猫は屍生人が好き

霧深き湖のほとりに、黒騎士が一人。
甲冑に身を包む鍛えあげられた肉体と、そよ風になびく長髪の黒いシルエットだけが、
月明かりに白く輝く霧のスクリーンに写り込んでいた。

「KUWAAAAAA・・・・・」

黒騎士……屍生人・ブラフォードが『ルール説明』に次いで飛ばされた先は、
C-3エリア中央部・『霧の湖』の北岸であった。

「確かに俺は、あの若者の山吹色の拳を受けて吹き飛ばされたはず……」

その瞬間の太陽の輝き、あの男の拳から伝わる分厚い鉄の扉につぶてをぶつけたような振動音、
そして痛覚が失せたハズのこの体に蘇っていた『痛み』は、彼の記憶にはっきりと残っている。
彼が傷口から広がる痛みに耐え、『二度目の死』を覚悟の上で最期の反撃のために剣を掴み、
立ち上がろうとしていた時、気付いたらブラフォードは『ここにいた』。
『山吹色の拳』による傷も、それ以前の攻防によって失った右腕も、額の傷も、元通りに治っていた。

「これは、まるで……」

これはまるで、処刑場から300年の時を経て新たな主、ディオ・ブランドーに蘇らされた時の様だ。
そして、『ルール説明』の会場で言いつけられたのは、90人から最後の一人が残るまで続けられる殺し合い。
これはまるで、ブラフォードとその盟友・タルカスが乗り越えた『77の輝輪』の試練の様だ。


「では、俺は……あの時再び死んだというのか?
 ……そしてこの『遊戯(ゲーム)』とやらの為に、三度生き返されたと、そういう訳か?
 ……何の為に?」

そうだ、『77の輝輪』とこの殺し合い、似ているようで全く性格が違う。
『77の輝輪』は勇者を志す者が死を賭して挑む、神聖な試練だ。
志願した騎士が、一対一で正々堂々と77人の相手を打ち倒す戦いなのだ。
本人の意志を無視して参加を強制し、不意討ち、だまし討ち、
何でもアリのこのゲームに、一体何の意味がある?

「このカバンの中の参加者名簿には……俺と、ディオ様、我が盟友タルカス、
 そして……あの若者、ジョナサン・ジョースターの名があった。
 ……我らはともかく、あの者もどこかで死に、屍生人として再び生き返されたということか?」

一向に状況が判らぬ。だが、騎士の定めは、戦うこと。
『あの時』の光は、まだ俺の全身を焼きつくしてはいなかった。
そして、俺は戦意を失ってはいなかった。決着は未だ着かず。
ならば、俺のまず為すべき事は……ジョナサン・ジョースターとの決着、
そして、我が主・DIO様をお守りすることだ。


「……刀か」

決意を固めたブラフォードがカバンから取り出した紙を開くと、
現れたのは『楼観剣(ロウカンケン)』と名付けられた長刀だった。
柄尻に白い房が、鞘の先には一輪の花が、それぞれ飾り付けられている。
鞘を抜くと、緩やかな曲線を描く刀身が現れた。
月に向かって掲げると、霧に濡れた切っ先が微かに光を放っている……様に見えた。
見慣れぬ造りの刀剣だが、剣と共に生きてきたブラフォードには一目で判った。
この刀は、我が『Luckの剣』にも劣らぬ名剣である事、そしてその使い手が中々の腕の持ち主であろうという事が。
ついでに言えば……使い手は『女』であろうとも推測していた。

