1.クリスマス・イヴの日


ふと窓の外を見やると,雪が降り始めていたことに気付いた.カフェのマスターが私の方を見てから窓に目を移し,こう言った.
「降ってきましたね」
私は,言った.
「これは・・・所謂,『ホワイト・クリスマス』というものですね」

2013年12月24日,クリスマス・イヴ.世間ではクリスマスソングが流れ,なんとなく浮かれ気味なのだろうが,私自身のことを言えば,全くそうではなかった.精神的に不安定すぎるのだ.原因は,分からない.心の好調・不調が,周期を変えて訪れては去って行っていた.どんな時に好調になるのか,または不調になるのか・・・は,さすがに分かっているつもりだ.不調になる時は,主に一日が始まる時(つまり朝)やものを食べる時だ.好調になる時は最近滅多に少なくなったが,強いて言うならば,「ラブストーリー」に触れる時.最近好調になったのが丁度,村上春樹翻訳の「恋しくて」を読んだ時だから,そう言える.

今日の午前中から昼にかけて,久しぶりに映画「タイタニック」を観た.セリーヌ・ディオンの歌う"My Heart Will Go On"は予めYouTubeで何回も聞いてはいたが実際,作中で流れる「ローズのテーマ」を聞く度に私は泣いた.・・・泣けるだけの心があることを,私は知った.後半になって,乗客人が逃げ出すシーンのなかで,数秒だが私の胸に突き刺さる部分があった.

海中をただよう,避難し損ねた一人の女性.

ほんの僅かなシーンだが,私はすぐ様に「オフィーリア」を思い浮かべた.あるいは,「若き殉教の娘」とも.どちらとも,近代に描かれた歴史画だ.


私は,現在は「好調」だった.今年のクリスマスプレゼントが,どうやら決まったようだった.無償で,且つ自分自身で生み出し与えられるもの.近隣都市に新しく出来た本屋のことについてマスターと少しばかり言葉を交わし,私は帰路についた.自宅に戻ると,私は,自身の根幹となるものを再構築しようとした.真っ白の原稿用紙に,今,熱い想いがぶつけられる.かくして私は,自らを再生させる為にもう一度ペンを取ってみることにしたのだ.

そしてここに,「ある一つの物語の根幹」が書かれることを宣言しよう.


2.The End Of the World


高校生の頃,よくQueenを聞いていた.彼らの代表曲と言える「ボヘミアン・ラプソディ」は,こう始まる.

Is this real life?
Is this just fantasy?
Caught in a landslade
No escape from reality

(これは現実なのか
それともただの幻か
まるで地滑りに遭ったようだ
現実から逃れることはできない)


私が恋したその物語・「ファイナルファンタジー」シリーズは,現在,私が感じたままに書くと,おかしな方向に進んでいる.仮に

ファイナルファンタジーシリーズ≡オフィーリア

と定義づけると,ただの思いつきでつけたこの小説のタイトル【オフィーリアの死】が,幾分かは重みが増し,そして方向性も見えてくる.・・・そうだ,私はオフィーリアに恋したのだ.だが彼女は私に振り向きもせず,ただ真っ直ぐに美しくなることだけに心がけた.昔の彼女は実際の人間より人間らしく,私の手の届くところにいた.手を伸ばせば,彼女の小さな肩を抱き寄せることができる程,だ.自然と,彼女は側にいてくれるひとだった.それが,今ではどうだ.彼女は,もう昔の彼女ではない.外見もだが,性格までも変わってしまった.一緒に時を過ごすことはおろか,姿を見ることだけでもお金をとるくらいの・・・強欲なひとになってしまった.自分に恋するひとを選ぶようにもなってしまった.・・・私はそんな彼女を見たくはなかった.昔のオフィーリアに戻って欲しい.そうも思った.しかし,時間というものは決してさかのぼれぬもの.私が恋したオフィーリアは,亡くなったのだ.私とオフィーリアは,いつの間にか死別していた.

眠れない夜に,村上春樹の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」をめくってみる.私は,「世界の終わり」の方が幻想的で好きだ.めくってみて,それで眠たくなるか,と言われれば決してそうではない.むしろ逆効果だ.面白くて,読み始めたら朝を迎えていた,なんていうことがあるのかもれない.

私は右手の人差し指を立て,オフィーリアを思った.次に左手の人差し指を立て,世界の終わりを思った.今度は,二本の人差し指を近づけ,くっつける.その結合で生み出されるのは・・・.私なりの,オフィーリアへの決別の表われであったし,理想のオフィーリアをつくる行為でもあった.そうして生まれたオフィーリアがまさしく,私の書くファイナルファンタジーシリーズの二次小説である「窮キョウ幻想説」なのだ.

窮キョウ幻想説では,シリーズでいうところのI~VIが基本となっている.VII,VIIIと,X以降のシリーズは,いらない.オフィーリアは,VIの時が一番魅力的だった.そしてVIを語った後,彼女は亡くなり,タクティクス,IXで二度蘇り,そして私と死別することになる.

私はオフィーリアに恋した時のことを思い出した.始まりがあれば,必ず終わりがやって来る.しかし人間というのは,「永遠に変わらないもの」を求めるいきものだ.かく言う私は,ファイナルファンタジーを,自分自身のやり方で終わらせようとしている.そういう意味では,正に"final"だ.そして,こう言おう.

「永遠に,オフィーリア」


3.幻想ルネッサンス


オフィーリアを蘇らせる行為,あるいは理想のオフィーリアをつくる行為は,着々と進んでいる.前話で「窮キョウ幻想説では,シリーズでいうところのI~VIが基本となっている」と書いた.実際,窮キョウ幻想説のコンテンツを見てみるとどうだろうか.IからVI,そしてT,IXにかけて,やけに「幻想復興」や「幻想跳躍」という言葉が目立つのではないだろうか.実は,この二つの言葉こそが,オフィーリアの為の蘇生薬であり,飾りでもあるのだ.第三話では,まず「幻想復興」という言葉について演繹的に解説していきたい.


ファイナルファンタジーの世界観は,シリーズ毎に似たようなものがあれば,違うようなものもある.例えば,I~Vまでの村々は,どことなく牧歌的であったように思える.I・III・Vには「光の戦士」なるものが登場する.II・IV・VIはストーリー的に重みがあり,なんとなくメランコリックだ.そしてVまで出ていた「クリスタル」と呼ばれていたものが,VIから消えてしまった.これらの類似性あるいは相違性を踏まえ,更に考察を加えた結果,次のような「FF世界観」ができあがった.

大前提:「全ての」ファイナルファンタジーは同じ星で紡がれた物語である.その星の名を,「ガイア」と呼ぶ.

