「い、言いたいことがあるのはわかる! だがまずはそれを下ろしてくれ!」

E-8 杜王町の中心部、道の真ん中で二人の男が睨み合っている。
この二人、お互い心の底から相手を信用するつもりは全く無し。
数秒が数時間に感じられるといったような緊張感までは感じていない、いわば茶番に近い睨み合い。

(いきなり撃たれないってことはこのガキにも分別があるってわけだ。第一関門はクリアってとこかねぇ)

叫ぶ男は空条承太郎のふりをするラバーソール
『表面上』は焦りと緊張に包まれた顔を見せていたが、その下にある『素顔』はいかに相手を利用してやろうかと思案する下品な笑みを浮かべていた。

「それはこっちの質問に答えてからだ………あんたの名前は?」
「く、空条承太郎だ」

一方、質問するのはジョニィ・ジョースター
彼のほうも相手を信頼する気はゼロであり、『タスク』の狙いをつけた指を相手から外さぬままラバーソールに問いかける。

「クージョージョータロー………あんたは本当に、自分が殺されたあの男と同一人物だと、そう言うつもりなのか?」
「あ、ああ………それは間違いない。身動きは取れなかったが意識はずっとあったんだ。
 俺は確かに他の二人と一緒に座らされていて、首輪が爆発して死んだはずの男だ」

(ヒヒヒ、お手本どおりの質問ってか。んなモンどう答えるかとっくのトンマに考えてあるっての)

自分を空条承太郎と言い張り、都合が悪いことは『最初に殺されたからよくわからない』で押し通す。
相手が質問を切り上げたら先程死んだ男のネタでじっくり脅してやればいい―――ラバーソールがそう思っていた矢先だった。

「そうか、それじゃあ―――」

ドン!

言葉の途中で、いきなりジョニィは『タスク』を撃った。
至近距離での不意打ち―――ラバーソールが回避できるはずもなく、爪弾は正確にその額に着弾した。

「………は?」

ようやく自分が撃たれたことに気がついたラバーソールの口から間抜けな声が漏れる。
続いて彼の体はぐらりと後ろに傾き、地面に倒れ伏した。


#


ジョニィ・ジョースターはいざというとき『相手を殺せる』男だが、同時に『迷ったら撃つな』という考え方をする男でもある。
ラバーソールを最初に見たときも彼は撃つべきかどうか『迷った』ため『タスク』を撃たなかった。
だが、今ラバーソールを撃ったジョニィに迷いはない。

ジョニィの心境を変えた理由、それはジョニィが目の前に立つ男を『敵』だとはっきり理解したからだ。
では、その根拠は何か?


体に黄金長方形が見つからなかった?
違う。人間には様々な体格の者がいる、体のどこかに黄金長方形が必ず現れるとは限らない。

服装や顔つきが最初とどことなく違っている?
これも違う。服装は(替えの服さえあれば)着替える機会はいくらでもあった。
顔つきが違うのも、最初のホールにいた男が薄暗い中で鍔のある帽子をかぶり、うつむいて目を閉じていた以上、知り合いでもない者がその顔を正確に判断するのは至難の技である。
これも決め手にはならない。

ジョニィにとって目の前の男とホールの男の違い………驚くべきことにそれは彼にしてみれば『なんとなく』だったのである。
そんな乱暴な、と言う前に思い出してほしい――――――彼の姓を。


―――そう、ジョースターの一族、その証であるアザ。
不思議な肉体の波長のようなもので、『なんとなく』お互いの存在を感じ取れるというもの。

ジョニィは最初のホールで彼らを見たとき、その感覚に気付いた。
何故、始めてみるはずの人間がこうも身近な存在に感じられるのか。
何故、名も知らぬはずの人間に他人とは思えない何かを感じるのか。

奇妙なことに彼らが首輪の爆発によって殺害され、その命が尽きた後でもその感覚は続いていた。
ジョナサン・ジョースターの肉体を奪ったDIOのように、魂ではなく肉体そのものに備わる感覚が………

本来、ジョニィと『彼ら』は異なる世界の住人であり、ジョニィの体にも同じようにアザがあるかどうかはわからない。
だが、世界は違えどそこには『繋がり』が確かに存在している。
例えば、ジョニィの本名がジョナサンであるように。
例えば、彼らが使う能力の名称が『スタンド』であるように。
例えば、別世界のディエゴ・ブランドーが吸血鬼DIOと同じ能力『THE WORLD』を使えたように。

