かがみ「一人温泉旅行は思ったより楽しいわね。でも、宿の女将さんがちょくちょく部屋を見に来たり、妙に優しいのはなんでかしら」
新学期が始まったけど大学が面白くない私は、気晴らしにひとりで熱海までやってきた。
ひとりで温泉旅行に来る人ってそんなに珍しいのかな?
そういえば、女一人だと泊めない旅館もあるらしいよ(昔の話?)
自殺されたらタマラン、ってことだろうな。
ドラマとかよくありそうなシュチエーションだけど、
なぜ女は旅館で死のうとするのだろうか?
それは多分、
これから死ぬかわいそうな自分を沢山の人に見てもらいたいから
あわよくば死ぬ前に誰かに構って貰えるから…って!
かがみ「だから、私は死にに来たわけじゃないっての!ドアの前で聞き耳立てるな!」
コソコソ…
戸の前で人が逃げ出す音がした。全く、うざい旅館もあったもんだわ。でもちょっと嬉しい。
午後9時半。わざとこんな独り言をゆってみた。
かがみ「ふぅ…料理もお酒もおいしかったわ。さてと、そろそろ死ぬか」
女将「(ガラッ)お客様、お夜食はいかがでしょうか?」
かがみ:「いきなりあけんな!」
女将「失礼いたしました。ごゆっくり(ぺこり)」
女将「(チッ)」
かがみ「…つかさなんかいくら私が手首切っても、もう無視するだけなのに
ここの人たちは凄く私に注目してくれる。これからはここで自殺未遂しよっと」
翌朝…、
かがみ「昨日はよく眠れたわね。朝食前に渓谷散策でも行こうかしら」
女将「だ、誰か110番通報して!42号室の柊様が飛び降りスポットの方向に!」
女将「え?そんなんじゃ警察は動かない?」
渓谷にて、
かがみ「ついてこないでっていってるでしょっ!!」
女将「いえいえ、道案内いたしますから」
女将「この辺は、800年前の火山の噴火のときに流れた溶岩が固まって出来た地形なんですよ。温泉もそのとき湧き出したもので…」
かがみ「へ~、結構歴史があるのね」
女将「(今のところ落ち着いてるみたいね。こんな若いのに、何があったのかしら。失恋?借金?)
すると向こうから波平がやってきました。
波平「こんばんわ、お嬢さん」
かがみ「えぇ、こんばんは」
かがみ(地元の人かな。ついそのまま返しちゃったけど、朝なのにこんばんわって何だろう?)
女将「(突然 独り言…、誰と話してるのかしら…?)」
かがみ「この崖からの景色は本当に素晴らしいわ。ちょっと、感動しちゃったじゃない…」
女将「(飛ぼうとしたらいつでもつかめるように…。ロープ持ってきといてよかったわ)」
すると今度は穴子くんがやってきました。
穴子くん「・・・」
かがみ「・・・」
穴子くんは行ってしまった。
後で聞かされた話、この辺りは相当な心霊スポットらしい。この場所で某 宜保愛子さんが収録に来て、直前になって撮影を拒否したとかしないとか!?
亡霊らしきものを見たのはこれが初めて。実家で巫女やってるからこういうの見るのかな。
それとも、私はそんなにここで自殺した人々と波長がマッチするのだろうか?