全てのファイナルファンタジー,つまりはI,II,III,…,の物語は,全てガイアという星の上で起こったというのだ.だがしかし,それぞれのファンタジーで固有のものが出てくるが,それはどう「全てガイアという星の上で起こった」と説明するのか,と言うひともなかにはいらっしゃるかもしれない.Iで出て来た,四つのカオスや二千年の時は?IIの,反乱軍やパラメキア帝国は?IIIの浮遊大陸は?・・・という風に色々思い起こされる.
そこで私,望月快は,IからVIまでのそれぞれの「世界観」を接続させる方法を思いたのである.即ち,それこそがプロジェクト・「幻想復興」なのだ.

窮キョウ幻想説のコンテンツを見てみると,IIからVIまでのタイトルのすぐ下に,【世界年譜序文-○○○-】という話があるのが目につく.Iのが何故か無いのが不思議だが,ためしにIIからVIまでのを繋げてみよう.



▼冥界王

まだ世界が再誕して間もない頃のこと.混沌とした地上を治めるため,天界の者達は,一人の男をそこへ送った.男は14人の僕を引き連れ天より地上に降臨すると,直ちにその僕達にこう言ったという.
「お前達の能力を以ってして,国を作りあげよ」と.
かくしてそれまで混沌としていた地上に,秩序がもたらされた.14人の僕が,それぞれの国を作り,王となったのである.
14ヶ国の王たちは,地上の生命と慣れ親しんでいくうち,天界より来た証である,背中に生えた翼を失ってしまった.その代わりに得たものは,かつて自分たちの主であったその男への謀反気であった.
ある日のこと.14ヶ国の王たちは主への忠誠心を捨てると,一人は剣を,一人は槍を,一人は斧をなどを持ち,主であったその男を呼び出し,彼を「我々を天界人でなくした者」として誅殺したのである.

… … …

これを不憫に思った天界の者たちは,何の能力を持たないその男に,死した生命の記憶を,永遠に受け継がせる能力を与え,彼を「死人」として,死後の世界の王とした.その男の名を「ジェイド」と呼ぶ.彼の肉体は,カオス神殿の地下深くに封印されている.ジェイドの姿を見た者は,この世には誰もいない.全ては主への忠誠を破った,14人の僕の思いから始まったもの.地上の生命は託された.主への忠誠心を決して破ってはいけないことを.

… … …

死後の世界,冥界の王となったジェイドは数多の死した生命の記憶を一度預かり受け,冥界の果てに在する大水晶石にその記憶を保存し冥界の肥やしにした.肥やされた冥界から,その記憶は,大水晶石の力によって地上へ戻り,また新たな生命の種を送られることになる.
この一連のループは,ジェイドにより「魂の循環」と呼ばれ,その循環を担う大水晶石こそが,後のクリスタル伝説の発端になる.
冥界の果ての果て,地上より遥か深く.原初の母星・ガイアの中心核に在する大水晶石は,冥界王ジェイドの力により,今尚輝き続けている.数多の生命の記憶を受け継がせるために.

▼大海嘯

光の氾濫によって,その超文明が滅亡してより数百年後.混沌とした地上に天界の者たちは,新たなる救済者を遣わした.地上人は,その救済者を見るなりこう言ったという.
「おお,あの方こそが我らをお救いすると言われる天冥士様だ!」
しかし,天冥士とは本来地上に在する14の国の中のなかでも古代語で「隠国」を意味する「カシュカ」王朝に住む人のことを差した.
天界とは全く関係のない天冥士呼ばわりされたその救済者は,地上人の前に姿を現すとこう言ったのだ.
「我は天冥士にあらず・・・.寧ろそれに相対する立場の土陽士なり・・・.そなたらは一度経験しているはずだ,無の力による浄化を.そなたらはまた同じくクリスタルの力に甘んじて愚行を繰り返すか?それとも,限りある生をこの星と共に慎ましく生きるか?」と.
多くの地上人は後者を選択した.だが,14の国の長は,自分らより後にやって来たその救済者を蔑み,存在意義さえも詰った.そのことに激怒した救済者は,土陽士の力を地上に見せつけたのである.

… … …

彼はまず,手に持った杖を大地に落とし突けると,それまであった14の国の大陸に地響きが渡り,轟音と共に地殻が変動した.大陸は動き大地が引き裂かれた.これが後の世に伝わる究極魔法クエイクである.次に彼は,引き裂かれた大地に入って来た海水に何かを唱え始めた.そうすると海水の水位が瞬く間に上昇し始め,やがてそれは大津波となって,地上の全てのものを海のなかへ掻っ攫っていった.これが後の世に伝わる究極魔法フラッドである.

… … …

引き裂かれていく大地,すべてを飲み込む海水.
愚かな為政者によって招かれた大惨事を,嘆く者もいれば喝采する者もいた.「世界はどうなってしまうのだろうか」または「俺達がこれから新しい世界を作るんだ」と.救済者は,慎ましく母星と共生しようとする地上人を誰よりも愛し共に歴史を刻んだ.
その地上人の限りある命を一つに.
自分が引き起こした大惨事を魔導として一つに.
そして共に歴史を刻んだ想い出を記憶の場所,夢の世界に入れ管理する能力を一つに.
三人の弟子にそれぞれを分け与え,この世を去った.そう,言うまでもなく彼の者の名は.
大魔導師ノア.

▼宗教風

かつて,天界の者たちと地上人との交流が盛んだった頃.出自の界を異にする者同士の愛が存在した.天界と地上の使いである月天使であるアモルと,当時最も徳の高い人間とされていたプシュケとの愛である.
しかし,時を同じくしてこの二人の恋仲を妬む者がいた.普通の人間の女性であるモルスである.

… … …

モルスは,このアモルとプシュケの仲を別つために,様々な邪魔をした.天界では異界の者同士の愛が好まれていたため,ある日人間モルスに天罰が下った.裁きを受け死人となったモルスは死後の世界,冥界に於いて冥界王ジェイドにこう頼んだ. 
「人間であるプシュケを亡き者にして欲しい」と.更に
「自分の名前をアモルと一緒にさせて欲しい」とも.
こうして 愛の月天使アモルはその身分を剥奪され,普通の人間としてアモルスとして生まれ変わった.

… … …

天界の者たちはこれを不憫に思い,心を痛ませ地上人との交際を一切断ち切ってしまった.いっぽうそのころ,地上ではモルスは,死人から生ける人間アモルスとして蘇ったことにより,同じく,月天使アモルの名残りである天冥士の能力を買い被られ,地上人により長きに渡りジェイドと共々崇拝されることになる.死から復活し星を読み人々を導くその姿は後世に語り継がれることとなった.

… … …

これが原初の宗教「アモルス教」の発端である.

… … …

一方のプシュケは,ジェイドにより魂を奪われ,心に影を抱く女として地上のどこかを彷徨っているという・・・.究極魔法,クエイク,フラッドにより何度も世界が再編されようとも心の片割れを探す「影」は,いつもどこかで寂しそうに暗黒を地上に落としている・・・.