そうして考えれば、ジョニィが彼らの存在を感じ取ることが出来ても不思議ではない。
彼もまた、間違いなく『ジョースター』なのだから―――


だが、今ジョニィの目の前にいる男からはそのような感覚が一切感じられなかった。
そう、欠片も。

勿論、よく似た別人が勘違いしている可能性もあったが、この男は自分のことを間違いなく最初に死んだはずの男と言った。
ならば導き出される結論は一つ………目の前にいるのは嘘吐きな偽物で、自分を騙そうとしている『敵』ということだ。

だからジョニィは迷いなく、撃ったのだった。


ジョニィは辺りを見回す。
すぐ近くには今倒した『空条承太郎』の死体、少し離れたところには先程『自殺』した男の死体―――それ以外には何の気配も無かった。

(急いでここを離れないと、また誰かが来たら誤解されるな………いや、ある意味誤解じゃないけれど)

とりあえず荷物を回収したら移動しよう―――そう考えるとジョニィは倒れた相手に近づき、デイパックに手を伸ばす。
だが次の瞬間、頭を撃たれたはずの『空条承太郎』が突然目を見開き、ジョニィに覆いかぶさろうとしてきた!!

「なにッ!?」
「ヒヒヒ、大当たりってやつだぜ。なんでわかったんだ? それともハナっからおれも殺る気マンマンでしたってか?
 まあどっちだってかまわねーがな、てめーはここで食ってやるんだからよぉぉぉッ!」

先程のお返しといわんばかりに至近距離からの不意打ちが立場を逆転して再び行われた。
黄色いスライムのようなスタンド『黄の節制』がジョニィに襲い掛かる。

ドン! ドン! ドン!

突然のことに驚きながらも再び相手に対して指を向け爪弾を発射するが、壁となったスタンドに全て防がれてしまう。

「効かねーなぁー!!」
「くそっ、ならこっちの銃はどうだ!?」

ジョニィは続けて逆の手に持っていた拳銃を発射するも、結果は同じであった。

「まずい、攻撃が効かない………うわっ!?」

いつの間にか下からも迫っていたスタンドに足を取られてしまい、尻餅をつく。
当然それを見逃すラバーソールではなく、ジョニィの体を次々と『黄の節制』で飲み込んでいく。

「てめーはここでオシマイさぁーーーブジュルブジュルつぶしてジャムにしてくれるぜェーーーッ」
「うおおおああああーーーーーっ」

地面を這って逃げようとする、だが逃れられない。
もがいても相手のスタンドは全く外れず、脚が、手が、胴体が飲み込まれ、自分の体が溶かされていくような感触を覚える。

「くそっ、離れろッ! はな―――!?」

最後に残った顔が飲み込まれようとする正にその瞬間、ジョニィは見た。
どこからか『文字』が飛んできて敵に命中したのを―――直後に『黄の節制』の動きが止まった。
状況は把握し切れなかったが、スタンドの付着がなくなったことを理解したジョニィは必死に地面を這い、ようやく捕食から逃れて相手から離れる。
幸いなことに、五体はどこも溶かされておらず無事なままだった。

「あん? なんだ、何が起こっ………」

なおも距離をとろうとしていたジョニィは相手の不思議そうな声が途中で止まったのを聞き、そちらを見て目を疑う。
今度は『空条承太郎』の顔に『文字』が当たり、顔面がまっぷたつに切り裂かれていた。

(こ、これはッ………この攻撃はまさかッ!!)

ジョニィは先程『文字』が飛んできた方向へと顔を向ける。
やはりそこに立っていたのは………

「お前は―――!!」


―――予感はしていた。
主催者の背後にヴァレンタイン大統領が関わっているとすれば、自分を野放しにしておくはずがない。
そして死んだはずの『この男』が生きて目の前にいる―――Dioと同じように。
ここに至って、ジョニィは確信を得た。

(やはり、スティール氏の背後には大統領がいる………間違いないッ!)


立っていたのは――――――サンドマン
かつてジョニィが、自らの手で命を奪ったはずの男。


(死んだはずの人間を見るというのは、もう何度目だろう………なのにどうして、会うのは『敵』ばかりなんだッ!)

