おはよう、諸君。時刻は午前六時ちょうど、第一回放送の時間だ。
そうだな……まずはおめでとう、と言うべきだろか。君たちは知らぬことだが、この六時間、なかなかどうして楽しかったよ。
フフフ……色々あったと言ってしまえばそれまでなのだが、それではあまりに素っ気ないな…………。
そう、僅か六時間! “たった”の六時間の出来事だったというのに!
日常であればそれはあっという間の時間、日々の出来事で流されていくにすぎない時間だ。
ところがどうだ、このバトル・ロワイアルにおける六時間の長い事ッ!
とても興味深かったよ……。
強さを欲し戦いに明け暮れたもの。命惜しさにひたすら逃げ回ったもの。探し人求め翻弄したもの。恐怖におびえ隠れ続けたもの。
様々な参加者がいた。だが誰一人とて、どの参加者とて、無駄に過ごしたものはいなかった……。
ああ、なんということだろうかッ! なんという命の輝きッ なんという生命力ッ!
どうして命が燃え尽きる間際、君たちはそうも輝くのかッ! 何故死に際に君たちはそうも美しいのかッ! なにゆえにこうも私を夢中にさせてくれるのだッ!
様々なものたちがいた。様々な生きざまがあった。
だが生き残ったのは君たちだけだ! 運命の綱渡りを渡り切り、そして君たちは生き残ったのだ……ッ!
おめでとう、生存者たちよ! おめでとう、選ばれし運命のものたちッ!
君たちは運命に打ち勝ったのだッ 胸を張り、誇りに思ってくれたまえッ
おめでとう、生存者たちよ……ッ! おめでとうッ!
―――すまない、私としたことがつい興奮してしまった……話しがそれてしまったな。
そう、放送だ。死亡者と禁止エリアを伝える、それがこの放送の目的だというのに。申し訳ない。
ではそろそろ本題に……と、いきたいところだが、その前に……君たちの内、何人かは疑問に思わなかっただろうか?
……そう、他でもない名簿だ! 私は確かに後々名簿のほうを配布すると言っていたが……不思議に思わなかったかね?
名簿を配布する? 一体どうやって? まさか私が一人一人君たちのもとを訪ねて直接手渡すとでも?
勘がいい諸君ならば思い当たるんじゃないかな……? あるいはもう既に『到着』していて、突然の来訪に驚いているころかな……?
……私はロマンチストでね、ゲーム開始直後のように直接君たちの元へ送り込んでもいいのだが、それはいささか味気ないと思ったのだよ。
そこで私はこう考えたッ! 伝書鳩だ、と! どこに行こうとも必ずや手紙を運ぶあの賢い鳥たちの手を借りたならば、それはさぞかし素敵に違いない! とね。
平和の象徴鳩が運んだ名簿に、殺し合いで亡くなった死亡者をかきこむ。なんともまぁ皮肉が効いていいとは思わないか……!
……おっと、またもや話がそれてしまった。これ以上長引くのもなんだ、さっさと本題にうつろう。
それではお待ちかね……死亡者と禁止エリアの発表だ。聞き逃さないよう、注意して聞いておきたまえ。
あらかじめ言っておくが、私は二度繰り返すようなことはしない。一度逃せばそれっきりだ。
それだけこの情報とやらは貴重で、皆のこれからのカギを握るのだ。そのつもりで今一度肝に銘じ、そして心して聞いてほしい。
それでは始めよう。只今より死亡者を発表する!
この六時間で死亡した者たちは……
以上、総勢76名! この六時間に死亡したものは今読み上げた76名の者たちだ!
この数を君たちがどう受け取るかは君たちしだいだ。多くは語るまい! だが、しっかり考え、そして必要があるならば方針を変えるのも大いに結構ではないだろうか。
もう一度、確認を込めて言うが優勝者には『全てを渡す』覚悟が私にはある。もう一度繰り返そう、“私に叶えられない願いはない”!