▼水晶石

それまで通じ合っていた天界,地上,冥界の三つの界は,奇しくも愚かな14人の天界人たちの所以で,やりとりが断たれてしまった.このことより一番に困ったのは,冥界の王であり魂の循環を行なっていたジェイドであった.彼が曰くには
「地上と冥界のやりとりが壊れてしまっては魂の循環が行なわれなくなる」と.
つまり地上の者が所謂「死」を迎えても魂は冥界に行くことなくいつまでも地上を彷徨う羽目になってしまい,いつまで経っても冥界は肥やされることはないし,水晶石によって新しい命が育まれることはなくなる,というのだ.

… … …

ジェイドは考えに考えを練ったがその対策は思いつかず,ただ時は過ぎ去ってゆくのみだった.しかしある日のこと.ジェイドは一つ大事な存在を忘れていたことに気付いた.人間モルスの策略に愚かしくも自身も参加してしまった「プシュケの死」であった.魂だけの存在になり,何度も世界が究極魔法により再編されようとも,未練がましく地上を彷徨うかつて最も徳の高い人間だった彼女の魂をジェイドは求めた.アモルス教などではなく,クリスタル伝説を復活させるために. 
しかし時はすでに遅し.地上と冥界のやりとりは断たれたままだ.「一体どうすべきか?」三日三晩ジェイドは考えた.

… … …

ジェイドは死人であるノアに相談を持ちかけたところ,ノアはこう言ったという.
「魂の循環を行なわせているクリスタルに精神を宿らせてはどうか?」と.
そして
「そうすれば必ず行き場を失っているプシュケの魂はそれを拠り所にしようと必ず此処に来るはずだ」とも.
ジェイドはそのノアの言葉に賛同し
「おお,さすがはかつての出自を同じくする者同士.やはり類は友を呼ぶようだ」と言い,早速大水晶石の一部を削り取り,更にその一部を四つの欠片にし水晶石に精神を与えた.

… … …

この一連のやりとりを見た,地上に於いて初めて魔導を使いこなしたと言われる最初の魔導師ミンウはこう記している.
「私は見た.ジェイド様が冥界の奥より持ってこられた伝説の水晶石の欠片にノア様が土陽士の力であるガイア四元論を以ってして,水晶石に精神を宿すのを.四つの欠片に四つの精神を・・・,いや,心と言っても良いのかもしれない.心を宿された水晶石は我々死人たちにこう話しかけ,そして地上へ舞い上がったのだ:

『【希望】は大地に恵みを与え・・・
【勇気】は炎を灯らせ・・・
【いたわり】は水を命の源とし・・・
【探求】は風に叡智を乗せる・・・』

その後クリスタル伝説が地上を席巻したのか,あるいはまた愚かな人間がクリスタルの力に甘んじて災いを起こしたのかは我々の知る余地ではない.
ただ,これだけは事実である:
プシュケは結局冥界に来なかったのだ・・・」と.
地上ではクリスタル伝説はどうなったのか?
そしてプシュケの魂はどうなったのか?
それは,これから始まるジェラール教典に全て書かれていること・・・.

▼神統記

遥かに遠い古えのある日,天より地上に降臨し魔導の三神,女神・魔神・鬼神.互いを恐れ互いを滅ぼさんと戦いを始むる.世界に君臨す八竜は直ちに滅ぼさる.彼らは世界に魔導の力をもたらし,強き生命力を持つ者を幻獣に変え僕とす.
この三闘神と幻獣達により,世界は永き闘いの時代を刻むこととなる.大地は裂け,空は暗雲で淀み,海は荒れ狂う.空気は瘴気に満ち,川には毒の水が流れ,森林は劫火で灰と化す.多くの生命が失われ,そして絶えていった.

やがて,三神,自らの力の強大さに恐れ戦き,互いにかつ目し石化さすることによりその力を封印す.
女神,弱く小さき生命を慈しみ,僕とした幻獣共に心を与え,滅びゆく生命を守らせんとす.
鬼神,愚かしくも強大であった聖戦の記憶を自らが滅した八竜に封印させんとす.
魔神,世界にもたらされた魔導の力を,幻獣の骸たる魔石に封印して後世に残さんとす.

そして,三神,石像として静かな眠りにつく最後の備えとして,自らの力を解放せんとする者のために,魔導を用い「番人」を生み出した.曰く
『我々を復活させる者現れるならば直ちにそれを消し去ってしまえ.我々が蘇りし時,そなたの生命力を以ってして我々と共に滅ぶがよい.そのために,そなたに何人にも負けぬ最高の力を与う.大地を砕き,全てを燃やしつくし,その者の精神を吸う,生命を超えた生命力を今こそ授かるが良い』

… … …

その番人の名をアルテマウェポンと呼ぶ.後に古文書に記され,さる魔大戦では魔導士達に崇められることとなる伝説の魔獣である.

… … …

番人を生み出した三神,自らにも及ぶ力を持つ番人の力を恐れ始める.しかし石になった彼らになすすべは無く時は過ぎ行く.これを不憫に思った天界の者達は,三神と同じ魔導の力を用いもう一体番人を作った.
「ただし魔獣のままでは,いつ荒れ狂い我々が誤って三神を遣わした地上に再び破滅をもたらすかもしれぬ」
彼らは 神剣ラグナロクにより
「メタモルフォース!」
番人を一つの武器へ変化させた.
「使用者の生命力を刀身に変え,荒れ狂う番人に対峙せよ」
そして最後にこう言ったという.
『地上の全ての生命よ,光あれ.神々が創りし魔獣をも凌ぐ生命力に満ち溢れよ.強き心を持つ者共,光をもたらす者共.仲間を求め,内なる光を捨てずに,勇みを持って臆せず前へ出よ.そして邪なる力を討て』
かくして,伝説の魔獣と同じ名を冠する究極の剣が地上に与えられた.

… … …

地上の弱き生命達に,「神々によってもたらされし滅び行く運命」を変える使命が託されることとなった.



まず,ザックリと窮キョウ幻想説で語られる物語の舞台となる世界について説明したい.
【世界年譜序文】に時たま現れる,「・・・世界が再編され・・・」という言葉や,天界・冥界・地上という言葉.前述した大前提にあるガイアの星の地表のことを「地上」,そして星のなかの域を「冥界」と決めている.冥界とは,ガイアの中心核に近いところにある場所で,死後の世界だ.そして,ガイアの衛星に当たる天体のことを天界と呼んでいる.天界には別称があるが,ここでは書かないことにする.窮キョウ幻想説では,この地上・冥界・天界の三界があるというのが基盤となっている.
次にシリーズをどう同じ星・ガイアで物語るかということについて.このことについて一番応えているのが【世界年譜序文】のうちの,「大海嘯」だ.土陽士ノアが起こした究極魔法,クエイク&フラッドによって,一つのファンタジーが始まり終わる毎に大陸は水没・変動して形を変え,新しいワールドマップを我々プレイヤーに見せてくれるのだ.そういう意味で,世界は「再編」される.

