そら(空・虚)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 名詞 [ 一 ] 空間・場所・位置などの上の方をいう。
① 地上の上方で、神の世界と想像した天より下の空間。虚空。中天。転じて、地上の上方に広がる空間全体をさしていう。古くは、「あめ(天)」が天上の神々の生活する世界を想定しているのに対して、より現実的な空間をいうと考えられる。
古事記(712)中・歌謡「浅小竹原(あさじのはら) 腰泥(なづ)む 蘇良(ソラ)は行かず 足よ行くな」 空・虚
② ①の様子。天候や、時に寒暖などの気候をあらわすものとして用いる。空模様。時節。→そらの色そらの乱れ 後撰和歌集(951‐953頃)秋下・四二三「おほかたの秋のそらだにわびしきに物思ひそふる君にもある哉〈右近〉」
③ ある物の上部、高い所をさしていう。
(イ) 屋根・天井・梢(こずえ)などの高い所をいう。
宇津保物語(970‐999頃)楼上上「屋(や)のそらところどころ朽(く)ちあきたりしかう、月の光にしらてゐ給へりしほどを見つけ給へりしこと」
(ロ) 物の表面。 正倉院文書‐天平一二年(740)越前国江沼郡山背郷計帳「母江沼臣族西田女年伍拾捌 正女 右手蘇良灸」
(ハ) 上手(かみて)。上座(かみざ・じょうざ)。 滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)二「そしてがいに、あとへさがりやることよ。もっとそらへつん出なさろ」
(ニ) ( 「くびより空」の形で ) 首から上だけで真心がこもっていないこと。 説経節・さんせう太夫(与七郎正本)(1640頃)中「御身がなみだのこぼれやうは〈略〉、くびよりそらの、よろこびなきとみてあるぞ」
④ 方角。場所。また、境遇。心境。本拠たるべき地を離れて、異なる境遇に身を置いていることを示すとともに、その境遇や心境などが不安定で、心配・悲しみ・憂いに満ちたさまであることをも含める。→そらがない 竹取物語(9C末‐10C初)「旅のそらに助け給ふべき人もなき所に」
⑤ ( ④から転じて ) 物事の途中。中途。 梁塵秘抄(1179頃)二「思ひは陸奥に、恋は駿河に通ふ也、見初(そ)めざりせばなかなかに、そらに忘れて已(や)みなまし」
[ 二 ] 比喩的に、精神状態などについて用いる。
① ( 形動 ) 心が空虚であること。また、そのさま。魂が抜けたようで、しっかりした意識のないこと。また、そのさま。うつろうわのそら
万葉集(8C後)一一・二五四一「たもとほり往箕(ゆきみ)の里に妹を置きて心空(そら)なり土は踏めども」
枕草子(10C終)二三「目はそらにて、ただおはしますをのみ見たてまつれば」
② ( 形動 ) 明確な基準・根拠・原因・理由などがないことをあらわす。多く、助詞「に」を伴って、副詞的に用いる。
(イ) はっきりした原因や意図のないこと。また、そのさま。偶然。自然。
今昔物語集(1120頃か)一「此を聞て貴しと思ひ成て礼拝し奉る時に、頭(かしら)の髪空に落て羅漢と成ぬ」
(ロ) これという理由のないこと。また、そのさま。 山家集(12C後)上「そらにいでて何処(いづく)ともなく尋ぬれば雲とは花の見ゆる成けり」
(ハ) 根拠が不確実であること。また、そのさま。 海道記(1223頃)蒲原より木瀬川「富士の山を見れば、都にて空に聞きししるしに、半天にかかりて群山に越えたり」
(ニ) 足もとがおぼつかないこと。また、そのさま。 落窪物語(10C後)二「足をそらにてまどひ倒れて」
(ホ) 特に、「知る」などを修飾して、とりたてて意図したり教えられたりせず、自然に推量して知ることをいう。→そらに知る 白氏文集天永四年点(1113)三「闇(ソラ)に君が心を測り、閑かに独り語る」
