拳嵐武闘(けんらんぶとう)

「……114……115……116……117……118、おお、これって燃えるんじゃね!?」

無明無尽光の太陽に照らされたこの朝の下。

「……119……120……121……122……123、いける、ここでエクスプロージョンを撃たせれば!」

360°いつ何時どの方角からどのような攻撃が来るかすらわからない街中で。

「……124……125……126……127……128、ってぎゃああ、時系列がー!」

ただ、黙々と。
ただ、ひたすらに。
ただ、恐るべき集中力で。

「しゃあねえ、次回作だ。……と、ん?」

男はそれに夢中だった。
もう一人の男はそれに夢中だった男に懐かしさを覚えた。
懐古主義とかそういうのではなくて、ただ純粋に。
驚き、感動し、呆れ果て、妬いて、引き寄せられていた。

「その姿、まさかあんたは……」

何度でも何度でも、理解できるまで、声が枯れるまで真実を言い続けよう。
このバンダナの書き手、勇者アイギスは。
人々が殺し合う絶望的な状況に置かれながら。
いつどこから襲われるともわからない状況で。
障害も無い見晴らしが良すぎる橋の上で。

筋トレをしながら次回作の構成を練っていたのだ。
いつ何時でもネタ(と体力)作りを欠かさない、書き手の鏡のような精神は誉められるべきなのかもしれない。
こんな状況でなければ、である。
いや、こんな状況で出来るからこそ、書く側としてでなく参加者としてロワに生きているからこそ新たな視点で執筆に取り組めているのかもしれない。

同時に彼は幸運まで持っていた。
最初にアイギスの筋力トレーニングを見ていた人物。
もし彼が凄腕のスナイパーならアイギスは隙だらけもいいところだ。
もし彼が魔術の類を使うなら遠くから気づかぬうちに魔法の餌食になっていただろう。
もし彼が隠密活動を生業とするなら、首をカッ斬られて死んでいただろう。
彼はどれでもなかった、むしろこの場所でアイギスが追い求める数少ない人物なのでは無いだろうか?
否、数少ないどころではない。
彼はまさしくアイギスが求めて止まない人物だった。

見間違えるはずがない、彼が模しているキャラの姿を。
ベストも、ショートパンツも、ニーソまでも黒。
その上から大きな黄色いジンパーと今やトレードマークとまでなった大きな白い帽子。
一見してただの少女、ただの人間にしか見えないそのキャラの名前はニーギ・ゴージャスブルー。

そして今この書き手ロワ3の地で、その姿を与えられうる生存者をアイギスは自身が尊敬する一人の書き手しか知らなかった。

「◆nucQuP5m3Y氏、◆r0crLXFu8U氏、◆FHFOUvdj5Q氏、フラッシュの人――いや、あんたを呼ぶならやっぱりこうだろ、なあ、6代目さん!」
「その声、そういうあんたは感電氏!? あらら、俺は確かにR-0109の死体を目にしたはずなんけどな~。
 仕事奪った俺への恨みに化けて出た……ってわけじゃないようだね」

六代目と呼ばれた少女のような外見をした男はいぶかしむ。
精霊と歩む彼からすればこの世ならざる存在を見ることも、見分けることも容易なのだ。

「おおおれよ しんでしまうとは なさけない。
 おっと、わりい、混乱させちまって。俺はRPGロワの勇者アイギス。
 画鋲ラジオのMC:R-0109の書き手としての化身の姿さ!」
「なるほどね。これが書き手ロワ名物分裂、いや、ニーギ的にいうなら同位存在ってわけか」
「そういうこった。あとついでにRPGロワは別にゲサロワの同位体ではないんで要注意だぜ!」

アイギスは一通り説明し終えると嬉しそうに立ち上がり戦いの姿勢を取った。

「ところであんた、放送担当してるみてえだが主催者側、つまり対主催な俺の敵ってことでいいのかい?」
「そうでもないさ。こちとらただの雇われパーソナリティ、書き手ロワをGAME OVERへと導く気はあるけどエンディングの種類は特に決めてないからね。
 対主催に味方して対主催エンドへと導くもよし、マーダーとして暴れて優勝エンドを紡ぐもよし。
 今までに見ない全く新しいエンディングを求めるというのもありかな?」

6代目が主催側から持ちかけられ、受諾したのはあくまでも放送役と書き手ロワを完結させること。
手段やエンディングの種類は指定されていないのだから、好き勝手にやっていいということだ。
その趣旨を述べた返答を聞き、ますます笑みを濃くするアイギス。

