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お互い様

「はあ…」
私は大きな溜息をつく。

それは、狭い空虚な空間を一時的に響かせるだけの音であり、
更に私は凋落した。

思えば高校生の頃に、一番よく遊んでいた、こなた。
…今どうしてるだろうか。

たまに連絡をとったりするが、最近は一向に繋がらない。
携帯替えたのかな…
でも、それなら連絡あるはずだよね。

私は今京都に居る。

碁盤の目の街には慣れやすかったけど、
大学の孤独感には慣れることができなかった。

私は高校生の頃、こなた達と仲良くアニメイトや、
ゲマズ、コミケにも行ったりした。
あの頃は、今と比べれば充実感溢れた日々を送られていたのだ。
些細な事でも、皆と居られれば楽しいことだったのだ。

私は、写真立てに飾ってある、
修学旅行で京都に行った時の私達4人の写真を取り出す。

あの頃は…本当に良かったな…
不意に目頭が熱くなった。

大学になっても友達はできるだろうと思っていたが、
私自身が向こうから話しかけて来ないと、
話が出来ない性格になっていたことに気付いてなかったのだ。

故に、たまに話し掛けてくれる学生は居ても、
友達ではないという、独りぼっちの世界…
それが私にとっての大学なのだ。

もう、あんな風に4人で集えることはないのだろうか…

その時、無音空間に電話の音が鳴り響く。
私は受話器を取る。
「もしもし」
「やあ、かがみん?私、こなただよ~」
「こなた!あんた今まで何やってたのよ!
連絡もつかないし心配してたんだから!」
「いゃぁ~、ごめんごめん。実は携帯を替えてね。
かがみんに連絡しようと思ったけど、
そっちの携帯が非通知は着信拒否になってたみたいだから、
お互いに連絡出来なかったみたいだね」
「あぁそっか…ごめんね、非通知にしてて」

実は、携帯を非通知着信拒否にしたのは以前悪戯だろうか、
何度も電話してくる人が居て、
それも誰かも解らなかったので不気味になり、
思い切って非通知ごと着信拒否にしたのだ。

「ごめんね、かがみん。
前の携帯は友達ん家でハルヒダンス踊ってたら
ポケットから飛び出して水槽に落ちちゃってね。
そのまま壊れちゃったんだ」

普段なら私は「鈍臭いわね~」とかツッコミを入れるはずだ。
こなたもそれを期待しているんだろう…
でも、私はそれ以前のこなたの発言にショックを感じていた。

「…あんた…友達居るんだ」
「え?居るよどうして?」
「いや、何でもない…」

こなたは、もう趣味の合う友達を見つけたのだろうか。
以前つかさは、彼氏が出来たとかどうとか
楽しげに連絡をしてきた。
私もつかさに合わせて楽しげに受け応えしていたが、
内心は凋落していた。
みゆきからはあまり連絡が来ないが、
勉強仲間が居るらしい。

皆、独りぼっちじゃないんだ。

「実はさ、明日に大学の都合で
京都に行くことになってるんだ。
住所が解れば会いに行けるんだけど…」
「本当に?」
「うん。大半が自由行動らしいし、班分けもされてないから
皆にいったん断っておくよ。住所は?」
「いいわよ。私が京都駅で待ってる」
「あぁ、近いの?」
「うん。あまり離れてないし」
「そっか。じゃあ、明日の10時くらいには着けると思うから、待っててね」
「分かった。約束よ!」

そして電話が切れた。

今日は、ゆっくり寝ることにした。
明日には、こなたに会えるんだ。

高校卒業以来、2年ぶりか…





翌日、私は珍しくブランド物のコートを着て、京都駅へ向かう。
よく考えたら入学以来着てないな…この服も。
京都駅までは、電車で20分程かかる距離である。
私は大学の寮に住んでいるわけではなく、
大学近くのアパートに住んでいる。

私は、とりあえず京都駅までの電車運賃を用意し、
10時よりは前に着くように出発する。

大学は、今春休みのはずだけど…
何かあるのだろうか…

地下鉄に乗り、私は京都駅へと向かう。

朝のラッシュは避けられたようだ。
というか、第一今日は日曜日だしそんな心配はいらないか。
人ごみにはすっかり慣れたと思ってたけど…
やっぱりなかなか馴染めない。

そういえば、こなたが部活に入ったかどうかは聞いたことが無い。
部活の都合で京都に来たのかな…
いや、大学の都合と言っていたから、
もしかしたら旅行のようなものだろうか…

