◇ ◇ ◇
ら、らら、れろれら、れ、らら――
◇ ◇ ◇
夢であって欲しい。
そう願えど願えど、一向に目が覚める気配がない。
よもやこれは現実なのだろうか――考えかけて、私は首を振った。
そんなはずがない。
殺し合いなど夢で、起きればまたいつも通りの生活が待っているに決まっている。
疑いかけている頭を無理矢理に納得させようとしても、勝手に記憶が蘇ってくるのは抑えられない。
ありふれた一日が変わったのは、あの瞬間だ。
働いている食器屋の扉を破って、血塗れの男性が突っ込んできた。
腹部に穴が開き、左足が半ばから千切れているというのに、男は何食わぬ顔で声をかけてきた。
そのときの言葉は、一言一句違わず思い出せる。
「おい……女、そこにある俺の脚を拾って持ってこい」
状況が理解できず悲鳴を上げるしかできなかった私に、男は畳み掛けた。
「早く持って来いッ!! スチュワーデスがファースト・クラスの客に酒とキャビアをサービスするようにな…………」
次の瞬間には、視界が切り替わっていた。
周囲にたくさんの人がいて、ステージの上にはメガネをかけた初老の男性。
殺し合えなどと命じたかと思えば、三人の男性の首が飛んだ。
そしてまた周りの景色が変わり、気付けば見知らぬ街にいた。
いつも暮らしているカイロと違い、整備された道に石レンガ造りの家が立ち並んでいる。
混乱しながらもどうにか路地の外れに身を隠すと、そこで私はくずおれてしまった。
いつの間にか背負わされていたデイパックを開いてみれば、地図や食料などが出てきた。
そこからは、いままで繰り返しだ。
夢ではないのかもしれないと思いかけて、即座に否定する――ひたすらにそれだけ。
「――――っ」
危うく声をあげそうになったのを、どうにか呑み込む。
大通りに、人影が一つ見えたのである。
壁に隠れながらも、少しだけ顔を出して確認してみる。
長身に長髪で、鼻筋が細く整っている男性だった。
声をかけたくなったが、必死に自分を抑える。
一人でいることは非常に心細く、とても人恋しい、が――
本当に殺し合いが始まっていて、彼が人を殺す決意をしているのかもしれない。
そんな考えが浮かんでしまい、呼び止めるなど到底できなかった。
にもかかわらず、長髪の彼は不意に立ち止まった。
切れ長の瞳で、ある一点を見据えている。
なにをしているのだろうか。
私が抱いた疑問に答えるように、長髪の彼が睨み付けている方角から声が響く。
「ほう……いきなりとは、さすがに驚いた」
これまた男性の声である。
ほんの短い言葉だというのに、ひどく魅力的に思えた。
鼓膜を揺らしただけで、身体が痺れる気配がある。
怯えている心に染み込んでくるかのような、そういう感覚だ。
しかしこの声には、なぜだか聞き覚えがあった。
声の主を一目見ようと、壁から顔をもう少しだけ出して――私は今度こそ声をあげそうになった。
両手で口を押さえて、強引に自分自身を黙らせる。
声は抑えられても、心臓が高鳴るのは止められなかった。
「君は、普通の人間にはない特別な能力を持っているそうだね」
驚愕する私をよそに、男は言葉を続ける。
血塗れで私の眼前に落下してきた――あの男は。
「一つ……それをこのDIOに見せてくれると嬉しいのだが」
◇ ◇ ◇
「なぜ、知っている」
言い終える前に、
マッシモ・ヴォルペはミスに気付いていた。
この質問では、自分がスタンド使いであると認めたのと同義である。
相手がなにを言っているのか分からないといった様子で、スタンド使いではないかのように振る舞うべきだった。
そんな当たり前の対応が叶わなかったのは、ひとえに動揺してしまっていたからである。
DIOと名乗った男の佇まいに、ヴォルペは目を奪われてしまっていた。
長身のヴォルペよりももう一回り背が高く、さらに肉体は鍛え抜かれている。
金色の華美な装束は、しかしDIOが纏えばとても自然に美しく思える。
ところどころに散見するハート形のアクセサリーにも、不思議と違和感がない。
衣服と同じ金色の髪は艶やかで、大きな二つの瞳は生き血のように鮮やかな真紅。
そのどれもが目を引くが――何より。
全身から放たれている気配が、とても印象的だった。
辺りに広がる夕闇よりも、さらに光がない。
暗いという単語では足りない。どす黒いと言うべきだろうか。
「なぜ、か。ふむ……どう返事をするべきか。まあいい」
ヴォルペのミスに勘付いているのか、いないのか。
DIOは口元に手を当てて思考したのち、なにか思い付いたかのように向き直る。
次の瞬間には、DIOの傍らに黄金の巨躯が出現していた。
思わず、ヴォルペは目を見開いてしまう。
間違いなく、あれこそがDIOの精神のヴィジョン――スタンドだ。
それは明らかだが、どうして自ら曝け出したのか。
ヴォルペには、まったく想像もつかなかった。
「やはり見えているようだな。
スタンドは、スタンド使いかその素質があるものにしか見ることができない。
こんなものは説明するまでもなく、スタンド使いならば誰もが知っていることだとは思うが……
まあなにはともあれ、だ。なにはともあれ、これでなにもおかしくはないだろう?