(ヘ) 助詞「に」(後には「で」)を伴い、「読む」「覚える」などの語を修飾して、文字を見ることなく記憶に頼るだけであることをいう。 観智院本三宝絵(984)中「七歳よりさきに法華経八巻花厳経八十巻をみなそらによむ」
うそいつわり。→そらを使うそら吐(つ)く 人さまざま(1921)〈正宗白鳥〉「『お前だっておらと盃事した時にゃ俯向いとったでねえか』『空(ソラ)云ふでねえよ』」
④ 心。気持。下に否定の表現を伴って、その行為に伴う不安な心境やうつろな心を表わす。または、その行為や方角・場所などにむかう漠然とした意志などをさす。 万葉集(8C後)一七・三九六九「悲しけく ここに思ひ出 いらなけく そこに思ひ出 嘆く蘇良(ソラ) 安けなくに 思ふ蘇良(ソラ) 苦しきものを あしひきの 山き隔(へな)りて」
平家物語(13C前)三「御あり様を見をき奉るに、行べき空も覚えず」
語素 主として名詞、その他の語の上に付いて、実体のないことである意などを示す。
① 実体のないもの、間違ったことなどの意を表わす。「そらね(空音)」「そらめ(空目)」「そらみみ(空耳)」など。
② 本心はそうでなく、うわべだけであることを表わす。「そらごと(空言)」「そらなさけ(空情)」「そらね(空寝)」「そらなき(空泣)」など。
③ かいがない、無駄であるの意を表わす。「そらだのめ(空頼)」など。
④ いいかげんである、でたらめであることを表わす。「そらうた(空歌)」「そらのみこみ(空飲込)」など。
⑤ 自然に、の意を表わす。「そらおぼえ(空覚)」「そらどけ(空解)」など。
⑥ 名詞、または動詞の上に付いて、わざと、承知の上で、の意を表わす。「そらとぼけ(空惚)」「そらとぼける(空惚)」など。
接頭辞 ① 動詞の上に付いて、むやみに、やたらに、の意を表わす。「そらからくる(空絡繰)」「そらうそぶく(空嘯)」「そらっぷく(空吹)」など。
② 形容詞の上に付いて、はっきりした結果、または事情は不明であるが、その気持のはなはだしいことを表わす。「そらおそろしい(空恐)」「そらはずかし(空恥)」など。
[語誌]( 1 )( [ 一 ][ 二 ]について ) 形容動詞的用法は、中古和文では、特に、男性から女性への恋愛情緒を表わす場面に多く見られ「心そらなり」の形で使われている。あることに心がとらわれ、目の前のことに気持が向かないことを意味し、現代語の「うわのそら」に類似する。
( 2 )( [ 二 ][ 三 ]について ) 「そら」は、広い空間であり、実体として把握しづらいものであるところから、「実」に対する「虚」の意味になり、質を伴わない、表向きだけである等の意となる。[ 三 ]②の用法も、そこから生じたと考えられる。
広辞苑 名詞 (上空が 穹窿 (きゅうりゅう)状をなしてそっていることからか)
①地上に広がる空間。地上から見上げる所。天。おおぞら 虚空 (こくう)。空中。
万葉集9「雁がねの聞ゆる―に」。
「―に浮かぶ雲」「青い―」「―の星」
②空模様。天候。時節。 後撰和歌集秋「大方の秋の―だにわびしきに」。 枕草子106「―寒み花にまがへて散る雪に」。
「―があやしい」「男心と秋の―」
③落ち着く所のない、不安定な状況。 竹取物語「旅の―に助け給ふべき人もなきところに」。
「若い身―」
④心が動揺し落ち着かないこと。放心。また、一つに決めかねている心境。 万葉集11「心―なりつちは踏めども」。
宇津保物語俊蔭「今更に、おもひ給へかへらん―も恥かしう」。
「うわの―」「生きた―もない」
⑤根拠のないこと。当て推量すること。うそ 貫之集「まだねぬ人を―に知るかな」。
「―疑い」「―を()く」
⑥無益なこと。かいのないこと。 古今和歌集恋「ほととぎす鳴く音―なる恋もするかな」