そんなことを脳内で会議していると、
もう京都駅に到着した。

私は新幹線の改札へと走った。
幸い、まだ新幹線到着まで10分ほど余裕がある。

私は、近くの柱にもたれ掛かり、
こなたが来るのを待った。

私は、カップルや友達が一緒に歩く姿が目に入った。
正直言って、今の私には羨ましいと思った。
だって、まさか独りになる世界なんて想像していなかったから。
でも、あの4人がもし揃えば、何となく力になりそうな気がした。

「やぁ、かがみん!」
「お姉ちゃん!久しぶり!」
「かがみさん!」
見ると、高校生のままの髪型をしたこなた…
いや、それだけじゃない。
こなたとつかさとみゆきが、改札を抜けてきたところだった。
ミンクコートを着たこなた達は、少々大人っぽく見える。
みゆきは、さらにグラマラスに見えた。

私は、目の前の現状を理解できなかった。

「な、なんでみんなが?大学の都合って…」
「大学の都合ってのは嘘。ごめんね、かがみん。
あはは…びっくりしたでしょ」
「ごめんね、お姉ちゃん」
「泉さんに頼まれまして」
「…バカ」
私は一気に目頭が熱くなった。

「あれ、かがみん泣いてるの?」
「う、うるさい!泣いてなんかないわよ…」
私は、言い終える前に、こなたに抱きしめられていた。

「分かってたよ。かがみん…寂しかったんだよね」
「うっ…うっ…うわぁああん」
とうとう私は京都駅の真ん中で泣き出してしまった。
「さぁ、家へ行こう。もう泣き止んで」
「…うん」

私達は、地下鉄に乗って私のアパートへ向かう。
「で、でも…なんでみんな来てくれたの?」
「それは後で話すからさ。
しっかし京都に来るのは2年ぶりだなぁー。
かがみん、若干アクセントが京都訛りになってるよ」
「そ、そう?あまり意識はしてなかったんだけど。
で、あんたたちはいつまで泊まるの?」
「一応、明日まで。色々忙しくてね。
みんなのスケジュール合わせるのに時間かかっちゃってね」
「そうだったの…わざわざごめんね…遠出させちゃって」
「謝ることなんかないよ、かがみん」
「うーんせっかく京都に来たのに
地下鉄じゃ外の景色が見えないよー」
つかさが目を大なり小なりの形にして言う。
「それは仕方ないことです。
この上は碁盤の目のような道となっていて、
道路渋滞も頻繁ですので、
この上に線路を置くのはタブーなんですよ」
みゆきさんが微笑みながら言う。

変わってないな…みんな。

そして、私達は地下鉄を降り、
地上に登って私のアパートへと歩き始める。

「ここからアパートは5分くらいよ」
「へーえ、結構近いんだ」
「大学までは20分くらいかかるけどね」
「そういえば、京都大学の最寄り駅は
京阪電車の出町柳駅でしたね」
「あぁ、そうか。あの電車はこんな所も走ってるのか」
「この前に乗った電車も京阪電車ですが、
あれは宇治線、こちらは鴨東線ですね」
「この前は銀閣寺とか清水寺を見たけど、
その後はゲーマーズとか京都アニメーションにしか
行ってないからねぇ…ね、こなちゃん」
「うっ……ごめんつかさ」
「確かにそうですね。
東寺や京都御苑にも行きたかったですね」
「…でもさ、いいじゃん。楽しかったんだしさ」
こなたは慌てて人差し指を立てながら言う。
「あはは、こなちゃん本当可愛いなぁ」
「そうですね。やはり変わっていませんね」
「…そういうつかさもみゆきさんも変わってないよ!」
3人は笑い合っていた。

