柊かがみは大学に入っても数ヶ月が経ったが、親しい友人が出来なかった。
一応、志望する大学の法学部に合格したものの、親しく同窓と話すことは稀だった。
高校時代自分は四人でつるんでいたし、その連中以外にも二人、
中学時代から付き合いのある友人がいた。
しかし、大学に入ってから高校時代と同じような人間関係を作れずにいたのだ。
かがみは一人で平気な人間ではなく、寂しさを感じていた。
このままでは大学に行く気自体がなくなってしまうのではという恐怖にさえ駆られた。
何故友人が出来ないのだろう?
かがみは考えた。
孤独に苦しむかがみは楽しかった高校時代を思い出していた。
そして、今の自分の同窓とかつての友人たちを比較して見た。
かがみはあることに気づいた。それは自分の友達は特別な人であることに気がついた。
こなたはキモオタで友達がなく、かがみ以外頼る人が居ない嫌われ者だった。
特に、一部のクラスメートはこなたを
「気持ち悪い」「空気読めない」「ウザイ」「こなたの顔見るとイライラする」といって特に嫌っていた。
みゆきさん大人で自分をしっかり保っていルタイプの人間で、誰とでも仲良くできるが、だれとも深く付き合わないタイプのひとだった。
クラスメートと深く付き合わなくとも多くのクラスメートから信頼されていた人格者で、たとえ、クラスメートが暴走しても上手くフォローしてくれる人だった。
自分はみゆきに甘えていたことに気が付いた。
つかさは、地味で目立たず奥手なため、姉である自分を頼っているような状態だった。
あやのとみさおはいま大学での同窓によくいる普通の人だったが、
かがみ自身がこなたやみゆきやつかさと一緒にいることを好んでいた。
このように自分の友人を思い起こすと、かがみは自分が、こなたのような嫌われ者、
つかさのようなおとなしい子、みゆきのような大人びた人としか人間関係を築いていなかったのであった。
妹であるつかさはともかく自分を頼るしかないカス、自分を寛容に受け入れてくれる大人なひと、
これが、かがみの友達の内容であった。
つまり、かがみは同世代の普通の児とは、あまり仲良くしていない高校時代だったのだ。
「このまま行くと同世代の普通の人と親しくなるのは無理なのかしら?」
かがみは心配になりだした。
「自分は同世代の普通の人と親しくなれないのではないか」
かがみがそんな意識に駆られる反面、もう一人のかがみがいた。もうひとりのかがみ曰く、
「子供でもあるまいに、つるんで喜んでいる年か、かがみには将来に向けてやることがあるだろ。」かがみは法学部に決めるとき弁護士になろうと思っていた。そのために法学部に入ったのだから、やることはたくさんある。
かがみは思い直し、自分の心をねじ伏せた。そして「そのうち親しくなる人もできるだろう。無理に親しい友達を作ることもない。実際、今親しくはなくとも必要なことを尋ねる相手はいる。」と思うことにした。
「落ち着こう」かがみは最近おぼえたタバコをふかせた。
「ふー」タバコをふかせて落ち着くと周りに目を向ける心のゆとりもできた。
しかし、タバコの力で落ち着きを取り戻しても、かがみの目に映るものは大学の同窓たちが楽しそうにつるんではしゃいでいるすがただった。
かがみのように法曹を目指すものもグループを作って勉強会をしているようだった。
一人で大学にいるのはつらい。そう思って、かがみは家へ帰ることにした。
大学を出て、家に向かう電車の中は、かがみにとって居易い場所だった。
誰もが他人な電車の中では自分の孤独を感じずにいられるからだ。
しかし、楽しかった高校時代を思うと、やはり今の自分は孤独であることを感じずにはいられなかった。
かがみはセーラー服の集団と乗り合わせると、車両を変えることにしたいた。
今のかがみの一番の友達は「司法試験向け判例六法」である。
これにのめり込むことで孤独を感じないように勤めていた。
