かたち清らなること世になく、家の内は暗き處なく光滿ちたり。
輝くほどの美貌であった。腰より長い髪は鴉の濡れ羽色、眉は柳、目は鈴を張り、唇は濡れ艶の真紅、
そして肌は抜けるような白に白磁の手触り。
蓬莱山輝夜は自らの美しさを天蓋より降り注ぐ月の光に遍く照らし出し、それをひけらかす様にその場をくるりと回った。
「私、やりたい事が見つかったわ」
輝夜は嬉しそうに、口から鈴のような音を転がしていく。
「この異変を解決する。ようやく私の居場所となった幻想郷の一員として、私は皆を助けるの!」
敵は強大である。難題を出す暇もなく輝夜を連れ去り、彼女が絶対の信頼を寄せる
八意永琳すらも拉致に成功している。
そしてあろうことか、不死である蓬莱人――蓬莱山輝夜に死を強要してきているのだ。
それは最早、月の叡智を越えたと言って等しい。そんな相手に一体どんな手が有効なのか皆目検討もつかない。
不死に胡坐をかいて馬齢を重ねた輝夜だからと言えばそれまでだが、
それでも彼女の永遠と須臾を操る能力を歯牙にもかけない敵の力の大きさは、明白な事実として残る。
だけど、それがどうしたことだろうか。かつて数多の人間が挑み、敗れ去った五つの難題。それは不可能の代名詞にすらなった。
だが、それを鮮やかに解き、輝夜の手を見事に取った者達がいたではないか。人間と妖怪。
彼ら種族が異なる者達が手を組み、輝夜を前にして奇跡を成し遂げたのだ。
それは輝夜にとって、眩しきものだった。思わず羨んでしまう程の輝かしい光景だった。だからこそ、輝夜の顔からは笑みを零れてしまう。
今度は自分がそれを体現する番だから、と。確かにこの異変を解決するというのは、とても不可能なことであろう。まさしくそれは難題だ。
でもあの日、永遠の夜が終わりを告げた時のように、不可能は可能となるのだ。難題は解かれるのだ。
それこそが人間と手を取り合うことによって成される奇跡。
輝夜はその煌くような未来を手に入れるため、今こそ人間達のいる地上へしっかりと足を下ろした。
「というわけで、その第一歩。いざ、支給品の確認~♪」
先の意気込みはどこへやら、輝夜は暢気にエニグマの紙を掲げた。
地図、コンパス、照明器具、筆記用具、水、食料、名簿、時計といった基本支給品を一通り確かめると、
いよいよお待ちかねのランダムアイテムの登場である。
「さて、取り出したるは~、アラビア・ファッツのマジック・ミラー号!」
エニグマの紙に書かれていた名前を高々と呼び上げ、紙を開く。
そこから出てきたのは、何ともおかしな改造車であった。二畳ほど広さの床に四輪を付けた車とも言えぬ車。
二辺にはカーテン、もう二辺には壁となるマジックミラーが取り付けられ、外側が鏡で内側からは外の景色が見れるようになっている。
面白いのは床の上にはリクライニングシート、冷蔵庫、オーブンレンジ、エアコンがあることだろうか。
更に冷蔵庫にはお菓子、ジュース、ピザがデブの飢えを満たす程に入っており、ちょっとした生活すら出来そうだ。
輝夜はそれらを確認すると、さも当然のように早速お菓子とジュースを口に運んでいった。
「って、美味しい」
もしかしたら毒が入っているかもと警戒していたが、舌に訴えかけるのは甘みと幸福感だけであった。
後々の不和の種にも成りかねない大切な食料に毒が入っていては、それこそ殺し合いを加速させかねない。
故に蓬莱人である自分が早急にその危険性を排除せねばと思っていたが、どうやら輝夜の心配は杞憂のようだった。
これ以上食料を漁る必要はないみたいだが、折角開封したのだからと、輝夜はポッキーを小さな口で啄ばみながら、最後の支給品を取り出す。
「続きましては~、黄金期の少年ジャンプ一年分!」
エニグマの紙を開いた途端、滝のように冊子が輝夜の足元に流れ込んできた。
慌てて紙を閉じた彼女は一冊のジャンプを取り上げ、それを仔細に検分する。
「これは漫画かしら? 殺し合いには不向きのように思えるけれど、わざわざこんなにも集めて配るものだし、何か意味があるのよね」
そう思った輝夜はリクライニングに深く腰掛け、時折コーラで喉を潤しながら、ぺらりぺらりとページをめくっていく。
「……ふむ」
ぺらり ぺらり
「特徴的な絵柄ね」
ぺらり ぺらり
「…………フフっ」
ぺらり ぺらり
――
――――
――――――――
ピザの最後の一切れを口にほうばった輝夜は油に塗れた口と手を備え付けのティッシュで拭き取ると、
次の号のジャンプを読むべく積み上げられた本の山に手を伸ばした。
「……って、ない! 何で次のジャンプがないのよ! これじゃあ生殺しじゃない! 荒木と太田の奴~~!!