位置的にはやや離れているとはいえ十分狙える距離だったが、それはすなわち相手の射程内でもあるということ。
ジョニィは後ずさりしながら上半身だけを起こし、サンドマンに向けて『タスク』を構える。
一方、ジョニィの方へと向き直ったサンドマンはその様子を見てわずかに眉をひそめながら口を開く。

「………恩を売るつもりはないが、おまえは自分を助けた相手に礼のひとつも言わず、構えるのか?」
「だまれッ! ぼくは『遺体』を持っていない、これから手に入れるのも不可能だし欲しいとも思わないッ!
 もう全ては終わったんだ!! それでも、金のためにぼくの命を奪うつもりか!?」
「………………」

以前と全く変わらぬ声で喋るサンドマンに対し、大声で一気にまくし立てる。
相手は無表情のままだったが、その言葉を受けて纏う雰囲気が変化するのがよくわかった。
傍らに彼のスタンド『イン・ア・サイレント・ウェイ』が姿を現す。

「………おまえが何を言っているのか、それになぜオレの目的を知っているのかはわからないが、終わってなどいない………
 祖先からの土地を買う………そのために『金』を集めるというオレのやるべきことはな………」
(くそっ! やっぱりこうなるのか………マズイな)

このサンドマンが大統領と無関係だったら、あるいは空条承太郎のように『偽物』であってくれたらと微かに期待を抱いていた。
だが見た限り相手は確かに『本物』であり、自分に用があるのも間違いなさそうである。
以前サンドマンを倒したときに使ったAct2も、鉄球も無い今の状態で勝てるかどうか、既に答えは見えている。
相手は狩人、自分は獲物………状況はかつての戦いのときよりも悪い。
しかし、ジョニィのほうも簡単に諦めるつもりはさらさらなかった。

(ジャイロに会う………そう決めたんだ。それまで死ぬわけには行かない………
 だけどどうする? 少なくとも「隙」をつかなければどうしようも………
 いや、待てよ? 確かサンドマンはさっき………)

自分が知る限り、サンドマンは何も無いのに目に見える隙をつくるような間抜けではない。
ならばどうするか、答えは一つ。

(隙がなければ、つくるまでだ………ッ!)

先程までのやりとりの最中に、ジョニィは気付いたことがあった。
サンドマンは先程『なぜオレの目的を知っているのか』と言った―――それはすなわち、『おそらくこのサンドマンは自分との戦いを経験してはいない』ということ。
ジョニィはそこから一つの策を思いついていた。

「それに悪いが、おまえが『遺体』を持っていないという言葉は信用できない………おまえのスタンドがその証だ」
「サンドマン……………………」

ここから先はしくじったら死ぬ、またしてもそういう世界だ。
果たして、自分の企みは上手くいくだろうかと考えながらジョニィは呟いた。


#


(あれはジョニィ・ジョースター……? ヤツもここにいたのか………)

ミラションのいた家を離れてからしばらくして、街を駆けていたサンドマンは妙な男に襲われているジョニィを発見していた。
情報を集めるにしても厄介事に巻き込まれるのは避けたかったため、遠くから聞こえた轟音も地面を走るタンクローリーも無視してきた彼だったが、今回ばかりは事情が違った。
殺し合いの前に受けた取り引きの条件―――『遺体』を3つも持っているらしい対象のうち一人を発見するという好機。
しかも発見した二人はお互いのことで手一杯で、まだ自分の存在には気付いていないようだった。

(ジョニィ・ジョースターを始末してくれるのはかまわないが、手段がマズイな………)

どちらか一方が倒されるまで待っていることも考えたが、スタンドによる捕食……それによりジョニィの持つ『遺体』まで喰われてしまってはどうなるかわからない。
やむを得ず『固める音』と『切る音』の二つを使って襲っている男を倒し、ジョニィを助けた。
『遺体』を素直に差し出せば命まで奪う必要はないと思っていたが、交渉の前に相手はいろいろとわけのわからないことを喋ってきた。
理解不能な部分は無視して要約すると、相手は『遺体』を渡すつもりが無いどころか、どういうわけかこちらの目的まで全て知っているようだ。