電車が鷲宮駅に到着すると、大学にいるよりはましな心になった。
少なくとも家に帰ればつかさやまつり、いのりがいて孤独を感じずに済むからだ。
家に着き、鍵を開け家の中に入ると、つかさの話し声が聞こえる。どうやら電話をかけているらしい。
つかさ「それじゃ。」
つかさが電話を終えた。
つかさ「お姉ちゃん、お帰りなさい。」
かがみ「何の電話?」
つかさ「今度、大学の友達が
お料理のコンクールに参加するから一緒にやらないかという話。お姉ちゃんも応援に来てよ。」
かがみ「いいけど………」
つかさはうれしそうにパンフレットをかがみに見せた。それは、ホテル業界が開催する将来の一流シェフを発掘するコンクールのパンフレットだった。
つかさ「優勝は無理だけど、自分がどれぐらいできるか試して見たいんだ。」
つかさは、将来料理で身を立てたいと思い大学の栄養学科に進んだのであった。
大学入学直後は今までのつかさだったが、
大学生活に慣れるとともに変わり始めてきたことにかがみは気づいていた。
以前は家族としかやり取りのなかったつかさの携帯につかさの学友からのメールや電話が掛かって来る様になった。
これと同時に、つかさは以前になくよく友人と出かけるようになってきていたのである。
かがみ「これに参加すること誰が言い出したの?」
かがみは、思わず口にしてしまった。あわてて、動揺を悟られぬよう平静を装った。
高校時代のかがみならこんなことは口にしなかっただろう。
つかさはやや不思議そうな顔をして答えた。
つかさ「お友達。お友達がね、参加したいのだけど一人じゃ照れくさいし怖いし自信ないし、
どうしてもつかちゃんと一緒に参加したいのって言われたの。」
つかさは照れ笑いしながら答えた。つかさは悪くはない。しかし、今のかがみの胸には応えた。
いつも、姉である自分の後ろからついてくるだけで自ら何かをするような人間ではなかったつかさが
いまや、友達を自ら作り、しかも、その友達に頼られている。
何もかもがかがみ頼りだったつかさではなくなってきているのだ。
「つかさでも大学で友達を作れたのに………。」かがみの孤独感はより一層のものとなった。
かかみ「がんばって、つかさ、応援しているから」
つかさ「うん。ありがとう。」
つかさは明るく答えはねるように小走りで自分の部屋に戻っていった。
かがみは、全身が気の重さに支配されていることがわかるように重い足取りで部屋に戻った。
部屋に戻ったかがみはクッションを整え、ベットにもたれかかるように座った。
そしていまや心のよりどころでもあるタバコに火をつけた。最近タバコの量が増えている。
さびしさの数だけタバコに火をつけているかがみであった。
昨晩は嫌な夜になった。つかさへの複雑な思いから部屋に引きこもり、結局眠ることさえ出来なかったからである。
徹夜明けで身体がだるい。それでも根が真面目なかがみは授業をサボることはしたくなかった。
一時限目の教室に入り、適当な場所に席を取った。相変わらず会話のない学生生活である。
暇つぶしを兼ねて、手帳を取り出し今後の予定にチェックを入れた。丁度、今日はサークルのコンパの日に当たっていた。
かがみは、主に法曹を目指す人たちのサークルである「志法会」というサークルに加入していた。
高校時代は部活を熱心にやるタイプの人間ではなかったが、
大学では多目的に使えるからサークルに入っておいた方がいいというまつりの忠告を受け、
自分が目指す法曹を同じように目指す人たちのサークルを選んだのである。
志法会の一年生はまだあまり活動していないし、ここには法学部以外の人もいるらしい、
「もしかしたら自分に合う人がいるかも知れない。」
そう思ったかがみはあまり興味を持っていなかったサークルのコンパに俄然興味が湧いてきた。
なんだか、昨日眠れなかった疲れも消えていったように思えた。
その日、かがみはどうやってコンパで親しい人を作ろうかということが脳内にこびりついていた。
