不断の騎士の遺体をその場に放置して、
Prince of Killerは一人森を進んでいた。
早く次の参加者を殺したくてしかたがないのか、楠沙枝の小柄な体を、フルフルと震わせている。
ついさっき不断の騎士を殺したばかりだけれど、ほとんど不意打ちみたいな感じで殺したから、少々欲求不満気味なのだ。
「殺すだけでもそれなりに愉しいけれど、やっぱりちゃんと戦いたいってのもあるんですよねえ……」
そんな物騒なことを呟きながら歩き続けると、やがて小さな灯りが殺人王子の視界に入る。
目を凝らしてよく見れば、腋を露出した奇妙な形態の巫女服を着用した少女が、こちらに背を向けて歩いていた。
(散りゆく者への鎮魂果は――まだ、使えそうにないなあ)
彼女の能力『散りゆく者への鎮魂果』は、うまくいけば一瞬で相手を殺せるだけの力があるが、
反面、一度使用するとしばらく使用できないという、自分ではどうしようもない欠点も同時に存在していた。
それは、一時間二時間といった長時間に及ぶものではないけれど、先程の使用から十分と経っていない現在は、確実に使用できない。
溜め息を吐いて、Prince of Killerはパニッシャーを構える。
狙いはもちろん、目の前の腋巫女(仮)だ。
(まあ、マーダーなら殺さないとは言ったけれど、こいつに反応できない程度のマーダーなら、どうせたいして殺せずに終わるからいりませんよってことで♪)
最後にそんな計算を脳内でし終え、いよいよパニッシャーが火を吹こうとした瞬間。
Prince of Killerは、何かが自分に迫ってきているのを知覚した。
(――――ッ!?)
数は十個二十個ではきかず、速さもそれなり。
パニッシャーを持ったままでは避けきれないと判断したPrince of Killerは、やむなくパニッシャーを近くの茂みに投げ捨て、自身も横に飛び退く。
(これは――?)
飛んできた物体の正体は掴めなかったものの、自身のすぐ脇を通り過ぎたそれらが背後の木々を薙ぎ倒すのを見て、直感で回避を選択したことに安堵する。
しかし、どうしたものだろうか。とっさに投げ捨てたおかげでパニッシャーが破壊されることはなかったものの、再び拾うには結構な距離が空いてしまった。
なんとか隙を見つけて拾えれば、と思考するPrince of Killerに、いつの間にやらこちらに体を向けていた腋巫女(仮)が口を開く。
「殺気がだだ漏れよ。どう?私の弾幕は」
「弾……幕……?」
聞き慣れない単語に戸惑うPrince of Killerに、「そう、弾幕」と腋巫女(仮)は繰り返す。
腋巫女(仮)、いや彼女の名前は――◆MajJuRU0CM、
争符・生命遊戯。
最近開始した、東方ロワの筆頭書き手の一人であり、
東方projectの主人公・博麗霊夢を冷徹なマーダーとして登場させた作品『生命遊戯 Easy』の作者でもある。
そして自身が書いた博麗霊夢と同様、生命遊戯もまた、参加者の殲滅を目的としていた。
一見して無防備な少女を装いつつも、その反面周囲の警戒は怠らず、
襲いかかろうとするマーダーを書き手ロワで彼女が得た能力『弾幕』をもって返り討ちにしようとしていたのだ。
つまり、Prince of Killerは今回、まんまと生命遊戯の策にかかってしまったことになる。
「……ふふっ」
しかし、その事実を認識してもなお、Prince of Killerは不適な笑みを崩さない。
相手はこちらを一方的に攻撃できる能力を所持し、対して自分は頼みの綱のパニッシャーを手放してしまっている。
そんな状況だと言うのに、平然としているPrince of Killerを見て、生命遊戯は訝げに少女を見る。
「ちょっとアンタ、気でも触れたの? アンタに対抗手段が無いことくらい、理解できるでしょ?」
「いやいや、あなたみたいな強力そうなマーダーを発見できて、安心しているんですよ。やっぱりマーダーがいなければロワは回りませんからね」
