(どうしたらいんだよぉ)
レジェンドオブw2は口の中で小さくぼやいた。
ずっと続く山道はそこそこ整備はされているものの、夜通し歩いた足には難儀極まりない。ましてや、少女の足には尚のことだ。もつれそうになる足をどうにか制御し、前へと踏み出す。
夜は明けてきており、鬱蒼としたブナの枝ぶりが視認できるようになってきていた。
視界がはっきりするようになって気分は楽になってきていたが、夜闇の中、不慣れな山道を進んできた疲労が消え去るわけではない。
また、書いてきていたとはいえ、当事者となるとは夢にも思わなかったバトルロワイアルという現状が与える精神的圧迫が彼女の疲労を更に色濃くしていた。
しかし、同伴者――彼女のストレスの原因の一つ――は違ったようだ。数メートルほど先をとてとてと歩く白い獣に目を向けた。
アニマルスと名乗った、
動物ロワ書き手。お父さん犬を思わせる大きな身体には奇妙な紅い隈取りが走っている。最近もニコニコの実況動画の上位に上がっていた「大神」というゲームのキャラクターである。
筆先のような尻尾が動作に合わせて小さく揺れている。疲れた様子は見えない。
この書き手はマーダーという役割を選んだらしい。それも他ロワの書き手を皆殺しにするという奉仕マーダーの役割を。
それは彼女が籍を置く
ニコロワβの書き手の身が危ないということだ。更に彼女は動物ロワにも籍を置いているため、心中複雑の極みとなっていた。
ふと、アニマルスは立ち止まったのが見えた。
「ど、どうしたんだよぉ?」
何かを見つけたのだろうか。レジェンドオブw2はびくりと身を竦ませて、辺りを見渡した。
彼女の問いには答えず、アニマルスは小さく腰を落とすと、地面をふんとばかりに踏みしめた。ぷるぷると身を震わせたかと思うやいなや、ぼたぼたと何かが土の上に落ちる音が聞こえる。
そして何事もなかったように立ち上がると、尻の穴から捻り出したものの周囲の土を後ろ足で盛大に蹴り上げた。舞い上がった土埃に、レジェンドオブw2は小さくむせた。
(あ、あれ……?)
口の中に入った土を吐き出しながら、彼女は何か閃きのようなものを感じていた。
その閃きを確信へと変えるため、レジェンドオブw2は足もとに転がっていた太めの枝を手に取って歩みを再開したアニマルスに呼びかけた。
「アニマルスさーん」
「なんだ?」
首だけ振り向いたアニマルスの頭上に向けて、枝を投げた。
ぴくんと鼻先が動き、アニマルスの後ろ足が大地を蹴った。宙に純白の毛皮が踊る。空中で枝を見事キャッチした。
降り立った獣の尻尾は誇らしげに左右に振られていたが、弄ばれたことに気付いたのか、ハッとした表情を浮かべて咥えていた枝を取り落とした。鼻面に皺が寄る。
同時にレジェンドオブw2は得心のいった笑みを小さく刻んだ。
この地における姿はいわば、入れ物――殻のようなものだ。しかし、その殻は特殊な能力を与えるだけでなく、書き手の精神や行動に対しても少なからず影響を与える。それは
書き手ロワ2ndでも見て取れる。
アニマルスは犬の殻に入っている。つまり、精神や行動が犬の影響受けているのだ。
ならば犬の習性を利用できるはずだ。ようするに、服従させてしまえばいい。それが出来れば、影響は少なくとも全書き手への『繋ぎ』となるはずだ。
そして彼女には強い味方が存在する。ニコニコ動画には大量のAVがあるのだ。そう、Animal Video が。
ぬこ動画には人気・数ともに圧倒的に劣るもの、犬の動画もかなりの数が存在する。それを参考に試してみるのだ。ごんべえやりょうといった名犬たちの飼い主の行動を模倣するのだ。
レジェンドオブw2はしゃがんで視線をアニマルスに合わせると、右手の甲を差し出した。その行動に虚を突かれたのか、不機嫌な唸り声が止まる。好奇心を捨てきれなかったのか、そろそろと近づいてきたアニマルスが甲の臭いを嗅ぎ始めた。
しばらく嗅がせたところで、そろりと顎の下に手を伸ばす。毛皮に右手が埋まった。そのまま、手櫛でゆっくりと顎先に向かって掻いてやる。アーモンド型の黒い瞳は戸惑いを浮かべていたが、その感触はまんざらではない様子だ。
首の毛を流れに逆らわないようにして両手櫛で梳いてやる。
