う~~~ん……… 頭が痛え。
ここは―――――― ここは、どこだ?

真っ暗で――― 何も見えねえ………。




え~~っと、昨日の夜はどうしてたんだっけ?
朦朧とした記憶を思い返す。
だが脳漿が酒で染まっているらしいオレの頭は、何一つ思い出してくれやしねえ。

「うぅぅ~~~~ 誰かいんのかぁ―――? 真っ暗で何も見えん……」

おっと、オレの他にも誰かいたようだぜ。
だがオレと同じように何が何だかわかっていない様子だ。
はて、どっかで聞いたような声だが――――――

あ!




「おいジョン・B! そこにいるのはスループ・ジョン・Bか?」
「その声は…… ポコロコか?」

あ゛あ゛―――― な~んとなく思い出してきたぞ。
そうそう、昨日はジョン・Bの野郎と女を囲って飲み明かしてたんだ。
スティール・ボール・ラン・レースが終わって以来、オレは世界中のメディアに引っ張りだこ。
女どもも引く手あまたで選び放題、ヤリ放題のたまんねー毎日を過ごしていた。
祖父の代まで奴隷出身だった黒人のオレがだぜ? 信じられねよなァ!
初めのうちは『Dio失踪はポコロコの仕業』なんて噂が流れもしたが、新聞社に金を握らせた途端にそんな記事は全くと言っていいほど見なくなった。
この世は金と権力だと実感したね。
もっとも、それ以上に重要なのは『ラッキー』なわけだが。


「おいポコロコよぉ、昨日の晩どうなったか覚えてねえか? 暗くて何も見えねえよ」
「オレだってわかんねえよ。ひどく酔っ払ってたが――― お、ちょいと待ってくれ。窓みたいなモン見つけた」

フラフラっと立ち上がったオレは、壁伝いに窓枠を発見する。
ム……… なかなか固い、が………

「うおっ! まぶしっ!」

開け放たれた窓から眩しい朝日が差し込む。
起き抜けの暗闇からいきなりこの光度はキッついぜ。酔った頭だからなおさらだ。
ところで、ここはどこだ?

「なんだこれは? まるでヨーロッパみてえな町だな。どういうことだ?」
「オイオイ、ジョン・Bよ。まだ寝ぼけてんのか? 昨日はオレの奢りでハーレム(黒人街)で飲み明かしたんじゃねえか」
「じゃあここはどこなんだ? こんな景色ニューヨークにあるのか!?」
「大声出すな、頭痛えんだよ…… オレだって知らねえよ。東海岸は初めてなんだ」

お互いにまだ寝ぼけているな、こりゃ。
ジョン・Bのやつも窓から外の景色を眺めている
部屋の中も軽く見渡してみる。なんだか洒落た部屋だ。
壁には絵画、でかい暖炉、ムズカシそーな本がズラリと並んだ本棚に、豪華なローソクの燭台と来ている。
ははーん、ホテルか何かか? 部屋の真ん中で存在感を放っている棺桶は趣味の悪いベッドの変わりだろうか。
ん?

「何持ってんだ、ジョン・B?」
「ん、ああ。ただの時計だよ。それの中にあった」

ジョン・Bが指差した先には、見覚えのないデイパックが2つあった。
なんだあれ? 真剣に昨晩の記憶がわからなくなってきた。

「で、今何時だ? ジョン・B」
「5時50分」

なんだよ、まだ早えじゃねえか。
――――ってオイ。

「おいジョン・B! 何だよそれ?」

ジョン・Bがデイパックの1つを拾い上げたかとおもったら、中から朝飯が出てきやがった。

「何だって、知らねえけどこれも入ってたんだよ。腹減ったから食おうかと思って」

パンにスープに魚のフライ。まるで刑務所の中の飯みたいにしみったれた朝食だが、腹減ってる時ってのはなんでもうまそうに見えるもんだ。
いいなあ、オレも腹減ってきたぜ。
もう片方のデイパックを拾い上げ、中をさらっと見てみる。
食い物、食い物……… なんだよ、パンと水しかねえじゃねえか。

「オイ、ジョン・B。パンと水しかねえ。おめえのちょっと分けてくれよ」
「あ? しょーがねえなあ、スープをやるよ。魚はダメだぞ」

渋りながらも、スープを差し出すジョン・B。やっぱりこいつはいい奴だなあ。
ジョン・BはSBRレースで総合3位、ファイナルステージ特別賞を受賞し、オレほどとまではいかないもののメディアを騒がせた英雄のひとりだ。
レース序盤はサンドマンなんかともよく話をしたが、いつの間にかリタイアしちまったみてーだし(聞いた話じゃ死体が上がったって話だ。気の毒に)、一番仲が良くなったのはこのジョン・Bだったな。
ジョースターのやつもヒガシカタのじーさんも、早々に帰国しちまいやがって……。
オレたちは英雄だぜ、え・い・ゆ・う! もっとアメリカを楽しめってんだ。

