いろ(色イ)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 名詞 [一] 物に当たって反射した光線が、その波長の違いで、視覚によって区別されて感じとられるもの。波長の違い(色相)以外に、明るさ(明度)や色付きの強弱(彩度)によっても異なって感じられる。形などと共に、その物の特色を示す視覚的属性の一つ。色彩。
① その物の持っている色彩。
※書紀(720)雄略七年是歳(前田本訓)「鉛花弗御(イロもつくろはず)蘭沢(か)も加(そ)ふること無し」
※万葉(8C後)五・八五〇「雪の伊呂(イロ)を奪ひて咲ける梅の花今盛りなり見む人もがも」
② ある定められた、衣服の色彩。
(イ) 中古、階級によって定められた、衣服の色。特に、殿上人以上が着用を許された禁色(きんじき)をいう。→色(いろ)許さる。
(ロ) (天子が諒闇(りょうあん)の喪にこもる「いろ(倚廬)」からかともいう) 喪服のにび色。 ※源氏(1001‐14頃)乙女「宮の御はても過ぎぬれば、世中いろ改まりてころもかへの程などもいまめかしきを」
(ハ) 近世、婚礼や葬儀の際、近親者が衣服の上に着用した白衣をいう忌み詞。今も全国に広く点在する。 ※日葡辞書(1603‐04)「irouo(イロヲ) キル〈訳〉喪服を着る」
[二] 物事の表面に現われて、人に何かを感じさせるもの。
① 気持によって変化する顔色や表情。また、そぶり。
※続日本紀(797)文武即位前「天皇天縦寛仁、慍不色」
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「ゆくりかに寄りきたるけはひにおびえて、おとどいろもなくなりぬ」
② 顔だちや姿。特に美しい容姿。 ※今昔(1120頃か)五「止事无(やむことなき)聖人也と云ふとも、色にめでず声に不耽(ふけら)ぬ者は不有じ」
※人情本・春色辰巳園(1833‐35)後「美服をかざりて色(イロ)をつくろい」
③ はなやかな風情。面白い趣。また、それを添えるもの。 ※古今(905‐914)仮名序「いまの世中、色につき、人の心、花になりにけるより、あだなる歌、はかなきことのみいでくれば」
※徒然草(1331頃)一三八「『祭過ぎぬれば後の葵不用なり』とて、或人の、御簾(みす)なるをみな取らせられ侍りしが、色もなく覚え侍りしを」
④ 人情の厚いさま。外に現われる思いやりの気持。情愛。 ※平家(13C前)五「御辺に心ざし深い色を見給へかし」
※徒然草(1331頃)一四一「あづま人は、我がかたなれど、げには心の色なく」
⑤ それらしく感じられる気配、様子。 ※古今(905‐914)春下・九三「春の色のいたりいたらぬ里はあらじ咲ける咲かざる花の見ゆらん〈よみ人しらず〉」
⑥ (声、音などの)響き。調子。 ※ロドリゲス日本大文典(1604‐08)「ナマルト ユウワ スバル ヒロガルノ ホカ、コトバノ irouo(イロヲ) イイチガユル コトナリ」
⑦ 能楽で、気持をこめて、節(ふし)と詞の中間のように謡う部分。また、修飾的な節まわし。
⑧ 浄瑠璃で、詞と地の中間の、詞の要素の多い部分。はなやかな感じを与えたりする。 ※浮世草子・元祿大平記(1702)二「ヲロシ、三重、イロ、ウツリ、ハッハ、ソヲヲとばかりにて」
⑨ 箏で、左手の指で弦を押し、またはゆるがす弾き方。
⑩ 蹴鞠で、鞠の回転や速さの具合。 ※咄本・私可多咄(1671)三「かたゐなかの人、まりけるをみて、あのありありといふは、いか成事そととふ。あれは色をみて、わか方へくる時に、人にばいそくせられましきため」
[三] 男女の情愛に関する物事。
