若さ……若さって、なんだ?

――振り向かない事さ。

愛って……なんだ?

――ためらわない、事さ。


……ん?あぁ、ごめんごめん。
今回の話がある歌とよく似通っているからちょっと口ずさんでみたんだよ。
じゃあ早速始めようか――


●●●


静かに、でもコソコソしないで救急車に近寄る。ドアを降りたところでぐったりと座り込んでいる老人は動く気配がまるでない。
私の足音は他に何の音もしないこの場所ではきっとその耳にも届いているはずだけど……シカト?

「……もしもしィ?」

正面から声をかけるとその人はゆっくりと顔を上げた。泣きまくってたせいだろうか、しわがやたら深くて丸めた新聞紙みたいな顔だった。
私が次に何を言おうか考えてるとその人はまた顔を伏せる。頭を持ち上げてキープするのも辛い程に首が弱ってるって言うの?

「ちょっと――シカトこいてないでなんか言う事無いの?」

思わず口調が強くなる。
相手――もはや老人とかお爺さんとか言ってやれるレベルではない――は上体を起こし、救急車にもたれかかる。
私はその目をキッと見る。きっと睨んでいるという表現では足りないんじゃあないだろうか。要するにガン飛ばしまくっていたと思う。
と同時に鼻を突く血の匂い。私の鼻がどうだとかではない程の強さ。場所は言うまでもない、救急車の後部。
……と、そんな風に状況を観察していたらやっとの事で老人の口が動いた。

「君は……殺し合いに乗っているのか?」

……うーん。まぁ、会場で他人に遭ったらこういう会話で始まるのが妥当でしょうけど。そうじゃなくない?目の前まで迫られてガンつけられてる相手に?
とはいえ、私にだって答える義理はある。私の方が質問を促したんだから。

「……誰かをぶっ殺そうと思ってる、っていうのを“乗ってる”って言うんならそうなんでしょうね」

「そうか――じゃあ、私の事も殺してしまってくれないか?もう、疲れた」

ぼんやりとした口調でそんな言葉が返ってきた。でも、疲れたと言っても過労死とかいう話じゃあない。要するにメンタル面で何かあったのだろう。
そう思って私は救急車の後部ドアをバンと開ける。そこには一人の男がいた。さっきからプンプンする死臭の発生源。
老人が何か言いかけたが私は無視する。話は『コイツ』に聞く方が信憑性がありそうだった。

「『ブードゥー・チャイルド』――!」

スタンドの拳で座席に触れる。いつもと同じように、その場に唇が浮かんだ。

「スピードワゴ……さん……
 母…と……エリザベ……スと………ジョセ…を…
 ……頼み……ま……」

「だめだ…ッ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だッ………! ジョージ、まだ行くなッ……!!
 二度もッ……、二度もわしより先に死ぬんじゃあ無いッッッ!!!」

片方はさっき聞いた老人の声。となればもう片方がこの死体の声か。ンなるほど。
分析が終わった私はその人の方を向いた。

「あなた……スピードワゴン?ロバート・E・O・スピードワゴンなの?
 名前は知ってるわよ、有名人だもの。スピードワゴン財団の創設者でトップだった男でしょう?
 それが息子――ではなさそうね、話の感じ。でもそれ同然に大切だった男を失って“疲れたから殺してくれ”ですって?」

「……」

老人、スピードワゴンは返事をしない。
私のヴードゥー・チャイルドを見て驚いた表情をし――彼がスタンド使いだったっていう情報はあったような無かったような――
それでまた泣きそうな顔になった。この表情から言いたいセリフはどんなド低能でも分かる。次にアンタは、
『そこまで分かってるんなら良いだろう?早くこの世から立ち去りたいのだ』
……と言う。って感じかしら。

でも――


●●●


目の前の少女に胸倉を掴まれ、引っ叩かれた。先程エルメェスさんにされた行動と全く同じだった。
どうも私をすぐに殺してしまおうという気はないらしい。
が……それがなんだと言うんだ?こんな老いぼれに、今更何が残っていると言うのだ?

「私を――侮辱してんのか?」

――なんだって?思わず聞き返しそうになるほどに、言葉の意味がわからなかった。
さっきのエルメェスさんは私のためを思っての行動だった。
が、この子はなんと言った?私のことなど話題にも出さない。それどころか、自分のことを侮辱しているのかだと?

