目を開くと、星が煌めく夜空が視界に広がっていた。
夢から醒めた後のような不明確な意識を整えつつ、現状を把握しようと頭を回転させる。
背中に、腕に、首筋。身体の至る所から感じるのは煩わしい幾つもの感触。
それが無数の雑草が触れていることによるものだと、少しずつ確かになりつつある自身の五感が認識していた。
自分が仰向けになって倒れていた、ということを『彼女』はその場で理解する。
「……うぅ、…ん………」
彼女はゆっくりとその場で身体を起こし、目を擦りながら周囲の風景を見渡す。
辺りに広がるのは雑草の生い茂る大地。
所々に木々が立つのは見えるが、それ以外は際立って目立ったものもない。
この風景は、何となく見たことがある気がする。少なくとも此処が『幻想郷』であることは理解出来た。
恐らく幻想郷の外れに位置する地点か。人里からも遠く離れているような、言わば野良の妖怪がうろついているような場所だろう。
現状を認識した彼女は、戻り始めた意識の中で『先程までの記憶』を掘り返していた。
荒木飛呂彦。太田順也。
ゲーム開幕の宣言。
ざわつく会場。
食って掛かったのは、あの秋の神様。
目の前で起こった惨劇。
殺し合いという現実。
――――そして。
「…夢じゃない、よね…これ…」
今、この場にいる自分。
夢にしてはあまりにも生々しかったし、現実味を帯び過ぎた感覚だった。
幻想郷のように見えるこの地でさえ、殺し合いの場に過ぎないなのだろう。
現状の全てを漸く思い出してから…私は、急に心細くなり始めた。
ひとりぼっち。殺し合いという現実。誰を信用すればいいのかも解らない。
誰かが死ぬ。誰かが殺される。嘘やまやかしでも、冗談でもない。それはあの秋の神様の死を以て思い知らされた。
彼女が死ぬ瞬間を思い出すだけで、身体が震えていた。
孤独の恐怖。始まってしまった殺し合いという現状への恐怖。死への恐怖。
守矢神社の風祝にして現人神である「
東風谷早苗」の胸中に渦巻くのは、数多の恐怖。
「…神奈子様…、諏訪子様…」
心細くなった彼女がぼそりと呟いたのは、自身にとっての『家族』の名。
今すぐにでもあの二人に会いたい。安心感を手に入れたい。
最初の会場を見渡した時に二人の姿は見かけたのだ。この殺し合いに巻き込まれていることは確実。
一刻も早く二人を見つけたかった。
だけど。
だけど…今、自分がやるべきことは…たぶん、違う。
怖いけど。恐怖に飲まれたままでいるのはもっと駄目だ。
そんな姿を見せたら、神奈子様や諏訪子様にも顔向け出来ないだろうから。
彼女は、すっとその場から立ち上がった。
拳をぎゅっと握りしめながら、渦巻く恐怖を誤摩化すように抑え込み決意を固める。
「…殺し合いを、止めなくちゃ…!」
自分がすべきことは何か。
それはきっと、この殺し合いを止めること。
恐怖に押し潰されて何も出来ないままなんて…そんな姿を見られたら、神奈子様や諏訪子様に叱咤されるだろう。
私だって、情けなく震えてるだけなんて真っ平御免だ。
怖くて仕方無いし、不安なのは事実だけど…そんなんじゃ、きっと駄目だ。
私は、守矢神社の風祝として。現人神として。
この『異変』を―――解決してみせる!
