何ゆえ、もがき生きるのか

薄暗い小部屋で仰向けに横たわる少女、多々良小傘
彼女の手を握り、その傍らで静かに佇む金髪の少年、ジョルノ・ジョバァーナ
幌の中から顔を覗かせて周囲を警戒する少女、トリッシュ・ウナ

彼らが今居るのは、B-2エリアの草原地帯。
雑多な草木が生い茂る一帯の、小山にのような地形に葛のツルが絡み付いて盛り上がっている陰に
隠れる様にして小傘の治療を行っていた。

実はツルの中には、幌の付いた軽トラックが停められていた。ジョルノの支給品の一つである。
4輪駆動とはいえ、タイヤの径が小さいこの車で整地もされていない原野を夜間に突っ走るのは非常に危険なので、
今まで乗って走行することは敢えてしなかった。
だがこの車、幌が荷台の運転席の高さまでをすっぽり覆っているので、
走行できなくとも小さなテントとして使用するには十分だった。
ジョルノたち一行は、この軽トラックの荷台を即席の休憩所代わりとしていたのだ。
ちなみに、トラックの周囲を覆う葛のツルはジョルノのスタンド『ゴールド・エクスペリエンス』によって
生み出されたもので、草原に紛れるための偽装である。

幌のすき間から周囲をのぞくトリッシュが、ジョルノに話しかけた。

「ジョルノ、相変わらず周囲に人影は見当たらないわ。その子の様子はどう?」

「脈は安定しています。こうして『手を握り続けている』限りは。
 ……ですが、手を離すと駄目です。
 『ゴールド・エクスペリエンス』で触れていると分かるんです。
 この子の魂は、ヘリウムを詰めた風船の様に天へと昇っていこうとしている……」

「文字通りに、『手が放せない状況』というわけね……
 もう三時間になるわ……」


夜の闇は晴れ始めていた。
トリッシュの言葉どおり、ジョルノ達が南進中に小傘の容態の急変に気付いて、即席の拠点を設置してから
既に三時間が経過しようとしていた。
その間、ずっとジョルノは昇っていこうとする小傘の魂を引き止め続けていた。

安らいだ表情で静かに呼吸する小傘を眺めながら、ジョルノがポツリと呟いた。

「……『スタンド』だったのは、実はこの子の方なのかもしれない」

「え?」

「『無生物』に宿るスタンドを、ボクは知らないけど……。
 あの破壊された傘こそが『本体』で、この子の方が『スタンド』のようなものだとしたら……」

「…………」

「…………」

その後に続く言葉を、ジョルノもトリッシュも口に出すことはできなかった。
「『本体』を壊されたこの子はもう死んでいる。魂をあるべき場所に行かせてやるべきだ」とは、とても言えなかった。
言えなかったが、その沈黙の意味は確かに共有されていた。

「……どうするの?」

恐る恐る、トリッシュが尋ねた。

「……まだ、助からないと決まった訳じゃない」

今回初めて一瞬の間を置いて、ジョルノはそう答えた。
既に同様のやりとりを三回行っていたが、間を置いたのは今回が初めてだった。

主催者打倒の為にミスタを始めとした仲間を探す必要がある以上、ずっとここでこうしているわけにはいかない。
ディアボロや、先ほど交戦したウェザーのような危険人物を野放しにもできない。
……苦渋の決断を下さなければならないのではないかと、二人は感じ始めていた。


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多々良小傘の見下ろす視界には、相変わらず横たわり続ける『身体』と、
その手を握り続ける少年の姿があった。
『身体』を抜け出て天に昇ろうとする『小傘』を繋ぎ留めているのは、まさにその手だった。

小傘は、また一つ魂が天に昇ってゆくのを感じていた。
視界は幌とツルに覆われているが、身体から抜け出てむき出しになった魂は、感じ取る事ができる。
今度も東の方角、男の人の……いや、人ならざる何かの魂の様だ。妖怪……私と同様の付喪神なのだろうか。
登ってゆく魂に未練が……無いわけではないが、
それでも使命に殉ずることができて満足しているように感じられた。

私と同じだ。
私もやっと、『モノ』としての使命を全うすることができた。
ださい色遣いの傘だと笑われ、打ち捨てられて幾星霜。
気がついたら人と似た身体が生えていて、腹いせに人間を脅かして回ってきたこんな私が、
最期に人を守る為に使われ、朽ちることができた。
だから、もう、未練は無かった。
あとは一足先に昇っていった『傘』を追って、あるべき場所に逝くだけなのだ。

……だというのに、この『ジョルノ』という少年は手を離してくれない。
だから、私は天へと昇ってゆくことができない。
もうずっと、三時間もこの状態だ。
使命を全うし、あとは天に還ってゆくだけの魂を、ずっと引き留めてくれている。
本当に『善い』人間たちだ。

……だからこそ、彼らにはもう死んでいる私には構わず、まだ生きている人たちの為に頑張って欲しい。
けれども、この人達は『善い』人だ。このまま私につきっきりで、行動を起こさずにいるかも知れない。
どうにかして、彼らに一言告げたかった。「あたしの事は……もう、いいの。ありがとう」……と。

だけど、この『欠けた魂』では『身体』を動かし、別れを告げることは
この三時間で色々試したが、どうやってもできなかった。


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……その時だった。
トリッシュが周囲の警戒に戻ろうとして動いたその時、
小傘の傍らに置かれていたデイパックから紙切れがこぼれ落ちたのだった。
落下の衝撃で折りたたまれていた紙切れが広がり、
中からビニール傘と銀色の円盤が出現した。
円盤は車輪の様にコロコロフラフラと転がり、小傘の頭の傍で失速。
小傘の頭に向かって倒れこみ……そのままめり込んでいった。

