byゴキブリさん(東京都)
喫煙室で私はタバコの火をつけた。やっぱり葬式なんて何度来ても慣れない。
ましてや今日は友達の従妹で、自分もよく見知った人の葬式なのだから。
みなみ「ゆたかぁ!ゆたか起きてよぉぉ!一緒に、一緒に大学に行くって約束したじゃない!う・・・うわああああああん」
ひより「岩崎さん、落ち着いてよぉ、岩崎さんってば!」
出棺の時に岩崎さんがひどく取り乱していた。棺桶にしがみ付いて離れようとせずに、周りの人たち何人かでようやくのこと
で宥めていた。無理もないと思う。私が高校にいた時からあの二人は仲がよかったっけ。宥めていた人たちもそれが分かっ
ていたからきっとやるせない気持ちだったと思う。ゆたかちゃんの同級生の田村さんは、岩崎さんを宥めながら自分も泣き
崩れていた。
こなた「あ、かがみん。ここにいたんだねー」
努めて明るそうに振舞っているが、こなたの顔にも元気はない。
こなた「やっぱ冷えるねー」
かがみ「もう1月だもんね。みゆきもつかさも学校の試験で来れないらしいけど・・・その、こんな
言い方してもいいか分からないんだけど、元気出すように言ってたわよ・・・。本当に、あんた
にかける言葉が見つけられないんだけど・・・その、元気出しなさいよ」
こなた「うん、かがみんありがとうね。お父さんもゆいねーさんも皆落ち込んでるから、私だけでも
元気でいなきゃね。うん、分かっているんだけどね・・・・分かってはいるんだけど・・・・」
会ったのは久しぶりだけど、こんなこなたは初めて見た。私の知ってる彼女はいつも明るくて、
それで下らない冗談を互いに言い合ったっけ。そんな彼女を見て私はそれ以上かける言葉が
見つからなかった。
その時、急に場の空気に不似合いなアニソンが流れた。こなたの携帯が鳴っているのだ。
こなた「あ、ごめんね。ちょっと電話に出るね。・・・あ?もしもし?・・・うん・・・・ありがとう・・・
そう・・・ちょっとバイトの方はしばらく行けないから・・・。うん、大学の皆にも宜しく言っ
ておいてね・・・ちょっと落ち込んでるかな・・・何も考えたくない気分なんだ・・・・
うん、ありがとう・・・それじゃあね。」
大学の友達だろうか?彼女も大学でちゃんとした人間関係を築いているのだ。こんな時に気遣って
電話をかけてくれる、そんな友達を彼女は大学で手に入れたんだ。
こなた「かがみん、ごめんね。大学の友達なんだけど、心配してくれてるらしくてさ。」
かがみ「別に気にしなくても大丈夫よ。」
こなた「こんな時にかけてくれるなんて、きっと私のこと気遣ってくれてると思うんだけどね、
私自身もまだ頭がはっきりしないというか信じられなくてさ・・・。だって4日前のお昼まで
ゆーちゃんは普通にあたしたちと話してたんだよ!それなのに、それなのに・・・・・うわああああん!」
泣き出したこなたを私は抱きしめて宥めた。こなたが泣いてるのを見るのは初めてなのかもしれない。
落ち着いたこなたはポツリポツリとまた話し始めた。岩崎さんとゆたかちゃんは同じ大学に行くために、
一緒になって朝から夜までずっと勉強していたこと。岩崎さんは模試でもいい判定をもらえていたけれども
ゆたかちゃんは大分厳しかったそうだ。それが少し前に帰ってきた最後の模試でようやく良い判定が出たらしい。
酷くうれしそうに彼女は話していたそうだ。
こなた「きっとゆーちゃんは、岩崎さんと同じ大学に行きたくて仕方なかったんだろうね・・・。体が弱いのにいつも
遅くまで無理して勉強してたから。4日前に話してたときは本当に嬉しそうだったんだよ。最後の最後で
成績が志望校の合格圏内にはいったらしくってさ・・・」
4日前の夜、彼女は体調を崩し、救急車で病院にまで行ったものの眠るようにして逝ってしまったそうだ。
こなた「不謹慎だけどさ、ある漫画みたいにさ、本当に綺麗な顔で死んじゃったんだよ・・・。本当に寝てるみたいでさ、
いつ起きてもおかしくないってくらい・・・」
そこまで言ってこなたはまた泣き出してしまった。
葬式が終わって東京のアパートに戻ったら、9時を回っていた。
それにしても本当に今日は疲れた。あんな空気の場所にはもう二度と行きたくない。
私の知ってるあの人たちは、普段はみんな笑顔だったのに。
かがみ「でも・・・」
でも、私が死んだら、あんな風に取り乱してくれる人はいるだろうか?少なくとも大学には
いない。だって私は大学に勉強だけをしにいってるのだから。一人ぼっちの生活にはもう
慣れたんだ。
家族は泣いてくれるかもしれない。あとは高校時代の友達、こなたやみゆきは私のために
泣いてくれるだろうか?
きっと今すぐに死ねば泣いてくれるだろう。岩崎さんのように取り乱すことはないだろうが、
今日のこなたのように悲しんでくれるだろう。
じゃあ10年後に、いや5年後に私が死んだら、いったい誰が泣いてくれるだろうか?高校を卒業
して2年しか経っていないのに高校時代の友人たちとはずいぶん付き合いが少なくなった。
きっとあと何年かしたら彼女たちも私が死んで、泣いてくれないだろう。今日のこなたのように、
彼女たちにも彼女たちの生活があるのだ。私よりももっと親しい人。高校時代の友達たちは
みんな自分が死んだときに泣いてくれる人がいるのだろう。私と違って。
逆に、と考えてみる。逆に彼女たちが死んだら私は泣けるだろうか?
きっと涙はでるけれども、あそこまでは泣けないだろう。だって、彼女たちが、生きていても死ん
でしまっても私が孤独だということに変わりはないのだから。
ああ、どうしようもないことを考えている。こんなことを考えているから私は駄目なんだろう。
そんなことを思いながら、私はベランダでタバコを吹かした。
最終更新:2007年09月21日 17:25