かく(掻)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 他動詞 [一] 手や足、爪、またはそれに似たもので物の表面をこする。また、そのような動作で切り取り、削り取る。
① 爪を立ててこする。
※万葉(8C後)六・九九三「月立ちてただ三日月の眉根掻(かき)気(け)長く恋ひし君に逢へるかも」
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「法師は、せめてここに宿さまほしくして、かしらかきありく」
② 腕や手首を上下、または左右に動かす。また、鳥が羽を上下に動かす。 ※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)二「大河の水に漂ひ泛べり、其の身手を運(カキ)、足を動かし」
※拾遺(1005‐07頃か)恋二・七二四「ももはがき羽かく鴫(しぎ)もわがごとく朝わびしき数はまさらじ〈紀貫之〉」
③ くしで髪をすく。くしけずる ※万葉(8C後)一八・四一〇一「朝寝髪 可伎(カキ)もけづらず」
④ 琴の弦をこするようにしてひく。弾じる。→掻き弾(ひ)く
⑤ (爪を立てるようにして)物にとりつく。かじりつく。 ※古事記(712)下・歌謡「梯立(はしたて)の 倉梯山を 嶮(さが)しみと 岩迦伎(カキ)かねて 我が手取らすも」
⑥ 熊手などで、集め寄せる。 ※俳諧・曠野(1689)七「落ばかく身はつぶね共ならばやな〈越人〉」
⑦ 箸などを手前に動かして食物を口に入れる。食物をかきこむ。 ※平家(13C前)八「猫殿は小食におはしけるや。きこゆる猫おろしし給ひたり。かい給へ」
⑧ 田畑などを耕す。すきかえす
⑨ (かきよせるように)報酬として、または、賭け事で金を取る。 ※浄瑠璃・冥途の飛脚(1711頃)二「高駄賃かくからは、大事の家職」
⑩ 刃物を手前に動かして切り取る。→掻き刈る ※平家(13C前)九「頸をかかんと甲(かぶと)をおしあふのけて見ければ」
⑪ 道具を動かして、物をけずる。 ※大鏡(12C前)二「工ども裏板どもを、いとうるはしくかなかきて」
[二] 手や道具で、左右に振るようにして押しのけたり、回すようにしてまぜたりする。
① 水を左右へ押し分ける。また、水をかき回す。
※万葉(8C後)八・一五二〇「朝なぎに い可伎(カキ)渡り 夕潮に い漕ぎ渡り」
※日本読本(1887)〈新保磐次〉五「船中に湯を沸しその蒸気の力を以て車を廻し、この車を以て水を掻かしむ」
② 左右に分けるようにして捜し求める。押し開くような動作をする。 ※書紀(720)神功摂政元年三月(北野本訓)「其の屍を探(カケ)ども得ず」
③ 払いのける。とりのぞく。 ※日葡辞書(1603‐04)「ハイヲ caqu(カク)」
④ 粉状の材料に液体を加え、器をこするようにしてまぜる。 ※東京の三十年(1917)〈田山花袋〉その時分「それはすいとんといふもので、蕎麦粉(そばこ)かうどん粉かをかいたものだが」
[三] 外に現わす。
① 汗、いびきなどを、からだの外に出す。
※平家(13C前)五「高いびきかいて臥したりけるが」
※魔風恋風(1903)〈小杉天外〉前「身体中汗を発(カ)いて」
② 恥や、できものなどを身に受ける。 ※東大寺諷誦文平安初期点(830頃)「道のへに乞匃(かたゐ)伏せり。疥(はたけ)掻(カキ)て目所も无く腫れ合ひて」
※平家(13C前)四「おりのべを一きれもえぬ我らさへ薄恥をかく数に入るかな」
③ 他に対してみっともない表情を顔に現わす。 ※浄瑠璃・女殺油地獄(1721)上「御免成ませ。お慈悲お慈悲とほゑづらかく」
※雑俳・柳多留‐四(1769)「小侍女郎の中でべそをかき」
④ こちらの負担になることを他にしてやる。また、給金を与える。 ※浮世草子・西鶴織留(1694)五「半としの紅白粉あるひは草履銭、こっちから賃かきて奉公いたすになりぬ」
[語誌](1)爪や手など先の尖った物を用いて何かの表面を強くひっかく意味が原義で、そのような動作をすることを広くいう。「加岐(カキ)ひく」〔古事記‐下・歌謡〕、「訶岐(カキ)苅り」〔古事記‐下・歌謡〕など、「掻く」動作の意を表わして複合語を作ることも多く、「掻き口説く」「掻き廻(み)る」など原義を残さず接頭語として使われるに至った。