次回は,「最初の冒険者」について語ってみたい.


4.ルカーン記


前話に載せた【世界年譜序文】は,こう始まっている.

「まだ世界が再編して間もない頃のこと.混沌とした地上を治めるため・・・」と.

そして,【世界年譜序文】シリーズは,IIから始まっている.これらは一体何を意味するのだろうか?窮キョウ幻想説で語られるファイナルファンタジーIで,一体何があったというのだろうか?「まだ世界が再編して」ということは,一度世界・・・ガイアは壊れてしまったとでも言うのだろうか?

それらの謎を解明していく話が,Iのコンテンツにある,【ルカーン記】である.かの小説は,光,闇,無の部の三部構成で出来ている.光の部では,語り部が「まだ世界が再編」される前のガイアを冒険するところが描かれている.そう,前話の最後に書いた「最初の冒険者」こそがその語り部なのだ.闇,無の部では,ガイアがどのように始まったのか,否,何がどうファンタジーなら使めたのかを追及している.勿論,前述の謎も解明しようと試みている.

【ルカーン記】は,かなりの長編小説である.実は,【ルカーン記】を読まずとも窮キョウ幻想説で語られるファイナルファンタジーIについて詳しく知ることができる.そうするには,ディシディアシリーズの【コスモスレポート】【カオスレポート】を読んでいただければ良いのだ.ディシディアだからだと言っても,もうかなりオリジナルに近い.この二つのレポートでは,【ルカーン記】で語られるより前のガイアの有り様が書かれている.


私は自分のために【世界年譜序文】を製本した.・・・改めて読み返してみる.なるほど,「冥界王」ではファイナルファンタジーの死生観が,「神統記」では宿命論がすごくよくにじみ出ていると思った.そして,「幻想復興」という言葉の意味をかみしめた.【ルカーン記】のなかに出てくる幻想復興と,望月が窮キョウ幻想説のなかで使うのと二種類ある.前者はガイアを,後者はオフィーリアを蘇らせるために使う言葉なのである.

次回は,ファイナルファンタジーの起源について語ろう.


5.始まりのリュート


窮キョウ幻想説で語られるファイナルファンタジーは,全て同じ星・ガイアで起こったことだ.IIより次への物語は,「幻想復興」として語られることになっている.各ファンタジーの接続性と,窮キョウ幻想説で語るファイナルファンタジーの大まかな世界観は,第三話で示した【世界年譜序文】で示した通りだ.それで今回は予告通り,「ファイナルファンタジーの起源」について語りたい.・・・どう物語っているのか,について語りたい.

それは,最初のファンタジーが始まる,遥か昔のできごと.「冥界王」で出て来た原初の母星・ガイアはかつて,三大国家に分かれていた.北の二国「ガイア」,「テラ」と,南の一国,「ロンカ」である.それぞれ科学・魔法・秘術文明で勃興した三国は,建国当初は互いに干渉&競い合うこともなく友好関係を築いていった.ガイアとテラは特に仲が良かった.北大陸の東,西にそれぞれ国土を有するこの二国間の関係は,とある人物がガイア国軍研究所所長に就いたのがきっかけで転機を迎えることになる.
彼は,新進気鋭の物理学者だった.彼の専攻する鷹揚物理学は,当時のガイア国にとって真新しいものだったし,実際,他の物理学者が抱えていた問題をアッサリと美しく,ものの見事に解決してみせた.彼は研究所の所長に就任すると,まず自分が抱えている難題を解決すべく,「コスモポリタンシンポジウム」なる講演会を開講し,視野を外へ外へと広げていった.何回か講演会を繰り返し,研究を続け行っていく内,彼は「浮遊石」という反重力体の存在を予言し,実際に見つけることになる.この事実は,「反重力体・タキオンの発見」として,どういうわけか,ファンタジーの世界を飛び出してリアルの世界にまでその発見者の名前を轟かすことになった.その浮遊石こそが,後に語られるファンタジーに現れる「飛空船」あるいは「飛空艇」の動力源になるものであるのだ.

彼の名を,シドという.シドは,浮遊石の発見を機に,「ガイア・アカデミー」という教育機関を設立した.

もう一人,私のオフィーリアを語る上で重要な人物がコスモポリタンシンポジウムに参加していた.その人は女性で,専攻は生物行動学だった.彼女は,名をセーラと言った.リアルの世界の学術機関でかの講演会の存在を聞いたセーラは,実社会で話題となっていた「タイムアタック」という遊びに熱中する人たちのことを論文にまとめあげ,コスモポリタンシンポジウムで講演した.一通り講演が終わると,一人の男が彼女のもとへ行き,こう言った.
「君の言う『リアル』と『ファンタジー』の定義は実に面白い.黒板の前じゃなく,もっと静かなところでゆっくりと話を聴いてみたいな」
セーラはこう応えた.
「あなたがタキオンの発見者のシドさんね?Physical Reviewで拝読させてもらったわ.私も,もっと静かなところでゆっくりと話を聴いてみたい」
こうして,出自を異にする者同士の関係が,比較的早い段階で始まった.シドとセーラの話は,ファイナルファンタジーIのコンテンツの【Prelude】で詳しく語られている.

セーラの論文と研究成果はガイア・アカデミーに認められ,その後彼女はリアルの世界からファンタジーの世界へ跳躍し,ガイア国軍の研究員として招かれることになる.やがてシドとセーラは恋仲になり,数年後,二人一緒に軍研究所を離れ,ガイア国郊外にある森の中に住み始めた.


「出自を異にする者同士の恋」というのは,【世界年譜序文】の「宗教風」のくだりにもあるし,こういう類の話は望月快の永遠のテーマである.

異郷の二人には,何故か子どもができなかった.二人は養子をもらい,穏やかな家族生活が始まるに至るが,勿論,話はここで終わりでない.続きは次回にするとして,今話の最後に,望月が語るファイナルファンタジーを時系列順にまとめておこう.

【Prelude】(FFI シド×セーラ小説)



【コスモスレポート】&【カオスレポート】&【フーリエレポート】

↓(幻想跳躍)

【ルカーン記】(FFIルカーン歴史小説)

↓(幻想復興)

【世界年譜序文】



窮キョウ幻想説(望月快FF二次小説集)


6.窮キョウ幻想説


物語を語る上で,また一人のプレイヤーとして「ファイナルファンタジー」というテーマをみつめる時,私は壮大な宇宙(コスモ)を感じる.

ある一つの物語が出来上がると,その物語固有の「世界」が生まれる.そして更に,「登場人物」が加わる.
これはなにも物語にこだわる必要がなくて,実際の世界にも同じことが言えると私は考える.すなわち,こう問いかけたい.

