兵庫県の東部、そこに川に沿って桜並木が続く、高級住宅街の近くに相応しい清廉な雰囲気を持った公園がある。
某アニメによって一部で有名になったりしたその場所で、一本の桜の木の下で桃色の和服を着て帯刀した少女が目を閉じて座っていた。
否、実は彼女は少女ではない。それどころか、『彼女』ですらない。
その書き手は、自らがロワの中で書いたことのあるとある兄弟と同じく『どう見ても少女にしか見えないけれども成人男性』というキャラとしてこの殺し合いの会場に顕現したのだ。
(さて、まさか今更になって私が、風に聞こえる「書き手ロワ」とやらに召還される羽目になろうとはな)
舞い落ちる桜の花を頭や肩の上に乗せながら、彼女、いや彼はその可憐な顔の奥に激しい怒りを宿していた。
(このような戯けた、無駄な遊びごとで我らの命を弄ぶとは……少なくとも、私が信じるところの『正義』ではない!!)
彼の名は◆Syk9Sx8L.s、またの名を「初雪」。
オリロワの繋ぎ話を主に手がけ、やや地味ながらも定評のある掘り下げで人気を博した書き手である。
そんな彼がパロロワに携わってきたもっとも大きな理由は、『正義』というものが一体何なのかを自分なりに発見したいという思いからだった。
彼がオリロワの中で書いた大アジア帝国皇帝織田信長、フーリエ、桃太郎、一一一、ミルフィーユらに共通するキーワード、『正義』。
子供の頃なら誰もが憧れるが、大人になったとたんに口に出すのも恥ずかしいとみなされてしまう禁忌の言葉。
(何が正義なのかも分からぬ、未熟な私でもこれだけは分かる。この殺し合いは『正義』ではない、『悪』だ!!)
自分もパロロワに携わっていた身で何を言うかと言われそうだが、空想上のストーリーとして描くことと実際に実行することとの間には超えようのない壁がある。
そして、この書き手ロワの主催者達はその壁を越えてしまったのだ。
(ただ好きな物語を書いていただけの何の罪もない人が死んでしまう世界。それが『悪』でないと言うなら、『正義』が存在する意味など無いではないか!!)
そこまで考えて、彼女、いや彼は閉じていた目を開けた。
行動方針は決まった。あとはやるべきことをするだけだ。
一方その頃、兵庫県を東西に走る阪急電車沿いに歩く二人の男女の姿があった。
方や特に描写するべき特徴も無いような青年、方や三国志の武将のような鎧を着た美少女というなんともチグハグな組み合わせである。
「描写するべき特徴も無いって……酷い言われようだな」
だって元ネタのキャラとかいないし、すでに他ロワでもそんなイメージで通ってるんだから仕方ないでしょう。
「6/さん、何を一人で喋ってるんです?」
鎧を着たアイマスの雪歩の格好をした少女、修正したあとすぐ熱血~狂気の@KX.Hw4puwg氏(以下KX)が怪訝そうに尋ねる。
「なんでもない。忘れてくれ」
6/の顔つきが考察時のそれに変わる。
6/がKXに提案したのは、まずはセオリーどおりに近くにあって人が集まりそうな施設、今回の場合で言えば「大阪府」に向かうということだった。
やはり東京や大阪のような大都市をモデルにしてあるエリアのほうが施設も多いだろうし、それを見越した参加者も集まるだろうという予想のもとだ。
いつものパターンならそこで誤解が発生して酷い目に遭う、という筋書きが待っているのだが、今回は幸い序盤で信用できる仲間と合えたし上手く立ち回れば大丈夫だろう。
「だといいんだがな……」
相変わらず時々独り言を喋る6/とそれを不思議そうに眺めるKXは、やがて自分達の前方に見える歩道橋の上に一人の和服姿の少女が立っているのを発見した。
「接触してみるか?」
「どうですかね。あんな所で姿も隠さずに堂々と出てきているということは、何かワケありとも解釈できますが」
ワケあり、つまり積極的に殺し合いに乗っている可能性もゼロではない。
やり過ごすか否か。判断を迷っている間に、高所にいる少女の目が二人のほうに向けられた。
それから僅か瞬き数回の間に、桃色の着物を着た少女は二人の目の前に立っていた。
(な、なんて早さだ!! 人間業を超えてやがる!!)