私のスタンド『世界(ザ・ワールド)』を視認したのだから、もはや疑うまでもない。
君は『他の人間にはない特別な能力』、すなわちスタンドを持っている。そうだろう、マッシモ・ヴォルペ?」
「――――ッ!」
スタンド名に、ヴォルペの名を知っているという事実。
それらまで、DIOは明かしてしまう。
なにを考えているのか分からない。
優位性を自ら捨てているのか、はたまたその程度で己の優位が覆らないと確信しているのか。
定かではないが、ヴォルペにはもはやどちらでもよかった。
元より、行く当てなどなかったのだ。
マッシモ・ヴォルペは、死に行く最中に殺し合いに呼び出された。
唯一信頼していた麻薬チームの仲間は、一人を除いて殺されてしまった。
生き残った一人だって、他のメンバーが死んだと知って黙っていられるタチではない。
おそらく、いまごろ始末されていることだろう。
麻薬チームの始末を命じたギャング組織『パッショーネ』に復讐するべく、当初は最後の一人を目指すつもりであった。
だが、最大の復讐対象であるパッショーネのボス『
ジョルノ・ジョバァーナ』は、もう殺されてしまったのだ。
目標を失ったヴォルペは、ただ彷徨うしかできなかった。
ゆえに、DIOがなにを考えていようとどうでもいい。
八つ当たりをして憂さ晴らしができれば、もう満足だ。
仮に死ぬことになろうとも、すでに目標がないのだから悔いがあるはずもない。
「『マニック・デプレッション』ッ!」
呼びかけに応えるように、ヴォルペのスタンドが姿を現す。
そのヴィジョンは、筋骨隆々の『世界』とは対照的であった。
筋肉などなく、かといって贅肉や脂肪に覆われているのでもなく、単純に痩せ細っている。
その痩躯にはところどころ包帯のようなものが巻かれ、一部白骨化している箇所もある。
身長が低いのもあって、十分な食事を与えられなかった子どもの行く末じみていた。
『マニック・デプレッション』が甲高い奇声をあげると、全身から鋭利な棘が飛び出す。
そして、『マニック・デプレッション』は跳躍した。
身体を覆う棘でもって肉体を貫いてやるべく。
――主たるマッシモ・ヴォルペのほうへと。
「ふむ……?」
眉根を寄せるDIOに構わず、『マニック・デプレッション』はその能力を行使する。
ヴォルペの体内で、肉が弾ける音が響いた。
ぐぁぁぁふ――と、異様な呼吸音がヴォルペから漏れる。
未だ合点がいっていない様子のDIOへと、ヴォルペは跳んだ。
ほんの一跳びで十数メートルの距離を詰め、拳を振りかざす。
『マニック・デプレッション』の能力は、生命力の異常促進。
肉体に効果を発動させれば、本来出すことのできない力を出すことも可能とする。
まさしく、『人間を凌駕する』能力である。
「生身のようでいて、スタンドパワーを纏っているようだな」
ヴォルペの拳を『世界』で捌きつつ、DIOは頷く。
使用者が触れようとしない限り、スタンドはスタンド以外に接触されることはない。
ただし『マニック・デプレッション』で強化したものは、能力攻撃に含まれる。
ゆえに、スタンドで触れることができるのだ。
だからこそ、ヴォルペはあえて『世界』を狙った。
スタンドに、強化させた拳の対応をさせるために。
棘を出したままの『マニック・デプレッション』が、DIO本体へと飛びかかっていく。
ヴォルペの攻撃を捌いている『世界』は動くことができず、『マニック・デプレッション』の棘がDIOを貫いた。
「終わりだ」
『マニック・デプレッション』の能力には、タガがない。
能力を調節しなければ、どこまでだって生命力を促進させることができる。
心臓を過剰に働かせて破裂させることも、内臓を過剰に働かせて消化液で内臓自体を溶かすことも、筋肉を過剰に働かせて肉体を弾け飛ばすことも――可能なのだ。
DIOの身体が波打つように蠢き、傍からでも肉体が膨張しているのが見て取れる。
しかし、それだけだ。
身体が振動するだけで、DIOの肉体が弾け飛ぶことはない。
呆然とするしかないヴォルペの前で、DIOは自分の身体を擦りながら呟く。
「なるほど。生命力を過剰に与えているワケか。
どんな相手であろうと生物であるなら、一度刺せば必ず勝てる能力だな。
だが……相手が悪かったな。私は生物ではなく、いわば君のスタンドの天敵だ」
服についた虫を払うかのような動作でいとも容易く、DIOは『マニック・デプレッション』を取り外す。
