正義ノミカタ

私が目を覚ましたのは見知らぬ家の中の居間だった。
家具や調度品は一通り揃っているが、どうにも生活感というか人の気配を感じない。
呆然とした気持ちで布団からふらふらと立ち上がり部屋の中を歩き回る。
壁に目をやると、大きな姿見がかかっていた。
そこに写る私の姿は酷く惨めで無様なものだった。
欠けたところは一つもないが、代わりとばかりに全身に見られる痣、痣、痣。
自分が男だと知らないものが見れば、女の子が顔に傷を作るもんじゃないと叱られていたとこだろう。
そこで気付く。
確かに自分の身体には多くの痣が残っている。
しかし、そのどれもが触れば少し痛い程度止まりなのだ。

(手加減、された? いや、そんなことは命拾いしたときから分かりきっている。
 だが、それでも軽くはない傷を私は負っていたはずだ。
 それが今や僅かな傷痕しかない。どうなっている? そもそもここはどこなんだ?)

あの男、6/に身も心も叩きのめされた後、今にも崩れ落ちそうな身体を押して休めれそうな場所を探し求め彷徨いはした。
曖昧ながらも覚えているその旅路の終点はは眼前に迫ってくる黒いアスファルト。
力尽き臥した地は道路であって決して畳みの上などではない。
それが家の中で目を覚まし、挙句の果てに布団に寝かされ傷が治っていたとなれば即ち――

助けられたのだ、誰かに。あろうことか守る側のはずの自分が。

きつく歯を食い縛る。
かちかちと鳴る音もぎりりと神経が伝える感覚も酷く気に障るもので。
だからその声が聞こえた時も、私は八つ当たりのようにきつく相手を睨んでしまった。

「おや、ようやく目を覚まされたようですね」

ふすまを開け、私の方へと近づいてきたのはやたらと金味がかった男だった。
美形に類される顔を飾る髪も赤い武闘着を彩る色も共に金。
睨まれる形になった金色の男は一度足を止め、大仰な仕草でお辞儀をする。

「失礼。私としたことが初対面のあなたに名前も名乗っていませんでしたね。
 私は◆Z5wk4/jklI――夜明けのイエローというものです」

私が向けた視線の意味を見知らぬものへの警戒からだと受け取ったらしい。
なるほど、言われてみれば金色まみれな外見は黄色く見えないこともない。
どうも胡散臭い印象が拭えないが、人を見かけで判断してはいけないのはパロロワのお約束であり、何より正義のすることではない。

「私はオリロワ書き手が一、初雪。そなたが気を失った私をここまで運び介抱してくれたのか?」
「ええ、はい。驚きましたよ、道端でぼろぼろになって倒れているあなたを見つけたときは。
 しかも一見女の子にしか見えなかったものですから男性である私が治療していいものかと。
 命に別状はないとはいえ酷い怪我でしたし、ままよとばかりに服を脱がしてみれば驚いたことに男性でいらっしゃった。
 おかげでそこから後は気兼ねなく支給品を使ってあなたの傷を治させてもらいましたよ」
「……そうか」
「おや、どうしました? あ、いや、申し訳ない。同じ男性とはいえ裸を見られるのはイヤでしたよね」
「そういうわけではない。すまない、礼がまだだったな。助けてくれたこと、感謝する」

不死の薬というらしい一時的に生命力を増大させる貴重な回復道具を早々に使わせてしまった自分がたまらなく情けなかった。
どうして放っておいてくれなかったのかと泣き言まで零しかけた口をなんとか黙らせ、必死に礼を述べる。
枕元に綺麗に畳んで置かれていた自らの着物を纏い、急ぎ足で玄関へと向かう。
聞けば男は戦隊ロワの人間であり、ヒーローへの変身能力を持つという。
故に一人でも生きていけると判断。
恩人から逃げるようで嫌なことこの上なかったが、弱者が私を待っていると言い聞かせる。
ドアガラスから射し込んで来る弱い光が、自分がかなりの時間を無為にしてしまったことを責め立てていた。

「お待ちなさい。もう少しすれば薬の効果で傷は全て治ります。剣も折れ、武器もない身で何しに行くつもりですか?」
「お心痛み入る。だが、私には為さねばならぬことがある」
「為さねばならぬこと、とは?」
「……『正義』だ」
「そう……ですか。それでは引き止めるわけにもいきますまい。
 ただ、あなたをそんな目に合わせた人物のことだけは教えておいてくれませんか?
 『危険人物』の情報は同じ正義の味方として知っているべきことですから」
「……分かった」

本当はそんなことをしている時間も惜しかったが、助けてもらった手前だ。
何より袂を別ったとはいえ6/が『危険人物』と一方的に誤解されっぱなしでは気分が悪い。
ことの次第を全て話し終える。

「悲しいできごとでしたね。手を取り合えるはずの者達がいがみ合うとは」
「っつ、分かっている、あれが不毛な争いだったことくらいは! それでも、それでも譲れぬ『正義』があるのだ!」
「ふむ、なるほどなるほど」

イエローは、静かに頷き、そして――

笑った。

「『悪』を滅ぼし、『弱きもの』を助く、ですか。フフフフフッ、アハハハッ、アーハッハッハッ……!!!」
「何がおかしいッ!!」

侮辱されたことに腹が立ち、拳を強く打ち付けんとするも黄金の霧にでもなったかのようにイエローの姿が消える。

「おかしい、おかしいですよ。あなたはなんて滑稽なんでしょう。だってあなたの言う『正義』には……」

堪え切れないといった様子で笑い続けるイエローの声だけが響き、一際笑い終えた後決定的な一言が紡がれた。

「あなた自身はどこにもないじゃないですか?」

それは、私にとって余りにも重い言葉だった。

(自分自身が、ない?)