① 中古では多く、「いろ好む」の形で、主として異性にひかれる感情、恋愛の情趣。近世は、もっぱら肉体関係を伴う恋愛。情事。
※伊勢物語(10C前)六一「これは色このむといふすきもの」
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)後「みな親か兄弟のために、苦界の年のうち色を商ひ色(イロ)をつつしみ用心しても」
② 正式の婚姻でなく通じている男女の関係。また、情事の相手。情人。情夫または情婦。 ※俳諧・西鶴大矢数(1681)第二九「伊勢参人の面はしろしろと 事欠の色明星が茶屋」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「朝から晩まで情婦(イロ)の側にへばり付てゐる」
③ 遊女。 ※仮名草子・都風俗鑑(1681)四「是をごくゐなりと思ふ男は、山州といひ、色などといふてうれしがるなり」
④ 遊里。色里。 ※浮世草子・世間胸算用(1692)二「寄合座敷も色ちかき所をさって」
[四] 種類。→(三)③。 ※宇津保(970‐999頃)俊蔭「目に見ゆる鳥けだ物、いろをもきらはず殺し食へば」
形容動詞 ① 容貌や姿がはなやかで美しいさま。また、髪の毛がつややかで美しいさま。 ※宇津保(970‐999頃)藤原の君「いろなる娘どもゐなみて」
※枕(10C終)二〇〇「髪、いろにこまごまとうるはしう末も尾花のやうにて丈ばかりなりければ」
② 恋愛の情趣を解するさま。色好みであるさま。 ※落窪(10C後)三「越前守色なる人にて、いと興あり、嬉しと思ひて目をくばりて見渡す」
③ 風流であるさま。 ※源氏(1001‐14頃)総角「目なれずもあるすまひのさまかなといろなる御心にはをかしくおぼしなさる」
語素 ① 情事、遊里などに関するという意を添える。「色駕籠」「色狂い」「色事」「色好み」「色里」「色仕掛け」など。
② 調子、様子などの意を添える。「音色(ねいろ)」「声色(こわいろ)」「勝ち色」「負け色」など。
③ 種類の意を添える。「一色(ひといろ)」「色分け」など。 ※浮世草子・世間胸算用(1692)一「一軒からは、古き傘(からかさ)一本に綿繰(わたくり)ひとつ茶釜ひとつ、かれこれ三色にて銀壱匁借て事すましける」
※人情本・春色梅美婦禰(1841‐42頃)三「肴を三色(ミイロ)ばかり持来りて」
[語誌]漢語の「色」は「論語‐子罕」の「吾未徳如色者也」にあるように、「色彩」のほか「容色」「情欲」の意味でも用いられるところから、平安朝になって「いろ」が性的情趣の意味を持つようになるのは、漢語の影響と考えられる。恋愛の情趣としての「いろ」は、近世では肉体的な情事やその相手、遊女や遊里の意へと傾いていく。
広辞苑 名詞 ➊視覚のうち、光波のスペクトル組成の差異によって区別される感覚。光の波長だけでは定まらず、一般に色相、彩度および明度の3要素によって規定される。色彩。
➋色彩に関係ある次のようなもの。
①階級で定まった染色。 当色 (とうじき)
禁色 (きんじき) 宇津保物語初秋「―ゆるされたる限り」
③喪服のにびいろ。 源氏物語少女「世の中―改まりて」
④婚礼や葬礼の時、上に着る白衣。 色着 (いろぎ)。色被り。 浄瑠璃、博多小女郎波枕「惣左衛門が葬礼に 喪服 (いろ)を着て供してみせ」
⑤顔色。 「―が悪い」
おしろい。化粧。 「―を作る」
醤油 (しょうゆ)(べに)の異称。
➌容姿などが美しいこと。
①容姿または髪の毛が美しいこと。
宇津保物語藤原君「―なる娘ども」。
源氏物語竹河「御ぐし―にて」。
「―男」
②物事の美しさ。はなやかさ。 「声に―がある」
➍ものの趣。
①興味。趣味。
