「ツェペリさんの死……遥かな国からの3人……蛇を操る屍生人……殺し合い……」

闘士達が戦った建造物を背に、1人の青年が立っていた。
190センチを越えるがっしりとした体、それでいて穏やかな目元は、彼を「紳士」と呼ぶには充分だろう。
何をする訳でもなく呆然と立ち尽くし、うわ言の様に自分の身に起こった事を口にしていた。

そして思考は、最初に殺された3人の元にたどり着く。
自分とよく似た青年、白いコートを着た男、金髪の少年。
彼にはあの3人が他人の様には思えなかった。好みの音楽どころか、名前も知らない筈なのに。
彼の中に流れる『血統』が、そう告げていたのだ。では、一体誰なのだろう?

頭の中を何度も反芻させ、記憶の糸を手繰るが、答えは出てこない。
そして3人の首から、赤い花が咲き、血が止めどなく溢れる。
彼はある事情で、数多くの血を見てきた。大事な人を何人も失った。
悲しみに涙を流す事はあれ、それでも戦わなければならないと、己を奮い立たせてきた。でも何故だろう?
その血を見た時、彼の心は深い悲しみに包まれていたのだ。
心にポッカリと穴が空いた様な、自分の一部を引き千切られた様な、そんな感覚がしたのだ。親や師を殺された訳ではないのに、知人の間柄でも無いのに。

それでも、彼の『血統』は、深い涙を流していた。
そして告げられた、『殺し合い』―――
揺れる心を抑えようと努めつつ、彼は現状を纏めようとする。

「あの初老の男性……石仮面に関わりのある者だろうか?
 だとすればこの殺し合いの黒幕はディオ?
 それとも、全く別の何か?」

いくら考えても、答えは出る筈もなかった。
水面に映る月の様に、つかむ事はない、蜘蛛の糸を這い回る思考。

「断定は出来ないが、スピードワゴンやダイアーさん達もこの場にいるかもしれない、エリナさえも……」

背中を冷たい物が伝う。また大事な人を失ってしまうのか ……恐怖が彼を襲った。
しかし、青年の内に宿る『黄金の精神』は、決して揺るがない。

「人が人を殺していい道理はないッ!
吸血鬼であろうと人間であろうと!決して許される物ではない!
この殺し合い、必ず打ち砕く!」

それは、紛れもない宣戦布告。
数奇な因縁の始まりを握る青年、ジョナサン・ジョースターは、高らかに声をあげた。

「それにしても……」

振り返り、背後の建物を見つめる。
古代ローマの象徴たる闘技場、コロッセオは、考古学者であるジョナサンの興味を惹くのに十分な物だった。

「なんと巨大な建造物だ……
まわりの継ぎはぎの様な地形に違和感はあるが、歴史を感じさせる……」

無論、他の参加者を探すというのもある。
しかしながら、僅からながらの知的探求心も否めない事実。
一歩ずつ、一歩ずつ……ジョナサンはコロッセオに入っていった。

◆◆◆

「畜生ッ……ジョルノオオオオオオオ!!」

一片の光も無い暗闇。1人の少年が顔を腫らして泣いていた。
名をナランチャ・ギルガという。
あどけない少年に見えるが彼は『ギャング』だ。尤も、昔の映画の様な、スーツにボルサリーノ帽子を被り、銃弾の雨あられをくぐり抜ける物とは少し違うが。
端的に言えば彼は『組織』を裏切った。己と似た境遇を持った少女の為に、信ずる仲間達と共に。

彼は、信頼した者に強く心を寄せる。例えそれに裏切られた過去があったとしても、それが揺らぐ事はない。
しかし、大事な人を失う―――考えたくも無い事だった。
人の死を間近で見てきた。殺した事もあった。それでもだ。
「組織」のボスへと迫る逃避行、その最中で大事な仲間の1人である レオーネ・アバッキオを失い、面白い新入り―――ジョルノ・ジョバァーナの首が目の前で爆ぜた。
彼は、こみ上げる悲しみを抑えられなかった。
「畜生ッ!畜生ッ!」

乱暴に、何の考えもなく、壁を何度も蹴り続ける。
元来、考える事が苦手な彼は他に思いつかなかったし、なにより他の事を考えたくなかったからだ。
悲しみから逃げる為に、忘れる為に、彼の足は、この不毛な行為をやめようとしない。

ガンッ! ガンッ! ガンッ!