超人がゴロゴロいるようなロワという状況に慣れている6/すらも、少女の人並み外れた運動神経に戸惑いを隠せない。
そんな彼らを気にすることなく、少女、否、◆Syk9Sx8L.sは口を開く。
「少々お尋ねする。そなた達は、この殺し合いに乗っている者か?」
その声を聞いて二人は仰天した。何しろ、見た目はどう考えても十代前半程度の美少女なのに、声はしわがれた老人―――正確に言えば、世界的な冒険家ロアルド・アムンゼンのそれだったからだ。
そのあまりのギャップに、二人は背筋が凍るような思いさえした。面食らいつつも、6/は落ち着いて言葉を探した。
「いいや、乗る気は無い」
「それは幸甚。私はオリロワ書き手が一、初雪こと◆Syk9Sx8L.s。突然の無礼を詫びる」
「あ、ああ。俺はカオスロワの6/、こっちは
ニコβ書き手の修正したあとすぐ熱血~狂気の@KX.Hw4puwg氏だ」
6/の言葉に続けて、KXも口を開いた。
「ところで、貴女自身はどういう行動方針なんですか? 我々は一刻も早く殺し合いを終わらせるために、まずは手を組むべき人を探すつもりですが」
「なるほど、それは王道。引き止めてすまなかった」
そう告げると、初雪はそれっきり二人には興味を失ったかのように踵を返して立ち去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!! 見たところあんたも対主催、それもかなりの強キャラだろう!! 俺達と組まないか?」
追いすがるような6/の声に首だけで振り返る。
「勿体無き言葉だが、私にはやらねばならぬことがある。『悪』を滅ぼし、『弱きもの』を助く。そなた達は見たところともにそれなりの熟練者、二人組みともなれば私の庇護など必要あるまい」
先ほどの一瞬でそこまで見抜いたらしい。会場投げたりする人とは別の意味でチートだった。
「つまり、一人でマーダーキラーをやる、と?」
KXの声に間を置かず首肯する。
「それが私の信じる『正義』だ!!」
その初雪の矜持に、真っ向から異論を唱える者がいた。
「正義って……おい、そんなこだわりでどうにかなるような状況じゃねえんだよ!! 殺しあいの中でそんなんは邪魔になるだけだ!!」
今まで何度と無く殺しあいの中に放り込まれた6/は知っている。
この世界に正義なんかない。
それに縋るような奴は結局は淘汰されて散っていく。
そもそも『正義』なんてものが本当にあるのだとしたら、何の落ち度も無い自分が何度もロワ参加させられたことはどう説明が付くというのだ。
誰が償ってくれるというのだ。
自分は誰を罰せばいいのだ。
そんな相手などいないことを、6/は知っている。
だからこそ、正義などは無用の長物だと粉雪に諭した。
―――それがどのような結果を招くかも知らずに。
「何を言う。私の行為は『正義』だ!! この殺し合いという『悪』を断罪するために必要な処置だ!!」
「正義だの悪だの、そんな薄っぺらい信条でしか語れないことがそもそもおかしいだろ!! お前のやっていることは正義なんかじゃない、ただの自己満足だ!!」
「なっ―――」
初雪の顔に殺気の色が散った。
「おいおい6/さん、そりゃあちょっと言いすぎだろ?」
KXがやや呆れたように言う。言われるまでも無く、6/も口が悪いのは分かっていた。
しかし、数多のロワに巻き込まれ、神も信じなくなった6/にとってはそれはあくまで初雪を助けるために口にした言葉に過ぎなかった。
「貴様……私が、私が間違っているというのか!!」
次の瞬間、6/とKXは強烈な寒気を感じた。同時に手足が動かなくなっていることに気が付く。
それが初雪の能力だと気付いたときには、もう彼女は目の前にいた。
「私とて、好きで人を斬ろうと決意した訳ではない。この会場内にいる多くの弱きもののために鬼になろうと決めたのだ。それがどれほどの決意だったか、分かってくれぬのか!!」
初雪自身にもこの行為は意味が無いことがわかっていた。これはほとんど八つ当たりに近い。
それでも、こんなところで自分の矜持をゆるがせられてはいけなかったから。
「なのに、私が間違っているというのか!!」
何が何でも前言を訂正させようと、6/に迫った。
(まあ、殺すつもりって感じじゃないよね。この程度の氷、俺の能力でなんとでもできるが……ここは6/さんにうまく言いくるめてもらうか)
などと思っていたKXの耳に聞こえてきたのは意外な音だった。
氷の割れる音。
そして、自力で氷から抜け出した6/が初雪の胸元を掴んでいた。
否、それは果たして6/なのだろうか? さっきまでとはあまりに雰囲気が違いすぎる。纏っている雰囲気も、表情も……
「その程度の覚悟で正義を語るか、人間風情?」
次の刹那、投擲された初雪の体は歩道橋を飛び越えた。
腕力、体力、人格。全てがさっきまでの6/とは別人だった。
「正義ってのはなんだ!! 弱い鬼を集団でぶちのめすことか!! 自分の信じる神を他人に押し付けることか!! 偉い政治家になって回りに根回しをすることか!!」
6/は地面に落ちた初雪の華奢な体を容赦なく何度も何度も蹴り上げていく。
初雪は体をくの字に曲げながら、動物のような悲鳴を上げて宙を舞っていた。
(マズイ、このままじゃマジ死ぬ!!)