「大切な人が死んだから自分も死ぬ?それじゃあ私は最初に3人の首輪が爆破した時点で舌噛んで死ななきゃあならないわね。
 ……アァ?分かってんのか!アンタそんな私を侮辱してんのかって聞いてんだよ!」

ものすごい勢いでまくし立てられた。言葉の意味……そういう意味だったのか。だとするならそれを理解できない訳がない。
この少女だけではない。リサリサだって、エリナさんだって悲しんでいるに決まっているじゃあないか。
だが、だからと言ってこの殺し合いと言う舞台の中でどうやって生きていけばいいと言うのだ?
そんな私を察してか、少女の方が言葉を続ける。

「私はシーラ。シーラEだ。
 この『E』は『エリンニ』のEだ。意味分かる?――復讐よ
 私が敬愛する方の命を奪った罪をあのカリメロジジイに償わせてやる。
 誰かを殺すのがこのゲームに乗るって言うなら、あのジジイを殺そうと思ってる私はゲームに乗り気、ってことなんでしょうね」

「復讐……そんなことをして何になる?
 願いが叶うと言う主催者の話を信じると言うのか……?」

思わず口が動く。もう喉なんかカラカラに乾ききっていたのに。
お互いが黙ったまましばらく目を見つめ、見つめ返され――ドンと突き飛ばされる。

「……そんなことを言ってるんじゃあない。飽くまでも重要なのは復讐を『すること』それ自体だ。
 『復讐』なんかをして失った命が戻る訳ではないと、アンタはそう言った。許すことが大切なんだという者もいるだろう。
 だが――愛する者をこんなゲームで失って、その事を放棄して死ぬなんてまっぴらごめんだし……私はその事を覚悟してきた。

 いいかッ!
 『復讐』とは!
 自分の運命への決着をつけるためにあるッッッ!」


●●●


しばらくの沈黙ののちに――どちらからともなく救急車に乗り込み、その場を走り去った。
運転はシーラE。助手席にスピードワゴン。もちろん後部ではジョージが眠っている。だがそれをシーラは深く聞いたりしない。
スタンドで聞けるとか同情したからではない、聞くだけ無駄だから。彼女が聞いたのはたったの一つだけ。

「ところで、私の名前についてる『E』の話はしたけど……
 アンタの名前の『E』には何か意味があるのかい?」


――と、こういう話だ。
な?結構、歌詞とマッチしてるだろ?
若い頃のスピードワゴンならそりゃあもうすぐにでも立ち上がっただろうし、愛ってのは躊躇わないもんだ、ってのもそうだろう?
……おい誰だ!?スピードワゴンの愛って聞いてホモォとか言ってる奴は!?――まぁ、いいや。話題を逸らしても仕方ない。

しかし――ここから本当にスピードワゴンが復讐に生きるのかなぁ?

確かめたいぜ――皆、同じじゃないから。
やりたいことをやってやれ、命がけだぜ。欲しけりゃその手で……掴め。

なんて歌もあるくらいだしなぁ。シーラEと一緒に決起すると思う?そりゃあ自分の道は自分で決めるだろうけど、それが復讐なのかどうか……。
何にしても俺に言わせれば結構時間かかると思うね……あ、いや、こういう復讐者を集めまくってそのトップに立つとか?
うーん、それでもどっち道すぐには無理か……あぁでもなぁ――



【B-3カイロ市街北西 → ?-? / 1日目 早朝】

【二人のE】


【ロバート・E・O・スピードワゴン】
[スタンド]:なし
[時間軸]:シュトロハイムに治療され、ナチス研究所で覚醒する直前
[状態]:肉体的疲労(小)、精神的疲労(中)
[装備]:救急車(助手席に座っている)
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.とりあえずシーラEと共に移動
2.復讐だと……?こんな無力な私に?
3:何故ジョージが……? 何故なんだ、リサリサ……?そして最初の場所で殺されたのはジョセフ……?

[備考]
※救急車内に、エルメェスの基本支給品、ジョージ・ジョースターⅡ世の死体及び支給品(基本支給品一式・ナランチャの飛び出しナイフ)があります。


【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:健康、興奮状態(小)
[装備]:救急車(運転中)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2(確認済み/武器ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ
1.とりあえずスピードワゴンと共に移動し情報収集
2.主催者のクソジジイを探し、殺す
3.邪魔する奴には容赦しない
[備考]
参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。
(もちろんジョルノも面識がありますが死んだと思っていますので彼女の中では除外されています)
元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。
移動経路については大して考えていません。以降の書き手さんにお任せします。




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最終更新:2012年07月19日 22:52