「だったら俺の味方になってくれ! あんたが一緒ならANI2をぶったおすのにこれ程無く心づえええ!」

MCとしての偉大な先輩であり、一つのロワを一人で終息させた男。
是非とも仲間になってほしいと思うのは無理も無い。

「悪くは無い案だね。このロワを完結さえさせれば俺はどんな行動を取っても主催者からのペナルティは無いしさ。
 それに久しぶりに誰かと一緒に何かを為すのも面白そうだ」

その申し出は6代目にとっても満更ではないものだった。
アーケードロワをリレーという形を放棄してまで一人で完結させたことを後悔はしていない。
けれども、一人で書くことになってしまったのは残念だとは思っている。
他の人の考える最終回までの流れも聞きたかった。
あわよくば読みたかった。
アケロワという企画を愛したリレー小説書き手として、彼には確かにそんな想いがあった。

「……面白そうではあるんだが」

厄介なことに同時に相反する感情も彼は抱いていた。
パロロワを書いてる人、もしかしたら読んでる人には大なり小なり『こういう展開にしたい!』という希望がある。
『こういう最終回』というのは最たるもので、そこまでの流れも含めて一人でやってしまった6代目は好き勝手にする愉悦をも知ってしまった。

「一人で終盤を思うが侭に書き上げるっていうのは書き手としてすごい楽しいことでもあるんだよ。
 甘い毒って奴かな? 残念ながら今の俺はちょっとばかしそれに侵されててな。
 真正面からの言葉の一つや二つじゃ動く気にはなってやれねえんだわ」

そう言ってファイティングポーズを取ったままのアイギスに合わせ、6代目もまた構えを取る。

「ってわけだ。俺は自分が正しいって信じて、一人で好き勝手やる。
 それが駄目だっつうんなら、ブッ飛ばして俺の目ェ覚まさせな」
「いいぜ。俺はちょうど、あんたと一度闘ってみたかったんだ! MCとしてではなく、互いに書き手としてな!」

動いたのは同時。
とん、と軽い足音だけを残して共に一足跳びに距離を詰め、己が得物を突き出す。
超人的な加速から生み出された右の正拳突きは勇者アイギスのもの。
烈風をも生み出しかねないその拳が素早く、確実に6代目を穿たんと欲す。
対するは精霊の加護を受けた必殺の蹴撃。
軽やかで、それでいて力強いその姿を、無数の青い光が追っていく。

激突、散華。

開幕早々の渾身の一撃の激突は痛み分けに終る。
衝撃に吹っ飛ばされかねなかった我が身を気合と脚運びで地に張り付けた両者は、即座に次の動作へと移る。

「爆! 裂! 拳!」

一にして四、四にして一。
常人なら一発拳を打ち込むだけで精一杯の時間でアイギスは4発もの肉弾を叩きつける。
けれどもそのうちの一つすらまともに当たってはくれなかった。
6代目は一撃目をきちんと腋を締めガード。
続く二撃目、三撃目はバックステップでかわす。
そして最後のパンチを掴み、引き寄せ、バランスを崩したアイギスの顔面を精霊脚で打ち据える。

「があっ!?」

想像を絶する激痛に襲われつつも、アイギスは顔面を手で押さえ、自ら視界を奪い、腕の自由を封じるといった愚行はしない。
流れ出る血を目に入らないよう乱暴に拭いつつも、大きく後退し体勢を立て直さんとする。
6代目はそのほんの僅かばかりの休憩さえ許さない。

「波動拳、レイジングストーム、カイザーウェイブ!」

弾幕ゲームもかくやの如く放たれる無数の気弾。
次から次へと押し寄せる弾丸は闘気の津波となってアイギスを飲み込んでいく。
その津波が数秒も経たぬ内に勢いを弱めだす。
6代目が手を休めたのではない。
途中までは翻弄されるだけだったアイギスが相殺しだしたのだ、6代目が撃ち出すのと寸分違わぬ技によって。

「あれ? あんたRPGロワの書き手じゃなかったのか? なんでまたアケロワの技を?」
「へっ、俺の身体のもとになってる高原日勝にゃあラーニング能力ってもんがあるんだよ!」

今やRPGの一つの定番となったこの能力は、受けた技を体で覚えることができる。
原作の都合上アイギスは格闘技しか模写できないが、無限の可能性のある能力であることは確かだ。
しかも6代目が使う格闘ゲームの技をも真似しきれているところを見ると、コピーできるジャンルはRPGのものだけではないらしい。
これは主要な攻撃方法の大半を格闘ゲーム由来の技に依存する6代目にとっては敵に回すには相当厄介な能力である。

