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ありがとう、こなた

by人生オワリ?(長屋)



 私は、なぜこんな所にいるのだろう。
 息が切れている。そんな時間はないとわかりつつもついつい腕時計に目が泳いでしまう。
 12時過ぎ。どうして私はこんな時間に、こんな真っ暗な路地を全速力で走っているの?
 後ろからも足音が聞こえる。しかもそれは、だんだんと逃げる私に近づいてくるように聞こえる。
 ああ、そうだった。
 この数日の間で私の世界がたくさん動いて、私の脳がそれについて行っていなかった。
 思えば最低の行為だった、ほんのちょっとの好奇心で始めた麻薬。
 それがやめられなくて、親からの仕送りもみんな麻薬に費やして、バイト代も、貯金も全部麻薬で使い切った。
 それでも足りなかったから、私は今日、ヤクザの事務所の金を奪いに行った。
 それから? ……そうそう、傑作よね。お金は奪ったんだ。でも、帰るときにちょっと躓いちゃって、大音を立ててしまって、見張りのヤクザ3人が帰ってきた。ナイフを持って。
 今私の後ろから追いかけてきてる奴らがそうね。
「おんどりゃあ! 待たんかいゴラァ!!」
 最初、私と奴らの距離は10mほど開いていたが、今ではそれもだんだんと縮まりつつある。彼らが馬鹿だったことが唯一の救いだった。さっきから張り上げている無意味な言葉さえ言わず、無言で追いかけていれば、今頃私なんてミンチにされて缶詰工場行きだっただろうから。
 死にたくない。今の私は人間のクズ。それはわかってる。麻薬に手を出した原因もそうだったように、私はあの頃に、高校生で、友達に囲まれていた毎日に戻りたい。
 だけど、こんな麻薬に手を染めたクズをこなた達が受け入れてくれるはずがないってこともわかってる。だけど、だけど……。
 死にたくない……せめて、もう一度みんなの顔を見るまでは……!
 と、その時。
 私の足に、ひんやりとした感触が走った。
 それは一瞬のものだったけど、だからこそ私はその一瞬のうちに、その感触の走った部分を見ることができた。
 何……これ……?
 私のカラダから、見たこともないくらいたくさんの血が出てる。
 漫画なんかで見るような大出血ではないが、それでも日常とはかけ離れた量が脚からでてる。
 後ろのヤクザがナイフを投げたらしい。それが私の脚にかすめて、こんなに一杯の血が……!
「あ……あああああああああああああ!!!!!!??」
 同時に、私も後ろの奴らと同じくらいの馬鹿になった。叫ばずに逃げていれば、もう少し生き延びれたかもしれないのに!
 その出血量は、私を非現実的な現実の世界に引き戻すだけの恐怖があった。
 嫌だ、死にたくない。助けて、死にたくない。こんなところで、死にたくない。
 もっと生きたい。人並みの生活なんかいらない。友達なんていらない。
 生きたい……! 生きたい!
 でも、私の後ろから追いかけてる奴らは、今すぐにでもその私の願望を絶とうとしているのだ……!
 後ろから聞こえる「ブッ殺ス」という声が、初めて私に恐怖を与えた。
 そしてその距離が私の耳にさっきまでよりも多く入ることで、もう私と奴らの距離が3mも離れていないことを知った。
1、ツンデレでカッコいいかがみは突如反撃のアイデアをひらめく
2、仲間が来て助けてくれる
3、逃げられない。現実は非常である
 なんて下らないことを考えるのも、すでに私が現実逃避を始めているからだろうか。
 ごめん、こなた。つかさ。みゆき。みんな……!
 卒業する時、私だけが県外の有名国立大学に入った。もうみんなと会おうと思ったら県を2つほどまたがなければならない。
 それを哀れと思ってか、あんた達は、私の高校のときのセーラー服にいっぱい落書きしてくれた。私が一人でも退屈しないように、みんなが側にいると感じれるように……!
「ほらみんな! 書いて書いてー!」
「ちょ……こなた! なによそれ! 変なもん描かないでよね!」
「えー? かがみ知らないの? 片翼の鶯。右代官の家紋だよー?」
「おお! 先輩シブいチョイスっすね! じゃあ自分は……」
「あ……あんたら、文字を書きなさいよ文字を!」
「あはは、バルサミコ酢ぅ~」
「お恥ずかしながら……」
 それで、みんなにいっぱい落書きされて、楽しく騒いで、麻薬に浸かってほとんどのものを売ったけど、あの制服だけは売ってない。もっとも、あんな変な落書きだらけの制服を買い取ってくれる人がいればだけどね……。
 天国に行けば、またみんなの笑顔に会えるのかな……ううん、私はきっと地獄行き。だから、天国で笑ってるこなたや、みんなの中に、私の笑顔はきっと無いんだ……!
「あ……」
 私の目からこぼれた一筋の涙が地面に到達するよりも先に、私の体が地面に組みふされる。