棘が刺さっていた箇所から血が噴き出すが、すぐに傷口が塞がってしまう。
ここに至ってようやく、ヴォルペはDIOの正体を悟ることができた。
「ふん……そういうことか。お前、『石仮面』を使ったな」
「ほう、アレを知っているとは。なにからなにまで驚きの連続だな」
言って、DIOはデイパックから封筒を取り出す。
封筒から一枚の紙を抜き取ると、ヴォルペへと投げ渡した。
その紙には、ヴォルペの写真と経歴が纏められていた。
またスタンドについても、あくまで能力の一部に過ぎないものの記されていた。
「なんでも『パッショーネ』というギャング組織のトップが、君を始末するために用意した資料らしいが……私には関係ない。
私が惹かれたのは、そこに書かれている君の能力だ。
『麻薬を生み出す』と記されているだろう? それがとても気になってね。
実際は麻薬を作るだけの能力じゃなかったようだが、別に構わない。それでもいい。
あの能力ならば、たしかに麻薬を生み出すことも可能だろう。ならば、君に尋ねねばならない。
麻薬とは――人に『幸福』をもたらすものだと、私は思っている。
私は使用したことがないし、この身である以上は効力を実感することもできないだろうが……
それでもいくつもの文献において、麻薬とは人に多幸感を与えるものとして記されている。
だとすれば、である。だとすれば麻薬使用者とは、無敵の肉体や大金を持たず、人の頂点に立つこともなく、『幸福』を得ていることになる。
『幸福』とは、すなわち『天国』に到達することだ。『幸福』をもたらす君のスタンド能力が、その鍵になりうるとは思わないか?」
そこまで一気に言うと、DIOは頬を緩める。
鋭く尖った白い歯が、露になった。
「俺には、『幸福』など分からない」
これまで生きてきたなかで幸福を感じたことなどない。
そんなヴォルペの思いを、DIOは即座に否定した。
「スタンドとは、使用者の精神が形になったものだ。
実感がなくとも、幸福を願っているのかもしれない。
自分の幸福か、はたまた他人の幸福か……
もし心当たりなどなくても、そいつは君のスタンドだ。
君の精神あってのそれだ。他のなにが裏切ろうとも、スタンドは裏切らない」
ヴォルペの脳裏を過るのは、もうこの世にいない仲間の姿だった。
生まれて初めて、心を許した三人。
麻薬チーム所属の彼らのなかにも、ヴォルペが生み出す麻薬の中毒者がいた。
はたして、彼女は幸福だったのだろうか。
ふと、そんなことをヴォルペは考えてしまった。
そして彼女が幸福であったことを願う自分に、少ししてから気がついた。
「ある種……ある種だが、人を幸福に導く君の能力は『魂を操作する』能力と言える。
私に必要なのは、その能力だ。
三十六の悪人の魂を一つの身体に詰め込む。
生命力を操作する君のスタンドと、魂を抜き取る彼のスタンド。その二つがあれば、あるいは……」
自分の考えに没頭し始めたのか、DIOは一人でぶつぶつと呟いている。
しばらくして何らかの結論が出たのか、ヴォルペへと向き直る。
「私には君が必要だし、君には私を殺せない。
いいじゃないか、なにも問題はない。友達になろう」
逡巡したのち、ヴォルペは伸ばされた手を握った。
先ほど蘇った麻薬チームの三人が、幸福であったのか。
ただ、それを知りたかった。
「ではさっそく見せてもらおう、君の麻薬の力を」
DIOが真紅の瞳を路地裏へと向けると、か細い悲鳴が響いた。
そちらに誰かが潜んでいることに勘付いていたヴォルペには、特に驚きもなかった。
『マニック・デプレッション』が麻薬を作り出すのに必要な塩は、DIOのデイパックに入っていた。
付属の説明文によると、イタリア料理店『トラサルディー』御用達の逸品だという。
その一文にヴォルペは実兄のことを思い出したが、すぐに人違いだと判断した。
トラサルディーという姓は、別段珍しいものではない。偶然に一致しただけだろう。
とうのむかしに別れた兄とこのような場所で再会するとも、ヴォルペには思えなかったのだ。
塩に生命力を浸透させてから水に溶かしこんで、支給された注射器に入れる。
「静脈を出せ」
DIOが捕えてきた女性は、文句一つ言わずに腕を伸ばす。
彼女の額には、親指大の肉片が蠢いている。
DIOが自分の肉体を抉りとって、彼女に埋め込んだのだ。
肉の芽というそれは、取りついた相手の脳を支配して忠実な僕としてしまうらしい。
麻薬漬けにしてしまう前に、知っていることを洗いざらい吐かせたのである。