足に赤みがさし、 痛みが思考に干渉する様になった頃に、その行為は終わりを告げる。落ち着きを取り戻した思考は、状況を纏めようとする――
殺し合い――望みを叶える――アバッキオの胸に空いた穴――ジョルノの残骸――

駄目だった。いや、最初から不可能だった。
仲間を家族に――拠り所にしていた彼の頭は、その死を処理しきれなかった。

「うわああああああああああああ」

動物的な、考えの無い行動。心の負荷を抑えようとする本能。
スタンド、「エアロスミス」も精神の消耗で出せず、半狂乱になったナランチャは、勢いのままに走り出した。

◆◆◆
「本当に素晴らしい……こんな時で無ければもっとゆっくり回りたいくらいだ……」

結局のところ、ジョナサンはコロッセオを堪能していた。
勿論、水を使った波紋による警戒は怠っていないが、考古学者の血がそうさせるのだろう。目線は様々な場所に飛び交う。
意中の人、エリナと一緒に行きたい。そんな事を考えだした矢先、水に波紋が起こった。

「このスピードは……走っているのか?」
 怯えているだけかもしれない。まともな思考を持たない屍生人かもしれない。戦わねばならないのであれば……
ジョナサンの目が、鷹の様に鋭くなる。父親や師の死を背負い、吸血鬼ディオと戦う、『波紋戦士』ジョナサン・ジョースターの目だ。
襲われても対処できる様に、両の腕に力を込めて、波紋を練る、日常的に波紋の呼吸を重ねている彼にとって、それはなんの苦にもならない。

それから何分もしない内に、激しく地面を踏みならす音が聞こえてきた。
果たしてそれは、あどけなさの抜けない少年であった。
罠かもしれない。そんな事は一瞬も考えなかった。
『紳士』としてのジョナサン・ジョースターは、何の躊躇もなく少年の真正面に踊り出る。

「頼む!止まってくれッ!」

「退きやがえれええええええええええ」

「頼む!」

「退けて言ってんだぜオレはよォーッ!ブッ殺すぜこの野郎ォオオオーーーーッ」

精一杯の力をこめての体当たり、しかし、ジョナサンの丸太の様な巨体は動かない。

「畜生ッ!はやく退けよォーーッ!
ブチャラティもミスタもトリッシュも殺される!俺はヤダよオオオオオオオオオ」

この時ジョナサンは全てを悟った。この少年はすでに「被害者」なのだ。
恐らくはあの3人……どこかで会った気がするあの3人の中に、知り合いがいたのだ。
少年の悲しみは、想像を絶する物だろう。ジョナサンは、改めてこの悪夢を引き起こした主催者に対して怒りが沸いた。
それでもまずは目の前の少年と話をしなければならない。
ジョナサンは、意を決して口を開いた。

「僕は父を殺された事がある……師を殺された事がある……
とても悲しくなった……今の君みたいに、何をしていいかわからなかった……」

――心に刻み込む様に、ゆっくりと――

「それでも、僕は戦った。悲しみを力に変えて、精一杯に……
 それしかなかった。と言った方がいいかもしれないけど……」

――重く、それでいて穏やかに声を震わせる――

「悲しい時は思い切り泣いていい、人間として当たり前の事だ
 ただ、これだけは信じて欲しい……」

ジョナサンが波紋を流す。
太陽の様に暖かく、体を駆け巡ったそれは
黄金の輝きを持っていた少年を思い出させるのに充分な物だった。

「僕は……君の味方だ」

「う……うわあああああああああああ」

――凍えきった心に、太陽の光が射した――

◆◆◆

「本当に辛かっただろう……大丈夫かい?」

「最初はスゲー悲しくなった。死んでもいいと思っちまった……
でも、今は違う!生きる為に戦うぜ!」

ジョナサンと意気投合したナランチャは、波紋の影響も手伝い、自分を取り戻す事が出来た。
そこから行われた情報交換。
互いの知人。能力……
名前だけならまだしも、仲間のスタンド能力まで話しているのは、ジョナサンにジョルノをダブらせたナランチャが大きな信頼を寄せているからだ。
ナランチャの方も、屍生人や吸血鬼といった話に最初は半信半疑であったが、拉致されての殺し合いという非現実的な状況下に置かれていることと、ジョナサンの真摯な姿勢を前に、全てを信じる事にした。