決意を固めてから間もなくして、後方から雑草を踏み頻る音が聞こえてきた。
早苗はすぐさま気付く。人がこちらに近づいて来ていると言うことを。
足音から、一歩一歩とゆっくり警戒するように歩いていることが解る。
殺し合いの場である以上、近づいてくるのが参加者であることは明白だろう。
予想よりもずっと早く、他の参加者と初めて出会うことになったのだ。
一体、どんな人物なのだろうか。
殺し合いに反対しているならば、まだいいけど。もし『乗っている人物』となれば―――
不安と期待を混ぜ合わせたような感情を胸に抱きながら、彼女は振り返った。
「…お前も『参加者』だな、お嬢ちゃん」
振り返った早苗が目にしたのは、鋭い視線を向けるスーツ姿の男だった。
片手に握り締めているのは一本のナイフ。
早苗と一定の距離を保ちながら、ドスの利いた低い声で彼女に話しかける。
「っ……………、」
「一つ質問させて貰う。お前は殺し合いに乗っているのか?」
彼女はごくりと唾を飲む。目の前の男性が『普通の人間』でないことは、すぐに理解出来た。
それは特殊な力があるとか、何か才能があるとか、そうゆう意味ではない。
早苗は、彼が「全うな生き方をしている人間」には思えなかったのだ。
身に纏う雰囲気はどこか物々しく、威圧感を漂わせている。
こちらを睨むように見据える目付きは刃物のように鋭く…冷たい。
少なくとも、目の前の男性がただ者ではないということは理解したのだ。
「…いいえ。私は…この殺し合いを止めるつもりです」
「………。」
早苗は目の前の男に向かって、ハッキリとそう言った。
対する男は、何も言わずに彼女の瞳を真っ直ぐに見ている。
沈黙のようにも思える。
その鋭い瞳に見据えられたことで早苗は思わず目線を逸らしそうになったが、何とかグッと堪えて男と向き合っていた。
少しの間、静寂のまま時が流れ続けるが――。
「…なら良い。俺も『今の所』は殺し合いに乗るつもりはない」
男はそう言いながら、ゆっくりと早苗の方へと近づいていった。
今の所、という表現に引っ掛かるものを覚えつつも早苗は近づいてくる男を見る。
がっしりとした長身の男の姿が先程よりも明確に見え始めてくる。
そして、早苗との距離にして数歩ほどの地点で男は立ち止まった…。
◆◆◆◆◆◆
「お嬢ちゃん。確か早苗、と言ったな」
「あ、…はい」
「興味深い情報を聞かせて貰ったぞ。感謝しておく」
早苗とプロシュートは、真夜中の草原で情報交換を行っていた。
木陰の下に隠れ、出来る限り目立たぬように互いに言葉を交わしていた
とはいえ、主に情報を話していたのは早苗の方。
プロシュートの方は極力自分の素性について語らなかった。
彼が語ったのは精々「ギャングの一員である」ということくらいだ。
やはりというか何と言うか、彼が堅気ではないことを知って早苗は少し表情が強ばっていたがプロシュートは特に気にはしない。
その後はプロシュートが早苗から出来る限りの情報を引き出すという形になっていた。
それもそのはず。彼女はこの会場の地図についての心当たりがあったからからだ。
故にプロシュートは早苗の言う「幻想郷」について積極的に聞き出した。
この会場の地図に酷似している所か、殆ど同じという幻想郷の地。
そのことについて聞き出せば有力な情報と成り得ると踏んだのだろう。
「しかし、妖怪や神々の住まう地…か。まるで御伽話のような世界だな」
「そりゃあ勿論ですよ。幻想郷は常識に囚われない幻想の楽園なんですから」
「成る程ね…。本当に、夢のような話だ」
そう呟きながら、プロシュートは内心思考する。
支給された地図を確認した際に、早苗から指摘されたのだ。
『この会場の地図は幻想郷の図面と殆ど同じだ』と。…コロッセオやポンペイなど、何故かイタリアの観光地なども見受けられたのが不自然だったが。
そして目の前の早苗という少女は、外の世界から『幻想郷』に引っ越してきた身らしい。
彼女に幻想郷について聞き出してみれば、信じ難い話が次々と飛び出してきた。
外の世界で追いやられた妖怪達の最後の楽園。幻想が生き続け、人と妖怪、そして神々が共存する世界。
まるで嘘のような話だったが、嘘にしてはあまりにも出来すぎている。
幻想郷について話している早苗の様子を見る限りでもデタラメを言っているようには思えなかった。
故に彼は一先ず早苗の言葉を信用することにしたのだ。
だが、あの荒木と太田に関しての情報は得られなかった。
「あの二人は知らない」。早苗が確かにそう断言したのだ。
幻想郷を殺し合いの場として選んだあの二人が、何かしら幻想郷に関わりを持っているのではないかと踏んだが…
少なくとも、早苗からは情報を手に入れられなかったのは確かだ。
「得られた情報はこんなものか。さて、俺はこれからこの場から移動するが…お前はどうする?」
「その、改めて聞きますけど…プロシュートさんも、殺し合いに乗ってないんですよね?」
「…ああ、そうだ」
短くそう答えたプロシュート。
彼の返答を聞き、早苗は意を決したように言葉を出す―――
「だったら、私…プロシュートさんに着いて行きたいです!
『殺し合いに乗ってない人達』同士で行動出来た方が、一人で居るよりもずっと良いって思うんです」
「…………。」
「私は、この殺し合いを止めたい。…だけど、一人でやれることには限界があると言うことも理解しています」
「…………。」
「だから、その…プロシュートさん。何というか…私と一緒に、闘って欲しいんです!