「あなたの目には,『世界』はどう映っているのだろう?そしてその『世界』には,どれくらいの『登場人物』がいるのか?」

かつて,この問いについて悩み抜いた一人の生物行動学者がいた.その学者は,名をセーラと言った.セーラは,時として人間原理に近付くまで思考が回ったし,コギト・エルゴ・スムを思い出したりして,人間本来の存在の意味を極めて真剣に問うた.

同じ頃,セーラが身を置く社会で空前絶後となった「数遊び」が大流行していた.「タイムアタック」と呼ばれるその遊びを発明したのは,八才の孤児だった.そのあまりの流行ぶりは社会現象を引き起こし,人々の脳を狂わせる危険因子としてみなされ,それに対する「抑制するもの」が生み出されるほどまで凄まじいものであった.そしてタイムアタックは,社会現象に至るまでの数遊びではなかった.八才の孤児―仮に,彼のことを"F"と呼ぼう―は孤児院兼学校に通っていたがその学校には,Fの発明したタイムアタックを「今日の数学界を揺るがすにするほど画期的な算術法である」と見出す学者が数多くいたのだ.Fは,幼いながらにも数学界で時の人となった.一方社会では,前述したように,そのあまりの流行ぶりにタイムアタックに対する抑制剤なるものが発見され,作られた.それを発見したのは,Fの一つ学年下の少年―彼を"D"と呼ぼう―だった.「思考の鍵」と呼ばれるその抑制剤ができて,社会は落ち着きを取り戻したかのように思えた.

しかし,そこで終わっては,私のオフィーリアは蘇らない.
Fが発明した,タイムアタック.
これは「人々が時を忘れるほど夢中になるもの」として捉えられる.
Dが発見した,思考の鍵.
これは「夢中になり過ぎた人の脳の無限ループ的思考・行動を抑制する,言わばループから脱する『鍵』」として捉えられる.
前者はまるで,待ちに待った新作のゲームを手にした子どもの心理を表しているかのようだ.それに対し,後者はどうだろうか.今の例で言うとどういう心理を表していると言えるだろうか.

生物行動学者・セーラは,タイムアタックの方に着眼点を置き,「タイムアタッカー達の行動論理」という学術論文を書き,コスモポリタンシンポジウムで発表した.その論文で彼女はこう述べるに至った.

「この世界の現象は,目に見えるもの(=Re)と,そうでないもの(=Im)に分けられる」

その講演会で居合わせたセーラとシド.二人は,心ゆくまで人間本来の存在の意味を語り合った.数週間後,セーラがガイア・アカデミーに招来され,ReからImへ移った.ここら辺の経緯は,【Prelude】に詳しい.ファイナルファンタジーの「起源」についての自分なりの解釈を,これから述べたい.


前話からの続きだが,シドとセーラの間に入って来た養子とは,実はFだった.シドは鷹揚物理学,セーラは生物行動学を専門としていて,Fはというと数学界の時の人.なんというアカデミックな家族なのだろうか.三人の生活は,とても静かで,そして短いものだった.
軍研究所を離れても研究を続けるシドと,そんな彼に少しばかり寂しさを抱きながらもFと共にガイア郊外の森を散策したり,時たま現れる黄色い鳥獣に餌をやったりしていたセーラ.
やがてシドが,「音と光を相互変換する技術」を完成させると,三人の生活に潤いができた.セーラが完成記念パーティを開いたのだ.彼女はシドの笑顔を見て幸せを感じたし,シドはFに「フーリエ」という名前を与えた.フーリエは,それまで感じたことのなかった温かい感情を覚え,二人のことを本当の親のように思い始めた.
潤いがいつまでも続いて欲しいとセーラは思った.
彼女は,全てを愛していたのだ.
しかし,乾きはすぐに訪れることになる.パーティの翌日に,ガイアと隣国の間に戦争,「テラホーミング作戦」が勃発したのだ.

テラホーミング作戦が始まると,フーリエは軍研究所の使者に連れて行かれてしまった.八才の彼に,なにか特別な力を見出したのだろう.テラホーミング作戦は隣国を滅ぼしたことで終結を迎えたが,ガイア国軍はフーリエという駒を使役して第二次テラホーミング作戦を起こしてしまう.これに反対したシドとセーラは軍に身柄を拘束され,地下牢に幽閉される.かつて在籍していた研究所の,地下牢で彼らが見たものは,自分はたちそっくりのコピー体,「イミテーション」だった.

「これは・・・一体なんなんだ?」
「国立図書館で読んだことがあるわ.現存する生物と全く同じ姿を創る技術・・・クローン技術よ」
「私のいない間に軍はそこまで・・・」
「シド,あなたはこの技術の計画を知っていたの?」
「いや,全然知らなかったよ」
「命は創られるものじゃない.況してやコピーだなんて・・・!」
「誰よりも自然であることを愛する君を,誰よりも命の重さや素晴らしさを知っている君を,こんな目に遭わせるなんて・・・.私はどうやら研究所を離れるべきじゃなかったようだ」
「・・・あなた.フーリエを捜しに行きましょう」

こうして脱獄し,研究所に着いた二人が目にしたものは・・・.
魔導ビーカーに入れられ,もはや人外の者に変わったフーリエだった.しかしまだ人間としての意識が残っていた彼は,タイムアタックと思考の鍵を両方使ってなんとか生き延びようとした.

白と黒,光と闇,有と無,聖と邪,生と死・・・.
互いに相対するものがファイナルファンタジーシリーズでは数多く描写されている.「相対する」と書いたが,場合によっては隣合せになっているものだってあるのだ.しかし,基本はそれらはやはり「相対する」ものであるわけで,その二つをいっしょくたにするには膨大なエネルギーが必要だ.どうしてかというと,自然界はエネルギーの低い状態を保とうとするからだ.人間が故意に操作しない限り,自然は低いエネルギーを保った状態を続ける.
今回の場合,タイムアタックと思考の鍵が混ざり合って,「境界の力」というものが生まれた.「境界の力」は創作上のものだが,私個人の興味としては,リアルな話,何かの境目を虫メガネでどこまでも細かく視ていきたい欲求に駆られるものだ.

境界の力は,とにかくとんでもないエネルギーを持っていて,ガイア国自体を消滅させてしまった.それでも研究所だけが残っていた,否,残して「おかれた」のは,フーリエなりの親孝行なのだろう.つまり生き残ったのは,シド,セーラ,そしてガイア国軍研究員数名だけだった.・・・フーリエは?人外の姿でも,息子を愛する気持ちは変わらない.シドとセーラは,ガイア消滅後離れ離れにになってしまったが,その意志があるのは二人とも一緒だった.