(2)(三)は(一)(二)と意味のへだたりが大きいが、良くないことばかりにいうところをみると、心身の不快や苦痛で「あがく(足ずりする)」「もがく(身もだえする)」ことの結果が、外面に現われるところをとらえた用法であろう。
広辞苑 他動詞 ➊爪またはそれに形の似た道具類で物の面をこする。
①爪を立ててこする。
万葉集4「(いとま)なく人の眉根をいたづらに―・かしめつつも逢はぬ妹かも」。
日本霊異記下「その犬 嘷吠 ()()きて」。
「背中を―・く」
掻く
②田を耕す。 ()きかえす 万葉集14「 金門 (かなと)田を(あら)―・きまゆみ」
熊手 (くまで)などでかきよせる。 今昔物語集29「蜂の死なむずるを哀れんで木を以て―・き落しければ」。
曠野「落葉―・く身は(つぶね)ともならばやな」(越人)
④くしけずる。髪を()く。 万葉集18「ぬば玉のよどこかたさり朝寝髪―・きもけづらず」
⑤琴の弦をなでるようにして弾じる。 古事記下「枯野を塩に焼き()が余り琴につくり―・きひくや」。
「琴を―・きならす」
⑥刀などで手前の方へ引き切る。 古事記下「山のみ尾の竹を―・き刈り」。
平家物語9「とつて押へて頸を―・かんとする処に」
⑦道具を動かして物の面を削る。 大鏡時平「工ども裏板どもをいとうるはしく(かな)―・きて」。
「氷を―・く」
⑧もうけなどを取り込む。 浄瑠璃、冥途飛脚「高駄賃―・くからは大事の家職」
➋手その他のもので物をおしのける。
①水をおしのける。
万葉集8「朝なぎにい―・きわたり夕しほにい漕ぎ渡り」。
「足で水を―・く」
②はらいのける。とりのぞく。おしやる。 万葉集2「天雲のやへ―・きわけて(かむ)下り」。
玉葉集秋「ころもうし初かりがねの玉づさに―・きあへぬものは涙なりけり」。
「屋根の雪を―・く」
③(「裏を―・く」の形で)
㋐刀・矢などでものの裏まで突き通す。
平家物語9「鎧よければうら―・かず」
㋑意表をつく。 「敵の裏を―・く」
➌手その他の物を、すりまわすようにして動かす。
①手その他のものを動かしまわす。
蜻蛉日記中「あなかまあなかまとただ手を―・き」。
続後撰和歌集雑「暁の鴫の羽根がき―・きもあへず我が思ふ事の数を知りせば」
②(粉に水や湯を入れ)こするようにしてこねまぜる。 「そばがきを―・く」
③さぐり求める。 神功紀「是に於て其の屍を()けども得ず」
(はし)などを動かして食物を口の中に押し入れる。かっこむ。 源平盛衰記33「無塩の平茸は京都にはきとなき物也、猫殿ただ―・き給へとすすめたり」
⑤しがみつく。 古事記下「はしたての倉はし山をさがしみと岩―・きかねて我が手取らすも」
➍⇒かく(繋・構)5・6
大言海 他動詞 (一){爪ヲ立テテ引ク。ヒッカク 靈異記、下、第二緣「抓、可支天」
「癢キヲかく」
(二){ () 古今集、十二、戀、二「秋風ニ、かき()ス琴ノ、聲ニサヘ、ハカナク人ノ、戀ヒシカルラム」
(三)手ニテ押シノクル。泳グ。 「水ヲかく」
(四)拭フ。 玉葉集、四、秋、上「かきアヘヌモノハ、淚ナリケリ」
(五){拂ヒ除クル。 枕草子、八、七十四段「尼ニ削ギタル兒ノ、目ニ、髮ノオホヒタルヲ、かきハヤラデ」
「雪ヲかく」
(六)切リ放ス。カキキル。切斷 盛𮕩記、廿、石橋合戰事「與一、刀ヲ拔キ股野ガ首ヲかく、搔共搔共切レズ」
(ノド)ヲかく」
(七){クシケヅル 萬葉集、十八 廿四 長歌「ヌバタマノ、夜床片去リ、朝寐髮、可伎モケヅラズ」
(八){カキマズ。カキマハス。 古事記、上「指下其 沼矛 (ヌボコ)、以 畫者 (カキタマヘバ)」(海水ヲ)
「蕎麥がきヲかく」
(九){草木ノ汁ニ、搔キツケ摺リツケテ、染ム。 萬葉集、七 三十三 「菅ノ根ヲ、(キヌ) 書付 (カキツケ)、(搔キツケ)着セム()モガモ」
同卷 三十五 垣津幡 (カキツバタ)、衣ニ 摺著 (スリツケ)、着ム日知ラズモ」トアル 杜若 (カキツバタ)モ、搔付花ノ轉ナリ、(其條ヲ見ヨ)刈安草ヲかきなト云フモ、 搔成 (カキナシ)ナリ、紺染ムル者ヲ、 紺搔 (コンカキ)ト云フ。
(十){接頭語、かき(搔)ヲ見ヨ。 「搔き曇ル」搔き(コモ)ル」搔き捨ツ」搔き消ス」
動詞活用表
未然形 かか ず、ゆ、る、む、じ、す、しむ、まほし
連用形 かき たり、き、つ、ぬ、つつ、たし、ても
終止形 かく べし、らし、らむ、ましじ、まじ
連体形 かく も、かも、こと、とき
已然形 かけ ども
命令形 かけ

検索用附箋:他動詞四段

附箋:他動詞 四段

最終更新:2024年05月08日 20:21