さす(令)

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日本国語大辞典 助動詞 ( 活用は「させ・させ・さす・さする・さすれ・させよ」。上一段・下一段活用、上二段・下二段活用、カ行・サ行変格活用の動詞の未然形に付く )
[ 一 ] 使役の意を表わす。
① 他にその動作をさせる意、またはそのように誘発する意を表わす。…させる。
竹取物語(9C末‐10C初)「月の都の人まうで来ば、捕へさせん」
徒然草(1331頃)五一「さて、宇治の里人を召して、こしらへさせられければ」
② そのような動作、作用が行なわれることを許可する、またはそのまま放任する意を表わす。…のままにする。…させておく。武士ことばとして、受身の「らる」の代わりに用いられることがある。 源氏物語(1001‐14頃)絵合「あながちに隠して心安くも御覧ぜさせず、なやまし聞ゆる」
保元物語(1220頃か)中「四郎左衛門も、内甲(うちかぶと)を射させて引き退く」
③ 許しを依頼する意を表わす。 菜穂子(1941)〈堀辰雄〉二「此事務所をやめさせて下さいと云ひ出しかけて」
[ 二 ] 敬意を表わす。
① ( 尊敬を表わす語の上に付いて ) 尊敬の意を強める。
源氏物語(1001‐14頃)桐壺「御胸つとふたがりて、つゆまどろまれず、明かしかねさせ給ふ」
平家物語(13C前)四「法皇もおそれさせ在(まし)ましければ、元日元三の間、参入する人もなし」
② ( 謙譲語「聞こゆ」に付けて ) 謙譲の意を強める。申しあげる。→きこえさす。 枕草子(10C終)一八四「よろしうだに思ひ聞えさすべきことかは」
[語誌]( 1 )助動詞「す」と接続の上で相補いあう関係にあり、意味は同一である。なお、動詞の活用語尾に準ずるものとして、接尾語とする説もある。
( 2 )中世後期(室町時代)になると、二段活用の一段化によって下一段活用となる。また、「いま一度重射さしたまへ」〔史記抄‐一一・孫呉〕、「少(ちっと)の間寝さして下さんせ」〔歌舞伎・傾城江戸桜‐中〕などのように、連用形が「さし」となって四段化した例も現われる。さらに、尊敬の用法が衰退し、「随員を従えさせられる」など、「られる」と重ねた形でのみ用いられる。
広辞苑 助動詞 (口語「させる」の文語形。活用は下二段型。付録「助動詞活用表」参照。中世以降、次第に四段・下一段に活用する傾向を示す)上二段・下二段・上一段・下一段・カ変・サ変の動詞の未然形に付く。平安時代、漢文訓読文系に用いる「しむ」に対し、「す」と共に主にかな文学系に用いられた。→しむ
①人を介してさせる意を表す(使役)。…させる。
竹取物語「月の宮この人まうで来ば捕らへさせむ」。
勅規桃源抄「ものやなんどを悪うして失せさしたり失ふたりなんどすな」。
浄瑠璃、心中宵庚申「跡へお千代を呼び入れ、留守の間でほたえさす事は成りませぬ」。
浮世風呂前「子供といふ者は熱い湯で懲りさせると湯嫌ひになるものさ」
②人のするままにさせる意を表す(放任・許容)。…させる。 伊勢物語「あしたには狩にいだしたててやり、夕さりは帰りつつ、そこに来させけり」
③主に中世の武者詞で、他者が自分にしかけた、受身で表すべき動作を許容・放任する形でいう。…するままにする。…させる。 平家物語4「三位入道… 弓手 (ゆんで)の膝口を射させ、痛手なれば、心静かに自害せんとて」
④尊敬を表す動詞・助動詞と共に用いて尊敬の意を強め、一段と高い敬意を表す(最高敬語)。 源氏物語桐壺「かの贈り物御覧ぜさす」「かうやうの折は御遊びなどせさせ給ひしに」
⑤謙譲を表す動詞と共に用いて謙譲の意を強める。 源氏物語空蟬「人の思ひ侍らむ事の恥かしきになむ、え聞えさすまじき」。
毎月抄「かへすがへす本意に覚えさせ給へて候ふ」
大言海 助動詞 (一)他ヲ使役シテ、動作ヲ起サシムル意ノ助動詞。 ()。上二段、下二段、上一段、下一段、加變、佐變、ノ活用ノ動詞ノ未然形ニツク。す(令)ノ條ヲ倂セ見ヨ。 後撰集、七、秋、下「アシビキノ、山ノ山守、()ル山ノ、紅葉()さする、秋ハ來ニケリ」
竹取物語「人人(タマ)ハリテ、月ノ都ノ人、(マウ)()バ、(トラ)ヘさせムト申ス」
(二)此語ノ連用形ノさせハ、使役ノ意ハ失セテ、唯、敬語トシテ用ヰラル、尊長ノ動作ヲ、勢アルヤウニ言フヨリ、移リタルナリト云フ。 枕草子、四、四十四段「必ズ、見セさせタマヘ」
同、八、八十一段「御硯オロシテ、書カセさせタマフ」
源、三十四、上、若菜、上 五十六 「御身ヲ心ニ、エ任カセさせタマフマジク」
金葉集、九、雜、上「後三條院、カクレさせオハシマシテ後」

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最終更新:2024年09月04日 21:48