セーラには,夫・シドから結婚記念日に貰った「だいじなもの」があった.
「もし私たちの間になにかの災難があって,遠く離れてしまったとしても,これが奏でるメロディーを覚えておくと良い.必ずまた会えるから」
シドは,予てから音楽を愛していた.
「ねぇ,これはなんていう楽器なの?弦が沢山あって,私にはとても弾けそうにないわ」
セーラはこう言ったが,シドはとても穏やかな口調でこう話した.
「リュートさ.大丈夫,これはフーリエ機関の一つで,君しか弾けないようになってる」
「フーリエ機関・・・?あの,音と光を相互変換するっていう?」
「そうさ.音を奏でることによって,究極の幻想に行けるのさ」

セーラはリュートを取り出し,弦を一つを弾いた.シドと合流し,フーリエを捜すために.こうして,「一番目の幻想」が始まった.ファイナルファンタジーIの始まりである.しかし,Iでは「セーラ」はコーネリアの王女として登場する.始まる前のセーラは,何処に行ってしまったと言うのだろう?フーリエを追っていたセーラは,何処へ行ってしまったと言うのだろう?

その問いに答えることは,ファイナルファンタジーが「紡がれる話」であることを示すことと同じだ.きっかけは,一番目の幻想が始まる前のこと.セーラは,シドからもしもの時のためにもう一つ「だいじなもの」を受け取っていた.シドの故郷へ瞬間移動できる装置,ワープキューブである.セーラはワープキューブを使い,シドの故郷へ移動したのだ.
「もしかしたらそこにシドがいるのかもしれない」
という希望を持って.しかしその故郷,ルフェインの町にはシドはいなかった.町にワープしてきたセーラに,古代ルフェイン人はこう語った.
「これから数多の幻想が幕を上げる.そこへ,あなたの記憶を受け継がせよう.あなたは,いなくなった子どもの行方を知りたいのだろう?まず幻想跳躍が始まったら,最愛の人のところへ向かうが良い」
セーラは彼らの言葉に従い,リュートを奏で,「幻想跳躍」を始めた.生物行動学であり,フーリエの母であるセーラの記憶は,以来,「プレリュード」として数多の幻想の始まりで奏でられることになる.

一方のシドはどうなったのだろう?
彼も,セーラと合流しフーリエを捜そうとしていた.彼は,妻が幻想跳躍したことを故郷からの伝書鳩で知った.
「自分も幻想跳躍して,セーラに追いつこう」
彼はこう思い実行しようとした時,思わぬ邪魔が入った.

その時,既に一番目の幻想が始まっていたのである!

そのことに気付かず,シドは,セーラを連れているガーランドを見るや否や,彼のことを強く憎んだ.
「君は・・・!軍研究所副所長ガーランドじゃないか!どうして君が私の妻を連れているんだ!」
しかし,王女セーラとガーランドには,シドの言っていることが理解できなかった.シドは,Iでは実際に存在し得ない人物だからだ.セーラとガーランドの様子を見て異変を感じたシドは早速次の幻想へ跳躍する準備をし,同時にガーランドにとある細工を施した.

シドは,かつてのガイア国軍が保有していた,自分と同じ分身体に自らの知識と名前「カオス」を与え,ガーランドに負の運命を与えたのだ.
呆気にとられていた二人だったが,ガーランドは王女が大切にしているリュートと彼女の操を奪おうと思った.彼は,もう既に幻想だった.王女を連れカオス神殿へ向かう途中の,とある満月の夜の森のなか.今まで紳士的だった男が急に本性をだすさまをまじまじと見てしまった王女は,その男ガーランドと口論になり,ふとした勢いで彼はリュートを踏み潰してしまう.フーリエ機関が,そこで誤作動をを起こした.

これが,「異説」の始まりであり,幻想跳躍「フェニックス」のきっかけでもある.セーラは,人外の転生女神となり,シドとは順番が違えど数多の幻想へ旅立つことになる.二人の旅の目的は,
「いなくなった我が子を捜すため」
であり,夫婦が合流するには,沢山の過程を踏まなければならない.
というか,踏ませるための,我流ファイナルファンタジー二次小説集「窮キョウ幻想説」なのである!

以下に,参考となるエピソードを挙げておく.
DFFシリーズ【コスモスレポート】&【カオスレポート】・・・FF起源に関する話
FFI【Prelude】・・・シド×セーラ話
FFIX【君のところへ行きたい】・・・冒頭部分にセーラとガーランドの駆け落ちシーンあり


7.暗黒星雲


私,望月快の書くファイナルファンタジー二次小説集「窮キョウ幻想説」の本筋は,ザックリ言ってしまえば,シドとセーラ夫妻の子ども捜しの物語である.シドが幻想跳躍を行ない,旅立った後のエピソード,またそのずっと昔のエピソードを,以下に挙げておこう.

FFオリジナル【闇のクリスタル】・・・幻想跳躍後のガイア国軍研究員のエピソード
FFV【ムーシカ・マーキナエ】・・・FF起源に関する「もう一つの」アプローチ

私は,「ファイナルファンタジー」を語る上で,二つの大事な事柄を忘れていた.逆に言えば,オフィーリアを生かすには,あと二つの蘇生薬を調合しさえすれば良いのだ.それは何か?ズバリ言おう.

「闇」と「無」である.

まず,闇,無,と聞いて何を思い浮かべるだろうか?
ファイナルファンタジーにおいて「闇」,「無」が浮き彫りになって来たのは,私はIIIだと思っている.

少しシリーズの枠を越えて話をするが(これも幻想跳躍の一つだ),ファイナルファンタジータクティクスにおける「ブレイブストーリー」にて.ある条件をクリアすると見ることができる「秘境」という読み物がある.そこには,I~VIに出て来た地名が数個ずつ書き連ねてあり,解説がそれぞれ加えられている.地名は確かにI~VIに出て来たものだが,解説文には時たま「カシュカ」や「エクトラズム」など,見慣れぬ単語が目につく.そこで私はこう思った.

「これらを整理し,一つの,矛盾のない物語を作ってみよう」と.
その物語を作ることこそが,オフィーリアを生かす行為であり,窮キョウ幻想説を書く理由の一つでもある.

また跳ぶが,今度はIXの話.ファイナルファンタジーIXはそれまでのシリーズの集大成であり,且つ「原点回帰」だ.そして,雰囲気をタクティクスから持ってきているところが何ヶ所にも見受けられる.物語はキレイに終わり,ガイアとテラが再会し抱き合うところで幕が下りる.私のオフィーリアも,そこで人生の幕が降りる(幻想復興の「完」).タクティクスとIXを窮キョウ幻想説に入れたがる理由が,これで少しでも分かって頂けたらのなら幸いだ.


