ちょっと前まで、冬はそれほど嫌いでは無かった。
寒いのは苦手ではないと思ってたけど、それは寒さを忘れさせてくれる存在があったからに過ぎなかったのだ。
それに気付いたのは、あまりに遅すぎての事だった……。
今は冬は大嫌い。
夏も比較的マシと言うだけ。
寒いからだけでは無い。
だって、冬は太陽がすぐに沈むから……。
ドン、ドン、ドン……
「ねーかがみー、かがみー」
あいつ等が活動する時間が、長くなるから……。
ガチャガチャガチャ……
「柊ィー、開けてくれよーー」
ドンドンドンドンドンドンドンドン……
ガチャガチャガチャガチャガチャ……
かがみ「いや!!」
大学の図書室の隅で、私は膝を抱えて震え続ける。
それでもアイツ等は私を呼ぶ事も、扉を叩く事も止めはしない。
「ねぇえ私達親友でしょ~? ずっと一緒に居てくれるって言ったでしょお~出てきてよかがみぃん」
「そうだぞぉ? チビッ子の言う通りだぜ柊ィ~? 出てきてくれよ~」
かがみ「やめて! お願い!!」
この生活がもう何日続いただろうか?
あの日、お父さんとお母さんを見捨てて自分だけ逃げた罰なのだろうか?
どれだけ場所を変えてもアイツ等はすぐに嗅ぎ付けてやってくる。
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン……
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ……
一体なんでこんな事になってしまったのだろうか?
何でこの悪夢に私一人だけが取り残されたのだろうか?
かつては大切な存在だった人が、姿形はそのままで忌むべき存在となって、私を引き込もうとしている。
「かがみぃん? かがみぃぃん?」
「柊ィ、柊ィ??? きいてんのか?」
いつも通りヘッドホンを頭に付け、音量を最大にしたCDを掛け続ける。
耳の事なんて気にしない。
むしろ鼓膜なんてぶっ壊れてしまえばいい。
「かがみんかがみんかがみんかがみんかがみんかがみ
んかがみんかがみんかがみんかがみんかがみんかがみんかがみんか
がみんかがみんかがみんかがみかがみかがみかがみかがみー」
「ひいらぎひいらぎひいらぎひいらぎひいらぎひ
いらぎひいらぎひいらぎひいらぎひいらぎひいらぎひい
らぎひいらぎひいらぎひいらぎひいらぎ
ひいらぎひいらぎひいらぎひいらぎひいらぎぃー」
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
かがみ「 や め て え え え ぇ ぇ え ぇ ええええええええ
えええええええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええええええ」
☆ ☆ ☆
「………………、…………………、……………」
目を覚ますと、辺りは不気味なほど静まり返っていた。
時計を見てみると……朝の8時だ。
「アハハ……」
思わず誤魔化すような笑いをあげてしまう。
全く、イヤな夢だった。
マヌケな事に私は、ヘッドホンを付けたまま寝てしまったらしい。
そうか、どうりであんな悪夢を見たわけだ。
気だるい身体を覚ますために、一回大きく伸びをする。
図書室入り口の扉を開ける。
「また、新しいのを探さないとね……」
たてかけておいた沢山の鏡のうち、小さい物が一枚割られていた。
扉にかけてあるニンニクもそろそろ取り替えた方がいいかもしれない。
お気に入りのプレイヤーの電池も切れた。これも調達せねば。
面倒だ……、でも都合がいい。
私の昼間の必須事項なんて、せいぜいこの位なのだから……。
これさえあれば、アイツ等の声はさすがに防ぎきれなくても、寝ている間に襲われる心配は無いわけだ。
それにしても、この生活を始めたばかりの頃の事を『悪夢』として認識しているのは、私がこの生活にスッカリ慣れてしまったからだろうか?
最終更新:2008年12月19日 15:02