「とにかく、話が続かないのだから、話題を用意しておこう。」「自分から話しかけるときにはどんなタイミングがいいだろうか。」
「ラノベ好きな人がいるといいな」等、そんなことばかりを考えていた。
かがみはひさしぶりに上機嫌であった。今日はなぜかタバコの減りがおそい。
一日の授業が終わり、いよいよコンパの時間になった。店は居酒屋のチェーン店だ。
かがみは、普段は見せないかいがいしさを見せた。みんなに親しんでもらいたかったからである。
幹事「それでは、新入生のみなさん。順次自己紹介をお願いします。」
散在していた新入生たちは、順次自己紹介をはじめた。すぐにかがみの番になった。
かがみ「陵桜学園高校出身、柊かがみです。よろしくお願いします。」
今まで自己紹介した人間と変わらない反応だった。
かがみはもっと何か面白いことを言って、みんなに注目してもらうべきだったのか?そんな風に思った。
酒が回り始めたころ段々と新入生達も緊張が解け、会話を始める者が出てきた。
かがみも隣に座っていた同級生の女子に話しかけた。
かがみ「ねえ、何でこのサークル選んだの?将来何か目指しているの?」
部員A「柊さんでしたっけ?私将来はまだ考えていないんです。ただ、勉強しておけば役に立つかなとおもって。」
かがみ「法学部だよね?」
部員A「はい」
かがみ「法曹とか目指さないの?」
部員A「そんなこと考えてないです。まだ、一年ですし。」
かがみ「……………」
こいつはダメだな。他さがそ。
かがみはビールを持ち女子が多そうな場所に行き、気遣いする振りをして話の輪に入ろうとした。
かがみ「みんな、将来法曹なんかめざすの?」
部員B「考えてない。」
部員C「一応法曹を目指しているけど…………。」
みんな歯切れの悪い会話だった。
それでも、かがみの目から見ると、かがみ以外の学生はみんな楽しそうに会話しているようにみえる。
何故だか自分ひとりが浮いているような状態だった。ここでもかがみは会話の輪の中に入り損ねたようだった。
いまさら無理に人の輪に入り込むのは難しいだろう。
かがみは、トイレに行き、タバコを一服飲んだ。
かがみ「また、話の輪に入り損ねちゃった。」
かがみが気遣いしている時に、人間関係が出来上がってしまったようです。
かがみは早々にコンパに見切りをつけ家に帰ることにした。なんだか自分だけ浮いているようだし、
この場では同級生と何を話したらいいのか自分でも解らなかったからである。
こうして自分が浮いてしまってから考えると、いきなり司法試験の話はまずかったと思っている。
何を話したらいいのか解らない状態のまま無理に話しかけ、ドツボにはまったら起死回生は無理である。
早めに引き上げた方がいい。
まだ夜は浅い。制服の女学生が乗るには遅すぎ、酔っ払いが乗るには早すぎる時間だったので、
電車の中ではしゃぐバカを見ずに家に向かえた。
いまの自分が楽しそうに話す女学生と乗り合わせたら、それこそ敵わない。
家に着くとまつりが出迎えた
まつり「お帰りかがみ。早かったのね。」
かがみ「途中で抜けてきたからね。」
まつり「なんかあったの?いい男とかいなかったの?」
かがみはドキッとした。いい男どころか、自分は周りから浮いていたなんて言えない。
かがみ「男どころか、女もバカばっかよ!」
まつり「へー。食事は?」
かがみ「済ませてきた。」
かがみは台所へ行き、お気に入りのグラスにでお冷を飲み干し、酔いをさました。
かがみは、部屋で荷物を整理しながら「それでも自分はましかな」と思った。
いのり、まつり、つかさといった姉妹がいるおかげで下宿生よりは寂しさが少ないと思った。
しかし、家族がいるのはありがたいが、家族がすべての問題を解決してくれるわけではない。
やはり、大学に友達を作りたいという気持ちに変わりはない。
「あの、奥手なつかさですら友達を作れたのに・・・・。」かがみはそう思っていた。