「『女』だろうな……鞘に花など飾り付けるのは」

そうつぶやいた時のことである。ブラフォードは背後から忍び寄る気配に気付いたのだった。
楼観剣を構え、振り返るブラフォード。
茂みを揺らしながら現れたのは……

「にゃーん♪」

「……黒猫、か。シッ!あっちへ行けッ。
 ……猫など斬って何になる。
 気のせいか、尻尾が2本あった気がするが……まあ良い」

ブラフォードの威嚇の前に、黒猫はあっさり退散した。
そして湖から背を向けた所に見えていた洋館に歩を進めようとしたブラフォードだったが……


「きさま……屍生人だな?」

今度は頭にバンダナを巻いた、金髪の青年に呼び止められたのだった。

「いかにも。おれの名はブラフォード。
 私に新たな生命を与えて下さったディオ様に仕える騎士だ」

振り返ったブラフォードがそう答えると、目の前の青年の目が見開かれる。

「……ママミーヤ……!……では、俺も名乗ろう。俺の名はシーザー・アントニオ・ツェペリ
 我が祖父の仇・タルカスと違って、きさまは最期に人の心を取り戻して死んでいったらしいが……。
 ここで再び屍生人として蘇ったというのなら!もう一度俺の『波紋』で、救ってやる!」

その青年の名は、ブラフォードにとっても馴染みのある名であった。

「ツェペリ……!あの若者・ジョナサンの師の血統か!相手にとって不足はないィ!」

言い終える前に、ブラフォードは楼観剣を抜き、駆け出していた。
波紋の呼吸を練り、しゃがんだ姿勢から飛び掛かるシーザーを迎え撃たんとする為に。


「行くぞッ!波紋カッター!!」

軽快な破裂音と共に、シーザーの口から銀色の尾を引くコイン状の物体が吐き出された。
シーザーの祖父・ウィルも得意としていた得意とした波紋呼吸の応用技だ。
波紋戦士の驚異的な肺活量と波紋の呼吸は、ただの水をナイフをも切り裂く鋭い刃に変えたのだ。
甲高い風切り音を発しながらブラフォードに飛来する『波紋カッター』。

「ぬううううっ!!」

だが、ブラフォードは右手の楼観剣で飛来するカッターを打ち払ってゆく。
妖怪が鍛えた幽霊数十匹分の殺傷力を持つ名刀・楼観剣はただのナイフとはモノが違う。
そして、それを振るうブラフォードの腕前もまた一流。

「ならば!これなら、どうだッ!」


飛び掛かる勢いそのままに、シーザーの放つ次の一手。
デイパックから取り出したのは全ての参加者に配られた支給品、飲料水の入ったペットボトルだ。
シーザーはボトルの口をブラフォードに向けると、底を拳で思い切り打ち付けたのだ。

「青緑色の波紋疾走(ターコイズブルー・オーバードライブ)!!」

シーザーの拳を受けたボトルは底から一気に潰れ、ボトルの口から勢い良く噴き出した。
青白く輝く水が、レーザー光線の様にブラフォードに襲い掛かる。
だが、ブラフォード、それをかわさない。

「URYYYYAAAAHHHH!」

刀を大上段に構え、そして雄叫びとともに振り下ろす。
屍生人の贅力とブラフォード自身の技量、そして楼観剣の斬れ味でもって放たれた斬撃は、
滝の流れを断つがごとく、波紋の『銃撃』をも真っ二つに切り裂いたのだった。
斬撃の余波はシーザーにまで届き、頬に赤い線が入る。

「くっ……話に聞く通りだ、ただの屍生人ではない……手強い!」
「フフフ、きさま……こちらの懐に飛び込んでおいてそんな悠長な事を言っておれるのか?」

ブラフォードの不敵な微笑み、その輪郭が黒い闇の中に浮き出ている。
辺りは満月。こんなに暗くは無いはず……違う、髪だッ!
ブラフォードの髪が、飛び込んできたシーザーの四方を包囲していたのだ。


「うっ、うおおおおっ!!」
「もう遅いィ!このまま『波紋』とやらを使う暇も与えず、仕留めるッ!」

シーザーの全周囲から一斉にザワザワと迫る、ブラフォードの黒髪。
抵抗の暇を与えず、シーザーの全身をがんじがらめにして、そのまま地面に縫い付けたのであった。
伸縮自在の髪が、血を吸いながら、シーザーの肉体に鋭く食い込んでゆく。