「ってことは俺が七色光線を撃ったらラーニングされたあんたに撃ち返されちゃうわけ!?
 うーん、流石にそれは嫌だな~」

まあ、当の本人はどうやらまったく別のことを心配しているようなのだが。

「あー、ラーニングは相手の技に当たって初めて覚えられる技だし。俺もいくら覚える為とはいえ溶けたくはねえし。
 てかあんた七色光線撃てるのかよ!? 目からビーム!?」
「いんや、撃てない。撃ちたくもない」
「ごもっともだぜ、ははは!」

ボケともマジとも取れる問答に笑みを浮かべるアイギス。
実際彼は楽しんでいた。
これまでの書き手ロワにおいて、いつもアイギス――感電はラジオのMCとしての面ばかりがクローズアップされていた。
別にそのことが嫌だったわけじゃない。
書き手ロワで皆勤賞を得られるほど、画鋲ラジオが人気なのは素直に嬉しい。
ただ、せっかくの書き手ロワなのだから自分も書き手として参加したい。
書き手ロワが幾度も開催され、遂に書き手ロワ2ndで完結という一つの執着を迎えたとき、彼のこの願いは抑えられない程に強くなっていた。

その願いが遂に叶った。

感電は画鋲ラジオのMC:R-0109としてでなく、RPGロワの書き手:勇者アイギスとして書き手ロワ3の地を踏むことになった。
既にR-0109が死亡している以上、書き手ロワ2の焦ったドラえもんのように乗っ取られて書き手としてでない最後を迎える心配もない。

――俺は、書き手として生き、書き手として最後まで闘える!!

不満があるとすれば唯一つ。
6代目が明らかに手を抜いていることだった。
常に余裕を持っていたニーギの原作再現か、はたまた主催側という立場を重んじて参加者に手を出すことを良しとしていないのか。
単に全力を出すまでもない相手だとアイギスのことを判断した上でかもしれない。
事実、本気には程遠い6代目は、余裕の笑みを浮かべたまま、タイトル技を一つも使うことなくアイギスの攻撃を捌き切っていた。

超反応。
それこそが6代目の強さの秘訣の一旦であった。
自分のコンボを繋げる為、相手のコンボを狩る為に見ると同時の入力が必須な格闘ゲーム。
高速多数の敵弾を事故死しないよう避け続けなければならないシューティング。
刹那の思考が求められるクイズゲームやパズルゲーム。
それら反射神経がものを言うアーケードゲームをやりこみ把握しているが故の反応速度!

「『Body Language』!!」

呪文により身体能力を極限まで強化してラッシュをかけるも的確にガードされて潰されていく。

「屈小K→屈小P→昇竜拳→EXセービング→前ステップ→滅・波動拳!」

かと思えばこちらの隙をつき、余裕の笑みを浮かべたままコンボを決めてくる始末。
これでいて全然本気を出していないのだからたちが悪い。

いや、待て。
そこまで考えて、ふと何かがアイギスの脳裏に引っかかる。
『持てる全ての力を尽くして?』
本当にそうなのだろうか?
タイトル技を使い切っていないという意味ではない。
何か、もっと別の何かが欠けている。

「ラーニングできるって言うけど流石に生来性の血や神の力由来のものは無理だよね?」
「っつ、やべ!!」

思考の海に潜りそうになっていたアイギスを水邪の水やオロチの雷が撃ちつける。
慌てて『踊る道化は夢を見ない』で呼び出した自分そっくりの人形をデコイ代わりにして回避。
と、視界を駆け抜ける弾幕のうちある色がアイギスの網膜に焼きついた。
赤、紅、赫、AKA。
万物を灰に化す紅蓮の輝き。

「はは、ははは」

そうか、そうだったのか。
確かに持てるカードは把握していた。
だけど、一枚、手札に加えてすらいなかったカードがあったではないか!

――火鳥「フレアバゼラード」

力ある言葉が唱えられる。
瞬間、アイギスの全身から炎が吹き上がる!!
それは天壌の業火。
空をも焼きつくさんとする1千万度の炎!!

「な!?」

さしもの6代目も突然の人体発火現象に驚愕するも、すぐに冷静さを取り戻す。
火には水を。
水邪の力を引き出し、極太の水柱をアイギスの足元より噴出させる。

無駄だ。

水が火を消すことができるように、火もまた水を消し去ることがある。
人これを、蒸発と言う。

「うおおおおおおおおおお!!」

腹部、鳩尾を狙ってアイギスの燃える掌底が繰り出される。
6代目は持ち前の反応速度で水を纏った両の手を防御に回したがアイギスの攻撃はそのことも見越してのものだった。
通打。徹しとも呼ばれる特殊な攻撃方法で、格闘術というよりは1つの技術に近い。
元は打撃の効き辛い金属の鎧を纏った人間をも倒そうと開発された技で、単純な打撃とは違い、衝撃を『内部』に伝えてダメージを与える技なのだ。