つかさは件のコンテストの準備でなにやら急がしそうである。その姿をかがみはうらやましく見ていた。
そんな時、かがみの頭にある考えが浮かんだ。「そうだみゆきに相談してみよう。」
みゆきに相談することにより、何か解決できるかもしれない、
みゆきは面倒見がいいし、何かいい案を出してくれるかもしれない。
かがみは自分が変われば、同窓も変わると思ったのであった。
かがみは勉強で忙しいみゆきに邪魔にならぬ時間を見計らって電話をかけた。
みゆきは意外と簡単に逢う約束してくれた。
医学部は勉強が大変だと聞いていたが、面倒見のいいみゆきはかがみのために時間を作ってくれたのだろう。
場所はみゆきの下宿、時は、次の日曜日に決まった。
みゆきに家から通えないほどみゆきの通っている医大は遠くないが、みゆきは医大の近くのマンションに住んでいた。
みゆきが勉強に集中できる環境を作ってあげたいという配慮や、子供を早く独り立ちさせたほうが良いという親の考え、
また、医大は実験などが大変なので夜遅くなった場合は下手に家に帰るよりも安全といった複合的理由でみゆきはこんな贅沢な暮らしをしているのである。
セレブの娘しかこんな贅沢は出来ないだろう。
みゆき「どうぞお入りください。」
かがみ「では、お邪魔します。」
みゆき部屋を見てかがみは思った。金というものは有る所には有るのだなと。
みゆきが紅茶の用意をしてくれているようである。
みゆき「さあ、どうぞ紅茶を召し上がってください。安い紅茶でお恥ずかしいですが。」
かがみは、遠慮なく紅茶を飲んだ。そして話を切り出した。
かがみ「実は、なんだか私大学に溶け込めてなのよね。人と会話していてもなかなか上手く話が続かなくって・・・。
それで、もし高校時代の私と今の私で変わったところがあったら教えてほしいの。」
かがみは高校時代に上手くいっていた人間関係が、大学に入ると同時に上手くいかなくなった理由を知りたかったのだ
かがみ「みゆき、怒らないから正直に言ってほしいの、私どっか変わった?」
みゆきは困ったようにいった。
みゆき「もしかすると、かがみさんは『空気が読めない』とか言われる、と言うことでしょうか?」
かがみ「そんな感じなの。」
みゆき「かがみさん。絶対に怒らないと約束できますか?」
かがみ「もちろん。みゆきがそんなにおかしなことするはずないし。」
みゆき「・・・・・・では、おはなししましょう。」
みゆき「実は、かがみさんを演出していたのは私なのです。」
かがみ「えっ。どういうこと。」
みゆき「私は、かがみさんと初めて出会ったころ、この人時々空気読めてない発言する人だなと思ったのです。
だから、私は、かがみさんの発言が、空気読めてない発言だったときには私なりにフォローを入れていたのです。」
悪気でやったのではないのです。かがみさんがみなさんから孤立し、悲しむのを見たくなかったのです。」
かがみは驚きを隠せなかった。上手くいっていた高校時代の人間関係はみゆきのおかげだったのである。
かがみがこれほどまでにみゆきに見守られていたとは、かがみ自身、知る由もなかった。
かがみ「でもどうしてそんな面倒なことを、私の為に?」
みゆき「お解かりいただけないでしょうか。私はかがみさんに友情を超えた、もっと激しい感情を持っているのです。」
かがみ「・・・・・・・。」
みゆき「これを男女では愛と呼ぶのでしょう。
かがみさんを最初に見たとき、なんて綺麗なオリエンタルアイ、上品な口元、白兎の様に白い柔肌、胸も上品な形で、
本当に綺麗な巫女さんという感じでした。かがみさん私だけの物になってください。」
かがみは、当惑はしたものの、こんなにも自分を必要としてくれている人がいることに気がついた。
かがみには、みゆきがいる。これだけでかがみの心は十分満たされ、寂しさは消え去った。
かがみは、みゆきのくちづけを受け入れていた。
最終更新:2008年02月14日 00:00