ったこの選択。
それがどう転ぶことになるかはまだ誰にも分からない。
【B-2 ダービーズカフェ店内 / 1日目 黎明】
【ヌ・ミキタカゾ・ンシ】
[スタンド?]:『アース・ウィンド・アンド・ファイヤー』
[時間軸]:JC47巻、杉本鈴美を見送った直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:
基本支給品一式、閃光弾×5、地下地図
[思考・状況]
基本的思考:ゲームには乗らない
1.カフェで待機し、他の参加者を待つ
2.知り合いがいるなら合流したい
3.承太郎さんもジョルノさんと同じように生きているんでしょうか……?
※ジョルノとミスタからブチャラティ、アバッキオ、ナランチャ、フーゴ、トリッシュの名前と容姿を聞きました(スタンド能力は教えられていません)。
※第四部の登場人物について名前やスタンド能力をどの程度知っているかは不明です(ただし原作で直接見聞きした仗助、億泰、玉美については両方知っています)。
【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、拡声器
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える
1.カフェで待機し、他の参加者を待つ
2.参加者を待つ間、拡声器の使い方や今後の行動などについて考える
※時間軸の違いに気付きましたが、他の二人にはまだ話していません。
※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。
【グイード・ミスタ】
[スタンド]:『セックス・ピストルズ』
[時間軸]:JC56巻、「ホレ亀を忘れてるぜ」と言って船に乗り込んだ瞬間
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、シルバー・バレット
[思考・状況]
基本的思考:仲間と合流し、主催者を打倒する
1.カフェで待機し、他の参加者を待つ
2.武器(特に銃)を手に入れたい
3.死んでいったジョルノはわからないが、今目の前にいるのはまぎれもなくジョルノだ
※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。
[備考]
- ランダム支給品は全て開けました。
- 待機するのは長くても名簿が配布される(第一放送)までと考えています。
それ以前にも拡声器の使用など、『目的』ができれば動く可能性はあります。
【支給品】
シルバー・バレット(第七部)
ミスタに支給。
ディエゴ・ブランドーの愛馬。
アラブ・サラブレッド混血で馬年齢4歳の白馬、額の位置に星の模様がある。
ちなみに、ニュージャージーの線路そばに放置されていた『基本世界』の方。
閃光弾(現実)
ミキタカに支給。
いわゆるスタン・グレネード。
爆発時の爆音と閃光により、付近の人間に一時的な失明、眩暈、難聴、耳鳴りなどの症状と、
それらに伴うパニックや見当識失調を発生させて無力化することを狙って設計されている(Wikipediaより)
拡声器(現実)
ジョルノに支給。
声を増幅して遠くへ伝えるための道具。
バトロワではおなじみ、死亡フラグの代名詞ともなっているが……?
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最終更新:2012年07月19日 22:37