「っつうう!?」

ガードを貫通し内臓を揺さぶる衝撃波に顔を歪めた6代目に、アイギスは転機を逃さず徹しを連打する。
通打に踏み込みは不要。
力を抜き少し丸まらせた拳を当てると同時に引くことこそが極意のこの技は隙無く連発するのにも向いていた。
加えてアイギスが放つライブアライブ版の通打は原作ゲーム中で最強と称される程の極悪な特殊効果が備わっている。
短時間ながらもなんとレベルも含めて相手の全パラメーターを大幅に下げることができるのだ。
その連打ともなればみるみる敵の能力を下げれる上に、弱体化した相手を殴り続けるのだから与えるダメージはどんどん高くなっていく。
纏うリューンの光が弱くなっていくのを感じ、6代目は連打の嵐から逃れようともがく。
ガードしつつ412+K――脚払い。
相手を大きく吹き飛ばすはずの一撃は、しかし、効果を発揮することなくアイギスの纏う炎に焼かれるのみ。

「ハイパーアーマーか!」
「しかも元がインビシブルだから打撃だけじゃなくてどんな技に対しても有効のな」

ハイパーアーマー。
格ゲーにおける何をされようと全く仰け反らず、空中で技を喰らっても少々押し戻される程度で、移動の軌道自体は継続される特性のことだ。
事実上、この状態であれば技を一切潰される事なく攻撃できる。
この状態ではダウンさせられることも吹き飛ばされることも無い。

一見いいこと尽くめに見えるこの特性だが、いくつか弱点も存在する。
その中でも特に大きいのが「本来ならダウンする技でもダウンしなくなる」という点である。
このおかげで例えば「複数攻撃判定が出る」「一発当ればダウンする」必殺技をくらった場合、
本来であれば一発当ってダウンして終わるところ、ダウンしないせいで攻撃判定が全て有効になり、
実質その必殺技のダメージ×攻撃判定回数分のダメージを受けることになって即死したり大ダメージを食らうことになったりしてしまうのだ。

だが、それ以上に一つ、大きな欠点がアイギスからは見て取れた。
燃えているのだ、見た目どおりに。
敵である6代目だけでなく、炎を纏っている当の本人の身体までもが。

「なんであんたまで炭化しだしてるんだよ……」

RPGにせよ格闘ゲームにしろ炎を纏ったキャラというのは珍しくは無い。
アケロワでいう炎邪もその手のキャラだ。
彼らはどう見ても自身も燃えているだろ!という外見に反し、自らの炎でダメージを喰らいはしない。
故にこそ6代目に疑問が生じる。
どうして勇者アイギスは己が発する炎に徐々にとはいえ焼かれているのかと。

答えは簡単だ。

「さっき俺が使ったタイトル技『火鳥「フレアバゼラード」』。
 あれが没んなっちまった話だからさ」

書き手ロワ3においては各書き手は自分の作品にちなんだ技をタイトルを叫ぶことで使用できる。
とはいえ、自分が書いた作品なら何でもかんでも能力として扱えるわけではない。
出展ロワとして状態表に記載されたロワで書いた作品由来であること。
その作品が本投下され本編の一部として通っていること。
この二つの条件を満たしたもののみが奥義として昇華できるのだ。

本来ならば。

――Let's go XXXX

RPGロワならではの原作ゲームにおける強力な裏技を作中再現したアイギスの作品。
それをタイトル技として使用することで、没データを裏技で引き出したという形をもって没作品による能力発動を押し通したのだ。
ただし、あくまで裏技は裏技。
大抵の裏技はバグを利用したものであるが為に必然的にリスクが追随する。
危険度は一度ゲームをやめれば効果が無くなる程度のものから下手すればセーブデータやゲームデータが破損しかねないものまで様々だ。

アイギスが背負ったリスクは重いだった。
発動するや否や炎の力は制御から外れ、自らの意思では止めることも叶わない。
このままでは血液が蒸発し、鍛えた筋肉が焼ききれ、最後には物言わぬ灰になるのは必須だ。

だというのに、アイギスは笑っていた。

MCとしても書き手としても尊敬している男と同じ舞台に登れていることを心底喜んでいるのだ。

「このダイバカが……っ」

アイギスの覚悟を目の当たりにした6代目は両腕を広げ、気を練った。
全身を無意識に包んでいる防御の気と両足に煌く精霊の力を手に集中するイメージで高め、放つ。
アイギスは避けなかった。
迂回する時間も惜しいと燃え尽きるのを待つだけの身で最短コースたる直線距離を突っ切っろうとした。
敵弾が大きさこそはあれど、あまり飛距離が無さそうな技だったので、多段ヒットする心配もなかったからだ。
でも、それは大きなミステイク。