 追いつかれたのだ。私は重力を横に受け、立ち上がれない。
「嫌……! 嫌ぁ! 助けて!! 誰か助けて!!!」
 私は精一杯の抵抗を試みるが、私の上に乗っている男は微塵も動かない。そして、3人のヤクザが私を囲んだ。
「ケッ……手こずらせやがって……おい!」
 私の上に乗っている奴は、さっき私の脚にナイフを投げた男のようだった。だから奴はナイフを持っていなかった。
 だけど、また別のヤクザがそいつにナイフを渡した。そしてその渡されたナイフを、男は振りかぶった。
「嫌……あ……ああああああああああ!!!!!!!」
 全身の力を振り絞って、私はどうにか状況を変えようと思いっきり体をひねる。
 すると、今までうつぶせだった私の体が仰向けになった。
 だが、だからと言って逃げ出せるはずはなかった。一瞬は地から浮いた男の体も、再び私を上から押さえつけた。
 しかも今度はさっきよりも最悪だった。上を向いているから、満月を真っ二つに割っている男のナイフが、はっきりと私の目に見えた……。
「嫌ああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
 今までのどんな声よりも大きく叫んだ。だって、もう私にはそれしかできなかったから。
 ごめん、みんな。私はもう死んじゃう。みんなは悲しむのかな? 私の部屋にある大量の注射器を見るまでは……。
 そうだよね。きっとそれを見たら、みんな私を軽蔑する。それでみんなは、私を思い出して笑顔を浮かべることはなくなるんだ……。
 『そんなわけないでしょ? 馬鹿じゃないの? 私』
 誰かの声が、私の中に聞こえる。ううん、それは確かに、私の声。
 だけどそれは今の私じゃない。そう、これは、高校生の頃の私。
 『あんたねえ、本当にこなた達があんたを軽蔑なんかすると思ってんの?
  だとしたら、それはこなた達に対する軽蔑もいいところね』
 そして、思い出した。走馬灯かもしれないけど、高校生だった頃の私の毎日を……。
 みんなが笑顔だった。私を含むみんなが。それで、私が家族との喧嘩なんかで、時折笑顔を欠いてしまったことがあった。
 でも、そんなときでもこなたは笑ってて、私を励ましてくれたじゃない……!
 そんな仲間たちを疑うなんて……私はなんて愚かなことをしていたんだろう……。
 静止していた時間が動き出した。私の肩口に、物凄い激痛が走る。
 涙だらけでぼやけて見えないけど、うっすらと見える視界には、さっきまで恐ろしかったヤクザの形相。
 こんな奴なんて、もう恐ろしいものか。こんな痛みなんて、恐ろしいものか!
 仲間達を疑ってしまった心の痛みに比べれば、こんな痛みは屁でもない……!
 だから、深々と凶器を突き刺されても私はもう叫ばない。ただ、ヤクザが全体重を凶器にかけたとき、私の両手を押さえていた部分の体重が一気に軽くなった。
 だから私はその隙に両手を動かし、凶器の刺さっている肩口から出ている血をヤクザの目にかけてやった。
「な……何!? なんだこれ!? おい!!」
 視界を塞がれ、うろたえながらもヤクザは、私の上から退こうとはしなかった。でも、私の肩口に刺さっている凶器からは手を離していた。
 だから私はそれを引っこ抜いて、それで男の腕を切りつけた。
「ぎゃああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
 1cmほど刃が刺さり、男がついに私の上から退いた。
 だから私のその隙に立ち上がろうとした……でも……。
「……え……?」
 今度は、本日3度目のあの痛みが、私の背中に走った。
 私は手に持っていたナイフを地面に落とし、同時に私の体も地面に崩れ落ちそうになるが、必死にこらえる。
「舐めたマネしてくれるじゃねえか、あ?」
 振り返ると、そこには2人のヤクザ。1人はナイフを持っていないが、1人は持っている。今私の背中を刺したナイフを。
「……ぁ……う……」
 苦しい。気持ち悪い。意識が遠のく。言いたいことはたくさんあった。
 でも、もういいかな。
 さっきまでの「死にたくない」っていう気持ちはもう無い。ただ、精一杯頑張ったっていう気持ちだけ。
 気持ちよくなんかない。私は背中に刃物を刺されて気持ちのいい人間じゃあない。
 でも不思議と、さっきほど気持ち悪くない。
「おご……え……!」
 私の目の前にいたヤクザが、突然地面に張り付くように倒れた。
「遅いわよ……馬鹿……」
 その男が次に立ち上がるのかがいつになるのかは私もよくわからない。だって、私もよく知らないのだ。こなたの空手の実力なんて、見たこともないから。
「ごめん、かがみ。でも愛の抱擁はあとで……ね」
「……馬鹿……」
 こなたの言葉はいつもの茶化したような言葉だったけれど、その声の重みはいつもと全く違った。今放った上段回し蹴りが私には線にしか見えなかったけれど、そのすさまじさはそれを食らった男の惨状からわかる。