――――――すなわち、殺して奪い取るしかない。


このとき二人の認識には多少のズレがあったのだが、どちらもそのことには気付かなかった。

「それに悪いが、おまえが『遺体』を持っていないという言葉は信用できない………おまえのスタンドがその証だ」

取り引きをするにあたって、相手の情報は聞いている。
ジョニィ・ジョースターとジャイロ・ツェペリは遺体の所有者となることで『スタンド能力』を手に入れた、と。
能力が存在するということは、ジョニィは遺体を所持しているとみて間違いない。

「サンドマン……………………」
「『サンドマン』…………?」
(最初に目を合わせたのはいつだったか覚えていないが………以前とは明らかに目つきが違うな)

ただ怯えるだけの獲物の目つきではない。
この男なら命を奪う前に間違いを正すのも良いかもしれないと考え、サンドマンが口を開く―――直前にジョニィが言葉を割り込ませた。


「お前は次に『それは白人が勝手に聞き間違えて呼んだ名前 直訳は『サウンドマン』……』という」
「それは白人が勝手に聞き間違えて呼んだ名前 直訳は『サウンドマン』……!?」


自分の言葉を正確に言い当てられる―――サンドマンの一瞬の動揺、だがその刹那にいち早く動いたのはジョニィでも、サンドマンでもなかった。
今まで死んだ振りをしていたラバーソールが好機と思ったのか、こっそりデイパックから取り出した『ある物』に指を突っ込み、投げつけたのだ。
投げつけられた先にいたサンドマンは反射的にスタンドでそれを叩き落す―――この間わずか3秒。

サンドマンは自分が叩き落した物の正体を確認しようと視線だけをそちらに向ける。

(………果物?)

そこに落ちていたのは穴が開いたオレンジがひとつ。
サンドマンがその穴の中に妙な金属を確認するのと、オレンジが閃光を放ったのはほぼ同時であった。



ド ゴ ォ オ ォ ン ! !



(―――ッ!!)

小規模ながら人間一人に重傷を負わせるには十分なほどの爆発が起こる。
サンドマンはスタンドと音で襲い掛かってきた爆風から身を守り、同時に煙に包まれて視界が遮られる中での攻撃を警戒した。
予想通り、煙の向こうからジョニィの放ったと思われる爪弾が飛んできたが、これを難なくはじく。
続いて数秒後、後方にいる何者かの殺気を感じ取り、振り向きざまに『切る音』を飛ばす。

「どわっ!?」

そこにいたのはジョニィではなく別の男だった。
その体に黄色いスライムのようなスタンドが蠢いているところを見ると、どうやら先程ジョニィを襲っていた男であり、先程の頭もスタンドで作った『偽物』だったようだ。
飛ばした音は命中したようだがスタンドで防いだらしくダメージは無し、男は不利と判断したのか一目散に逃げていった。

(追う必要はない、爆弾を投げつけたのはおそらくあの男だろうが、今優先すべきはジョニィ・ジョースターのほうだ)

そうこうしているうちに爆風が収まり、視界がはっきりしてくる。
だが煙が晴れたとき、そこにジョニィの姿は影も形もなかった。

(ヤツの脚は動かないはず………馬も無しに遠くへ逃げられるはずがない)

ここでサンドマンはミスを犯してしまう。
彼がジョニィたちを発見した時点で、ジョニィは尻餅をついた後這って逃げようとしていた。
そしてその後も相手の前で立ち上がることをしなかったため、サンドマンはジョニィが『立つ』姿を見ていなかった。
加えて、なまじジョニィのことを元から知っていたために相手が歩けるという考えに至らず、『近くに潜んでいる』と思い込んでしまったのだ。
周囲に音で罠を張りつつ見える範囲の物陰や建物内を警戒しながら確認していくが、見つかったのは知らない男の死体一人分のみ。
しばらくして、サンドマンは首をひねることになる。

(………おかしい。ヤツは、ジョニィ・ジョースターはどこに消えた?)