「な……に?!」
「覚えておけ、最強。勝利するついでに一人勝手に盛り上がって自滅するダイバカを救う。
 これが俺の『サイキョーの伝説』だ!!」

予想通り大した貫通力が無かった気弾は、しかし予想外の追加効果を持っていた。
アイギスが痛みを感じた瞬間、死ぬまで燃え滾っているはずの彼の炎が一瞬にして解除されたのだ。
そして厄介なハイパーアーマーさえ消し去ってしまえば6代目にとって瀕死の相手を殺さず無効化することは容易だった。
驚愕に呑まれ動きが鈍ったアイギスの拳を追い抜き、振り上げられた6代目の足が叩きつけられる。
踵落とし。
脳天へと綺麗に突き刺さったその一撃に耐えられず、アイギスは膝から崩れ地に伏せた。

「よう、大丈夫かい?」

勝者が敗者へと声をかけ上から覗き手を伸ばす。
アイギスは何とか残る力を振り絞って地面とキスをしたままだった身体を寝転がせ声の主へと顔を向けた。
笑顔だった。
完膚なきまでに負けたものがするには似つかわしくないとも思える程の清清しい表情だ。

「あー、負けちまったか~。やっぱ強いな、あんた」

その呟き一つとっても愚痴とは違い何の怨恨も込められていなかった。
自らのやれることを全てやりきった満足感。
そしてそんな自分の全力を受けきり真っ向から打ち破った強者への賛辞がそこには込められていた。

「なあ、あんたのロワはいいところ?」
「当然。三日坊主ならぬ三作坊主な俺がいついちまって二桁くれえは書きたいなーって思えるくらいにはさ。
 ああ、早くこんなとこから帰って新作投下しないとな。みんなに置いてかるじゃねえか」
「みんな、か」

好意に甘えて手を伸ばし返してきたアイギスの手を掴んだ6代目の心が疼く。

「あんたに負けず劣らずすごい書き手ばっかだぜ? 心情描写が染み込んで来るオボロ。
 投下数トップの繋ぎ手ヴァルハラ。でたらめに上手いスヴェル……」

それ以上勇者の口から仲間のことが語られることは無かった。
起き上がりかけていたアイギスがぐらりと揺れ再度倒れる。
慌てて支えようとする6代目を迎えたのは倒れる際に解け宙に舞ったアイギスのバンダナ。
弾みで捕まえた白かったはずの布は赤い液体に晒されていた。
血だ。
そのことを理解するとほぼ同時。
突如としてアイギスの背が面していた地面より刃がアイギスの心臓を貫通し生える。

「我輩のことを評価してくれるのは嬉しいが、プレイヤーの戦績を評価していいのはゲームマスターだけだ……」

違う、刃だけではない。
腕が、頭が、胴が、脚が。
地面の、地面だったはずの空間からずぼり、ずぼりと這い出して来た。

「うーん、この切れ味。どうやら最大級のダメージが出ちゃったようだね。
 死にぞこ無いがリアルラックを使わせるなよ、クソが」

刀を突き刺したアイギスの、既に事切れた死体ごと掲げあげたのは緑色をした矮躯。
二足歩行こそしているもどう見ても人には見えない存在。
紫のマントを羽織り赤いネクタイを巻いたそいつは寸分の間違いも無くトカゲだった。


夜明けのイエローと戦っていたはずのRPGロワ所属の書き手。
彼がどうやってこの戦場へと割り込んできたのといえば両手の両手の人差し指と薬指(緑色)に嵌められた指輪が答えである。
青い石と緑の石の片方が鏤められた二対の金色の指輪、名をクラールヴィント。
空間を統べるそのアームドデバイスを使ってスヴェルグは夜明けのイエローを振り払ったのである。

否、振り払っただけではない。

彼はずっとクラールヴィントを使って覗き見ていたのだ。アイギスと6代目の戦いを。
機会を狙っていたのだ。疲弊したアイギスを己が手で葬れる為に。
イエローを襲撃したのもその一環。
スヴェルグは同胞たる書き手を見くびってはいなかった。
単に不意をつこうとするだけでは殺気を感じたとかいう出鱈目な理由でかわされた可能性を懸念した。
故に殺気の隠れ蓑としてイエローを殺しにかかり、互いに必殺の一撃を放つその時に旅の鏡を発動させたのだ。
こうすることでプリキュアレモネードフラッシュの回避も兼ねた奇襲を成功させたのである。

