武蔵×提督5-279

「そんな、こんなことって?!」
「や、ヤバっ! まずいでコレは!」

軽空母2名が悲鳴を上げる。実戦経験がほとんど無い新人たちの実地訓練を兼ね、北方海域の
巡視任務についているこの戦隊。その引率役として提督から指名された二人はそこそこ以上の経
験の持ち主であり、それゆえにこの状況の危険さを理解していた。
彼女たちが放った艦載機による先制第一波。本来ならこの一撃で敵艦隊は半壊だ。個艦として
も傷つき、隊列も乱した状態の敵艦隊は経験不足の艦娘たちにとっては絶好の訓練目標。そうし
て新人たちの実力の底上げを、という意図で送り込まれたこの戦隊だったのだが……。

送り込んだ艦載機たちは、いったいどうしたことか、ほとんど何の戦果も上げることができな
かったのだ。体力の衰えもなく、戦列も乱さず、急速に距離を詰めてくる深海棲艦たち。本来は
この海域はかなり精強な敵が潜むエリア。経験不足の駆逐艦娘・軽巡娘たちにどうにか出来るよ
うな相手ではない。

「こうなったら……ウチらのせなあかんこと、解っとるな!」
「は、……はい! 私達で少しでも奴らを食い止めましょう」

脆い武装、乙女の柔肌。それでも己の武装の使い方もよく解っていない彼女たちよりはまだマ
シ。自分たち二人が蹂躙されるのは覚悟の上、せめて彼女たちを少しでも逃してやらねば。まだ
幼なさを残す軽空母2名の横顔に悲壮な決意が浮かぶ。

敵の先頭艦の、そしてそれに伴って後続艦から放たれる発砲の閃光。次の瞬間、この周囲は硝
煙まみれの水しぶきと爆熱に埋め尽くされる……はずだった。



が。

「どうやら、私の出番のようだな」

着弾の衝撃に耐えようと身を縮めていた二人の視界に飛び込んできたのは、先程まで背後に控
えていた大柄な艦娘。薄い金髪に鋭い視線、大胆に晒した褐色肌が描く優美な曲線美。彼女自身
の大柄さに負けず劣らずの巨大な武装は、彼女が並大抵の艦娘ではないことを視覚的にも否応も
なく示している。

「む、武蔵はん?!」
「あなただってまだ、鎮守府に着任したばかりじゃ」

軽空母二人の声を、武蔵は軽く手で制した。

「確かに私はまだこの武装を使いこなせてはいない。しかし、皆が退避するまでの時間稼ぎくら
いは出来るつもりだ。なに、私は大和型改良二番艦。こんな巡洋艦クラスの攻撃ですぐにどうに
かなるほどヤワには出来ていない」

視線をわずかに緩めて微笑む武蔵。たしかに敵の先ほどの一斉射撃も、彼女はその掌で受け止
めている。

「判ったで、……武蔵はん、ちょっとだけ頼むわ」
「みんなの撤退の準備が整うまで、少しだけお願いします」
「任された」

後方海上で恐慌に怯え竦む艦娘たちをまとめに走り去る軽空母2名。次射の態勢へ移行しよう
と綺麗な弧を海面に描く敵艦隊を一瞥し、武蔵は軽く笑った。
あの日に比べればこの程度の攻撃など蚊の一刺しと大差ない。誰一人ここを通しはしない、と。

鎮守府、艦隊司令室。
軽く蝶番を鳴らして扉が開き、出撃から戻ってきた艦娘一同が提督の前に並ぶ。
定数6名。出撃したときの顔ぶれが全員無事に揃っている。

「事情は聞いている。……お疲れさま。みんな、今晩はゆっくり休んでくれ」

そう提督に言われ、ぞろぞろと司令室を出ていく艦娘たち。いや、ちらちらと何か言いたげに
部屋に残る者に目線を送ってはいるのだが。その残った者、すなわち艦娘・武蔵は出ていく彼女
たちに軽く笑顔で手を振った。ぺこりと頭を下げて出ていくのは駆逐艦娘か。