付近の建物を再度調べてみても誰かが進入したような形跡や、自分の作った音の罠にかかった痕跡すらない。
試しにスタンドを消して「無防備」な状態を演出して見せても、ジョニィが攻撃してくる様子はなかった。

(考えたくはないが………これは「逃げられた」かもしれないな)

ジョニィは何らかの移動する手段を持っており、あの爆発のときに迷わず逃走を選択し、わき目も振らずに一直線に逃げていったのではないか?
この考えが正しければ周囲を警戒していた自分が時間を無駄にしている間にだいぶ距離が離れてしまった可能性がある。

(ここは一本道………爆発の直後、視界は悪かったがジョニィ・ジョースターがオレの側を通り過ぎたような様子は無かった………
 となると、ヤツが逃げたのはおそらく北の方向………逃がしはしない、この脚で必ず見つけ出し『遺体』を手に入れる………)

現在は自分も相手も一人きり。だがジョニィがジャイロ・ツェペリをはじめとする誰かと合流でもされると厄介なことになる。
一刻も早く『遺体』を回収するべきだ、と考えたサンドマンは薄明るくなり始めた街の中を全速力で駆け始めた―――



【E-8 路上 / 1日目 早朝】


【サンドマン(サウンドマン)】
[スタンド]:『イン・ア・サイレント・ウェイ』
[時間軸]:SBR10巻 ジョニィ達襲撃前
[状態]:爆風によるかすり傷(行動に支障無し)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(ただしパンは一人分)、ランダム支給品1(元ミラションの物・確認済み)、サンドマンの両親の形見のエメラルド、フライパン、ホッチキス
[思考・状況]
基本行動方針:金を集めて故郷に帰る
1.ジョニィを見つけ出し、『遺体』を手に入れる
2.故郷に帰るための情報収集をする
3.必要なのはあくまで『情報』であり、次に『カネ』。積極的に仲間を集めたりする気はない

※ジョニィが北へ逃げたと考えていますが、正確な方向まではわかっていません。


#


先程の路上から南へと逃げてきたラバーソールは振り返り、誰も追ってきていないことを確認すると立ち止まる。

「チキショー……上手くいくと思ったんだがなあ」

脅迫という当初の作戦は失敗したものの、不意打ちでガキを喰えると思っていたら妙な格好をしたサンドマンとかいう男が突然邪魔をしてきた。
『顔』は撃たれたり切り裂かれたりしたものの、自分より身長の高い承太郎に化けるにあたって顔は全て本体の頭の上につくった『偽物』なので問題はない。
ガキとサンドマンは知り合いらしかったがどうも雲行きが怪しかったため、死んだ振りをしながら漁夫の利を狙うつもりだったが行動のタイミングが早すぎた。
隙を見て厄介だと判断したサンドマンに投げつけた爆弾は大してダメージを与えられず直後の奇襲も失敗、どさくさまぎれにガキのほうには逃げられるというおまけつき。
結局、実利といえるものは何一つ手に入らない結果に終わってしまった。

「しっかし『黄の節制』をスパッといっちまうとはねぇ………あのヤローのスタンドはちっとばかし厄介だな」

『黄の節制』の防壁は爆弾一個の爆風で吹っ飛ぶほどヤワではなく、サンドマンの攻撃もどうにか防いだため怪我は無い。
だが飛んできた『何か』を防いだときに『黄の節制』がたやすく切断されたために危険を感じ、逃走を選んだのだった。
ラバーソールはサンドマンの攻撃の正体までは気付いていないが、いかに『黄の節制』といえど『音』を食うことは出来なかったようだ。

「ったく………承太郎といい、あのガキといい、サンドマンのヤローといい『疑わしきは罰せず』って言葉を知らねーのかね、ホント」

承太郎との遭遇、ガキからの奇襲、サンドマンへの攻撃失敗………
思い返してみれば先程からどうもツキに見放されているように感じる。

「ま、サンドマンっつー場違いヤローの名前もわかったし、あんまり欲張りすぎるのも考えモンか。
 いい加減疲れたし、おれは『節制』らしく放送までどっかでおとなしくしとこうかね、ヒヒヒ」

スタンドの名前とは裏腹に『節制』という言葉から程遠い男は勝手なことを言いながらも歩き始めるのだった―――



【F-8 川尻家前 / 1日目 早朝】


【ラバーソール】
[スタンド]:『イエローテンパランス』
[時間軸]:JC15巻、DIOの依頼で承太郎一行を襲うため、花京院に化けて承太郎に接近する前
[状態]:疲労(大)、変装解除中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×3、不明支給品2~4(確認済)、首輪×2(アンジェロ、川尻浩作
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残って報酬ガッポリいただくぜ!
1.疲れたし、放送までどっかでひと休みするか
2.空条承太郎…恐ろしい男…! しかし二人とは…どういうこった?
3.川尻しのぶ…せっかく会えたってのに残念だぜ
4.承太郎一行の誰かに出会ったら、なるべく優先的に殺してやろうかな…?