そのような手間までかけて何故同じロワの書き手を殺したのか?
秘密はRPGロワの書き手紹介の文章にあった。

【トリ】◆FRuIDX92ew
【勝手にあだ名】勇者アイギス
【代表作】003:Body Language、031:黒のジョーカー
【紹介】
2位タイの書き手。
クロノとユーリル(DQ主人公)を寡黙なまま、人間らしく書いた腕に脱帽。
シンシアやリオウといいオリキャラにするしかない参加者を上手に味付けした人。
ともかく書くキャラ書くキャラが魅力的。
何よりも特出すべきはかの脳筋コンビの産みの親な点w
まんま拳で語るアホ二人に、全住人は頭と腹を抱えたのであった。
【月下咆哮】。リオウの嘆きを現すのにこれ以上のものは無い。
  ↑
この部分だ。
【月下咆哮】。
他の三人にしても【断罪の無限牢】【破滅の引き金】【天河狂潤】とやはり括弧で括られた謎の言葉で称されている。
実は謎でも何でもなくこれらはRPGロワの参戦作であるサモンナイト3に出てくる究極の召喚獣の必殺技の名前である。
それがわざわざ紹介文に記載されているのだ。
スヴェルグには思い当たることがあった。
即ち、魔石化。
死ぬ時に力のみをこの世に残す幻獣のように、自分達RPGロワの書き手も強力な召喚アイテムと化すのではないか?
まさかと思って殺してみればビンゴだった。
いつの間にか消えていたアイギスの死体の代わりに自らの手中に納まった石を掲げる。

「召喚、勇者アイギス!!」

ふと、大地に影が落ちる。
召喚という言葉通りに何か呼び出したのかと思い、天を仰ぎ見た6代目は絶句した。
何か、どころではない。
そこには夜空があった。
当の前に過ぎ去ったはずの暗闇が世界を包み、幾多もの物語が紡がれた後に昇るはずの月が狂ったように輝いていた。

そして――

「ウオォォォォォォォオオオオオオオオオン!!!」

月を背に死神が舞い降りる。
軽やかにそれでいて猛々しく。
その姿は炎を鬣とし、異様なまでに筋肉を発達させた白い百獣の王。
細部に違いはあれどもサモンナイト3で猛威を振るった究極召喚獣が一匹、牙王アイギスに他ならない。

「末席といえど我がロワの重要書き手。中々の力ある召喚獣だ」

その重要な上位書き手を自らの手で切り捨てたというのにスヴェルグの顔には一切の悔やみも悲しみも無かった。
カルマルートに進むためにわざと味方を戦闘不能に追い込みまくった。
スヴェルグにとっては裏切り行為とはその程度の認識でしかないのだ。

「そんな、そんなくだらないものの為にかけがえの無い仲間を殺したっていうのかよ!!」

常に浮かべていた余裕をかなぐり捨てて6代目は叫ぶ。
自分が望んでも再び手には入れられなかったもの。
それを自ら何の感慨も無く斬り捨てた狂人が許せなかった。

「ふん、なんとでも言うがいい。もっとも、これ以上貴様が言葉を発することは不可能だがな!!」

――【月下咆哮】。
10メートルを優に超える巨獣の咆哮が大地に亀裂を走らせ、地の底よりマグマを呼び寄せる。
怒りに任せ殴りかかろうとした6代目だったが、その為に踏み込みをかけた地面が運悪く崩落しバランスを損なう。
咄嗟の判断で後ろに跳躍して地割れから逃れようとするも、大地が砕ける速度の方が僅かに速い!!

「ゲームオーバーだ」

ジ・エンド。
一際重い響きを乗せて獣が吼えきった後には脚のやり場の無い灼熱の溶岩地獄しか残っていなかった。
誰がここがタウンエリアだと言われて信じようか?
ボルケーノエリアだと言われたほうがよっぽど納得しやすい惨状がそこには広がっていた。

「こんなもんか。燃費が激しいのが欠点だがその分攻撃範囲は広い。お釣りは来るか」

未だ現界したままのアイギスの肩の上でスヴェルグは試し撃ちがまずまずの結果を出したことに満足する。
けれども上機嫌でいることが許されたのはほんの数秒だけだった。

「ここで選択肢(クイズ)だ、ゲーム脳……」

声が、響く。
地の底よりたった今葬り去ったはずの男の声が。

「本当に悪と断じる相手には俺はどうすればいい?」
「!?」
「1.殴り倒す」

地割れから飛び出してきた人影をスヴェルグが捉えた次の瞬間、信じられないことが起きた。
50メートルを悠に越す牙王アイギスが小柄な人間の放った拳をうけてふらついたのだ。

「2.切り伏せる」

衝撃は更に続く。
反撃とばかりに振り下ろされたはずの牙王の爪が左腕ごと切り飛ばされ宙を舞う。
最適角度と最適速度で正確に振りぬかれた形見のバンダナは、巨獣の豪腕をも容易に切り裂いてみせた。

「3.ブレインダムド」

次の手を指示しようとしたスヴェルグに6代目の声が狙い過たず突き刺さる。
魔法により〝複雑に思考をする力"を壊されたスヴェルグは一瞬判断につまり、命令を下されなかったアイギスは動きを止める。
その大きすぎる隙を前にして、6代目は遂に本命の一撃へと攻撃を移行する!