「このまま一思いに首をハネてやれば、きさまをこれ以上苦しませずに済むし
 おれも首からあふれる血を一気に飲むことができるが……。
 トドメを刺しに近寄れば『あの時』の様に反撃を受けるかも知れぬ」

波紋の呼吸を練り、必死に髪を振りほどこうとするシーザー。
だが波紋は手足や口など、身体の末端から放つことで初めて攻撃力を生む技術。
手足を胴体に縛り付けられ、口をも封じられた今、シーザーに戦う術は残されていない。

「このまま息絶えるまで絞め上げるか、干からびるまで血を吸うか……
 どちらにせよ少々気の毒だが、しばらく苦しんでから死んでもらうぞ」

もはやこれまでか。命運尽きた事を悟ったかのようにシーザーはもがく動きを止め、大地に横たわった。


「……諦めたか?もう少し骨のある男かと思ったが……
 いずれにせよこのまま血を吸い尽くして、われらと同じDIO様のしもべにしてやると……
 ムッ!?」

ブラフォードは驚愕する。
シーザーが横たわった姿勢のままでこちらに向かって足を向け、跳んできたのだ!
奴の身体を縛り上げていたはずの髪の拘束が……解かれている!

(明らかに『波紋』を使った動き!何故だッ!?『波紋』は確かにこの髪で封じたはず!
 いつの間に!四肢を縛られた状態から、どうやって!?)

白楼剣を構え、キリモミ回転で迫るシーザーを迎撃せんとするブラフォード、
疑問の答えはすぐに見つかった!
剣を握る右手に、腕に、肩に、矢のように突き刺さる『痛み』!


「これは……『ミツバチ』!!
 この痛み、『波紋』を仕込まれているのか!
 そしてこの『波紋ミツバチ』で、おれの髪を噛みちぎったのか!」

波紋を帯びたミツバチが十数匹、ブラフォードの腕に喰らいついている。
そのダメージは微小ながら、ブラフォードの剣捌きを一瞬鈍らせるには十分だった。
そしてその一瞬は、シーザーが間合いを詰め、直接攻撃を叩き込むのに十分な時間だった。

「『波紋蹴り』を喰らえッ!」

「UGYYYAAAAAAAHHHH!!」

ブラフォードの左腕・左足にシーザー渾身の波紋蹴りの連打が直撃した。
大きく後方に吹っ飛ばされるブラフォード。
なおも追撃の為に駆け寄るシーザー。

「勝った!とどめだっ!!」


だが、そのシーザーの足元に、突如一匹の黒猫が駆け出してきた。
全身の毛を逆立て、シーザーを威嚇する黒猫。
眼中に無いとばかりにその黒猫の頭上を飛び越えようとしたシーザーの全身を、
突如、青白い炎が包んだ!

「う……うおおおっ!」

ジャケット、マフラー、手袋、シーザーの全身を包む衣服から、一斉に立ち上る炎。
呼吸が、できない。一息でも吸い込もうとすれば、口から肺まで、大火傷を負ってしまう。
それは波紋を練ることができないということを意味していた。

(呼吸が……!火を……消さなければ!!)

