おと(音)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 名詞 ① 広義には、聴覚で感ずる感覚全般。狭義には、生物(有情物)の「こえ」以外の物理的音声。
(イ) 水・風・波などの自然現象や、楫(かじ)などの無生(無情)物の発する音響。衝撃・摩擦によるひびき。楽器でも、古くは特に、鈴、鐘、鼓など打楽器類の音声に偏って使われる傾向がある。後には、生物の声以外の物理的音声全てをさす。
※万葉(8C後)一七・四〇〇三「立つ霧の思ひ過さず行く水の於等(オト)もさやけく万代(よろづよ)に 云ひ続ぎ行かむ川し絶えずは」 音・声・響
(ロ) 鳥や鹿などの動物の声をさす。特に、遠方から聞こえてくるような場合に使われる。 ※万葉(8C後)五・八四一「鶯の於登(オト)聞くなべに梅の花吾家(わぎへ)の苑に咲きて散る見ゆ」
(ハ) 人間の声。特に、実際には発せられていない状況について、禁止や打消の表現を伴って使われることが多い。 ※風俗歌(9C前‐11C中か)鳴り高し「をとなせそや、密(みそ)かなれ、大宮近くて、鳴り高し、あはれの、鳴り高し」
※源氏(1001‐14頃)帚木「物におそはるる心地して、『や』と、おびゆれど、かほに衣のさはりて、をとにも立てず」
② 人の気配。 ※万葉(8C後)一六・三八七五「ことさけを 押垂(おしたれ)小野ゆ 出づる水 ぬるくは出でず 寒水(さむみづ)の 心もけやに 思ほゆる 音(おと)の少き 道にあはぬかも」
③ 評判。うわさ。風聞。 「音に聞く」「音に聞こゆ」「音に立つ」
たより。おとさた。音信。「音(も)せず」「音(も)なし」のように、否定表現を伴うことが多い。 ※竹取(9C末‐10C初)「よるひるまち給ふに、年こゆるまで、音もせず」
⑤ 返事。答。下に否定表現をとることが多い。 ※源氏(1001‐14頃)乙女「『小侍従やさぶらふ』とのたまへど、をともせず」
[語誌](1)現代語の「おと」は無生物の発するもの、「こえ」は動物など生物が主に発声器官を使って発生させている(と聞き手がとらえた)ものを表わし、無情物対有情物の対義関係にあるが、古くは「こえ(こゑ)」は生物の声のほか、琴、琵琶、笛など弦・管楽器、また、鼓、鐘、鈴などの打楽器などの音響にも使われた。特に弦・管楽器については原則的に「こゑ」が使われ、「おと」が使われるのは特別な場合に限られた。このことから、「こゑ」は発生源そのものの性質と深く結び付いた独特の音声を指し、聞けばそのものと認識されるような音声に対して使われていたものと考えられる。それに対して「おと」は、古くは原則的に「物と物とがぶつかった時、あるいはこすれあった時に出る物理的な衝突音、摩擦音」を表わし、そのほか、耳ざわりだと感じられる大きな音声、かすかではっきりとは識別しがたい音声など、「こゑ」としては認識されないものの場合に使われている。
(2)類義語「こゑ」(聞き手を意識して出す)と「ね」(おさえきれず自然に出てしまう)とが、意図的か自然発生的かによって区別して使用されるのに対し、「おと」はその区別に中立であって、聞く人の感情移入がない。中古の和歌・和文では、「虫のね」「虫のこゑ」、「琴のね」「琴のこゑ」をはじめ感情移入表現が幅をきかしたが、「平家物語」の頃までに「ね」と「こゑ」の区別は稀薄になり、「ね」が「こゑ」に吸収される傾向が顕著となる。「こゑ」の用法も狭まり、表現も類型化する。
広辞苑 名詞 ①物の響きや人・鳥獣の声。物体の振動が空気の振動(音波)として伝わって起こす聴覚の内容。または、音波そのものを指す。音の強さは音波の物理的強度、音の高さは振動数の大小による音の性質の違い、音の大きさは感覚上の音の大小を指し、3者は区別される。 万葉集7「 細谷川 (ほそたにがわ)の―のさやけさ」。
万葉集17「ほととぎす鳴く―(はる)けし里遠みかも」。
「―を立てる」
おとずれたより。音信。風聞。うわさ 万葉集5「―に聞き目にはいまだ見ず」。
伊勢物語「久しく―もせで」
③応答。返事。 宇治拾遺物語15「寄りておとなひけれど―なし」
④〔言〕発話の最小単位。子音と母音。単音。
大言海 名詞 (アタ)ト通ズルカ、 織衣 (オリギヌ)、ありぎぬ。いたはし、いとほし〕
(一)物ノ、動キ當リテ起ル、一種ノ性ノモノ。空氣ニ傳ハリテ、耳ニ聞ユ。ヒビキコヱ
萬葉集、十四 十七 都武賀野 (ツムガヌ)ニ、鈴ガ於等聞ユ、 可牟思太 (カムシダ)(地名)ノ、殿ノ 仲子 (ナカナ?)シ、 鳥狩 (トガリ)スラシモ」(鷹ニツケタル鈴ナリ)
同、十七 四十一 長歌「行ク水ノ、於等モサヤケク」
字鏡 六十六 「翼聲、波禰於止」
(二)動物ノ聲。 萬葉集、十 廿 「ホトトギス、鳴クナル聲ノ、音ノ(ハル)ケサ」
古今集、四、秋、上「秋萩ヲ、シガラミ伏セテ、鳴ク鹿ノ、目ニハ見エズテ、音ノサヤケサ」
蜻蛉日記、下、中 廿 「イト奧山ハ、鳥ノ聲モセヌモノナリケレバ、鶯ダニおとセズ」
千載集、八、覊旅「小夜深キ、雲居ニ雁モ、おとスナリ」
(三) 人言 (ヒトゴト)ウハサ。風聞。 萬葉集、二 三十三 長歌「音ノミモ、名ノミモ、絕エズ」
同、七「音ニ聞キ、目ニハイマダ見ヌ、吉野川、 六田 (ムツタ)ノ淀ヲ、今日見ツルカモ」
(四)オトヅレタヨリ。オトサタ。 竹取物語「夜晝待チタマフニ、年越ユルマデ、おとモセズ」

検索用附箋:名詞名称

附箋:名称 名詞

最終更新:2024年05月08日 19:47