有益な情報はなかったのだが、血塗れのDIOをかつて目撃したという発言にDIOは眉をひそめた。
なんでも、彼に心当たりはないらしい。
見間違いで片付ける気はないようだが、かといってDIOはなにをするでもなかった。
女性が背負っていたデイパックの中身を確認したのち、ただ地図をしげしげと眺めている。
ただの地図ではなく、ヴォルペに支給された地下施設について詳細に描かれた代物である。
「準備ができたぞ、DIO」
「ふむ。見せてもらおう」
「それにしても、そんなに地下が気になるのか」
「なんと言うべきかな。
君も知っていたあの仮面なんだが、副作用があってね。太陽光アレルギー体質になってしまうんだよ。
日中は適当なところに身を潜めているつもりだったのだが、こうも入り組んだ地下道があるのなら、と思ってね」
「……そうか、運がよかったな。それは渡しておこう」
ヴォルペは女性の静脈に注射器を刺して、塩水を体内に注入する。
その様子を眺めながら、DIOは口角を吊り上げた。
「おもしろいヤツだな、ヴォルペ。
太陽光アレルギーというのを信じたのか?
単に、この地図が欲しいから出まかせを言ってるのかもしれないだろう」
中身が空になった注射器をデイパックに戻しつつ、ヴォルペはDIOのほうを振り返る。
「地図が欲しいだけならそう言うだろう。
俺はお前には敵わないんだから、文句なんて言うワケがない。
もしつっかかってきたとしても、力ずくでブン取っちまえばいいだけだ」
くっくと笑ってから、DIOは目を細めた。
「ひどく、奇妙じゃあないか?
君は私にとって必要な能力を持っていて、私は君の能力の天敵となる身体を持っている。
そして君は私が必要な地下の地図を配られ、私は君が麻薬を精製するのに必要な塩を配られていた。
君は石仮面のことが気になっており、私は資料に目を通して君のことが少し気になっていた。
そんな二人が、この殺し合いの舞台で偶然にも出会うなど――なにかしらの力が、働いているとは思わないか?」
「…………かも、しれないな」
ヴォルペには、曖昧な返答しかすることができなかった。
目標を失った自分を必要とするものと早々に遭遇したことに、彼自身も違和感のようなものを抱いてはいた。
だからこそ、どう反応するべきか分からない。
麻薬中毒者と化した女性の言葉になっていない呻き声だけが、深夜の街に木霊している。
見れば、女性の膝は激しく痙攣しており、体重を支えきれずにへたり込んでいる。
地面に顔をつけて唾液を垂れ流しながらも、虚ろな瞳でDIOのことを見つめていた。
完全にトリップしているというのに、肉の芽による信奉心だけは鮮明に残っているらしい。
ヴォルペはDIOの問いには答えず、ずっと抱いていた疑問を口にすることにした。
「ところでDIO、どうして俺には肉の芽を使わないんだ?」
「友達に、あんなものを埋め込む理由はない。
と、そういうことを聞きたいんのではなさそうだな。
うむ。いまのが最上の理由であるのだが、他にあるとすれば――
あれは脳に触手を伸ばして侵入することで、宿主の自我を弱める。
スタンドとは、精神の力だ。
自我を弱めてしまえば、当然ながらスタンドは弱体化する。
かつてスタンド使いに埋め込んでおいた肉の芽を抜き取られたことがあるのだが、やはり肉の芽から解放されたあとのほうがスタンドパワーは上であった。
つまるところ肉の芽による支配は、スタンド使い相手に限っては好ましくないのだよ。
特に君の『マニック・デプレッション』のような、細かくスタンドパワーを制御せねばならないタイプはな。
元よりこのDIOに従う意思のあるスタンド使いに保険として埋め込んでおき、ヤツらが敗北した際になにも漏らさぬよう暴走させる――という使用法ならば、肉の芽も役に立つのだがね」
ヴォルペは、DIOを冷酷だとは思わなかった。
人の上に立つ人種とは、こういうものであると考えている。
パッショーネの先代ボスたる
ディアボロも、自身の情報が漏洩しないよう最善の注意を払っていた。
しかし頂点に立つ人種だというのなら、なぜ最後の一人を目指そうとしていないのか。
ヴォルペが尋ねてみると、DIOは当たり前のように言った。
「このDIOが、七十二時間以内に死ぬものか。私が生き残るのは確定している。
決まり切っているのだから、『殺し合い』における行動方針などない。
最後の一人を目指すつもりなどない……まあ、結果としてなっているかもしれないが。