私は、何となく中に入りづらかった。

「かがみん、どうしたの?」
「え…いやー楽しそうだなって」
「この前もぼーっとしてたことあったけど…」
「ううん、何でもない。ほら、ここよ」

私はみんなを2階へ連れて行く。

そこそこ広いアパートである。
4人が寝転べるスペースは十分ある。

私は鍵を開け、みんなを中に入れる。

「おぉ、意外と広いね」
「お風呂もついてるの?凄いなぁ」
確かに、アパートとしては贅沢である。
2DKで、普通の家といっても過言ではなさそうだ。

私は、部屋の真ん中に1メートル半四方の
組み立て式テーブルを置いた。

座布団を4つ用意し、四方に一つずつ置く。
「さ、みんなそこに座ってて。お茶入れるから」
「あんがと、かがみん」
「ありがとうお姉ちゃん」
「恐れ入ります、かがみさん」

私はお茶を入れると、お盆に乗せてテーブルへ運ぶ。
「さて、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
「思えば卒業してから2年かぁ」
「月日が経つのは早いものですね」
「高校生活に戻りたいね、ほんと」
「あははは、こなちゃんどんだけー」

私が2年間夢見ていた世界が今、繰り広げられている。
でも、今この3人は私と同じ境遇ではないが。

「ねぇ、せっかく京都に来たんだからさ、
どこか行こうよ」
「今度はお寺がいいですね。
竜安寺、平安神宮、どこでもいいですよ」
「あはは、ゆきちゃんどんだけー」
「そうね、どこか行こうか」

私達は、京都観光をすることとなった。
私は左京区の寺はほとんど回ってしまったのだが、
それも1年前の話である。

私達はバスで竜安寺、仁和寺、二条城、平安神宮と、
様々な観光スポットを回った。

私が行ったことの無い右京区の寺だったので、
結構楽しむこともできた。
寺にほとんど興味がないこなたとつかさは
寺の周辺で遊んでいたりもしたが。

私が独りになって…何か変わったような気がする。
世界観…?
価値観…?
何かは分からない。
私のものの見方が変わってしまっているのかもしれない。
本当に、この3人が来てくれてよかった。

あのままだったら、私はきっと孤独に耐え切れず
大学を辞めていたかもしれない。

こなた達には、本当に迷惑をかけてしまった。
わざわざ京都に来て、私のことを気遣ってくれて。
でも、こなた達は私の現状を知っているのだろうか…
いや、こなたはオポチュニズムな所もあるから、
多分深い意味はないかもしれない。

たとえ私のセンチメンタルがばれていたとしても、
それは諧謔で誤魔化せるであろう。

そして、私達は寺を回り、時計の短針が5を回った所で
アパートに戻ってきた。

空は、赤紫色に染まっており、
大きなオレンジボールが西方向で顔を覗かせている。
結構気温も暖かくなったものだ。

「ふぅ~帰ってきたぁ!」
こなたは開口一番叫ぶと、座布団に座り込んだ。
「私はじっくり楽しめました」
「えー、面白いの?あれが」
こなたは口を尖らせて言う。
「まあ、少なくともゆきちゃんは楽しかったんじゃない?」
「ええ、もちろんです。よい勉強になりました」
「…ごめんね、何かみんなに迷惑かけちゃったみたいで」
「いやいや、気にしないでかがみん。
私たちが勝手に押しかけてきたようなもんだからさ」
「そうだよ、お姉ちゃん」
「かがみさんは何も迷惑をかけていませんよ」
「あ、そう…ありがとう」
「お姉ちゃん、遠慮しなくてもいいよ」
「そうだよ、かがみんらしくないぞ。うりうり」
こなたは肘で私の肩をななめ前からつつく。
「ごめん…何だか、楽しくないよね…
3人の方が…楽しいんじゃない…かな?」
「か、かがみん、どうしたのさ。
4人の方が楽しいじゃん」
「いいわよ…別に遠慮しなくても…
みんな…正直引いてるんじゃないの?」
「かがみん、私達のことは気にしないで」
「ううん…私…」
「ちょ…かがみん、どうしたのさ?」
「みんなと私は…違うんだよね。
みんなには…そうだよ、みんなには…
いるんだもんね、友…」