やむなくブラフォードへの追撃を中止し、消火のため湖に飛び込む事を余儀なくされたシーザー。
そして、波紋の呼吸を整え直して湖の水面に立ち上がったとき、黒猫の姿はどこにもなく、
ブラフォードは赤毛の少女の引く荷車で猛スピードで運び去られてゆくところであった。


「火炎を操る猫を連れた女の子……仲間がいたのか」

半ば呆気にとられながら、遠ざかってゆく荷車を見送るシーザー。
シーザーの傷は浅い。対して、ブラフォードに叩き込んだ波紋蹴りには、確かな手応えを感じた。
助かるためには、すぐさま左腕と左脚を捨てなければならないだろう。
だがシーザーは、彼らを追いかけようとはしなかった。

(黒猫も女の子も、屍生人や吸血鬼のようには見えなかったが……
 あの炎、厄介だな。呼吸が命の波紋戦士にとっての、天敵かも知れない。
 女の子の方も、ブラフォードの乗った荷車を引いてあのダッシュ力……只者じゃないな)

(そしてブラフォード……おじいちゃんの仇の相棒、屍生人だからと甘く見たつもりはなかったのだが……
 おじいちゃんの得意技『波紋カッター』も、
 その弟子ジョナサンがブラフォードに対して放ったという『青緑色の波紋疾走』も、
 奴には全く通用しなかった……30日の特訓を乗り越えた俺なら
 波紋の技のキレはおじいちゃんたちにも負けないという自信はあったんだがな……)

(……やはりシャボン液なしでも屍生人になら勝てると思っていた俺に、どこか油断があったのだろう。
 『波紋ミツバチ』を手袋に仕込んでいなければ、負けていたのは間違いなく俺の方だった)

(ジョセフの奴にも、認めたくねーけど、感謝しねーといけねーな……
 あらかじめ波紋を帯びたミツバチを仕込んでおくなんて発想、
 アイツと出会うまでは思いつかなかっただろうからな……ちょっと手がチクチクするけどよ)


「……まずは、石鹸を探そう」

結局、シーザーは自らが最初になすべきことをこう結論付けた。
これからブラフォードと少女を追うにせよ、重傷の彼を放置して
殺し合いに乗っているであろう柱の男たちや吸血鬼・屍生人を追うにせよ、
自らの戦闘スタイルで戦えなければ話にならない。そう痛感したのだ。
今回はたまたま上手く行ったが、『波紋ミツバチ』のような
付け焼き刃の奇策がそう何度も通用するとは思えない。
それができるのは、それこそあのいけ好かない戦友・ジョセフのような生粋のペテン師くらいのものだろう。

彼の本来の戦法はシャボン玉と波紋を組み合わせたもの。
そのため彼は手袋などに特殊なシャボン液を仕込んでいるのだが、
この会場に呼び出された際にカラカラに抜き取られてしまっていた。
まずはその代用品となるシャボン液を調達しなければならない。
名簿に記されていた過去の人物、地図に点在する見覚えのある地名……
気になることは多いが、まずは自らの準備を整えよう。

シャボン液の材料は、水と石鹸。
水の粘性を増すための砂糖があればさらにベネ。いずれも民家に行けばすぐに見つかるだろう。
赤毛の少女はブラフォードを連れて北に見えるジョースター邸(!?)に向かって走り去っていった。
すぐには彼らと再戦したくないシーザーが目指す先は……湖の対岸に位置する、吸血鬼の館・紅魔館。
なんとも皮肉な立地であるが、それはシーザーの知る所では無いのであった。


【C-3エリア・霧の湖北岸/深夜】
【シーザー・アントニオ・ツェペリ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:全身に軽い火傷と切り傷、少量の失血、ずぶ濡れ、両手の甲に蜂刺され(処置済み)
[装備]:スイス・サンモリッツでの衣装(ただし、衣装に仕込んだ石鹸水は全て抜き取られています)
[道具]:基本支給品(水をボトル1本分消費)、ミツバチの巣箱@現実(ミツバチ残り90%)
   不明支給品1(ジョジョ・東方登場出典・確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男、吸血鬼、屍生人を打倒する。主催者も叩きのめす。
1:紅魔館へ向かい、石鹸水を調達する。
2:柱の男、吸血鬼、屍生人を打倒する。その他、殺し合いに乗った者も倒す。
3:仲間(ジョセフ、シュトロハイム、リサリサ)と合流する。
4:ブラフォードと共に逃げた女の子(火焔猫燐)は……気が進まないが、向かってくるならやるしか無い。
5:ウィル・A・ツェペリ、ジョナサンなど、過去の人物のことが気になる。
※参戦時期はスイスのサンモリッツ到着直後です。
※火焔猫燐の黒猫形態を、人間形態と別個体だと思っています。
※C-3エリアに、数千匹のミツバチが逃げ出しました。
 時間とともに各エリアに広がっていくことが予想されます。
 が、帰る所を失った働きバチはおとなしいので、よほど気を配らなければ見つけることはありませんし、
 こちらから手を出さない限り刺されることも無いでしょう。