「4.覇王翔吼拳を使わざるを得ない!」

晴天の空の下であって尚、その腕を包む温かみを帯びた光は一際目立つものだった。
力強く、物悲しく、それでいて豪華絢爛な輝き。
明日を照らし切り開く為の力が今、6代目のもとに集う。
傍目にもその熱量は『月下咆哮』を軽く上回っている。

「化け物め!」

仲間を殺してまで手に入れた究極なはずの力が全く及びそうにない光景を前にしてスヴェルグが悲鳴を上げる。

「書き手さ。豪華絢爛にしか生きられない、すごい漢だ」

偽りの夜を覆すべく生まれた小さな太陽が、タウンエリアの片隅に堕ちた。

自己顕示欲の塊だった溶岩は更なる高熱に焼かれ姿を消していた。
散々な目に合ってきたタウンエリアだがようやく落ち着きを取り戻せた……訳ではなかった。
どばどばどば~。
どんどん水浸しになっていくタウンエリア。
『月下咆哮』で砕かれた上に覇王翔吼拳を叩き込まれたエリア中央部の地盤は完全に粉塵と化し、結果空いた大穴から海水が漏れこんで来ているのである。

そこまでしたのに肝心のスヴェルグは取り逃がしてしまった。

「……逃げられちゃったか」

『約束』の加護を与えて撃ち出した覇王翔吼拳は、しかし、獲物を焼き払うことは無かった。
召喚獣アイギスを盾にして稼いだ僅かな時間で狂人は支給品の力により姿を眩ましたのだ。

「う~ん、まあしょうがないかな」

勇者アイギスの奮闘は6代目の心を動かしきるには至らなかった。
目の前でありありと見せ付けられた裏切りは再び6代目に孤高を選ばせるのに十分なものだった。
スヴェルグは再会したら即殺決定だが、わざわざ自分から探してまで殺すつもりは無い。
自分はあくまでも放送担当であり、今はまだ主催者側の人間だ。
書き手ロワを終らせるという役目も、他の誰かが動いてくれているうちは大手を振ってやるつもりはない。

「悪いね、アイギス。まあ結構楽しい時間だったし、あんたの最後やあのトカゲのことはRPGロワの人達に知らせといてあげるよ」

背を向けて片手をひらひらと振った際に握ったままだったバンダナが風に攫われ天に舞う。

「じゃあな、最強」

死んだ主の魂を追うように遥か空へと昇り逝く布切れに別れを告げて、6代目は水邪の力により海水を制御しながらどこかへと歩いていった。

【勇者アイギス@RPGロワ 死亡】

【一日目 午前 水没するタウンエリア中央】
【FLASHの人 六代目◆FHFOUvdj5Q @アケロワ】
【状態】ダメージ(小)
【装備】放送用インカム(放送用、主催通話用の切り替えスイッチあり)、いつの間にか握っていた紙
【持物】基本支給品、ラジカセ、CD数枚
【思考】
基本:この書き手ロワをGAME OVERへと導く
1:放送役続行。ただし組みたいと思える人がいればスタンス問わず仲間になってみたい
2:RPGロワ勢に会ったらアイギスとスヴェルグのことを話す。
※外見はニーギ・ゴージャスブルー@式神の城2ですが、男です。アケロワ関係の剣術、格闘術、魔法などが使えます。
※主催側の人間ですが、普通の参加者となんら差はありません。首輪もしています。
※放送を任されています、六代目の気分で放送の有無が変わります。
※六代目が殺害された場合「止めを刺した人間」に放送権が移ります。
※『サイキョーの伝説』:我道翔吼拳による遠距離攻撃。当たった瞬間に相手の補助効果・状態異常の類をリセットして素の状態に戻す。
※『約束』:敵討ち時に覇王翔吼拳の威力を数倍に引き上げる。