話は戻り,「闇」と「無」について.まず「闇」について語ろう.
【Prelude】で語られるガイアの,ずっと前の話だ.北の大陸と南の大陸はかつて同じくあった.大陸上には,超科学により栄えていた超文明があった.「窮キョウ幻想説」の時間軸から見れば,途方もない程,古の話である.いや,古すぎて,「伝説」上のものにさえなっているくらいだ.古代の超科学を説明できるものは残されていないが,ただその存在のみを記した書物なら残っていて,後の幻想に伝えれてもいる.その書物の名を【ジェラール教典】,そう,世界年譜序文に出て来たあれだ.今では【ルカーン記】の付録としてしか残っていないそれだが,一人,幻想の枠を越え登場する人物がいた.例によって世界年譜序文で語られた,冥界王ジェイドこそが,その人物に相応しかった.以下に,ジェイドが登場するエピソードを記す.

FFII【Dark Sheath】・・・「闇」の根源にまつわるエピソード
FFVI【浮遊大陸―魔大陸】・・・ジェイドの最期の話

「闇」について,窮キョウ幻想説ではどう語っているのか?それを述べるには,まず【ジェラール教典】の言っているところを少しばかり採ってこなければならない.

1:
「天より14人の僕を引き連れた青年,ジェイド・ポテンシャリクは,地上の古代科学者・オーエンに魔大陸なる浮遊大陸を造ってもらった」

2:
「天界の者たちはジェイドを『死人』とするとき,彼が住み処としていた魔大陸を死後の世界,すなわち冥界の入り口にしたのである」

古の超科学者オーエンが生きていたのは,シドが生きていた時代より遥か昔.彼は,シドが未来そうするように,浮遊石を発見する.そしてその浮遊石を利用して,浮遊大陸を造った.

更に彼はこう予言する.
「未来,私と同じくこの浮遊石を発見する科学者が現れるだろう.この世界は,目には見えないが闇物質なるもので満ちている.私はたまたま,その結晶体を見つけたに過ぎない.満ちているが故,いつ混沌が訪れてもおかしくないのだ.混沌は,闇の結晶体である浮遊石より招かれるだろう.カオスを超えて終末が近づく」
と.留意点は,これはあくまで「古代の」オーエンであって,IIIに登場するオーエンとはまた別人である,ということだ.詳しく語られていない部分は,時として都合良く解釈でき得る.伝説とはそういうものだ.

次に,「無」について語ろう.「無」については,先に挙げたエピソード【闇のクリスタル】や,DFFシリーズ【魔人かく語りき】I~IVに私なりの解釈がある.特に,前者・後者共通で出てくる創作上の世界,「無の世界」あるいは「真の次元の狭間」という場所は,「窮キョウ幻想説」を語る上では欠かせないものになっている.そこは,地上でも,冥界でも,天界でもない,ガイアより遠く離れた「暗黒星雲」と呼ばれる天を突きぬけた果てにある星々の最中の,完全に独立した界にある.しかし「無の世界」はオリジナルなれど,やはりファンタジーの範疇にあるのである.このことは,何を意味するのだろうか.

広大な幻想宇宙の果てにある暗黒星雲の先には,何があるのか?
「リアル」である.
もっと言うと,
「美化されていない,生々しい現実世界」である.
つまりどういうことかというと,
「無の世界が,果てである暗黒星雲の中にある」,言うなれば

「幻想に果てがある」

ということを述べたいのだ.リアルとファンタジーに果てを置く.これは,ファンタジーはファンタジーのなかで閉じた世界を作っていることを意味する.「無の世界」を定義することによって,窮キョウ幻想説を語る限り,オフィーリアは生き続けるのだ.
では,対比として現在のファイナルファンタジーを見てみる.私から見ると,今のシリーズなどは,偽物のリアルを作ろうとしている.見た目だけの美しさや格好良さを追求しすぎて,あまりにも終わり方が汚い.偽物のリアル,つまり「果て」がなく,ファンタジーは閉じた世界を作っていない.オフィーリアは死んでいる.私はこの現実に目を瞑ることが出来なかった.瞑れなかったからこそ,オフィーリアを死の淵から救おうと思ったのである.


8.遠き日々の名残


「あなたの話,読ませて頂いていますよ」
カフェのマスターが唐突にそう言った.何事かと思って,それまで行なっていた形而上的思考を止め,マスターの話に集中する.
「話・・・と言いますのは,一体・・・?」
私がこう訊くと,彼女は微笑みながらこう言ったのだ.
「WEBに載せていらっしゃる,全ての話のことですよ」と.

私は,有り余る感謝と恥ずかしさが込み上げてくることを覚えた.心のカップに,熱い想いが注がれていく感覚だ.私はその想いが溢れぬよう,なるべくカップを大きくしようと試みた.嬉し涙を,こらえる為に.

元々私は理性で動く人間だった.だったのだが,ある人物との出会いを境に,私の心の在り方が目まぐるしく変わったのだった.その人物こそが,これから述べられる―――.


「今連載中の話も,しっかり読んでいますよ.あなたの書くラブストーリーは,いつも女性目線ですよね.なにかこだわりでもあるのでしょうか」
マスターは,コーヒーを淹れながらこう訊いた.
「い,いえ,特にこだわりといったものはないです.ただ,自然とそう書いてしまう,それだけです」
「面白い話ですね.あ,面白いと言えば,あなたの話には時々難しい言葉が出て来ますよね」
「Raison D'etreや人間原理,コギトエルゴスムとかですね?」
マスターは,淹れたてのコーヒーを差し出した.
「そうでうそうです.どれも哲学用語みたい.私,あなたの話を読んで『トゥルーマンショー』という映画を思い出したんです」
「ああ!ジム・キャリーが主演の!思い出しますか!」

かくして,私とマスターとの話は盛り上がり,三杯目のおかわりを注文をするかしないか迷っていたところ.時刻は午後5:54.家に帰って早く晩飯の準備をしなければならないし,かと言って,この和気藹々とした雰囲気から抜け出したくはなかった.

そういう風にぐずぐずしていた時だった.
カフェのドアが静かに開けられると,外から一人の女性が入って来た.彼女は白いローブを羽織っていた.雪をほろうのに頭に被っていたフードをとると,ウェーブのかかった金髪が露わになった.彼女は一度もカフェ内を見渡すこともなく,ゆっくりと,カウンターに座る私の方へ歩み寄って来たのだ.
白いローブに金髪だなんて,ここ田舎町ではまず見ない風貌のひとだ.程なくして,カフェに突然やって来たその女性は私のとなりに座り,言った.
「カプチーノをお願いします」と.
私は彼女の声を聞いた時,真正面を向き目を瞑り心の中で思った.なんて甘い声をしているのだろうとか.顔立ちが,いや,先程見た限りでは体もどこか幼気な雰囲気を醸し出しているじゃないか.私は全身を巡る血流が早くなっていくのを感じた.