「う、ん……」

小傘の目がゆっくりと開く。

「……!トリッシュ、トリッシュ!目を覚ましました!この子が!」

いち早く気付いたジョルノが、押し殺した声で叫んだ。

「えっ!……これは、私の支給品の『DISC』!?」

振り返って驚愕するトリッシュ。

「え……あれっ?あれ!?」

だが一番動揺していたのは、小傘だった。
何が起こったか、全くわからない。

「君、どこか痛む所はない!?」

「え……うん」

「大丈夫!?立てるかい!?」

「あ……うん、大丈夫だと「そうだ……名前!貴女、名前は!?」

「多々良、小傘……」


おまけに二人から嵐のような質問攻めに遭い、寝起きのボケた頭で答えるのは非常に苦労した。
ダメ押しにジョルノという人は気付いているのかいないのか、
『もう大丈夫』だというのにことさらに強い力で手を握ってきているので、小傘は何だかすごく恥ずかしかった。
ジョルノのヘアスタイルは奇抜だが、顔そのものは結構美男子なのが災いしていた。
女の子の姿で長年生きてきているとはいえ、小傘の男に対する免疫は皆無なのであった。

「ちょ、ちょっと顔が赤くなってない、この子!?」

「い、いや、これは、その、もうっ、手ぇ離してよー!」

「……本当に離していいのか?」

「えっ…………うん、私の頭に入ってきた変な円盤が、私の『欠けた魂』を補ってくれているみたい。
 ほら、こうして手を離しても、もう大丈夫でしょ?」

「スタンド『DISC』にこんな機能があったなんて……」

「でも、良かった……本当に良かった」

「そういうものなの?」

小傘には、二人にとって見ず知らずだった自分が生きていることで
なぜこんなにも喜んでくれるのか、理解できなかった。
……だけど、その喜びを無下にすることはできなかった。

「もう、いいの」

と言ってDISCを抜く事はできなかった。

ほんの偶然によって拾ったこの生に、もう少ししがみついていたいと思った。


【B―2 草原地帯/早朝】

【ジョルノ・ジョバァーナ@第五部 黄金の風】
[状態]:体力消費(中)、スズラン毒を無毒化
[装備]:軽トラック@現実(燃料100%、植物を絡めて偽装済み)
[道具]:基本支給品、不明支給品×1(ジョジョ東方の物品の可能性あり、本人確認済み、武器でない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と合流し、主催者を倒す
1:ミスタ、ブチャラティに合流したい。
2:小傘を連れて行くべきか?
3:ディアボロをもう一度倒す。
4:あの男(ウェス)、何か信号を感じたが何者だったんだ?
[備考]
※参戦時期は五部終了後です。能力制限として、
 『傷の治療の際にいつもよりスタンドエネルギーを大きく消費する』ことに気づきました。
 他に制限された能力があるかは不明です。
※星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※地図、名簿は確認済みです。
※小傘の名前を聞きました。


【トリッシュ・ウナ@第五部 黄金の風】
[状態]:体力消費(小)、スズラン毒を無毒化
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~1(現実出典、本人確認済み、武器でない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と合流し、主催者を倒す
1:ミスタ、ブチャラティに合流したい
2:ディアボロをもう一度倒す
[備考]
※参戦時期は五部終了後です。能力制限は未定です。
※血脈の影響で、ディアボロの気配や居場所を大まかに察知できます。
※地図、名簿は確認済みです。
※小傘の名前を聞きました。


【多々良小傘@東方星蓮船】
[状態]:疲労(大)、妖力消費(中)、スズラン毒を無毒化
[装備]:化け傘損壊、スタンドDISC『キャッチ・ザ・レインボー』
[道具]:不明支給品(ジョジョor東方)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗りたくない
1:二人の為に、もう少し生きていたい。
[備考]
※化け傘を破損して失った魂の一部を、スタンドDISCによって補うことで生存しています。
 スタンドDISCを失ったら魂が抜け、死にます。

支給品紹介

<軽トラック@現実(燃料100%)>
日本特有の軽自動車規格に合わせて作られた、小型トラックの一種。
低出力でスピードはあまり出ないが、小型で小回りが利き、作業用車両として広く用いられている。
カラーは白。4輪駆動仕様で、ある程度なら悪路も走れるが、タイヤの径が小さいため過信は禁物。
荷台にはグリーンの幌が張られており、雨の日の輸送も安心。

<スタンドDISC『キャッチ・ザ・レインボー』@ジョジョ第7部 スティール・ボール・ラン>
本来は大統領の部下・ブラックモアのスタンド。
虹があしらわれた仮面をヴィジョンとして持つ。
雨粒を空中に固定し、本体以外の物理的干渉を受けなくすることができる。
また、本体と雨と同化させて空中を飛行することも可能。
雨が降っていない時は役に立たない。
ブラックモアのビニール傘がおまけとして付属している。

<ブラックモアのビニール傘@ジョジョ第7部 スティール・ボール・ラン>
何の変哲もない、普通のビニール傘である。

073:戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ 投下順 075:ロワの開始も信心から
073:戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ 時系列順 075:ロワの開始も信心から
049:”HAIL”2U! 多々良小傘 105:人妖彼岸之想塚
049:”HAIL”2U! ジョルノ・ジョバァーナ 105:人妖彼岸之想塚
049:”HAIL”2U! トリッシュ・ウナ 105:人妖彼岸之想塚

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最終更新:2014年11月08日 19:51