KXは一瞬ためらった後、6/の体だけを包むように調整した炎を両手から照射した。
奥の手をこんなところで使うのは癪だが、背に腹は変えられない。
そしてKXはさらに信じられないものを見ることになる。
「なっ!!」
初雪を巻き込まない範囲内で最大出力で放った炎を浴びても、6/の体には火傷一つ付いていなかった。
それどころか、そんなことになど気付かないかのように初雪に暴行を続ける。
初雪の頭を掴むと歩道橋の脚に叩きつけた。
「どうした? お前が正義だというなら、こんな仕打ちをする俺を殺してみたらどうだ? 今の俺は明らかな悪だろう!!」
初雪は弱々しい瞳で6/を見上げるばかり。
「人を殺す決意をしたと言っておきながら、俺を殺す度胸も無いのか!!」
初雪の顔を路上に叩きつけると脚で後頭部を踏みつける。
「……いいか。今度もし会ったらその時は俺を殺しに来い。さもないと、俺がお前を殺す!!」
そう言い遺すと、初雪の体をゴミのように車道に捨て、一瞥もせずに歩み去って行った。
「ぐ……」
KXの手を借りながらようやく起き上がった初雪の姿は、口や額から真っ赤な血を流し、綺麗だった着物もいたるところが乱れ、刀も折れているという悲惨なものだった。
「ちょっと待ってください、すぐに手当てを」
「ありがたい。が、それには及ばない。世話をかけたくは無い」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!! 早く手当てを!!」
「放っておいてくれ!!」
初雪はKXの手をはたき落とし、おぼつかない足取りでいずこへともなく消えていった。
(私は……正義を為すのだ……正義になるのだ……私が……)
【兵庫県東部/深夜/一日目】
【初雪@
オリジナルキャラ・バトルロワイアル】
【状態】かなりの負傷 命に別状は無いが、回復には休息が必要
【装備】格さんの日本刀@オールロワ
【持物】基本支給品、不明支給品0~2
【思考】
基本:「正義」を為すため「悪」を討つ
1・どこかで休憩
2・殺し合いに乗っている者は始末し、弱いものは保護する
3・私は……正義だ……
【備考】
※外見は桃色の着物を着た少女、声はロアルド・アムンゼンです
※どうみても少女ですが成人男性です
KXはようやく前を行く6/に追いついた。
「ちょっと6/さん、あれはいくらなんでもやりすぎでしょう!! 普通の人だったら確実に死んじゃいますよ!!」
「あれ? そりゃあ一体何の話だ?」
「ちょっと、とぼけないで下さ―――」
その時KXは気付いた。6/の表情が、さっきまでのまるで悪鬼が憑いていたかのようなそれから、もとの温厚そうな青年のものに変わっていたことに。
「あれ? そういえば俺、いつの間にここまで歩いたんだ? なんだか記憶の一部が途切れているような気が……」
(これは記憶喪失……いや、二重人格!?)
不思議そうな顔で首を捻る6/の隣で、途方に暮れるKXだった。
【兵庫県東部/深夜/一日目】
【◆6/WWxs9O1s@
テラカオスバトルロワイアル】
【状態】健康
【装備】無し
【持物】基本支給品、銃(15/15)@
ニコロワβ、不明支給品0~2
【思考】
1・殺し合いには基本乗らない
2・あれ?俺今までなにしてたっけ?
3・ま と も な…あれ?普通だった…
4・KXと行動。
【備考】
※6/は説明している人(天の声)と話せるようです
※精神的に追い詰められたり、怒りが頂点に達したりすると神憑依モードになり身体能力が大幅に上がります。
【修正したあとすぐ熱血~狂気の@KX.Hw4puwg】
【状態】健康
【装備】携帯電話@現実
【持物】PS3@ニコロワ、チョココロネ@らき☆ロワ
【思考】
1、ゲームには乗らない。
2、動揺
3、6/氏と行動。
4、ニコβの皆は来ているのかな?
【備考】
※俺、と言っていますが性別は女です。
※外見は萩原雪歩(赤髪)に賀斉@三国志の鎧ですが、移動に支障は出ないです。
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最終更新:2009年05月27日 09:49