「『恐怖を我が物せよ』僕の師が言っていた言葉だ……
 人間の素晴らしさは勇気の素晴らしさにある……恐怖と向き合い、僕を信じてくれて本当にありがとう」

「俺、頭悪いから今の言葉の意味はよくわかたねえけどよォー
ジョナサンに助けられたって事だけはよくわかるんだ。だから恩返しがしてえ……ブチャラティ達の事も心配だけど、俺はあんたに着いていくぜ!」

その後は、取り留めない話が続いた。
ワキガ臭い男がいるとか、カエルにストロー突っ込んで膨らませたとか、そんな他愛も無い話。
時間にすれば数分程度だが、彼らの仲を深めるには十分な物だった。
宴もたけなわと言わんばかりに、ナランチャが話を切り出した。

「取りあえずさァー、これからどうすんのォ?
まさか冬眠したクマみたいに動かないって訳にもいかないだろ?」

「そうだね……僕たちがいるのは、地図でいうところのF-7、コロッセオの内部だ。僕も君も知り合いがいるかもしれない。とすれば人の集まりそうな市街地から探そうかと思う。
まずは、ここから近い町……杜王町というところに行こうと思っている……ついてきてくれるかい?」

「さっき行ったろ?あんたに着いていくってな!」

「そう言ってもらえるだけで嬉しいよ。それじゃあ、行こうか」

こうして、志を同じくした二人が集まった。

目指すは、殺し合いの破壊。

向かうは、東の町。

「そういえばさ……」

「なんだい?」

「さっきの『波紋』ってやつもそうだけどさ……
似てるんだ……髪の色も体格も全然違うのに、
ジョナサンはジョルノに、なんか似てる」

「不思議だね……僕も彼とは面識が無い筈なのに、何故だか知っている様な気がした……
そして彼の首が爆ぜた時、とても寂しい気分になった……案外、君と僕も、どこかで知り合っているかもしれないね」

「ジョナサンがいたのって一体どこのイギリスだよ?
聞いた事無いぜオレ」

彼らは知らない。ジョルノがジョナサンの、厳密に言えば「首から下の」息子である事を……

死んだ筈の仲間達がこの場にいる事を……

そしてジョナサンの体にある星の痣。そこに秘められている 長い長い因縁の物語を……

――彼らは、何も知らない――


【コロッセオ内部(F-7)・1日目深夜】

【私とあなたは友達じゃないけど私の宿敵とあなたの友達は親子】

【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]: 健康
[装備]: なし
[道具]: 基本支給品、不明支給品1~2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の打倒
1.他の参加者を探すため、杜王町住宅街へと向かう
2.力を持たない一般人を守る
3.(居るのであれば)仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒
4.ジョルノは……僕に似ている……?

※見せしめで死亡したジョセフ、承太郎、ジョルノに何かを感じている様です。
勿論、面識はないので、「何か引っかかる」程度の認識です

【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド] :『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]: 健康
[装備]: なし
[道具]: 基本支給品、不明支給品1~2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
1.ジョナサンについていく、仲間がいれば探す
2.もう弱音は吐かない
3.ジョナサンはジョルノに……なんか…似てる

※確認した2人の支給品の中に、波紋に役立つアイテム(リサリサのマフラー等)は無かった様です
※軽い情報交換を行いました。具体的には、1部の主要メンバー(ディオ、スピードワゴン、ツェペリを始めとした波紋使い達)
5部の主要メンバー(護衛チーム+トリッシュ、ナランチャの参戦時期の段階でわかるディアボロの情報)また、死んでいると思っているので、暗殺チームや、屍生人等については詳しい情報交換を行っていません
※味方について話しただけなので、それぞれの物語については断片的にしか話しおらず、時間軸のズレに気づいていません。
お互いの出身地くらいは把握した様です





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前話 登場キャラクター 次話
GAME START ジョナサン・ジョースター 060:生とは――(Say to her) 前編
GAME START ナランチャ・ギルガ 060:生とは――(Say to her) 前編

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最終更新:2012年07月19日 21:37