そのことを肝に銘じ、そして今まで以上に殺し合いに励んでくれたまえ……!
では続いて、禁止エリアの発表といこう。こちらも一度しか読み上げない。気をつけたまえ。
それでは発表しよう、今回の禁止エリアは……
7時から D-1が
9時から F-2が
11時から C-8が
以上三か所が今回の禁止エリアだ。戦闘の際は充分注意してくれたまえ。
……さて、放送は以上だ。第二回放送は同じく六時間後、太陽が真上に上る12時きっかりに行う。
この放送は私、スティーブン・スティール、“スティーブン・スティール” がお送りした。
諸君、また六時間後に会おう! 君たちの今まで以上の健闘を、私は影ながら応援しいるッ
それでは良い朝を!
◆
「ノックして、ドジャァァ――――ン……! 失礼するよ、スティール君」
「…………」
「放送、聞かせてもらったよ。気がすすまなそうな割にはノリノリだったじゃないかァ……。
内容も悪くない。我々に反旗を翻しそうな奴らを煽るだけ煽り、失意に沈む参加者には改めて優勝商品を突きつけ、炊きたてる。
極めて優秀だよ、スティール君。プロモーターの名に恥じない出来だ。素晴らしい、称賛させてもらおう……!」
「…………」
「フフフ、悪人を演じることには慣れている、ってことかな? スティール・ボール・ラン・レースがよい予行練習になっているのかもしれないな。
ただ一つ文句をつけるとしたならば、アドリブの部分はいただけないところがあった。それも大きな致命傷になりかねない、ね。
君もわかっていて言ったんじゃないか? そうじゃなければわざわざ“二回も”繰り返すことはなかったはずだ。
君は敢えて強調したんだ。参加者たちに読みとって欲しくて、“敢えて”その部分を繰り返したんだ。違うかい?」
「…………」
「名簿の中身は君も確認済みのはずだ。だとしたならば尚更、君は確信犯だ。知っていてそうしたんだ。
ふむ、一緒に行動しているのは、あの“
ブローノ・ブチャラティ”か。なるほど、彼なら“信用できる”。
君がそう思うのも仕方ないことだ。確かにこの六時間の行動を追えば、彼ならば信頼してもいい、そう判断にたりえる人物だな」
「…………」
「スティール君……いや、スティーブン・スティール。諦めたほうが身のためだ。
どれほど君が想えど、願えど、もう歯車は止まらないのさ。
確かに延命は可能だ。“主催者”の妻となれば即座に殺す、という判断はなされないはずだ。
少なくとも今のブチャラティがその決断を下すことはあり得ない。それには私も同意するよ」
「…………」
「だが、それも無駄なあがきだ。何度でも言おう、このバトル・ロワイアルはもはや私たちの手を離れ、既に動きだしてしまっている!
覚悟を決めるんだ、スティール君ッ 六時間後、君が妻の名を読み上げないで済む保証はどこにだってないッ
全ては“運命”のとおり……フフフ、そう! 運命のみぞ知っているッ この行く先は、我々すら知りえない、“神のみぞ知る領域”なのだよ!
「…………」
「フフフ…………、フハハハハハ――――――ッ!!」
扉が閉じられる音が聞こえた。電気もつけていない仄暗い部屋で、老い枯れた男がポツリと呟きをこぼした。
これ以上ないほどの絶望、縋りつく様な懇願。
老人は椅子から崩れ落ちると、膝をつき、手を組む。罪人のように項垂れながら、彼は妻の名を呼んだ。
「―――ルーシー…………ッ!」
返事は返ってこなかった。
[備考]
放送は謎のマジックパワーで会場中に響いてます。
名簿は サヴェッジガーデン@Part6 ストーンオーシャン が運びます。地下とかでも謎のマジックパワーで辿りつくので大丈夫です。
モブキャラはちゃんと本名で呼ばれてます。
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最終更新:2014年11月09日 00:36