古今和歌集序「今の世の中、―につき、人の心、花になりにけるより」
②けはい。きざし。様子。 古今和歌集春「春の―のいたりいたらぬ里はあらじ」。
「秋の―が深まる」「敗北の―が濃い」
③調子。響き。 ()―」「(こわ)―」
➎愛情。愛情の対象たる人。
なさけ
新古今和歌集雑「明石潟―なき人の袖を見よ」
②色情。欲情。情事。 伊勢物語「これは―好むといふすきもの」。
日葡辞書「イロヲコノム」。
浄瑠璃、桂川連理柵「お半様の―の相手」
③情人。恋人。色男。色女。 浄瑠璃、冥途飛脚「―で逢ひしは早昔、今日は親身の女夫合ひ」。
徳田秋声、足迹「 情人 (いろ)でも何でもないものなら、お前が自腹を切る(いわ)れはないぢやないか」
④遊女。
➏①種類。品目。 宇津保物語俊蔭「目に見ゆる鳥・獣、―もきらはず殺し食へば」。
色書 (いろがき)」「大きさは幾―もある」
②(種々の物の意)租税としての物品。しき。→ 色代納 (いろだいおさめ)
➐邦楽で、主旋律でない修飾的な節。また、言葉の部分と節の部分との中間的な扱いをする唱え方。謡曲・義太夫等種目ごとに類型がある。
大言海 名詞 〔うるはし(麗)ノ、うるノ轉ナルベシ、うつくし、(美)いつくし。(嚴美)いちじるし、いちじろし(著)〕
(一){(ヒカリ) 固有 (モチマヘ)ナル、一種ノ性ノモノニテ、物ノ體ヲシテ、眼ニ 各種 (サマザマ)(ミエ)ヲ生ゼシムルモノ。色ノ(カサ)ナルモノハ、太陽ノ光ヲ、硝子ノ三角柱ニ透カシテ見レバ、光線屈折シテ、赤、橙、黃、靑、綠、藍、紫トナル、之レヲ 七色 (シチシヨク)ト云フ。又、古クヨリ、五色、又ハ、 正色 (セイシヨク)ナド云フハ、靑、黃、赤、白、黑ナリ。其他ノ紫、綠等ノ色ヲ、 閒色 (カンシヨク)ト云フ。
萬葉集、二十 五十八 「水鳥ノ、鴨ノ羽ノ伊呂ノ、靑馬ヲ」
(二)階級ニテ定マレル染色。 當色 (タウジキ) 江家次第、五、春日祭使「緖大夫、各着色色狩襖
(三){ 禁色 (キンジキ)。色ゆるさるナド云フ。(其條ヲ見ヨ)
(四){ 白粉 (シロキモノ)。假粧。(いろかノ條ノ(二)ヲ見ヨ)
(五)(ベニ)ノ、婦人語。おいろ
(六){鈍色 (ニビイロ)ノ略。(其條ヲ見ヨ)
(七)醬油ノ、婦人語。ムラサキ
(八){顏色。カホバセオモモチ 萬葉集、三 廿四 「岩ガ根ノ、コゴシキ山ヲ、越エカネテ、()ニハ泣クトモ、色ニ()メヤモ」
拾遺集、十一、戀、一「忍ブレド、いろニ出ニケリ、我ガ戀ハ、物ヤ思フト、人ノ問フマデ」
「恐ルル色ナシ」色、𮕩フ」色、白シ」
(九){ウルハシキコト。ウツクシキコト。 艷麗 天治字鏡、三「艷、美也、以呂布加志」
宇津保物語、藤原君 四十 男子 (ヲノコ)ドモ居()ミテ、いろナル娘ドモ居並ミテ」
源、四十三、竹川 十五 「御(グシ)、いろニテ、柳ノ絲ノヤウニ、タヲタヲト見ユ」
榮花物語、三十三、きるはわびしと歎く女房「黑キ(ヒトヘ)(オン)()ニ、()(グシ)ハ、御衣ヨリハ、いろニテ、云云、ツヤツヤト」
(十){シナタグヒ (クサ)品類 祈年祭祝詞、稻穗、 御酒 (ミキ)、菜、魚、云云「種種ノ色ノ物ヲ備ヘ奉リ」
宇津保物語、俊蔭 四十九 「目ニ見ユル鳥獸、いろヲモキラハズ、殺シテ食ヘバ」
「いろヲ易ヘ、品ヲ易フ」三色」七色」
(十一)キザシアリサマ。容子。 「旗色」(マケ)色」(ヒキ)色」
(十二)ヒビキ。調子。 「琴ノ音色」 聲色 (コワイロ)
(十三)ナサケアヂハヒオモムキ 沙石集、七、下、第六條「人ノ心ハ、ヤサシク色アルベシ」
「色ヲツケル」色ヲ持タセル」

検索用附箋:名詞物品名称
検索用附箋:形容動詞
検索用附箋:語素

附箋:名称 名詞 形容動詞 物品 語素

最終更新:2024年05月06日 21:26