⑦暗記。暗誦。 枕草子191「六の巻―に読む」。
「―で言う」
⑧うえ。てっぺん。 狂言、柿山伏「犬が何として木の―へ登つたことぢや知らぬ」
接頭辞 「何となく」「しても効果がない」「偽りの」「真実の関係がない」などの意を表す。 「―おそろしい」「―だのみ」「―寝」「―耳」「他人の―似」
大言海 名詞 ()りテ見ル義、(ウチラ)ニ對シテ、(ソラ)カ、らハ、添ヘタル辭。梵語ニ、 修羅 (スラ)(Sura.)譯シテ、非天、舊譯、阿修羅、新譯、阿蘇羅、ト云フ、(英語、Solar.沖繩ニテ、すら)相、似タリ〕
(一)天ヲ、仰ギ見テ云フ語。中天。中空。
神代紀、下 廿七 「若從天降者、當(カホ)、從地來者、當地垢、實是、妙美之 虛空 (ソラツ)彥者歟」
同、上「天地初判、一物在(ソラノ)
源、四十六、總角 六十一 「胸ノミ、ツト塞ガリテ、そらヲノミ眺メ給フニ」
古今集、十五、戀、五「天津そら」
貫之集「櫻散ル、木ノ下風ハ、寒カラデ、そらニ知ラレヌ、雪ゾ降リケル」
新後撰集、一、春、上「久方ノそら」
小大君集「おほぞら」
空・虛
(二)トキヲリ。時節。 天時 寬平御時后宮歌合、夏「オシナベテ、五月ノ空ヲ、見渡セバ」
亭子院歌合、戀「春雨ノ、ヨニフル空モ、オモホエズ」
「小春ノそら」
(三)差ス方。差掛カル場合。 竹取物語「コレヲ、帝、御覽ジテ、イトド、歸リ給ハムそらモナク思サル」
源、十三、明石「家ヲ誰レ、境ヲ去リテ、明ケ暮レ、安キそらナク、歎キ給フニ」
落窪物語、一「立チテ步ク空モナシ」
重之集「群レヰル鳥ノ、立ツそらゾナキ」
赤染衞門集、一「玉鋒ノ、道ノそらニテ、消エニセバ」
「旅ノそら」
(四)取リトメヌコト。(イタヅ)ラナルコト。ウハノソラ浮空 萬葉集、十一 十七 「タモトホリ、 往箕 (ユキミ)ノ里ニ、妹ヲ置キテ、心(ソラ)ナリ、(ツチ)ハ蹈メドモ」
同、十二 十二 「吾妹子ガ、夜戶出ノ姿、見テシヨリ、心(ソラ)ナリ、地ハ蹈メドモ」
同、十二「立チテ居テ、タドキモ知ラズ、吾ガ心、天ツ(ソラ)ナリ、地ハ蹈メドモ」
古今集、十五、戀、五「秋風ハ、身ヲ分ケテシモ、吹カナクニ、人ノ心ノ、そらニナルラム」
伊勢物語、六十八段「野ニ步ケド、心ハそらニテ」
兼輔集「春霞、立チツル方ヲ、眺メツツ、そらナル戀モ、我レハスル哉」
(五)スベテ、其ノ實ナキコト。空虛。(マコト)ナラヌコト。 貫之集「まことカト、見レドモ見エヌ、七夕ハ、そらニ亡キ名ノ、立テルナルベシ」
宇津保物語、初秋 四十五 「そら目」
枕草子、一、第三段「そら耳」
夫木抄、七「そら(ダキ)
蜻蛉日記、上、上「そら(ダノ)メ」
(六)空虛ノ義ヨリ轉ジテ、中閒ノ義。(心そらナリナドハ、心、空虛ナリ、足ヲそらニシテナドモ、空虛ノ義ニテ、蹈ム所モオボエザルナリ) 萬葉集、十五 廿五 長歌「道ノ蘇良治」(道ノ閒道ニテ、中途ナリ)
家持集「彥星ノ、妻呼ブ舟ノ、引ク綱ノ、そらニ絕エント、我ガ思ハナクニ」
(七)心ノ推シ量リノミナルコト。 源、二、帚木「夫レ(シカ)アラジト、そらニイカガハ、推シハカリ、思ヒ(クタ)サム」
枕草子、十二、百五十六段「錄ヲゾ、そらニ讀ム」
榮花物語、十五、疑「法華經ヲ受ケ習ヒテ、晝夜ニ讀誦ス、そらニ浮ベタリ」
(八)イツハリウソ虛僞 土佐日記、正月九日「そら言」
源、三、空蟬「そら寐」
「そら泣」
(九) 心地 (ココチ)ノ義。又、そらぢ。(そら恐しノ、そらノ如キ) 萬葉集、八 三十二 長歌「思フ空、安カラナクニ、歎ク空、ヤスカラナクニ」
同、十三 十五 長歌「思フ空、安カラヌモノヲ、歎ク空、(スグ)シ得ヌモノヲ」
同、十九 十六 長歌「歎ク蘇良、安ケクナクニ、思フ蘇良、苦シキモノヲ」

検索用附箋:名詞名称
検索用附箋:接頭辞
検索用附箋:語素

附箋:名称 名詞 接頭辞 語素

最終更新:2025年01月04日 16:19