迷惑をかけてしまうかもしれない、ってことも解っています。けれど…私も、出来る限りのことは全力で頑張りますから!」
…早苗の頼みに対し、彼は何も言わず。
小柄な彼女をじっと見下ろしながら、黙ったままでいる。
プロシュートを見上げる早苗の表情は、瞳は、真剣だ。
異変解決の為の、共に闘う仲間。早苗が求めているのはそれだったのだから。
―――そして、プロシュートがゆっくりと背を向けて独りでに歩を進め始める。
振り向きながら、彼は言葉を発した。
「好きにしな、お嬢ちゃん」
「―――っ、ありがとうございます!」
その一言は素っ気なくも、彼女の呼びかけに対する「肯定」であることはすぐに理解出来た。
早苗は表情を明るくして嬉しそうに礼を言いながら、プロシュートに着いていくように早足で歩き始めた。
◆◆◆◆◆◆
視線を後方へとちらりと向ける。
俺の後ろを歩くのは、緑色の髪が特徴的な『早苗』という嬢ちゃんだ。
殺し合いを止める為に協力してほしい、と俺に頼んできた。
今はまだこの殺し合いに乗るつもりは無いし、奴らの掌の上で躍らされるのも癪だ。
そう思い、一先ず彼女に同調することに決めたのだ。
だが、あくまで『今の所は殺し合いに乗らない』というだけだ。
俺は生きなくちゃあならない。ボスの正体を突き止めるという『俺たちの目的』の為に。
今はまだ様子見も兼ねて早苗と共に行動することにしたが、本格的に主催に立ち向かうとすればそれは『勝利する見込みが見えてから』だ。
勝算の無い戦いに挑むこと。それは勇気でも何でもない、ただの無謀というものだ。
場合によっては、『殺し合いに乗ること』だって構わない。
あくまで大切なのは生き残ることだ。
それに、この場にはあの護衛チームの奴らも何人か参加しているという。
丁度いい。俺たちのチームの為に、奴らを始末することも出来るのだから。
だが、今はまだその時ではない。
まずは参加者を捜し、情報を集め、現状を見極めてからだ。
それまでは一先ず生存優先のスタンスで動く。殺し合いに乗るか、主催に立ち向かうか、脱出を目指すか。
『選択』の時は今ではない。
これから向かうのは『ポンペイ』。
地図にも記載されている土地だ。何故幻想郷にイタリアの遺跡が存在するのかは解らないが…
ともかく、俺はまず他の参加者を捜すべくそこへ向かうことにした。
現在地は「A-1」。ポンペイはそこから最も近い位置に存在する施設。
地図にも記載されている目立った土地には少なからず人が集まるかもしれない。故に俺はそこへ向かうことにした。
俺が必要とするのは情報だ。その為には誰か他の参加者と会わなければならない。
だが、殺し合いに乗っている奴がいる可能性も十分に有り得る。
決して警戒は怠ってはいけない。それを肝に銘じよう。
俺の目的は、どんな形であれ『生き残る』こと。
自分達「暗殺チーム」が、栄光を掴み取る為にも。
俺は、生き抜いてみせる。
【A-1 草原/深夜】
【東風谷早苗@東方風神録】
[状態]:健康、若干の不安
[装備]:なし
[道具]:不明支給品(確認済み)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:異変解決。この殺し合いを止める。
1:プロシュートさんと同行。彼に着いていく。
2:殺し合いを打破する為の手段を捜す。仲間を集める。
3:出来れば神奈子様や諏訪子様に会いたい。
4:2の為に異変解決を生業とする霊夢さんや魔理沙さんに共闘を持ちかける?
5:死ぬことは怖い。でも、何とか恐怖を抑える。
[備考]
※参戦時期、制限の度合いは未定です。
※プロシュートと情報交換をしましたが、彼の素性は殆ど聞けていません。
「ギャングの一員である」「闘う力はある」ということくらいです。
【プロシュート@第5部 黄金の風】
[状態]:健康
[装備]:
十六夜咲夜のナイフセット@東方紅魔郷
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:一先ずは生存優先のスタンスを取りつつ、現状を見極める。
1:早苗と同行。ポンペイへと向かう。
2:他の参加者を捜す。今はとにかく情報が必要だ。
3:殺し合いに乗るかどうかは保留。
4:護衛チーム(ジョルノ、ブチャラティ、ミスタ)はいずれ始末する。
5:今は早苗に同行するが、手を貸す価値がないと判断すれば切り捨てることも厭わない。
[備考]
※参戦時期、制限の度合いは未定です。
※早苗との情報交換をし、幻想郷について知りました。
知り合いについてはどこまで聞いているかは後の書き手さんにお任せします。
※スタンドについては一切話していません。ただ、「闘う力は持ち合わせている」という程度には伝えています。
<十六夜咲夜のナイフセット@東方紅魔郷>
プロシュートに支給。
紅魔館のメイド長である十六夜咲夜が弾幕に用いる投げナイフの複数セット。
投擲だけではなく接近戦にも使用可能。銀の刃を持つ為、吸血鬼に効果大。
最終更新:2014年01月22日 00:55