「……で、だ。この武蔵、提督には言いたいことがある」

自分と提督以外の全員が部屋を出ていき、扉が閉められた後で武蔵は切り出した。

「先に聞いておきたいが、今回の作戦、立案したのは誰だ?」
「俺だ」
「こういう編成にしたのは誰だ?」
「……俺だ」
「ふむ。昨日の出撃時は正規空母1、軽空母3の編成に育成艦をつけての出撃だったそうだな。
そのときならば何の問題もなくあの子たちに経験を積ませてやれた、そうだな?」
「……ああ」
「それならそのまま今日の編成も組めばいいものを、入渠許可を出すのを忘れていて怪我した飛
龍をそのまま放置していた。そうだな? 可哀想に、あいつ今朝も痛めた肘を庇っていたぞ」
「……うむ」
「その上に、育成艦枠を一隻ぶん増やすために隼鷹を外した。理由はなんだ? 思いつきか? 
『自分が行かなくて大丈夫なのか』と隼鷹の奴が相当心配していたぞ。それでその穴埋めにつぎ
こんだのが自分か。戦艦と正規空母の違いくらい知ってる筈だろう、貴様くらいの経験があるの
なら。どうだ?」
「……面目ない」
「その戦力不足が招いた危機を、我が身を盾にしてカバーしてやったのは誰だ?」
「……君だ」
「聞こえないな」
「君だ」
「君、じゃない。きちんと名前で呼んでもらおうか、今回の殊勲者の名前だ」
「……武蔵、おかげで助かった」

その言葉に、にんまりと武蔵は笑みを浮かべる。
はじめからそう素直に出ていれば、苛めてやろうなんて思わないのに。内心そう思いつつ。

司令のデスクの端に武蔵はその豊かな腰を降ろす。おしりのラインがデスクの角を包むように
歪むのも、おそらく提督の目からはよく見えることだろう。
す、と、優美な曲線を描くそのしなやかな腕を伸ばす。提督の目の前に手の甲を近づけて。

「治せ」
「え?」
「見えないのか。今日の戦いで、私の手の甲に傷がついた」

確かにそうだ。手の甲に、筋状にわずかに皮が剥けているのが判る。

「しかし、治せと言われても。入渠許可を出せと」

いうなら出すぞ、と言いかけて提督は次の言葉を飲み込んだ。武蔵の目が笑っていない。まだ
付き合いは短いが、こうなったときの彼女は本当に危険だ。

「……提督は知らないのか?」
「何を、だ」
「童話だ」
「どういう、ことだ?」
「お姫さまのバッドステータス解除には王子様のキスと、相場は決まっているだろう」

誰が王子で誰が姫だ、とくに姫が……などという言葉は、むろん口に出せるわけもない。そん
なことを口にしたなら入渠するのは自分のほうだ。それくらいは判る。

身をかがめ、武蔵の手の甲に唇を寄せる。
……触れた。かすかな産毛の感触。なめらかな女の肌。触れた感触に「ぴくり」と彼女が反応
したのも、肌を通して伝わる腱の動きで判る。

「ゆっくり、丁寧にな」

その肌の表面にわずかに刻まれた傷にそって、提督は舌先を這わせる。わずかに視線をあげて
武蔵の表情を伺うと、……目を閉じ、かすかに眉を歪めて。

「次はこちらだ」

武蔵が身を捩る。腕を組み、その豊満な乳房を組んだ腕で持ち上げる。

「こちら……というと?」
「ここだ」

脇腹か。弾片がかすめていった跡か、さらしの合間から覗く褐色の肌に走る浅い傷。

「ここを?」
「そうだ」

その声にかすかに艶がのっていたのを、提督も、武蔵本人も気づいているや否や。
脇腹の肌に、提督は舌を這わせる。

「んっ……、うん、そうだ……っ」

さすがにずっと敏感な部位だ。そこで異性の存在を……そう、艦娘・武蔵にとって既に提督は
ひとりの異性になっていた……感じる。敏感な柔肌で、敏感な唇を、舌を感じる。
浅い傷口に提督の舌先が触れるたび、武蔵の身体に走る甘い痺れ。抑えているつもりなのだが
それでもかすかに吐息に声が乗ってしまうことまでは止められない。その声音がまるで、女の淫
らな呻き声に聞こえてしまうようで、そんな声をこの刺激で漏らしてしまう自分自身がそもそも
淫らな生き物のようで……。
机についた手、その手がいつの間にか机の天板の端を強く握っていることに武蔵は気づいてい
ない。本当はその動作自体、自分の「おんな」を呼び覚まそうとする雄の背中を掻い抱く行為の
代償でしかないことにもまだ気づいてはいない。

いつの間にかずいぶん荒くなった吐息の合間から、武蔵は提督に「もういい」と呼びかける。

「そうか」

そういって立ち上がる提督に、武蔵はデスクから滑り下りて近寄る。提督と合わせた目線は離
さぬままに。猫科動物のようなしなやかさを、その視線から、その肢体から、提督は一瞬感じた
のだが、その意識は次の瞬間別の刺激に揺さぶられることになる。

