非エロ:提督×吹雪15-521

某トンデモ軍艦ゲーのおまけステージで思いついたネタ
※非エロ。吹雪とデートするだけ


提督は多忙である。
鎮守府の運営や資材調達。艦娘やその装備の開発及び強化計画の立案。
演習や遠征、何より実際の深海棲艦との戦闘とその業務は多岐にわたり、それ以外にも艦娘達のケアもまた提督の仕事である。

例え戦闘以外はほぼルーチンワークでも、艦娘や装備の開発が資材突っ込んでボタン押してお祈りするだけでも、
こちらから艦隊を送り込むのでなければオーダー表を提出するだけの演習でもだ。

「あ~今日なんもやることないな。遠征組帰ってくるまで暇だな」
「目安箱に何件か投函されてますよ」
……多忙ったら多忙なのである。

この艦隊では上層部からの指示により艦娘達から提督への相談のため目安箱を設置していた。
この目安箱の中身をチェックするのも提督の業務の一環である。
これまで特にトラブルのないこの艦隊では、この目安箱が活躍することは稀だった。

「英独ソが一つ屋根の下で仲良くやってるのもよく考えたらすごいことだよな」
等と独り言を呟いているうちに今日も昨日までと同じ時間に吹雪が目安箱を持ってきた。
艦隊の規模も最初の頃と比べるとかなり大きくなり、最古参である吹雪も秘書を務めることは少なくなったが、
毎日決まった時間に目安箱を回収してくるのは今でも彼女の役割だった。

「珍しいな」
そう軽く驚きながら目安箱をひっくり返して中身を机の上に広げる提督。
取りあえず手近にあった1枚を読み上げてみる。


最近大井っちが魚雷に私の名前を付けて可愛がりはじめた。メンテしながら語りかけたりしていて正直引く。


「これ……北上だな」
「北上さんですね」
一応プライバシー保護の点から記名は任意となっているが、匿名でも誰なのか分かるケースが多い。

「夜のトイレで撃たれそうな気がするが一応やんわりと大井に伝えておこう……」
「北上さんから引かれてると分かったら立ち直れなそうですが…」
方針が決まった所で2枚目へ。

魚雷バカに改二があり、夜戦バカにも改二があり、重巡バカにも改二が実装された今、
この航戦バカの私にはいつ改二が来るのだろうか。


「……たぶん日向さんですね」
「……知るか」
回答を保留して3枚目へ。


正統派アイドル路線で売り出したは良いものの『恋の2-4-11』以降あまり目立てていません。
これからはバラエティータレント路線に切り替えた方が良いでしょうか?


「割と真面目に進路相談ですね」
「マネージャーに相談してくれ」
4枚目へ。


ファンクラブの方から最近面識が一切無いにも拘らず那珂ちゃんの育ての親を名乗り、それを使って商売をしている人がいるというたれ込みがありました。
川内姉さんはマイナスイメージにならないのであれば放っておいてもいいのではと言っていますが、
後々トラブルの原因になりそうな問題は早期に対処したいとも考えています。
法律関係も含め、どのような対応が必要でしょうか。


「神通さんマネージャーだったんですね」
「プロダクションに相談してくれ」
取りあえず法律関係については必要なら弁護士を紹介することにして最後の相談へ。


豚肉(肩ロース)
人参
玉ねぎ
じゃがいも


「何だこれ?」
「買い物メモ……ですかね?」
何の相談か全くわからないそれは、他の2通が便箋なのに対し、小さなメモ紙に上記の内容が走り書きされていた。
成程、吹雪の言う通り買い物の内容を書いたメモにも思える。

暫くして提督に一人思い当たる人物があった。

「ああ。鳳翔さんか。きっと買い物メモを間違えて入れたんだろう」
「どうします?ご本人に返してきますか?」
吹雪の問いに少し考えてから提督が答える。
「いや、どうせ暇だし散歩がてら俺が買って来よう。暇なら一緒にどうだ?」
「えっ?あ、はい!ご一緒します!」
……多忙なのである。

買い出しに向かったのは近所の商店街。大型チェーン店の出店によりシャッター通り化の著しい場所だが、その分生き残った店は安くなっている。
「こうして二人で歩くのも久しぶりだな」
「そうですね……」
吹雪は顔をやや俯かせてはにかんでいる。

提督は吹雪の歩幅に合わせ速度を落として歩いている。
まだ艦隊に吹雪しかいなかった頃、二人で出かけた時にも提督は同じように歩幅を合わせていた。
それに初めて吹雪が気付いた時が今では随分前の様に思えるが、提督の歩く速さはその時と全く変わっていない。

(司令官、私の歩く速さ覚えててくれたんだ)
嬉しいような、こそばゆいような気がして、吹雪の口元が少し緩む。
「顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」
「えっ!?い、いえ!!何でもありません!」
(恋人同士って、こういう事するのかな…?)
提督の言葉を否定しながらも、吹雪の頬は赤く染まっていた。

「公園突っ切ろう。こっちの方が近道だ」
二人が中に入った公園には真ん中に大きな池があり、その岸を歩いて対岸に回れば外の道を通るより近道になる。
夏は日差しを遮り、秋には落ち葉で情緒を演出した植え込みの木も、すっかり冬の装いとなって静かな池に寂しげな印象を与えている―ある一点を除いて。