女将「(柊さん、ついさっき 誰かと目を合わせたような感じした?嫌な予感がするわねぇ…)」
女将「ささ、そろそろ戻りましょう」
かがみ「あっ女将さん、記念に携帯の写真をとってもらえませんか?」
女将「ええどす」
柵に腰掛けるかがみ。
女将「では…、あれ、この携帯の壁紙に女の子、それも珍しい青髪の…」
かがみ「ああ、見ちゃらめえええ…」(ぐらっ)
女将・かがみ「あっ…」
かがみはバランスを崩し、背中から落ちそうに。
かがみ「きゃあああああああああ」
女将「お客様ァーーーーーーー」
女将「では…、あれ、この携帯の壁紙に女の子、それも珍しい青髪の…」
かがみ「ああ、見ちゃらめえええ…」(ぐらっ)
女将・かがみ「あっ…」
かがみはバランスを崩し、背中から落ちそうに。
かがみ「きゃあああああああああ」
女将「お客様ァーーーーーーー」
かがみ「大事なシーンだから二回言ったわ」
女将「ハッ!」
ロープが投げられる。
女将「これにつかまりなさい!」
かがみ「助かっ…ゲゴッ!」
ロープが首に巻きついて首吊り状態に。
かがみ「ぐぼぼ…(ああ、結局最後までぼっちだったな…こなた、最期に会いたかった)
女将「お客様ァー柊様ァーー、死んじゃ、ダメだーーーー!!」
女将さんの声が遠くなっていく。
薄れ行く意識の中で、かがみは先細りだった自分の人生を振り返った。
かがみ「ハッ」
女将「あ、気がついたかい?…ちょっとアンタ!お水汲んできてあげて!」
旦那「はいはい」
かがみ「あ、あの…」
よく見ると、私は大広間に寝かされている。
その周りを女将さんはじめ、旅館の方々が総出で囲んでいる。
旦那「はい、お水だよ。でも、元気そうでよかったよ」
仲居「うんうん。でも大丈夫?あ、もし悩みとかあったら、私聞くよっ」
話によれば、首吊り状態になった私を、女将さんが引き上げて、ここまで抱えてきてくれたそうだ。
女将「人生って長いんだから、ちょっとくらい道を外れたように思えたって、実は道幅はまだ続いてるんだよ。だからあんたも図太く生きなっ!何があったかは知らないけどさ」
結局私が自殺志願者だという誤解は解けていないようね。
べ、別に道を踏み外したりなんか…
でも…。
私は自分の日常を振り返る。
楽しかった高校生活。その後の大学生活は、私の描いていたものとは程遠かった。
ひとりぼっちの毎日。孤独を愛するほど強くなくて、何の希望も持てない日々はむなしかった。近い将来本当に自殺を考えていてもおかしくなかっただろう。
板前「おっ、例の薄幸嬢ちゃん、目え覚ましたかい。じゃあ、とっておきの朝食作ってやるかいなっと」
仲居「柊かがみちゃんだっけ?私も失恋したときは本当に死にそうだった…それで、私もあの崖から飛び降りようと思ってこの宿に泊まったんだけど、ここの女将さんに助けてもらったんだ」
女将「あの時は大変だったわ…チェックインのときにピーンと来てね、この子の挙動を気にして見てたのよ。高精細・高画質のネットワークカメラから監視用センサーや、レコーダーまでつかったわね」
仲居「へへへ…」
かがみ「いや、やりすぎだろ!ってか、私も監視されてたのか!」
女将「かがみちゃん」
かがみ「は、はい」
女将の真剣なまなざしに、私は身じろぐ。
女将「15でここに嫁いで、商売を始めてからもう何十年も経つけどさ、色々な人がこの宿を訪れたわ」
かがみ「…」
女将「ここの温泉ってね、骨安めに来たり、家族旅行のために来るばっかりじゃないのよ。行き場をなくした人が、あっち行って、こっち行って、最後に行き着く場所でもあるの。何か引き寄せられるものがあるのかしらね。そして、みんな、あの崖から飛び降りて行ったわ」
誰もが黙って女将の言葉を聞いている。この宿の暗い歴史の一部を皆が知っているだろう。
女将「辛かったわよ…。あ、この人は死にに来たんだなーってわかっていても、止められない。止めようと目をかけててもね、彼ら、隙をついて確実に死にに行くの。どうすることも出来ない。みんな死んでいく」