○ミツバチの巣箱@現実
数万匹のミツバチが飼育されている、養蜂箱。
中にはミツバチの巣が板状に並んでいる。
巣には蜂蜜が蓄えられているほか、波紋使いなどは中に住む働き蜂を操ることも可能かも知れない。
だがその際は手痛い反撃を覚悟しなければならない。
ただし、巣箱がエニグマの紙に収納されると、箱を飛び出した働き蜂は守るべき場所を見失い、おとなしくなる。


――――


一方その頃、ブラフォードを連れて逃げ去った赤毛の少女・火焔猫燐は、ジョースター邸の裏にいた。
彼女はリヤカーを停め、振り返って追跡の気配が無いことを確認すると壁にもたれかかり、
しばし荒い呼吸を整えていたのだった。

「ハアッ、ハアッ……あの金髪のお兄さん、追ってはこないみたいね」
「……化け猫、貴様は何者だ。なぜ、俺を助けた」

リヤカーに寝転がるブラフォードが、訝しげに問いかける。

「あたいは火焔猫燐。長ったらしいからお燐って呼んでね。
 お兄さんを助けたのは……お兄さんが死体で、しかも意志を持って動いてるから、かな。
 ここで壊しちゃうのが勿体無くって」
「……まるで意味がわからんぞ」

やけに馴れ馴れしい口調で、少女が答えた。
……2番目の質問に対しては答えとして成立していない。
そのことを自覚しているのかいないのか、今度は少女の方から逆に問いかけてきた。

「ねえ、『ディオ様』ってお兄さんのご主人様?」
「……聞いていたのか」
「やっぱり。その人のこと、尊敬してる?」
「無論だ。ディオ様は処刑された俺に、新たな生命を与えて下さったお方だ」


「良かった、お兄さんを助けられて。あたいにも尊敬してるご主人様がいるんだ。
 さとり様っていうんだけどね。……あたい、難しいことよくわかんないけど、あたいは死体が好きで、
 しかもその死体には、あたいみたいに尊敬するご主人さまがいる。
 だから、あたいはその死体を元のご主人様の所に送り届けてあげたい。
 ……それじゃあたいがお兄さんを助けた理由になってないかな?」
「……」

『オリン』と名乗る少女の言葉に、ブラフォードは沈黙で返すことしかできなかった。
この少女は、何も知らない。生き返されたブラフォードの望みが世界への復讐であることも、
その主・ディオの望みが人類の頂点として君臨することも、何も知らないのだ。

「ところでお兄さん、ケガの方は……」

そんなブラフォードをよそに、ケガを気遣うお燐だったのだが……
ブラフォードの左腕と左脚が殆どドロドロに溶解してしまい、骨が見え始めている。
右腕の肉も、所々が泡立つようにえぐれている。
よく見るとその傷口は、今もゆっくりと広がっているようだ・

「お兄さん、これ……!」
「『波紋』にやられたせいだ。蜂に刺された程度の右腕は大したこと無いが……
 直接ヤツに蹴られた左腕と左足は……斬り落とさんと助からんな。この傷はいずれ頭まで広がる。
 そうなったら、いかに屍生人であろうと死ぬ……迷惑ついでだ、娘よ、肩を貸してくれ」

