目が覚めベッドから起き上がって時計を見ると昼の2時に近かった。
大学の夏休みで帰省したが、特にすることがない。時計のアラームはセットされていない。今日も予定が何もないからだ。昨夜は特に面白くないラノベをだらだら読み、パソコンをいじっているうちに深夜4時になり床に就いた。
午前一回起きたが二度寝して惰眠を貪っていた。
部屋を出てリビングにいくとつかさがキッチンで何か作っていた。匂いからするとマフィンかパンケーキのようで、もう出来つつある。
「あ、お姉ちゃんおはよう。」
「おはよう。それ美味しそうね。一つもらっていい?」
つかさは口の端を少し引き、目をさりげなく横にそらした。嫌なことを言われ、断りたいのに断れないときに見せる困惑の表情だ。
「ゴメン、今日の人数分しか作ってないんだ…」
「…そう」
「お姉ちゃん今日本当に来ないの?こなちゃん達も会いたがってると思うよ…?」
「うるさいわねっ!昨日行かないって言ったでしょ!何で昔のクラスメートに会うことを強制されないといけないのよ!」
「……ごめん。」
「…」
「じゃあ私もうすぐ出るから…。」
つかさは険悪な雰囲気から急いで離れたいことを私に気取られないようにしながら、急いで支度をして出ていった。
今日は休日なので皆外出している。一人リビングのソファにぼんやりと座っている。
何故皆と顔を合わせたくないのか、自分でもはっきりとは分からない。多分怖いのだろう、彼女達に拒絶されるのが。友達だからそんなことない?いや、私は高校の頃とは違う。つかさとだって高校の頃のような親密な仲から微妙な距離感に変わってしまった。
だからせめて、こなたやみゆきには、私は高校の頃のままだと思っていてほしい。今の私を見られたくない。
自分の事を恥ずかしいと思うなんて、以前は全く想像できなかった。私はいつも他人より優秀で人望もあった。そんなことがこれからも続いていくと思っていた。
私は大学ではいつも独りだ。仲のいい友達は一人もいない。
大学には講義があるときだけ行く。キャンパス内にいるときは口をきつく結び隙のない表情を維持し、足早に歩く。服装も黒やモスグリーンなど、暗いトーンで露出の少ない服をよく着るようになった。
そうして大学構内では誰からも傷付けられないように振る舞う。しかし1DKのアパートに帰ると疲労感がどっと募る。鍵をかけて、誰とも関わらなくていいことを確認して安堵する。これが私のキャンパスライフだ。
必死に勉強してぎりぎり受かった大学は、講義の内容が高度でついていくのがやっとだった。
教室の後ろでいつもふざけているグループの人達は、遊んでいてもしっかりと単位を取っているようで、一番前で真面目に講義を受けている私よりも成績が良かった。
ちょっとした用事で彼らに話しかけられることが希にあった。
「柊さん、今度の日曜飲み会やるんだけど参加しない?」
私に声をかけた彼は学科のなかの中心的存在で、どうやら飲み会の幹事で一応クラス全員に声をかけているようだ。長く伸ばした金髪をワックスで威嚇するように立たせ、肌は黒に近い小麦色に焼け、眉毛は細く短く剃りすぎて剃り跡が青くなっている。
「ご、ゴメン、私はいい…やめとき…ます」
「あっ、そう。けどクラスの飲み会だから参加しなくても1000円払ってね。」
「参加しなくても払うの?おかしくない…?」
言ってすぐ軽率だったと後悔した。
「ハァ?」
彼はガンをつけ、舌打ちをして去っていった。彼は教室の後ろにいる仲間にすぐ話したようだ。
「あいつうざっ」
「根暗キモい」
彼らは歪んだ笑い声を上げながら、それらの否定の言葉を私に聞こえるよう大きな声で言い放った。
最終更新:2008年09月21日 21:58