女将「あるとき思ったの。借金?失恋?左遷?リストラ?それが何だ、生きてりゃ取り返しのつくことじゃないか、ってね。だから、無理やりにでも生きてもらうことにしたの」
女将「死にに来たお客さんは、私がずっと監視するのよ。部屋の前で張り込んでね。気がついたと思うけど、部屋には首を吊れるものが一切なかったでしょ?紐とか、引っ掛ける場所とか」
かがみ「(いや、知らんがな)」
女将「それで夜通し監視して、朝になるでしょ?朝食はスペシャルメニューなのよ。もちろん赤字だけどね。おいしいご飯をたべてもらいながら、それとなく話しを聞いてあげるの。大抵、その手の人は、相談する人もいなくて、抱え込んでるから、それを吐き出してもらうのよ」
女将「そして、うまく、うま~く励ましてあげて、這ってでも生きようって気持ちにさせてあげるの」
女将「なのに、かがみちゃん、朝食前に旅立とうとするから、ほんと取り乱しちゃったわ」
かがみ「(だから私は旅立とうとしてないから…)」
女将「かがみちゃん、あなたが今一番大切に思ってる人の顔を思い浮かべてちょうだい」
かがみ「え…、えーと、…」
もちろん、浮かぶのはあいつの顔だ。ハアハア
女将「あなたが死んだら、その人はどうなるかしら…」
私がこな×かが避難所で書いたSSでは、私の遺志を継いで弁護士になったわね。
女将「人は、どんな人でも、一人で生きているわけじゃないのよ」
女将「たとえ、自分が一人ぼっちだって思えても、ほんとは一人じゃないのよ」
かがみ「…」
女将「あなたのことを見ている人がいる、思っている人がいる、気にかけてくれている人が必ずいるの」
女将「もし、それでも、一人ぼっちだと思うなら…私がいるわ」
かがみ「女将さん…」
仲居「私だっているよっ」
旦那「では、私も…」
板前「そら、俺の朝食食って元気だしなぁ!」
かがみ「みなさん…」
その日の朝食は、まさしくスペシャルメニューで、とても美味しくて、でも、なんだか塩味がきいてしょっぱかった。
女将「また遊びに来なよ、あ、悩みごとがあったら電話してくれてもいいからね」
わざわざ熱海駅まで送ってくれた旅館のみなさんと、最後の別れを惜しむ。
仲居「またね!あ、ケータイ教えてよ!」
この子、そういや結構かわいいわね。写メ撮っとこうかしら。ハアハア
旦那「今度はお友達も連れておいでよ」
板前「俺の朝食が食いたくなったらいつでも来いよ!」
アンタは朝食しか作れんのか。
通販サイトで貯まったポイントを消化しようと、何気なく企画した今回の温泉旅行。
一人で温泉なんて、私もぼっちが板についてきたわね、なんて自分を嘲笑していた。
このままずっと一人。誰にも認知されない、透明な存在、
そう思ってた。
でも、気づいたんだ。
私の存在は、初めて会ったこの人たちにすら、思ってもらえたこと。
私が誰かを思っているように、私を思っている誰かもいること。
女将「ほらほら、自由席のこだまは結構込んでるから、早く行って並んどきな!」
かがみ「はいはい…あ、女将さん」
女将「なんだい?」
かがみ「あ、あの、別に私、ホントは死にたかったわけじゃないし、女将さんのおせっかいで救われたなんて思ってないし、監視テープはちゃんと抹消してくれないと困りますけど、ですけど……ありがとう、本当に、本当にありがとうございました」
返答を聞く時間はなかったけど、みんなの笑顔を目に焼き付けて、一礼すると、私は改札をくぐった。もう振り返らずに。
かがみ「…明日の講義では、誰かに話しかけてみようかなあ」
遠ざかる熱海の街を眺めながら、私は、自分の中に希望が芽生えたのを感じていた。
後日…、
かがみ「連休の温泉旅行が楽しすぎたせいで、今週はいつもよりメンタルがきついわ…」
かがみはじゅもんをとなえた。
かがみ「さて、そろそろ死ぬか」
しーん…
しかしなにもおこらなかった。
女将「かがみちゃん、まだ元気なさそうね」
仲居「女将さん、そのモニターは一体…」
Fin.
最終更新:2008年10月26日 18:43