『殺し合え』などと言われたから、君のように勘違いしているものも少なくないだろうが……
別に、あの老人は『最後の一人になれ』などとは一言も言っていない。
最長でも三日生き残ればよいだけだろう。率先して他者を殺して回る理由なぞ、どこにも存在しない」
ヴォルペはハッとして、バトル・ロワイアルの説明を思い返してみる。
たしかに『殺し合え』と命じてこそいたが、一度も『最後の一人を目指せ』などとは言っていない。
『優勝者』に褒美を与えると宣言していたが、その優勝者の定義も告げられていない。
『最後の一人』が優勝者なのか、『三日間生き残ったもの』が優勝者なのか。
なぜ、このようなはっきりしない物言いをしたのか。
主催者は、はたしてなにを考えているのか。
まったく、定かではない。
「だが――」
ヴォルペの思考を遮るように、DIOは切り出す。
「かといって、穏やかに三日間すごすつもりもない。
幾度となく私の邪魔をしてきた『ヤツら』の生き残りがいる。
間違いなく、ヤツらも殺し合いに巻き込まれている。
ならば確実にッ、このDIOの前に立ちはだかってくるということだ!
たしかにジョジョと承太郎の死をこの目で見たが……終わりでないことを察している、他ならぬこの肉体がッ」
左手で首筋を押さえながら、DIOは女性に右手を伸ばした。
親指の爪を立てて、女性の首に突き刺す。
ポンプが動くような音が、辺りに響き渡る。
見る見る女性の肌が渇いていき、全身がしわ塗れになる。
血液を吸っているのだとヴォルペが理解したときには、女性はミイラと化していた。
「君の力は、十分見せてもらった。
彼女は幸福を味わいながら死んでいったよ。
血を吸われる感覚も恐怖もなく、夢見心地のまま……な。
生命力を操る……やはりいい能力だ。すごくいい。とても理想的だ」
【スチュワーデスがファースト・クラスの客に酒とキャビアをサービスするように足を持ってくるよう指示された女性 死亡】
【残り 128人】
【F-3 フィラデルフィア市街地/一日目 深夜】
【DIO】
[時間軸]:三部。細かくは不明だが、少なくとも一度は肉の芽を引き抜かれている。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:
基本支給品×2、麻薬チームの資料@恥知らずのパープルヘイズ、地下地図@オリジナル、ランダム支給品1~2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:帝王たる自分が三日以内に死ぬなど欠片も思っていないので、『殺し合い』における行動方針などない。
なのでいつもと変わらず、『天国』に向かう方法について考えつつ、ジョースター一族の人間を見つければ殺害。
もちろん必要になれば『食事』を取る。
1:適当に移動して情報を集める。日が昇りそうになったら地下に向かう。
2:マッシモ・ヴォルペに興味。
【マッシモ・ヴォルペ】
[時間軸]:殺人ウイルスに蝕まれている最中。
[スタンド]:『マニック・デプレッション』
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、大量の塩@四部、注射器@現実
[思考・状況]基本行動方針:特になかったが、DIOに興味。
1:DIOと行動。
【支給品紹介】
【麻薬チームの資料@恥知らずのパープルヘイズ】
DIOに支給された。
パッショーネの上層部が、麻薬チームの始末を命じた三人に支給した資料。
麻薬チームの構成員四人の写真など、彼らに関する情報がまとめられたもの。
ただしその情報はあくまでパッショーネが把握している範囲だけであり、四人が持つスタンドの詳細などは不明である。
【大量の塩@四部】
DIOに支給された。
杜王町の外れにあるイタリア料理店『トラサルディー』にて使われている塩。
味にこだわる店主が取り寄せたものなので、食通たちの間では名の知れた塩であるのかもしれない。
【注射器@現実】
マッシモ・ヴォルペに支給された。
なんの変哲もない、よくある注射器。
【地下地図@オリジナル】
マッシモ・ヴォルペに支給された。
バトル・ロワイアルの会場に存在する地下通路や地下施設について描かれた地図。
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最終更新:2012年12月09日 02:08