思い返せば、この4ヶ月は最高にラッキーな時間だった。
1stステージのジャイロ・ツェペリへのペナルティに始まり、マウンテン・ティムをはじめとする優勝候補たちの次々の脱落(リタイア)。5thステージではついに1位通過を果たし、最終ステージではDioの不正による失格。
全体的に見て、風はオレに吹いていた。
あのバーサンは『人生最高のラッキーは2ヶ月間』と言っていたが、どっこい、4ヶ月たった今でも、まだラッキーは続いているぜ?
何より最高のラッキーは、1stステージのスタート時にオレがルール違反を犯していたことに誰も気がついていねーことだ。
あの日、9月25日の午前10時にスタートに並んでなかった選手はペナルティが課せられるルールだったらしい(後で知った)。
オレの成績にペナルティが加算されたら、優勝は無くなる。このルール違反がバレていないことこそ、オレにとっての最高の『ラッキー』なのさ!

ジョン・Bから受け取ったスープに口を付ける。
ま、食えない味じゃあないな。パンに付けて食ってみる。まあまあうまい。
ジョン・Bの食ってる魚の方は――――――

「ウガァアああアアァァァァァ!!!」

なっ なんだぁ―――!?

魚のフライにかぶりついていたジョン・Bが絶叫の悲鳴を上げた。
魚の骨がジョン・Bの頭を突き破っていた。

「なぁッ なァンだこりゃァアアアア!! オイ! ジョン・B! 何が起こったんだァ!!」

魚の骨に逆に食いつかれてる! どういうことだ!
何が起こったんだァ!!

「オゴ…… オゴ………」

オレはジョン・Bに駆け寄るが、ジョン・Bはピクピク痙攣したように蠢き、苦しんでいる。
何がどうなれば、魚の骨でこんなことに!

と、とにかく治療しないと――――――



ジョン・Bの持っていたデイパックの中身を漁る。
磁石、地図、懐中電灯――――― ろくなもんがねえ!!

オレの持っていた方はどうだ?
デイパックを漁る。
くそ、こっちも大して変わらねえ!
磁石に、地図に、懐中電灯に……… ん、これは――――――?



バァァァ――――――ン………







頭に風穴をあけたポコロコは、フラフラと夢遊病患者のように歩き、とある吸血鬼が寝台替わりに使っていた棺桶の中に倒れ込み、永遠の眠りについた。
発射直前の状態で紙に仕舞われた拳銃に、頭を撃ち抜かれたのだ。
スループ・ジョン・Bも、もう助からない。
囚人への死刑執行用に細工された魚のフライの骨が、運悪く彼の脳味噌を突き破ったのだ。




(そんな…… オレは……… オレはぁ……… ラッキーガイなんだァァァ)





スティール・ボール・ラン・レース、最高成績獲得者。
彼の名はポコロコ。
50億人に1人の幸運を手に入れた、今世紀最大のラッキーガイ。
彼がこのような形で最期を迎えることになったのも、ある意味では幸運だったのかもしれない。

なぜなら彼は、自分が身の毛もよだつデス・ゲームに参加させられていることすら気がついていなかったのだから。


【C-3 DIOの館/一日目 早朝】

【スループ・ジョン・B 死亡】
【ポコロコ 死亡】

※スループ・ジョン・Bの支給品は囚人27号の朝食でした。
※ポコロコの支給品は紙化された拳銃でした。
※他に支給品があったかどうかは不明です。

【囚人27号の朝食】
短編・死刑執行中脱獄進行中に登場した朝食。魚のフライに危険な仕掛けが施されている。
某ボスが大冒険するフリーゲームの作者非公認最新版では、魚のフライがアイテムとして登場している。
満腹度回復と引き換えにダメージを受けるという諸刃の刃であり、数多くのボスが初見殺しに会い天に召されていることだろう。

【紙化された拳銃】
Part4にて宮本輝之輔が仗助を殺害する目的で紙にされた拳銃。
発射直前の状態で紙にされたため、開くと即座に弾丸が発射される。
ロワでは珍しく、原作の時点で紙化されていた支給品。





【残り 74 / 150 人】






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GAME START スループ・ジョン・B GAME OVER
GAME START ポコロコ GAME OVER

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最終更新:2012年12月09日 02:33