夜明け間近の青森県は恐山の山中で、一人の男性が途方に暮れていた。
彼の目の前にあるのは一台のノートパソコン。その周囲を囲うのは金属の板。
(――さて、どうしたものか)
トツギーノだの上司に振り回されるADだのでお馴染みな、ピン芸人バカリズム、本名升野 英知の外観を持つこの書き手は
芸人ロワの◆hfikNix9Dkこと『情景の描き手』。
ぺたりと床に座り込んで彼が覗き込むノートパソコンのディスプレイには、旅の扉の姿が映し出されていた。
火山岩が作り出す荒涼とした岩肌と、それに幾つも突き立てられ、吹き抜ける硫黄臭を含んだ風によりからから回る風車。
そんな中でぼんやりと光を放って浮かび上がる旅の扉は不気味であり、同時に何とも神秘的でもあり、
風景描写、心理描写を得意とする彼の詩心を刺激しない事もないけども。
それでも彼は腕を組み、憂いた顔で悩んでいた。
特に殺したい相手もなければ、対主催に名乗りを上げる柄でもない。
故にだいたいの芸人ロワの芸人達がそう選択するように、生存優先が当面の基本スタンスになりそうではある。
だったら、目指すべき旅の扉が見つかったのだから、空気覚悟で颯爽と次の世界へ向かうのも良いだろう。
甘寧一番乗り! となるかはわからないが、それでも他の大勢が次の世界へ向かってくるまでの身の安全は確保できる。
あるいは、先ほどどこからとも無く届けられた演説により、埼玉を目指すだろう書き手達に
埼玉まで行かずともここに旅の扉があるよと触れ回り、混戦の発生を回避させる手段も悪くはない。
けれども。
(何にせよ、誰か来てくれないと何も始まらないんだが……)
声に出さずに呟いて、情景の書き手は肩を竦めた。
それもそのはず。
先ほど彼を囲うのは金属板、と触れたが、実は彼は彼を中心とした120cm×120cm×120cm大の金属製の箱の中におり、
引き出しによる物の受け渡しや、ノートパソコンによっての現在位置の把握と箱の外のモニタリング、
そして意思疎通のためのコピーベルトへの入力こそ行えても、自らの意志で己の居る箱を動かす事は何一つ叶わないのだ。
ここで記憶力の良い人間なら思い出す事もあるかも知れないが、情景の書き手の現状は
9年前に放送された電波少年の企画の一つに酷似している。
それもその筈だろう。その企画によって全国的にマイナスイメージを振りまく事となった若手芸人こそ、
情景の書き手が芸人ロワで予約し、物語を書きつづっているダブルブッキングのボケ担当、川元 文太なのだから。
『誰かいませんか?』
そんな文字が箱の正面に設置されたコピーベルトを延々流れる中、その内部で情景の書き手は何度目になるかわからない溜息をつく。
数mを挟んでの旅の扉と金属製の箱のにらめっこは、もうしばらく続きそうだった。
【1日目 早朝/青森県・恐山】
【情景の書き手@芸人ロワ】
【状態】健康
【装備】
【持ち物】支給品一式、不明支給品1~4
【思考】
基本:生存優先というか誰かに会いたい。
【備考】
※外見はバカリズム(升野 英知)です。
※120cm×120cm×120cm大の金属製の箱の中にいます。物の受け渡しはできますが、自力での移動、脱出はできません。
※箱内部のノートパソコンによって現在位置の把握と箱の外のモニタリング、箱外部のコピーベルトへの文字入力が可能です。
※青森県、恐山の山中に旅の扉が発見されました。
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2009年05月06日 23:34