『正義』の旗の下に駒として用意され利用され、罪なき者を虐殺させられた最大の犠牲者としての桃太郎。
自業自得の面も大いにあるが、『勇者』に仕立て上げられた挙句、裏切られ殺されたスポポロス。
かって私が書き上げた物語のキャラクター達。
『正義』を探求する上で避けて通れぬ誤った『正義』の犠牲者とその悲劇。
彼らのような存在を物語の外に生み出さぬよう真の『正義』を見極めんとしていた私が。


(空っぽ?)

「『悪』や『弱者』といった第三者に頼って初めて成り立っている『正義』。6/の言うとおりじゃないですか!
 それを求めているあなたは、つまり心の底から自身に倒されるためだけに邪悪な存在を望み、
 弱きものを自分より下だと一方的に見下し自己満足から守り悦に浸りたいだけなのですよ!」

(違う、私は、正義だ!)

聞き捨てならない言葉に折れた剣をがむしゃらに振りまくる。
姿も捉えられない相手だ。
剣は空を切ってばかりだ手応えはあるはずがない。

「ああ、誤解しないでください……」
「何も私もANI2……いいにくいですね。ここは語呂をとってアニー・ツヴァイとでもしましょうか。
 あの人のことは紛れもなく悪だと思っていますよ?
 なんせ、『自分の欲』の為に殺し合いを開いたような人間ですからねえ」
「ただ、あなたにアニー・ツヴァイを殺せる力はありますか?」
「一説では書き手ロワで振るえる力はその人の人として、または書き手としての信念に比例してのものだとか」
「それで? 今も私の言葉に翻弄されているようなあなたにそれだけの力がありますか?」
「一つのロワを文字通り終わらせた存在に。アニロワ2ndという余りにも大きなロワの集大成であるあの人に。勝てますか、オリロワ書き手さん」
「どころかあなたが守るべき、あなたに守れる『弱者』がここにいると?」
「FFDQをはじめとした古参、スパロワや漫画、書き手2といった完結ロワ。ノリと勢いのKSK、立て直したマルチ。他にも強豪だらけじゃないですか?」

四方八方から響く声に蹲る。


(うるさい、黙れ!)

完結・dat落ちでロワの優劣が決まるわけじゃない。
世の中にはアニロワ2ndを読んでなくてもオリロワを読んでいる人間だっている。
そう心に言い聞かせても、身体の震えは止まってくれない。
全ては、私が、弱いからだ。
間違っているからじゃない!

「とはいえご安心を。どんな強者でも隙を全く晒さないことなんてありません。あなはそこをこれで仕留めればいいのです」

何かが落ちる音がして後ろを振り向く。
そこにあったのは楕円形の茶色い物体。
どこをどう見てもさつまいもにしか見えないそれが。
その実斧であることをパロロワに属しているものとして私は知っていた。

「どうです? 油断させるには最適でしょ?」

のろのろと縋る様にして
手にする。
掌が感じるごつごつした感触と重みがやたらと心強く思えた。
テイルズロワならともかくここは書き手ロワだ。
例えさつまいもで人を切り殺す展開になっても没にはされまい。

「そしてここが最も重要なことなのですが……」

餌を強請る子犬のように、いつしか私はイエローの話に必死に耳を傾けていた。
預言者を騙る檀に騙されるスポポロスそのものだと冷静な部分が忠告する。

「『あなたが』アニー・ツヴァイを倒すには、奴とまみえるまであなたが生き残らなければなりません。どんな手を使ってもです」
「私に、マーダーになれというのか!?」

だから、かろうじて甘いささやきに抵抗できた。
最後の、最後の、抵抗だった。

「おお、怖い怖い。勘違いはいけませんよ。あなたに優勝を目指せと言ってるのではないのです。
 正義の味方とあろう者が、人を悪意で見てはいけませんよ。
 というか、そんなことを言えば間違いなく私が最初に殺されてしまいますしね。
 要は命乞いしようが、相手に取り入ろうが生き残ればいいのです。ね、これなら誰も傷つかない。あなたも含めて、ね」

抱いた怒りが見当違いのものだと諭され、高ぶっていた気概が急激に萎み行く。
そこにするりと滑り込んできた言葉――『誰も傷つかない』。
惹かれてやまないワード。
引き止めるのは巨悪を討つためとはいえ悪に屈してたまるかというプライド。
その拠り所さえ私は砕かれた。

