午前の授業が終わると同時に、私はいそいそと教室を後にした。
午後からバイトがあるわけでもない。
友だちと待ち合わせってわけでもない(待ち合わせをするような友だちなんていない)。
教室の空気が嫌だから私は飛び出したのだ。
「弁当なんて外で食べなさいよ」と心の中でリア充どもに吐き捨てる。
リア充どもは食堂でも、カフェでも、図書館でも、教室でも周囲の迷惑なんてお構いなし。
私のようなぼっち(べ、別に友だちがいないってことじゃないから!他人に迷惑をかける人と付き合いたくないだけなの!)の
居場所を奪ってるなんて気付いてないのよね。
授業中だって最前列に座ってるメガネくんのことをキモイキモイって陰口叩いてるし。
やってることが中学生、いや、小学生レベル。
休み時間に一人でぽつんと座ってたら、何を言われるかわからない。
そんなわけで居場所を奪われた私は、休み時間突入とともに、文句も言わず(私は優しいから)、お手洗いに駆け込むの。
さて、食事でもしようかしら。
と思って半畳ほどの私の城に入ると、一枚の張り紙が目に飛び込んできた。
《トイレで食事をするべからず 学生係》
何これ! 意味分かんない!
大学側の横暴だ!
大学も授業妨害を繰り返し、私の安息の邪魔をするリア充どもの味方だったのね!
頭に血がのぼった私はその貼り紙を乱暴に八つ裂きにし、サニタリーボックスに叩き入れた。
私はにおいがするようなものは食べないし、包装を破るときだって細心の注意を払って音を殺している。
クズだって一片も残さないように何度も注意してから、ここから出ていくのに。
なのになぜ?
すると城の外から聞こえてきた声に耳を疑ったわ。
「何これ?
便所飯禁止だって」
「けっこうスリリングで楽しかったのに」
リア充どもの声だ!
最近、便所飯(世間的にはこう呼ぶらしいけど、私にとっては立派な食事よ)がマスコミで取り上げられたことがあった。
それでリア充どもが面白がって真似をしていたらしい。
許せない!
教室でも図書室でもバス停でも私たち孤高の戦士(こう表現するとちょっとはぼっちもカッコ良くなるでしょ?)から居場所を奪っておいて、最後の砦まで奪うなんて!
ギギギ……とトイレの入り口が閉まる音がする。
私は城を飛び出し、リア充女を追った。
入口を一歩出て右を向くとリア充女どもはいた。
派手な服装に高そうなバッグ。
大学は勉強をするところよ!
あいつら絶対に許さないんだから!
結局私は食事を非常階段で済ませて、3限目の教室へギリギリ滑り込んだ。
後ろの方はリア充でいっぱい。
でも平気よ。
私は真ん中よりもちょっと前の辺りに座るようにしてるから。
でも、なんだか様子がおかしい。
あ、そうか。
今日は中間試験をするんだっけ。
リア充ネットワークはすごいわね。
試験があるってだけでいつもの2割増しだなんて。
ていうか民法I〈総則〉は必修なはずよ。
みんないつもサボりすぎ。
私だってたまにはサボりたいのに……。
ううん、1年生のうちからサボり癖がついてないだけマシだと思わないと。
というわけで私は今日は前から3列目の席に腰を下ろした。
5分位遅れて、30代半ばの准教授が登壇し、試験前に少しだけ雑談を始めた。
この先生はいつも雑談が多いのよね。
まともにはじめなさいよ!って言いたくなっちゃう。
授業はとっくに開始されているのに、試験情報を聞きつけたリア充どもが次々に入室してくる。
後ろの方は満杯なので前に押し寄せてくるのがつらい。
「えー、なんでー。人多すぎじゃない?」
ギャルイントネーションでしゃべる声が聞こえる。
どんなツラか見てあげるわ、と思って声の方へ目を向けると、あいつらだ!
私の城を奪ったあいつらだ!
この授業取ってたのね!
あろうことか私の真後ろに腰を下ろしやがって!
怒りの炎が燃え上がった。
普段は大人しい私も何とかして報復してやろうかと思って知恵を巡らせたわ。
でも、怒りで脳がオーバーヒートしてたみたいで妙案は浮かばない。
しかし、天は私に味方した。
「すみませーん、今日テストですよね」
ギャルAが私の背中をツンツン突く。
私は振り返って、「え、あ、はい」なんて返事をしてしまった。
このときは、「違いますよ、だから帰ってもいいですよ」とでも言えば良かったと一瞬後悔したのよね。
でもギャルAは、
「すみませんが、私たち用事があってあまり授業に出られなかったんですよ」
なんてバレバレのウソを吐く。
サボりかバイトでしょ? それはあんたたちの都合じゃないの!
「これ必修ですよね」
とギャルB。
必修と解っていながらサボったの?
あんたたち救えないわね!
「解答し終わったら用紙を少しずらしてもらえませんか?」
それってカンニング?
こんなんでよく大学に受かったわね!
国立よ? 入試でもカンニングしたのかしら?
許せないわ! いや、むしろチャンス!
「解りました」
私は大学入学後初めての満面の笑みを浮かべた。
准教授サマの雑談も終了し、問題用紙と解答用紙が配られた。
小問が10題と大問1題がA4の問題用紙に書かれてある。
小問は1問1答、大問は論述。
小問だけで60点もある。
後ろから、「論述のやつは大丈夫です」と声がした。
さすがに論述のカンニングは面倒な上に、丸写しだとマズイと思ったのかそんなことを言ってくる。
「解りました」
私はそう答えて開始の合図とともにシャーペンを走らせた。
一週間後、私は城で食事を済ませ(大学側の横暴には屈しないわ)、授業の開始を待った。
今日はテストがないので先週のように人は多くなかった。
むしろ普段よりも少ないくらい。
試験の翌週は安全日だと思ってるのね。
安全日と思って安心すると痛い目を見るのよね。
これはみんなには秘密だけど、つかさも大学入学直後に安全日だと思って冒険しちゃって、大変な目に合って泣きついてきたっけ。
結局は杞憂だったけどね。
そんなわけでギャルA&Bはもちろんいなかったわ。
「中間テストの採点したけど珍回答があったぞ」
いつも通り准教授サマは雑談から入る。
「俺がサービス問題で六法とは何か答えろって問題出しただろ」
私の心は踊る。
「魔法、蓮舫、大鵬、白鵬、旭天鵬、超電磁砲って答えたバカが2人もいて、アハハハハ」
面白いのか途中で噴き出してる。
さすが私よね!
「自分の兄弟は何親等かって問題は2 "頭身"だってよ。アハハハハ、おまえの兄弟はドラえもんかよ、アハハ」
珍解答の紹介は20分にも及んだわ。
そう、あのとき私は小問の答えはウソを書いたの。
小問をウソの解答で埋めて、後ろの二人に見せてから論述問題を解いたの。
ギャルA&Bが適当に論述問題を解答して退出(リア充の法則よね。問題を埋めたら試験中であっても帰っちゃうのよね。ぼっちの洞察力をなめてもらっちゃ困るわね)してから、私はちゃんとした答えを書いた。
ちょっとボケすぎかな、と思ったけど、あいつらが馬鹿すぎで助かったわ。
「この2人は単位なしだな。絶対単位やらん」
期待通りの結果ね。
私の城を奪おうとした天罰を下してやったわ。
私の邪魔をするリア充は絶対に許さないんだから!
最終更新:2009年12月13日 07:44