そうしてから、両手を耳の付け根にそっと移動させた。そのあたりを優しく揉み解すように撫でると、気持がよいのか、目がトロンとしてきた。
続けて、首筋から背中へと手櫛をかけていやる。白い体毛がさらさらという音を立てた。
耳が後方に倒れ、アニマルスの頭がレジェンドオブw2の腕へと凭れかかる。ふぅーんと、気持よさげな声が聞こえた。鼻先がレジェンドオブw2の懐に押しつけられる。
耳の付け根から背中までのマッサージを何度繰り返しただろうか。
突然アニマルスはごろんと横になると、白毛が覆う腹部をレジェンドオブw2に向けて露わにした。気を許した証拠だ。
要求に応えるべく、彼女の両手は腹部へと突入する。
腹部の毛はとても柔らかく、上等な毛皮のコートを思わせる。埋もれた両手は獣の体温を静かに伝えてきていた。ゆっくりと時間を掛けて、腹部を撫でまわす。心地よい弾力が両の手にかかった。ハッハッハッという呼吸と共に、アニマルスが身をくねらせる。
(さすが公式性別設定・わんこ。男の子の証明も女の子の証明も見当たらないなぁ)
そんな部分に感心しながら、レジェンドオブw2はマッサージを続けた。
そして――。
◇◆◇◆
「HAAAA! だからよだれはノーサンキューなんだよぉ……」
口元を舐め回そうとするアニマルスから顔を仰け反らせながらレジェンドオブw2は困惑していた。アニマルスの尻尾は高速で左右に振られている。まさかここまで変貌するとは予想もしていなかった。
「あ、アニマルスさん、お座り!」
その言葉で漸く解放され、レジェンドオブw2は安堵の吐息をついた。
お座りのポーズをとったアニマルスが何かを期待する目で彼女を見上げている。それを無視し、レジェンドオブw2は小さく溜息をついた。
「いいですか、アニマルスさん。動物ロワのためにマーダーになるなんてダメ! 絶対なんだよぉ」
懇懇と言い聞かせる。
「分かってますとも、ご主人さま!」
威勢良くアニマルスが吠えた。一先ず説得に成功したようである。
「分かってくれたならいいんだよぉ」
レジェンドオブw2は小さく微笑みを浮かべた。その視界にアニマルスの尻尾が一文字に閃いたのが見えた。
一拍遅れて、離れたところに生えていたブナの木が数本地鳴りを立てて倒れた。見事に両断されている。
突然の行動に言葉を失っているレジェンドオブw2を余所に、アニマルスは誇らしげに告げた。
「ご主人さまをニコロワβの――いえ、パロロワ界のエース書き手とするため、他の書き手は皆殺しです! すべてはご主人さまのために!」
(ああああああ何も変わってないいいいいいい!)
「ご主人さまは見るところお疲れのご様子。さあさあ、私めの背中へどうぞ」
アニマルスは頭を抱えたレジェンドオブw2の裾を加えて宙に放り投げ、己の背に彼女を乗せた。
「あ、あのね――」
「さあ、いざ行かん。ご主人さまの覇道の旅路!」
レジェンドオブw2の言葉も聞かず、自己完結した白い獣は駆け出した。
一人と一匹の後には萌え盛る若草の群れが残った。後悔とか誇りとか、なんかそんな色々と大事なものと共に。
【秋田県/一日目/黎明】
【アニマルス(◆TPKO6O3QOM)@動物ロワ】
【状態】健康、服従
【所持品】基本支給品、不明支給品1~3
【思考】
基本:レジェンドオブw2をエース書き手にするため他の書き手は皆殺し
1:頑張ってご主人さまに褒めてもらう
2:またお腹を撫でて欲しい
3:動物ロワ……? なんだっけ?
※外見はアマテラス@大神です。
※レジェンドオブw2をアルファと認めました。
【レジェンドオブw2@ニコロワβ】
【状態】疲労(中)、後悔、アニマルスの背中の上
【所持品】射影機@ニコロワβ(07式フィルム29/30)、不明支給品0~1
【思考】
基本:冒険せず、しっかりと確実な『繋ぎ』(他者の手助け)をする。
0:ちっがーうんだよぉ!
1:しばらくはアニマルスと行動、彼の手助けをする。
2:ニコロワβの書き手を見つけたら、冒険しない範囲で『繋ぎ』をする。
※外見は弱音ハク@VOCALOIDですが、口調は秋山森乃進@ゲーム実況です。
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2009年06月07日 23:25