「おや? 私は何か変なことを言いましたか? 誇りでも害されましたか?
とんだお笑い種ですね。弱いものほどよく吼えるというわけですか。
ここで私に襲われれば一溜まりもなさそうな、弱者のあなたがマーダーを正攻法で退けられると?
何、弱いこと=悪ではありませんよ。6/さんとのことのように仲間内でいざこざがあっても誤って殺さないで済むということじゃないですか。
いえ、むしろあなたのような弱者なら、例えそれが行き違いや誤解でも全力で抵抗しなければ死んでしまう程だ」

弱いことは、悪ではない。
その言葉に救われたような気がした。
弱い私は悪ではないのだということだから。

「そうです、よく考えてみてください。あなたの行動方針は『正義』、つまりは『悪を滅ぼし、弱きものを助く』です。
 なら、弱くて弱くてたまらないあなた自身を守ることは、全くもって問題ないじゃないですか。
 6/も言ったのでしょう? 殺しに来いと。さもないと、殺すと。彼も認めてくれているのです。
 あなた自身の身を過剰防衛クラスの全力で守ることは、あなたが、弱いあなたが『正義』を為せる唯一の方法なんだと」

弱い私が為せる唯一の正義。
悪を滅ぼし、弱きものを助く正義。
私を圧倒的な力で叩きのめしたあの男も認める正義。

(ああ、そうか。これが、私の――)

「では、戦隊ロワの書き手として、あなたの活躍を楽しみにさせてもらいますよ、正義の味方さん?」

それっきり途絶えた声は途絶え、家に静寂が戻る。
私は今度こそドアを開け、外に出る。
日の出が祝福してくれているみたいで気持ちよかった。

――私は、『正義』を見つけた。



【兵庫県東部/黎明/一日目】
【初雪@オリジナルキャラ・バトルロワイアル
【状態】全身に軽い痣(不死の薬の効果により未だに回復中。もう少しで効果切れ)
【装備】さつまいも@テイルズロワ、折れた格さんの日本刀@オールロワ
【持物】基本支給品、不明支給品0~1
【思考】
基本:悪を滅ぼし、弱きものを助く
1・こびへつらってでも生き残り主催者の隙を突いて討つ
2・自己防衛は全力でする。
3・殺し合いに乗っている者はできるなら始末し、弱いものは保護する
【備考】
※外見は桃色の着物を着た少女、声はロアルド・アムンゼンです
※どうみても少女ですが成人男性です



「ふふっ、人を惑わすのにロンが病みつきになるわけだよ」

初雪が去り、無人のはずの民家にて
ひとりごちる影一つ。
その声はさっきまで初雪の行動方針を巧みに摩り替えていた人物と同じものだが、陽光に照らされた顔は別人のものだった。
参加書き手の層がやたらと広い書き手3の世界中を探しても、彼の顔の元ネタを判別できるものはいないだろう。
書き手2で大暴れした派手好き地獄紳士『666』のように元ネタがないからか?
NO。
彼に与えられた姿はれっきとした版権キャラだ。
名をシュリケンジャー。
主である御前様の命により、その正体を仲間であるハリケンジャーたちにも隠していため、
番組内では常に変身しているか、変装しているかであり、素顔を見せることだけは決してなかったキャラだ。
故に、デフォルトの素顔が設定されていないのである。
消えたかに見せかけたのも忍法によるものだ。

「ミー以外の戦隊ロワ書き手も呼ばれたのなら、誰かはロンになっていると踏んでなってみたんだけどね。
 これで初雪からさっきのことを聞き出す者がいたとしても疑われるのはレッドかブラックかグリーンか、あてずっぽ通りイエローか」

加えて言えば彼は夜明けのイエローですらない。
色的に金に一番近い黄がロンになっているかもと推測してそう名乗っただけだ。
彼の本当のトリップは◆MGy4jd.pxY。

「さーて、見せてもらおうか、初雪。精々、ユーの道化っぷりを。他にも堕とせそうな人を探しつつね」

堪らないとばかりに笑みを浮かべ、さつまいもの御代にとこっそり初雪のデイパックから拝借したシュリケンボールを弄ぶ。
青き鬱のエレメント。
それが男の冠する二つ名であった。



【兵庫県東部民家/黎明/一日目】
【青き鬱のエレメント@戦隊ロワ】
【状態】健康
【装備】
【持物】基本支給品、不明支給品0~1 不死の薬@戦隊ロワ シュリケンボール@戦隊ロワ
【思考】
基本:心理的に攻めて参加者を惑わす
1・さて、もう一回変装かな?
2・初雪を尾行しどうなるかを楽しむ
3・堕とせそうな参加者の精神を堕とす
【備考】
※外見はシュリケンジャー……つまり男性だという以外不明です
※別にシュリケンジャー本人ではないので素顔を晒してもよかったりします



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正義が正義である世界 初雪 SIMPLE 書き手ロワ3 THE 煽動マーダー
青き鬱のエレメント SIMPLE 書き手ロワ3 THE 煽動マーダー

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最終更新:2009年06月09日 21:00
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