そう言うとブラフォードはリヤカーの横にふらりと立ち上がった。
そしてお燐が右肩を支えているのを確認すると、楼観剣を髪で振るい、
目にも留まらぬ速さで、左腕を肩から、左脚を腿から切り落としたのだった。

「お兄さん!……痛くないの!?」
「問題ない。むしろ波紋の傷が残る右腕の方が痛むくらいだ……
 では、化け猫の娘よ……これにて失礼する。オリンとか言ったな……一応、礼は言っておくぞ」


ブラフォードは酷くぶっきらぼうな感謝の言葉を残すと、くるりとお燐に背を向けた。
そしていつの間にか拾い上げていた棒切れを松葉杖の代わりとして、
ひょこひょこと右脚と右手だけで歩き出した。
そんなブラフォードを、お燐が黙って見過ごせるハズはなかったのだった。

「失礼するって!どこへ行くのさ、そんなマトモに歩けもしないような身体で!」
「……貴様には関係のない話だ」
「関係あるよ!またさっきの金髪のお兄さんに出くわしたら、今度こそ死んじゃうよ!?
 あたしが助けてあげた意味が無いじゃない!それにそんな身体じゃああんたのご主人様のお役に立てないよ?」
「……!」
「ほらほら、分かったらさっさと荷車に乗りな。役に立たないって知られたら、殺処分されちゃうよ?」

結局、左手足を失った現状では、例えディオ様に合流できても
見捨てられる危険性が高い事を悟ったブラフォード。
ここは観念してお燐の好意に甘え、大人しくリアカーで座っているしかなかった。

「で、お兄さん。その手足、どうにかして治らないかな?」
「ディオ様のような吸血鬼であれば、他人の死体を奪って手足を治すことも可能なのだろうがな……
 おれたち屍生人は吸血鬼ほどの再生能力はない。死体をつないでも、くっつくかどうかはわからんが……
 とにかく、まずは死体だ……なるべく新鮮な物が良い。
 手足が合わなくても、血をすすれば、傷が多少癒えることくらいは期待できる……」
「死体、かあ……」


お燐は心当たりがある、と言った様子でデイパックの中の紙を広げた。
現れたのはビーフジャーキーの様にカラカラに干からびた死体の……一部分だった。

「……って、こんなミイラみたいな死体じゃ何の役にも立たないよねぇ」

そう言うとお燐はリアカーの中へその死体をポイポイと無造作に放り込んだのだった。
投げ込まれたいくつかの部位のうち、両脚らしき部位がブラフォードの身体に触れた所で、
彼はそれがただの死体でないことに気付く。
つい今しがた切り落としたはずの左脚の切断面に、干からびたミイラが食い込もうとしているのだ!

(こ……これはッ!!)

お燐が死体のついでに投げ込んだ紙切れには、『聖人の遺体』と記されていた。

【C-3エリア・ジョースター邸裏/深夜】
【ブラフォード@第1部 ファントムブラッド】
[状態]:左腕、左脚切断、右腕に何カ所かの小さな波紋傷
[装備]:楼観剣@東方妖々夢、リヤカーに乗っています
    聖人の遺体・両脚@ジョジョ第7部(左脚の傷口にめり込もうとしています)
[道具]:基本支給品、不明支給品0~1(現実出典)
[思考・状況]
基本行動方針:ディオ(DIO)に合流する。そして、ディオの望む通りに行動する。
1:傷を癒やし、再び戦える状態に回復する。そのために新鮮な死体から生き血をもらう。
  化け猫とはいえ、少女に保護されている現状は騎士として不服だが……甘んじて受けるしかない。
2:ジョナサン・ジョースターと再戦し、今度こそ倒す。
3:吸血鬼と屍生人の天敵・波紋戦士を倒す。(彼が現在知っている波紋戦士は、ジョナサンの他、
  ウィル・A・ツェペリ、シーザー・アントニオ・ツェペリのみ)
4:盟友タルカスと合流する。
5:襲い掛かってくる参加者は容赦しないが、それ以外はどうでもいい。
6:ところで、このミイラは一体何なんだ!?
※参戦時期はジョナサンに山吹色の波紋疾走のラッシュを受けて吹っ飛ばされ、
 再び立ち上がろうとした瞬間のシーンです。
※聖人の遺体がブラフォードに及ぼす影響は、後の書き手さんにお任せします。