クラールヴィントによりワストランドエリアへと退避したスヴェルグは痛々しい傷を負ってしまった尻尾を見やる。
覇王翔吼拳の余波は究極召喚獣越しにすら届いていた。
砕けた鱗からは命の証である血液が流れ落ち、筋繊維が覗いている。
トカゲのような姿をしてはいるが、どうやら簡単に尻尾は切り捨てられないらしい。
とはいえ見かけがトカゲな為分かりにくいが、スヴェルグは既に落ち着きを取り戻していた。。
6代目の圧倒的過ぎる能力が災い(?)してRPGではお約束の強制敗北イベントだとスヴェルグは踏んだからだ。
そしてお約束といえばそのクリア方法もまた簡単だ。
召喚獣集めだ。
古今東西FFだろうがテイルズだろうがちょっと違うがWAだろうがイベントを進める手段として慣れ親しんだ道程である。
本来ならばわざわざ遠くの町にまで赴いて情報を集めたりする必要があるが、今の彼にはクラールヴィントがある。
アイギスの姿を捉えたように隣接エリアくらいまでなら見通せるだろう。
空間転移に関してはテレポート系列がロワ本編で大活躍なRPGロワ書き手故に制限を受けていないのも大きい。
思いのほか早く残り二つの魔石もゲットできそうだ。

ただ、スヴェルグはあえて最速ターンで魔石を集めようとは思わなかった。
RPG系統のゲームでは仲間にできるはずのキャラを味方にできない代わりに強力なアイテムを手に入れられるイベントはよくある話だが、
そこには一つの罠が仕掛けられていることも多いからだ。
即ち余りに早期の味方キャラ大量虐殺によるバッドエンド直行フラグ。
スヴェルグが目指しているのはあくまでもゲームのクリアな為、中途半端で終わる系のエンディングは御免だった。

「勝手に両方ともくたばっていてくれれば大助かりなんだがな」

幸いにもその願いの半分が叶っていることを、狂人はまだ知りはしなかった。


【一日目 午前/ワストランドエリア】
【狂人スヴェルグ@RPGロワ】
【状態】ゲーム脳。 肉体・精神疲労(大)
【装備】“神を斬獲せし者”@AAAロワ、ヘルダイバー@漫画ロワ、魔石『勇者アイギス』、クラールヴィント@アニロワ1
【道具】支給品一式
【思考】
基本:バトルロワイアルというゲームのルールに従い、クリアする。
1:このゲームを楽しむ。
2:急ぎ過ぎない範囲でRPGロワの書き手を殺して魔石を得る。
※外見は トカ@WILDARMS 2nd IGNITION です。
※魔石『勇者アイギス』:炎を纏った白い巨大な虎のような獣を呼び出し、地割れと溶岩により攻撃させる。
            一定時間出しっぱなしにもできるもよう。

おまけ


その頃、歴戦の歩兵の脚についていけず置いてきぼりを食らう形になってしまった脱力の救世主

「むう。いくら私が女性崇拝者だという説もあるシロッコの姿をしているとはいえ、流石に君のその姿はどうかと思うぞ?」
「笑うなー! いつかあんたをアバレタイムピンクにして仕返ししてやるー!」

同じくスヴェルグにまんまと逃げられ追いかけていたイエローと出会いコントを繰り広げていた。

【一日目 午前 タウンエリア東部】
【脱力の救世主@二次スパ】
【状態】健康。まだ辛さが舌に残ってるぞおい。
【装備】なし
【道具】支給品一式、コーヒーセット一式、
【思考】基本:検討中
1:いや、ほんとどうしよ?。
【備考】『修羅王』がゾフィーに変身できることを知りました。
※外見はパプテマス・シロッコ。

【夜明けのイエロー◆Z5wk4/jklI@戦隊ロワ
【状態】健康、1時間獣人体への変身不可、キュアイエロー
【装備】ピンキーキャッシュ@オールロワ
【持ち物】基本支給品×2、レフトハンドソード@サガロワ、不明支給品1~4
【思考】
基本:戦隊ロワのために戦い抜き、その魅力を知らしめる
1:ウィスクゥとさすらいのヒーローを追い、戦隊へ引き込む。
2:強い怒り。ロぉぉぉン……じゃない、主催者ぁああ!
3:スヴェルグどこ行ったー! あとコーヒー黙れー!
※外見はメレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー。出血するかどうかは、後続の方に任せます。
※キュアイエローのコスチュームは、黄色つながりでキュアレモネードのものです。

時系列順で読む


投下順で読む


ぼんくらじお番外編 FLASHの人 六代目  ?
パチパチ! はじける獣拳 狂人スヴェルグ  ?
パチパチ! はじける獣拳 夜明けのイエロー  ?
ぼんくらじお番外編 脱力の救世主  ?
今にも落ちてきそうな空の下で 勇者アイギス

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年11月05日 21:34
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。