配るのなら最後まで配りなさいよ!!」
思わず文句が口から出てしまう。折角、一から全てのジャンプを読んだのに、
それが途中で切れてしまっていては、あまりに無慈悲というものだ。
さて、荒木と太田の二人をどうしてやろうか。そんなことを考えていた輝夜は、ふとあることに気が付いた。
今はあの二人に嵌められて、バトルロワイアルの真っ最中である、と。
慌てて輝夜は警戒心を跳ね上げ、周囲を見渡す。そして愕然とした。
さっきまであったはずの月の光りが根こそぎ取り払われ、今は眩しいくらいの太陽の光が空から燦々と降り注いでいたのだ。
「えっ!? え、今何時!?」
時計を見ると、とうに六時を過ぎて回っていた。その馬鹿げた現実にさっきまで快活であった輝夜の顔から血の気が失せていく。
「え~と、確か六時間ごとにあいつらは放送をするって言っていたわよね。その時に死んだ人の名前や禁止エリアも発表するって……」
どれだけ記憶を掘り起こしても、そんなものを耳に入れた事実が湧いてこない。一体どれほど自分はジャンプに夢中になっていたのだろうか。
ジャンプを全て読破して、殺し合いについて得たものがゼロであったことを考えると、自らの情けなさが最早痛みとなって心を抉ってくる。
「永琳は……大丈夫よね? イナバたちは……分からない。いえ、きっと生きている筈。そうよね?
っていうか、もうこの異変は解決されてたりとかしないわよね?」
情報量の少なさに疑問がひしめいて止まない。
しかし、ここで頭を抱え込んでも答えなど分かるはずもないということは、輝夜にはすぐに理解できた。
ならば、行動あるのみである。今までの遅れを取り戻そうと、
輝夜はアラビア・ファッツのマジック・ミラー号のアクセルを、一気に限界までに押し込んだ。
たちまちエンジンは唸り声を上げて、タイヤを高速に回転させる。
しかし悲しいかな、その疾風の如き疾走は僅か数メートルで終わってしまった。
そびえ立つ竹にマジック・ミラー号の車体が、鈍い音と共にぶつかってしまったのだ。
「ああ! もう何なのよッ!」
答えは簡単。輝夜がいる竹林ではマジック・ミラー号が走れるほどの広さがなかったのである。
先を急ぐ余り、そんな簡単なことに気がつけなかった自分が腹立たしくなる。車を降りた輝夜は怒りと共にマジック・ミラー号を蹴り上げた。
それによって先の事故で鏡の部分に出来たヒビが更に広がってしまったことに気が付いた輝夜は、いよいよ自分に嫌気が差してくる。
「落ち着いて。きっと皆はまだ生きている。この異変だって、ちゃんと私が解決する。うん、そして私は漫画家になるの」
負の連鎖を断つべく、輝夜は深呼吸をして自らの気持ちを整えた。
依然と焦燥とした気持ちがあるが、目的を見誤らない程度の冷静さは取り戻した。
輝夜はマジック・ミラー号をエニグマの紙に戻し、次なる行動に移す。
途中で山となったジャンプが目に付いたが、それを再び紙に戻すのはどう考えても手間だ。
確かにジャンプには夢中になるほどの面白さがあったが、この段になっては最早時間より貴重なものは存在しない。
輝夜は断腸の想いでジャンプと決別すると、他の参加者を求めて、その場を勢いよく駆け出した。
【C-5 竹林/朝】
【蓬莱山輝夜@東方永夜抄】
[状態]:健康、焦燥
[装備]:A.FのM.M号@第3部
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:皆と協力して異変を解決する
1:他の参加者を探す
[備考]
参戦時期は東方儚月抄終了後です
第一回放送を聞き逃しました
A.FのM.M号にあった食料の1/3は輝夜が消費しました
A.FのM.M号の鏡の部分にヒビが入っています
支給された少年ジャンプは全て読破しました
黄金期の少年ジャンプ一年分はC-5 竹林に山積みとなっています
<アラビア・ファッツのマジック・ミラー号>
タロットの大アルカナ19番目のカード「太陽」を示すスタンド使い、アラビア・ファッツが乗っていた改造車。
二辺をカーテン、もう二辺を壁となるマジックミラーで覆った一つの部屋とも言うべき仕様。
その中にはリクライニングシート、冷蔵庫、オーブンレンジ、エアコン、そしてデブの飢えを満たす程の食料がある。
燃料や駆動方式は不明だが、砂漠を渡るだけの走破性と燃費の良さを併せもつ。
反面、その形状からして旋回性能は低く、スピードは出ないと思われる。
また原作でジョースター一行を欺いたように、魔窟と化した竹林で誰にも気づかれることのない脅威のステルス性能を持っている。
<黄金期の少年ジャンプ一年分>
一時代を築いた週刊少年漫画の一年分。
殺し合いの中で時間経過を忘れさせるほどの魅力を持った魔性の本。また輝夜に漫画家になろうと思わせるほどの面白さも秘めている。
黄金期のジャンプゆえ、当然あの漫画も連載されている。
最終更新:2014年08月17日 23:49