【火焔猫燐@東方地霊殿】
[状態]:人間形態、疲労(小)、妖力消耗(小)
[装備]:リヤカー@現実
[道具]:基本支給品、聖人の遺体・左腕と両耳@ジョジョ第7部(リヤカーの荷台に転がっています)
[思考・状況]
基本行動方針:古明地さとり他、地霊殿のメンバーと合流する。
  殺し合いに積極的に乗る気はない。
1:ブラフォードの傷を治し、再び彼のご主人様(DIO)のために戦える状態にする。
  そのためにまずは、新鮮な死体を探す。
2:ブラフォードを彼のご主人様(DIO)の元まで送り届ける。
3:地霊殿のメンバーと合流する。
4:波紋使いの金髪の青年(シーザー)との接触は避ける。
※参戦時期は東方心綺楼以降です。


○楼観剣@東方妖々夢
ブラフォードに支給される。
妖夢が所持していた二振りの刀のうちの、長い方。
幽霊10匹分の殺傷力を持つという。
「妖怪が鍛えたこの楼観剣に、斬れぬものなどあんまりない!」とは妖夢の談。
柄尻に房飾りが、鞘の端に一輪の花が飾り付けられている。



○聖人の遺体(両脚・左腕・両耳)@ジョジョの奇妙な冒険 第7部 スティールボールラン
火焔猫燐に支給される。
スティールボールラン世界の北米大陸に散らばっている、腐ることのない聖人の遺体。
心臓、左手、両目、脊椎、両耳、右手、両脚、胴体、頭部の9つの部位に分かれて存在しているとされる。
手にした者の体内に入り込み、スタンド能力を発現させる、半身不随のジョニィの足を動かすなど、
数々の奇跡的な力を秘めているが、このバトルロワイアルではスタンド能力を新たに発現させることはできない。
但し、原作中で既に聖人の遺体によりスタンド能力を発現させていた参加者(大統領、ジョニィ)が
遺体を手放すことでスタンド能力を失うことはない。
(一時的に遺体の力でスタンド能力『スキャン』を獲得していたことのあるジャイロと、
 大統領が遺体を全て集めて発動する『D4C・ラブトレイン』の扱いについては、
 後の書き手さんにお任せします。)

○リヤカー@現実
火焔猫燐に支給される。
鉄パイプのフレーム、空気入りのゴムタイヤ、木板の荷台で構成された、2輪の荷車。
1920年頃、旧来の荷車(大八車)にサイドカーの利点を組み込む形で開発された。
大八車に備わっていた木製の車輪と車軸を廃し、ベアリング軸受けとゴムタイヤを採用した上に
主構造を金属として軽量化を図った結果、飛躍的な性能の向上を遂げた。
お燐に支給された本品は比較的頑丈な構造であり、平坦な舗装路なら最大1トン程度の荷物を運搬可能。

036:輝夜物語 投下順 038:途方も無い夜に集う
034:未来からの遺産 時系列順 039:最低のファースト・コンタクト
遊戯開始 シーザー・アントニオ・ツェペリ 061:Lost://www~ロスト・ワールド・ワイド・ウェブ~
遊戯開始 ブラフォード 061:Lost://www~ロスト・ワールド・ワイド・ウェブ~
遊戯開始 火焔猫燐 061:Lost://www~ロスト・ワールド・ワイド・ウェブ~

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最終更新:2013年12月29日 20:45