いく(生(自動詞ロ))

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 自動詞 (四段活用から転じて、平安中期頃から使われた)
① 生物として活動する。命を保つ。生存する。また、死にそうな状態からのがれて助かる。⇔死ぬ
※宇治拾遺(1221頃)二「この里の人々、とく逃げのきて命いきよ」
※日葡辞書(1603‐04)「イノチヲ iquru(イクル)」
※家(1910‐11)〈島崎藤村〉下「生きたくないと思ったって、生きるだけは生きなけりゃ成りません」
② 一度死んだ状態におちいったものが、命をとりもどす。よみがえる。蘇生する。 ※興風集(11C頃)「死ぬる命いきもやするとこころみに玉の緒ばかりあひみてしがな」
※当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉一六「扶(たす)けて介抱したればとて、また蘇(イク)べくも見えざるから」
③ (「たり」や「た」などをつけて用いる) 生命がこもっている。生き生きとしている。実際に活動している。 ※至花道(1420)無主風の事「是(これ)、いきたる能なるべし」
④ 生命をもたないものに、命がふきこまれる。生じる。 ※草枕(1906)〈夏目漱石〉一「只まのあたりに見れば、そこに詩も生き、歌も湧く」
⑤ 有効な働きをする。意味をもつ。効果があがる。実効がある。 ※春迺屋漫筆(1891)〈坪内逍遙〉梓神子「死せるが如き平等ありて活(イ)きたる差別の些も無きをめでたうござると言はるべきか」
⑥ (「…に生きる」の形で) ある物事に精魂を打ち込む。生きがいを見いだす。 ※竹沢先生と云ふ人(1924‐25)〈長与善郎〉竹沢先生富士を観る「強ひて云はば孔子の所謂『文』に生きる人とでも答へるよりない」
⑦ 印刷物の校正で、一度消したものをもとどおりでよいとする。普通、カタカナで表記する。 ※不如帰(1898‐99)〈徳富蘆花〉上「五六七などの数字、或は羅馬数字。〈略〉一度消してイキルとしたるもあり」
⑧ 碁で、相手の石に囲まれた石が目を二つ以上もつ状態になる。
⑨ 遊興代が払えない客に対し、家までいっしょに行って支払いを受けることを花柳界でいう。
[補注]江戸時代には、仮定条件を表わす表現の場合に、ラ行四段のように活用させた例として「洒・南閨雑話‐結ふゑにしの体」に「いきらばもろとも、しぬはてんでんサ」がみられる。
[語誌]→「いく(生)」の語誌
広辞苑 自動詞 (「息」と同源。平安中期までは主に四段活用)
①生物が、生命を保つ。生存する。
万葉集6「 御民 (みたみ)われ―・けるしるしあり」。
源氏物語桐壺「限りとて別るる道の悲しきに―・かまほしきは命なりけり」。
宇治拾遺物語2「とく逃げのきて命―・きよ」。
「百まで―・きる」
生く・活く
②生計をたてる。生活をいとなむ。また、生命を託する。 「筆一本で―・きる」「海に―・きる人々」「美術に―・きる」
③生命あるもののように作用する。
㋐効力を持つ。持ち味・本領を発揮する。
「この法律はまだ―・きている」「―・きた金の使い方」「この1行で文章全体が―・きる」
㋑生気があふれる。 「この絵は―・きている」
㋒囲碁で、相手の石に囲まれた石が二つ以上の目を持つときにいう。
㋓野球で、アウトにならずにすむ。 「敵の失策で―・きる」
よみがえる。復活する。 日本霊異記上「(いきたり)
大言海 自動詞 前條ノ語ノ轉、轉ジテモ、自動ナリ、(垂る、たるる。觸る、ふるる、ノ類)上二段活用ノ()くハ、平安朝時代末期ニ出現シタル語ナリト思ハル、今ハ、四段ハ全ク(ホロ)ビテ、上二段ノミ行ハル〕
前條ノ語ニ同ジ。イキル。
宇治拾遺、二、第十二條「此里ノ人人、疾ク()ゲノキテ、命いきヨ」
參考、保元物語(半井本)二、義朝白河殿夜討事「矢一ツ取ラセム、此矢ヲ賜ハリナム後ハ、()くるコトハヨモアラジ」
參考、平治物語(半井本)二、義朝落着靑墓事「賴朝ニ離レヌルコソ悲シケレ、敵ニ()ラレテ斬ラルルカ、雪ノ中ニテ空シクナルカ、生くる事ハヨモアラジ」
盛衰記、廿二、衣笠合戰事「郞等、多ク討タレテ、生くる者ハ少ナク、死ぬる者ハ多カリケレバ」
寳物集、三「此鳥、生キカヘルマジキカト問フ、旣ニ頭碎ケヌ、いくるコトナシ」
太平記、一、賴員囘忠事「千ニ一ツモ、命いきンズルコト、難シ」
動詞活用表
未然形 いき ず、らゆ、らる、む、じ、さす、しむ、まほし
連用形 いき たり、き、つ、ぬ、つつ、たし、ても
終止形 いく べし、らし、らむ、ましじ、まじ
連体形 いくる も、かも、こと、とき
已然形 いくれ ども
命令形 いきよ

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附箋:上二段 自動詞

最終更新:2025年02月23日 21:24