 私は少し安心して、壁に背中を持たれかけ、座った。
 目の前に喧嘩慣れしたヤクザがいるのだ。ナイフは持っていないとは言えだ。
 でも、私はもう二度と友達を疑わない。だから、こなたが空手で目の前の男をやっつけてくれることを、今は信じていよう。
 男はなにやら叫びながらこなたに突進してくる。繰り出される右拳は、さっきのこなたが繰り出した技のような鍛錬された美しいわざとは異なる。
 だからこなたはそれをあっさりと避け、その軌道のまま男の腹にこなたの右拳が突き刺さる。
「……ぅえ……が……あ」
 男は体を「く」の字に曲げ、悶絶する。だが、こなたの拳はまだ止まらない。
 右手を引っ込めて今度は左。右、左、右、左。何度も連打を繰り返した。
 こなたの利き腕は両腕だ。この一瞬のうちに繰り出されるいくつもの打撃のどれもが一撃必殺なのだ。
 本当は最初の一撃だけで、男の内臓を破裂させるのには十分のはずだった。それでもこなたの追い討ちは、まるで私を傷つけた男に対する怒りの表れのようで、こんなにも想われている自分を、何だか自慢したい気分になった。
「でも……それもできそうにないわね……」
 だんだんと擦れていく視界。もうこなたの姿は見えない。ただ、遠のく意識の中声が聞こえるだけ。
「かがみ!? かがみ! 大丈夫!? 返事してってば……かがみ……かが……」
 テレビのスイッチを切ったように、私の意識はプツリと切れた。
 そして見えたのは、また高校生の頃の私。
 でも今度は卒業の頃のじゃあなくて、入学の頃の。
 中学からの幼馴染だった日下部と峰岸との3人で、初めての高校生活の門をくぐろうとしていた。
 でも、残念ながらそれはかなわなかった。
 下駄箱の門をくぐろうとした瞬間に、後ろから青髪の少女が飛びついてきたからだ。
 私は名も知らぬその少女の二人で初めての高校生活の門をヘッドスライディングでくぐってしまった。
 少女が言うに、入学生の名簿の写真を見ていたところ、ツリ目でツインテールの私にツンデレ疑惑がかかったらしく、朝早くから門前で待ち伏せしていたらしかった。
 最初は、なんだコイツと思った。でも、だんだんと仲良くなっていって、今じゃあすっかり一番の友達だ。
 最後の最後に会えてよかった。最初から最後まで、全部の「いままで」をひっくるめて言うよ。
 『ありがとう、こなた』
「おーーーい!!! 死亡フラグ立ってるって! かがみー!!」
 と、あの世に行こうとしていた魂は、空手家の本気の平手打ちによってこの世に返された。
「あ、起きた」
 目を開けたとき視界に入った風景に、私は一瞬だけ呆然としていた。
 見たこともない真っ白な天井の正体なんてどうでもいい。でも、今はただ、こなたが私のそばにいてくれることに感謝をしようと思って、私の顔を覗き込んでいたこなたの体に抱きついた。
「わっ……ちょ……か、かがみ!? なな……なにすんのさ、公衆の面前で……」
「……うるさいわね……」
 私は、こなたを抱きしめる腕を一層強くした。
「私がこうしたいって言ってるんだから……」
 一瞬の沈黙の後、こなたはため息と同時に言う。
「うん……やっぱりかがみは可愛いねぇ……」
 しばらく後に売店からみんなが帰ってくるまでの間、私達の時間はずっと止まっていた。



 おまけ

つかさ「おねえちゃん、ただいまー」
みさお「おっす柊ー! ポッキー買ってきたぞー……て、邪魔しちゃ悪かったか?」
かがみ「じゃ……邪魔だなんてとんでもない! ささ、入っていいわよ……」
こなた「むぅ……もういつものかがみなの? 可愛かったのになーデレのかがみ」
かがみ「だ……だれがデレよ!」
こなた「まあ……じゃあかがみのスイッチの切り替えのためにそろそろ教えたほうがいいかなぁ……?」
かがみ「ん? な……なによつかさ。私の顔見ながら笑って」
つかさ「クスクス……え? な……なんのことかな? かな?」
こなた「ぷっ……ククク……」
かがみ「ま さ か」
みさお「ぶわっははははははは!!! 柊ィ! 似合ってるぞー!」
かがみ「やったのは誰!! 全員に等しく拳で教育したげるわ!!」
みゆき「お恥ずかしながら、水性マジックがなかったので油性でやらせていただきました」
あやの「と……とりあえず、顔洗ってくれば……?」
かがみ「言われなくたってそーするわよ!」



  まったく、これだからこいつらは……こいつらとの時間は…………。

終わり

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最終更新:2007年09月26日 15:28
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