「?!」

第二種軍装の白ズボン。その「前」の上に武蔵の手がある。優美にしなやかににじり寄ってき
た動きそのままに男の急所を抑えられ、回避も防御もできなかった。

リンネル地を通して伝わってくる怒張の熱、存在感に、武蔵は満足気に笑みを浮かべていた。
自分だけが色めいているのだとしたら悔しい、提督もその気になっていたのが嬉しかった、そう
後になって気づくのだが、この時点では玩具を見つけた子供のような感覚で笑みがこぼれたにす
ぎないと、彼女はそう思っていた。

「あ、おい、こら、やめ」

提督の制止の言葉がろくに育たないうちに、するすると武蔵は提督の「それ」を外気に晒す。
「それ」はズボンから取り出される勢いに乗って激しく屹立していた。艦娘……いや、女の身に
はない器官。砲弾のように固く、ボイラーのように熱い。そしてどくどくと脈打つその存在感は、
巨大な艦船をぐいぐいと進ませるタービンよりもはるかに上だ。提督の、否、この男という存在
のいちばん重要な部分が、いま自分の前にさらされている。そう感覚が告げている。

熱に浮かされたような意識の合間合間に、言葉を繋ぐ。

「提督、……厳しいことは言ったが、それでも私も貴様を認めないわけでは、ない」

上目遣いに提督の顔を見上げながら。

「この、『これ』を見れば判る。余計なこともせず、我々が戻るのを心配して待っていたのだろ
う? 疲れると尚更激しくなると言うしな」

そう言いつつ、肉柱をゆるゆるとその手で撫でる。
うっ、と上から漏らされた声が、武蔵のなかをくすぐってくる。

「不注意と慢心で我々を危険に晒したのは罰に値する、そして……心配して待っていてくれたの
は、立派に褒美に値する」

唇を、肉柱の頂点に寄せる。普段ならあまり嗅ぎたいとは思わない匂いなのに、不思議と武蔵
の胸中には嫌悪感は涌いてこない。
わずかに湿ったその肉柱に、すっと舌を這わせる。「ううっ」と、さっきよりもはっきりと漏
らされる提督の声。

判るぞ、……心地よいのだろう?
ビクビクするほどに心地よいのだろう?

こうして、貴様のナニの先を私が舐めてやることが。熱い肉の柱を私が撫ぜてやることが。私
の口の中でその先端を含んでやることが。私が提督にしてやることが。心地よいのだろう? 気
持ち良いのだろう? 
ほら、先を少し強めに吸うと、貴様の腰がびくんと跳ねる。
ほら、柱をせわしくしごいてやると、貴様のこの柱がますます熱くなる。
触れたいのか? 私に触れたいのか? 駄目だぞ、今日はまだ駄目だ。 今日ここで全てを委
ねるほど私は安くはないぞ、でも……貴様が男としての悦びにふるえているのは、それを私が操
っているのは、それはとてもうれしいことで。

そう。貴様を悦ばせるのは、貴様に悦ばされるのは、私だけでいい。



一気に雁首の周りを撫ぜる速度を早める。這い回る舌の動きを高める。

びくん、ビクン、びくん……間欠的に肉柱から伝わってくる痙攣が一気に激しくなって。
その肉柱の先端を、武蔵は綺麗に口中に含む。おとこが果てる、その瞬間を。

「う、ううっ、くっ、う、……出る、いくぞ、うっ」

その提督の言葉と同時に、武蔵の口中に撒き散らされる熱い迸り。
びくん、びくん、と痙攣をつづけながら、そのたびにどくんどくんと肉柱の先端から吐き出さ
れる「それ」。匂いも口中の感覚も日頃見慣れるようなモノではないとはいえ。
こくん。 自然に、武蔵は「それ」を喉の奥に押しやった。
愛する男のとまではゆかずとも、自分が吐き出させた精の当然の受け止め方だと彼女は思った。




半分魂が抜けたような顔で呆然と提督は突っ立っている。

「前、いい加減仕舞え。仕置も褒美も終わりだぞ」
「……あ、ぁ、ああ」
「しゃきっとしろ。この後もまだ仕事は残っているのだろう? 私は入渠してくる、後のことは
任せたからな」

軽く提督の肩をたたいて、武蔵は司令官室の扉を出ていった。







その数時間後、船渠からの資材伝票に書き込まれた数字に目を覚まされるまで提督が夢見心地
だったことまでは、詳しくは触れないでおくことにする。

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最終更新:2013年12月10日 18:06