※サンドマンの名前と外見を知りましたが、スタンド能力の詳細はわかっていません。
※ジョニィの外見とスタンドを知りましたが、名前は結局わかっていません。


#


「ハァーッ………ハァーッ………………」

こんなふうに自分の足で全力疾走をするのはいつ以来だろうか。
こんなふうにたったひとりぼっちで走るのはいつ以来だろうか。
『スティール・ボール・ラン』レースでも似たようなことはあったが、あの時の自分は馬に乗り、そして傍らにはジャイロがいた。
今は本当に誰もいない、ひとりきりで走り続けたジョニィはようやく一息つくことができた。

「Dioとは違ってスタンドも『同じ』だったけど、あれは間違いなくサンドマンだった………」

心情的には逃げたくなかったが、あの場は一旦退くしかなかった。
サンドマンの手の内はわかっており、当時感じていた『恐怖』もすでに克服した。
とはいえ、Act1しか使えない今の自分が正面から戦って勝てる相手ではないということは身に染みてわかっている。
だからこそサンドマンが叩き落したオレンジが危険なものだと判断した瞬間、牽制のために数発の爪弾を撃ち、全速力で駆け出したのだった。
その判断が良かったのに加えて距離があったため、爆発による目立った怪我はなかったが、自分を取り巻く問題は何も解決していない。

「たぶん、あの爆弾はさっきの『偽物』の仕業だろうし、サンドマンもあんな爆発程度でどうにかなるとは思えない………
 『偽物』のほうはともかくとして、サンドマンの脚力ならぼくが追いつかれるなんてあっという間だろうな………」

距離をとることには成功したようだが、相手の走る速度は自分のそれよりも遥かに速い。
おそらく、そう遠くない未来に彼は再びジョニィの前に現れるだろう。

「悔しいけど、今のぼくがサンドマンに勝つなんて『できるわけがない』………だけどそれは『このまま』だったらの話だ」

レースにおいても他のことにおいても『逃げ』は『恥』ではない、『放棄』することが『恥』なのだ。
そういう意味で、まだ闘う意思をなくしていないジョニィは『途中で逃げ出すただのクズ』では断じてなかった。

「あのサンドマンもDioと同じように大統領が『異次元』から連れてきたんだろうか?
 ………いや、今は考えるのはよそう、サンドマンは必ず追ってくる………何かが、ヤツを倒すことができる『何か』が必要だ」

再び遭遇する前に相手を倒す手段を見つけなければならない―――かつて自分が戦いの中で『成長』したように。
それは黄金長方形の『本物』か、それとも協力してくれる『仲間』か、はたまたまったく別の『何か』か。
それを探すために、彼は歩を進め続ける。


ジョニィ・ジョースター―――一時撤退。



【D-7とD-8境目の路上 / 1日目 早朝】


【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:疲労(中)、打撲(数か所、行動に問題はない)、爆風によるかすり傷(行動に支障無し)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1~3(確認済)、拳銃(もとは召使いの支給品。残弾数不明)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いたい。
0. 追ってくるであろうサンドマンから逃げつつ、倒す手段を探さなくては!
1.ジャイロを探す。
2.スタンドが“退化”してしまった。どうしよう……
3.謎の震源(コンテナが落ちたところ)に向かってみるか?
4.今は考えないことにするけど、大統領がスティール氏の背後にいる?

※サンドマンをディエゴと同じく『D4C』によって異次元から連れてこられた存在だと考えています。


[備考]
  • ラバーソールが使用したオレンジ爆弾(3部)はアンジェロの支給品であり、彼の支給品はこれひとつだけでした。
  • E-8中央の路上に音の罠がいくつか仕掛けられました。
  • E-8中央で爆発音が響き渡りました。小規模なものなので、離れていれば爆発の音とは思わないかもしれません。



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前話 登場キャラクター 次話
088:弾丸 ラバーソール 128:目に映りしものは偽
088:弾丸 ジョニィ・ジョースター 118:彼の名は名も無きインディアン
056:獲得 サンドマン 118:彼の名は名も無きインディアン

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最終更新:2012年12月27日 16:35