マスターがカプチーノを淹れるまでの間,白のローブに金髪の女性は,本を静かに読んでいた.となりに座っているものだから,身を少し引いて思わずどんな本を読んでいるのか盗み見てしまえた.
その本は,どういうわけか見覚えがあった.表紙には日本語で「世界年譜序文」と書いてあるし,何よりもその題名の本は私が知る限り,世界に一つだけしかないからだ.つまり,今このとなりに座っている女性は,私が私の為に製本したただ一つの本を持っているということになる.私は夢を見ているということになるのだろうか?身を前へ向き直し,ブラックのブレンドコーヒーを口にした.きちんと味がする.夢なんかじゃないさ.
血の巡りはいつの間にか戻り,私は平静を保っていた.しかし,もっと興味深いのは,私が製本したはずの本が,何故かギリシア語で書かれてあったことだ.先程盗み見した時,本文は全てギリシア文字で埋め尽くされていた.しかし,行間などは変わってはいない.とするならば,次にこの女性が頁を捲った時,「世界年譜序文」の神統記に出てくるアレに注目するだろう.その時,私は言ってやるのだ,アレの名を.
数十秒,待った.
幼気な彼女が頁を捲る.
今だ!

「αλτεμαυεπον」

彼女はビクッと体を震わせ,反射的にこちらを見る.見事なまでの童顔だった.これであの甘い声とは,十分すぎる程釣り合っていた.童顔が,呟く.
「アルテマウェポン・・・.あなた,古代ギリシア語を読めるのね」
「いいや.まだ発音できるだけのレベルさ.それより,どうして君がその本を持っているんだい?」
「それは,私がここにいる理由を問うているのと同じこと」
甘い声は本を閉じると,前を向き,クッキーにゆっくりと手を伸ばした.
何かいけないことを訊いてしまったのかと思った.話題を変え,この気まずい空気を変えよう.そうも思った.その時だった.

「ねぇ」
少し俯いていた私にそう話しかけた彼女は,カプチーノを口にしながらこちらへ向き,続ける.
「このコーヒーカップに浮かぶミルクの軌跡の様子にあなたは興味があるんだって?」
なんだ,いきなり?
「あ,あぁ,同じく,コーヒーカップに入れた砂糖の運動にも関心があるね.でも,どうして君がそんなことを?」
「それは,私がここにいる理由を問うているのと同じこと」
今度は真っ直ぐ私の眼を見て言った.そして,また来るかと思った気まずさをやぶろうかのごとくこんなことを言った.
「ねぇ,あなたの興味はもう幻想にはないというの?もう,現実のものにしか興味の対象はないの?」
童顔に,僅かだが悲しみが宿った,そんな気がした.更に続けて言う.
「私・・・あなたの書く話を楽しみにしていたのよ.前々から,素敵な話を書く人だなって・・・ずっと思ってた.でも,最近は一体どうしたっていうの?いきなり流体力学だなんて.もっと別のところに夢があるはずじゃなかったの?」
彼女は一体誰だというのだろうか.もしや,私の熱狂的なファン?それには越したことはないが・・・.
「夢はあるさ.ただ踏み出すのが怖いだけで・・・」
私がこう答えると彼女は言う.
「じゃあ,あなたの背中を押してあげるわ,夢追い人さん」
なに・・・,【夢追い人へ】・・・?!あの,話か・・・.あれはまだ未完で,どう完結をつけようか迷っている話だ.それに,背中を押されたとしても,人はそんな簡単に夢を追い続けることなどできやしない・・・.私は,コーリンゲンのじいさんたちと同じ立場にいるのかもしれない.また俯いていた私は,顔を上げ,彼女がいないことに気付いた.マスターに彼女の行方を訊くと,伝言を預かっているらしい.聞けば,「ここを出てすぐのあなたの母校にある庭で待ってる」という.会計を速やかに済まし,外へ出た.時刻は,午後6:30.辺りは真っ暗だ.海辺の近くにあるカフェと小学校は,いつだって潮風を受けている.程なくして,やんわりと外灯に照らされた白のローブを着ている彼女を見つけると,駆け寄った.

「あなたの話しに出てくる『宇宙』は,どれくらい広くて,どれくらい狭いの?」
私の姿を認めるや否や,ジャングルジムの上に座る彼女は空を見上げながらそう問うてきた.今夜は晴れで,今の時刻でも空を見上げれば星々を見つけることが出来る.
「すごく難しくて深い問いだね」
私は,ジャングルジムのとなりにあるベンチに腰を下ろした.
「まあ言ってみれば,だけど」
外灯が一瞬だが煌めいたような気がした.
「君に出会う前の僕は,僕一人だけの『個人』という壁のある宇宙でしかない.でも出会った後の僕は,そういう狭苦しい宇宙を超えた先にある『ふたり』という宇宙に移動したことになる」
彼女は,ジャングルジムから下りて私と同じベンチに座った.太ももの上に手を組み,私のことを覗き込むようにして言う.
「そこにはなにがあるの?」
私は横目で即答する.
「『独りじゃない』という事実だけさ.ひとは出会いや別れを経験して,宇宙にいる人口を増やし減らす.人口がある程度定まって来たとき,ひとは大人になれるんだと思っている」
「あなたはもう大人だと自分で思ってる?」
「ああ,そのつもりだよ」
「私もあなたの宇宙に入ってる?」
「初めて見た時から,既に入ってる」
「初めて,なんかじゃないわ」
私がきょとんとして見直すと,彼女はあきれた,という風にけだるい表情をしてまたジャングルジムの上に居座った.どうしてだろう,今夜は何故か温かい.

「そう言えばさ」
私は声を大きめにして言った.
「さっきの,幻想にはもう興味ないかって話だけど」
彼女は,顔をこちらへ向けた.良かった・・・.
「幻想に興味があるからこそ・・・,書きたい話が沢山あるからこそ,現実のことを学んでいるんだ」
ジャングルジムの彼女は言う.
「ええっ,そうだったの?私,てっきりあなたの向かう先が変わってしまったものだと・・・.それに,あなたの言うことは,過激すぎると思っていたわ」
過激的?一体なんのことだろう.話の筋が見えない.
「ちょっと待ってくれ.君は一体なんの話をしているんだ?」
彼女は私の方へ手を差し伸ばした.白のローブから細い腕がにょきっと出ていた.私はその先にある手を掴むと,彼女とふたりでジャングルジムの上を共有した.

「あなたは,西洋への憧れが強すぎるが為に,現在のを受け入れずにいるわ.時代は変わりつつあるのよ.それはね・・・,大切なもの,心の居場所として昔のを大事にするのも良いかもしれないけれど」
彼女は,「昔の」体を張ってそんなことを言ってのけた.
すぐに抱き寄せられる小さな肩に,側にいてくれるこの距離感.
私は言った.
「君は・・・オフィーリアだね?」
彼女は,笑顔で返す.
「ばかね.気付くのが遅過ぎよ.でも嬉しいわ,こうしてまた会えたんだから!」






最終更新:2014年02月23日 22:22