私は、思わずアパートを飛び出した。

「ちょっ!待ってよかがみん!」
アパートには、3人が取り残された。

私はあてもなく歩き続けた。
外は、先ほどのオレンジボールもすっかりと地に落ち、
ブルーとブラックが混ざった色となっていた。

自分でも正直何を言ってるのか分からなかった。
何となく、あの場に居るのが辛かった。
誰も、私の辛さが分からない。
でも、言ってしまえばみんなが心配する。

私は、近くの広場に居た。
どうやら公園らしく、ブランコや滑り台がある。
私は、誰も乗っていないブランコに一人座る。

私は…本当にダメな奴だな…
頭上を飛ぶ飛行機のエンジン音が、
私の啜り泣きの音を打ち消した。

そして、飛行機の音が去ったとたん、
後ろから足音が聞こえてきた。

「かがみん」
「…」
「帰ろう、かがみん」
「…」
「大丈夫だよ、かがみん」
「…」
「…かがみん、2年会わないうちに随分変わったね」
「…」
「私、帰ってるよ?」
「…」
こなたはため息をつきながら、私の元を去った。

「待って!」
私はブランコから立ち上がって呼び止める。
こなたは私に背を向けながら足を止める。
「あんた……知ってるの?
私が………その……」
「知ってるよ」
こなたが私の言葉を打ち消す。
そして、こなたは振り向いて歩み寄る。

「かがみん、大学でぼっちなんだよね」
「…何で知ってるの?
今まで誰にも言わなかったのに…」
「私はそこまで鈍くないよ。
昨日電話した時から、何か変だなって思ってたんだ」
「…そっか。バレちゃってたんだ…」
「だって、いきなり友達が居るのって聞き出すんだもん…
そりゃあ、誰だっておかしいのは分かるよ。鈍くなけりゃ」
「…ごめん。こなた」
「いいんだよ、かがみん。私だって前の携帯が壊れたのは
水槽に落ちたからじゃないしね」
「え…どういうこと?」
「腹いせにぶん投げちゃって…」
「親に叱られたの?」
こなたは首を振る。
「ゆたかちゃんと喧嘩したの?」
こなたは首を振る。
「さ、みんな心配してるよ。帰ろ」
こなたは私の手を引き、アパートへと帰った。


家に帰ると、つかさとみゆきが出迎えてくれた。
「おかえりなさい、かがみさん」
「おかえり、お姉ちゃん」
「おかえり、かがみん」
「…みんな……本当に、ごめんなさい…
……ありがとう……」
私は思わず泣いてしまった。

みんな、笑って私を出迎えてくれた。
こんな私でも。
とても、うれしかった。

その日は、みんなでUNOをして遊んだ。
「リバースリバース!UNO!さあかがみんの番だ!」
「げっ…緑色かぁ…ないわね」
「あははどんだけー、Wildカードで緑から青に変更だよ」
「では、私はドローフォーを一枚で、黄色に」
「ぬおおおお!何故、あと一枚だったのに
何故、鬼畜、鬼畜だみゆきさん!
しかも私が持っていない色をぉおお」

その日の夜は、京都に来て以来一番楽しい夜となった。
みんなと居られることが、こんなにも素晴らしいことだと…

私はこうやってみんなに励まされながら生きている。
こうなったら私も、大学で友達を作らないといけないな…
みんなも作ってるんだ。
私にだけ出来ないことではない。

春休みがあけたら、必ず友達を作る。

私は、みんなにそう約束した。
やはり、みんな私に友達が居ないことを知っていたのだ。

「えらい!えらいぞかがみん!」
「お姉ちゃん、がんばって!」
「かがみさん、ファイトです!」

みんなの声援はとても力になった。



翌日、私達は早速地下鉄で京都駅へ向かう。

「ごめんね、昨日は」
「いえいえ、お世話になりました。かがみさん
またお会いしましょうね」
「うん!」
「お姉ちゃん、また埼玉にも顔を出してね!」
「うん、行ける時になったら連絡入れるわ」
みゆきとつかさの2人は、改札を抜けた。

「あら?こなた。あんたは行かないの?」

「かがみん、本当にありがとう。
私たち、かがみんに力貰ったよ。
これで、私たちにも勇気が出てきた。
それじゃあ、また埼玉にも来てね」

「あ、ちょっと待って!こなた」
「何?」

「あんたたち、何で態々京都まで来る気になったのよ?」

こなたは、今まで見せたことの無い
純粋な笑顔を見せてこう言った。

「お互い様だよ」

「え、お互い様…?」

「じゃあね、かがみん!」

「あ…バイバイ!」

こなたは、手を振って改札を抜けた。
私も手を振り返す。

そうか……みんな、お互い様…だったのか。

…なるほどね。

私もがんばろう。




(終)




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最終更新:2008年03月16日 21:22
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