その答えにますます怪訝そうにする生命遊戯に微笑みながら、Prince of Killerは言葉を発する。
ようやく再び使用できるようになった、彼女の能力のキーワードを。
「『散りゆく者への鎮魂果』!」
いつの間にやら、生命遊戯の足下に転がっていた、一個のオレンジ。
キーワードと呼応してそのオレンジが割れ、中から黒光りする銃口が顔を覗かせた。
「な――――」
一瞬遅れて生命遊戯はそれを視認し、戦慄するも、一度作動した『散りゆく者への鎮魂果』が停止することは無く。
オレンジの中の拳銃より放たれた弾丸は、生命遊戯を貫いた――が、しかし。
「……やってくれるじゃない」
博麗霊夢のウリは、当たり判定の小ささにあり。
その体を得た生命遊戯もまた、当たり判定は小さい。
つまりどういうことかと言えば――弾丸が貫いたのは、生命遊戯の巫女服のみであり、生命遊戯にダメージを与える結果にはならなかった。
自らの姿が霊夢であったことにこの上なく感謝し、生命遊戯はPrince of Killerに向き直る。
今度はこちらの番、弾幕ゲーの本気を見せてあげる。そう言おうとして――再び、生命遊戯の表情は凍りついた。
「残念、『散りゆく者への鎮魂果』での銃撃はあくまでフェイク。本命であるパニッシャーを取る隙を作るための、囮だったんです」
パニッシャーの銃口が、生命遊戯に向けられていた。
Prince of Killerの言葉は続く。
「先程は威力がわからなかったので念のため回避しましたけど……あなたの弾幕は、このパニッシャーで対抗できないほどじゃない。
むしろ、十分に勝ちを狙える。そう判断しました。どうします?私のパニッシャーとあなたの弾幕、
どちらが勝つか勝負といきますか?その場合、二人とも無事では済まないでしょうけど」
そう生命遊戯に告げて、にこやかに笑うPrince of Killer。
生命遊戯は少しの間思考し、やがて、いかにも渋々といった感じに頷いた。
「……わかったわ。この場はこれでお開きといきましょう。私は東方ロワの生命遊戯。アンタは?」
「賢明な判断、ありがとうございます生命遊戯さん。私の名前はPrince of Killer。オールロワの殺人王子です。」
「そう……Prince of Killer、ここで殺されなかったからには、精々一人でも多く殺して、私に楽をさせてよね」
「もとよりそのつもりです。生命遊戯さんこそ、たくさん殺してくださいよ?ロワを盛り上げるためにも」
それだけ言って、生命遊戯に背を向けてPrince of Killerは去っていく。
どうせ撃ったところで回避されるだけだろうと、生命遊戯も弾幕を撃ったりはしない。
「はあ……星蓮船の発売日までには帰りたい」
そんな生命遊戯の切実な呟きは、誰の耳にも届かず、ただ消えるのだった。
【一日目 深夜/山梨】
【Prince of Killer@オールロワ】
【服装】魔法少女沙枝の格好(ピンクのフリフリの魔法衣装)
【状態】健康
【装備】パニッシャー@
なのはロワ
【持ち物】デイパック×2、支給品一式×2、オレンジ49個@コードギアス、不明支給品1~3
【思考】
基本:殺し合いを加速させる
1:第一放送までは出会った相手を殺す(ただしマーダーなら放置、迷っていればマーダー化するよう扇動、自分より強ければ撤退)
【争符・生命遊戯@東方ロワ】
【格好】博麗霊夢
【状態】健康
【装備】なし
【持ち物】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:必ず生きて帰り、東方の新作をプレイする
1:出会った参加者を殺していく
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最終更新:2009年05月10日 11:19