「お、アヒルだ」
丁度提督と吹雪が通りかかった頃、植え込みから池に岸辺を横断するアヒルの一隊を見つけた。
親鳥と思われる白いアヒルは歩く度に尻をふりふりと動かし、その後ろから黄色い三羽の雛たちが小さな体でちょこちょこと後に続く。
「可愛いですね!」
吹雪が弾んだ声を上げる。
アヒルたちは立ち止まった二人の前を横切って池に入っていき、最後の一羽がどういう訳か渡り終えたところで吹雪の方にちょこんと頭を下げたように見えた。

「~~~~~~~~ッ!?」
提督の隣から声にならない悶絶が聞こえた。
吹雪の目には少女漫画よろしく目に星が入っている。

暫くアヒルたちを堪能した後、その後ろ姿を目で追っている吹雪に斜め前から声がかかった。
「そろそろ行こうか」
「あ、ああ、はっ、はい!」
慌てて振り返り歩き出した拍子に何かに足を取られた。
「わっ!?」
「おっと」
危うく転びそうになった吹雪を提督がしっかりと捕まえていた。
しかしその姿はまるで、吹雪が提督に抱き着いてるようになる訳で。

「大丈夫か?」
「すっ、すすすいません!吹雪は大丈夫です!」
その状況に気付き、耳まで真っ赤になった吹雪が提督から慌てて離れる。
混乱のあまり榛名みたいな口調になっている。

白いセーラー服に真っ赤な顔というマッチ棒のような状態で公園を抜けた吹雪と提督は、そのまま買い出しに向かう。
「肩ロースお待ちどう!そっちは娘さん?」
「いえ、娘という訳では…」

肉屋の主と提督とのやり取りに思わずふと考え込む吹雪。
(私と司令官ってどう見えてるんだろう?)
親子と言うには近すぎて、兄妹と言うには離れすぎてもいる。
提督と艦娘と言わなければ、色々勘ぐられてしまうかもしれない。

(勘ぐられるって、何を?)
(何をって、それは―)
自問自答の末に辿り着いた答えは、とても既に傾いているとはいえ太陽の下で言えるような言葉ではない。
自分の想像に再びマッチ棒になる吹雪。

(ちっ、違います!私と司令官はただの提督と艦娘であってその関係は健全そのものであって決してそういうその……淫らな事…とか……そんな…っ!!とにかく健全ですっ!)

「よし。これで買い物は終りょ―」
自問自答で赤面している吹雪の、その更に後ろに提督の鋭い視線が飛ぶ。
「司令…官……?」
「誰かに見られている気がしたが……気のせいか」
そう言われて吹雪も辺りを見回すが、特にそれと言って怪しいところは無い。
提督の言葉通り、気のせいだったのだろうか。

鎮守府へ戻る道すがら、再び入った公園内で、不意に提督は持っていた八百屋のビニール袋を吹雪に渡し、脇道へ入っていく。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっとトイレにな」
そう言って姿を消したまま、提督は戻ってこなかった。

(遅いなぁ……)
曇り始めた空の下、池のほとりにあるベンチに腰掛けて待ち続けている吹雪。
待てど暮らせど提督は戻ってこない。

(ちょっと見に行ってみよう)
左手に預かった八百屋のビニール袋、右手に肉屋のビニール袋を持って提督の進んで行った方へ進んでいく吹雪。
暫くして彼女の耳に男が言い争うような声が聞こえてきたが、それを聞いた途端、吹雪は無意識に走り出していた。
(司令官の声だ!)

間に合わなければ二度と彼と会えなくなってしまうような不安に襲われ、それから逃げるように足を全力で動かす。
(待ってください!行かないで!司令官!!)
茂みの向こうに彼の頭が見えた時、丁度道が終わり彼の前に飛び出した。
「司令か……ん…?」

言い争っていたのは彼と
「だから誤解だって言ってるでしょう!さっき身分証も見せましたよね!?」
「ですからお話を伺うために車までご同行ください」
「何故パトカーに連れていく必要が?ここでできない話じゃないでしょう?」
「すぐ終わりますからご同行願います」
二人の警官だった。

「あの~、司令官?」
「おお吹雪!丁度いいところに来てくれた!誤解を解いてくれ、誘拐犯だと思われてる」
「ああ君が通報にあった子だね。この人は知り合い?」
(私を巡って事案が発生している!?)

吹雪の不安はある意味正しかった。
間に合わなければ次に会うのは色々面倒になっただろう。

「あの、この人はかくかくしかじかで…」
吹雪の証言によってようやく疑いが晴れた提督はほっと胸をなでおろす。
警官によれば「目つきの鋭い男が中学生ぐらいの女の子を連れ歩いている」という通報があったらしい。
恐らく、商店街で感じた視線がその通報者だろう。

「いや~良かった良かった。ありがとうな吹雪。助かったよ」
「いえ。あの…」
提督の言葉に吹雪は申し訳なさそうに告げる。
「すいません。私がついてきちゃったから…」
「気にするな。誘ったのは俺だ。それに―」
言いかけた提督の頭にぽつりと雨粒が落ち、すぐにバケツをひっくり返したような土砂降りとなった。

「いかん、来い」
「えっ!?ちょ、司令官!?」
咄嗟に吹雪の手を掴み、一番近い出口へと駆けだした。

「ありがとうございましたー」
出口のすぐ前にあったコンビニに駆け込みビニール傘を買った二人。
だが、問題は傘の数だ。

「まさか最後の一本だったとはな」
店側の発注ミスか、大して量を置いていなかったビニール傘は突然の雨で一瞬のうちに在庫を払底したようだった。
「まあ一本でも手に入ってよかったか」
シュボッと勢いよく傘を開いた提督はそれを左手に持つと、吹雪から再び受け取った野菜を右手に持った。

「ほら、入んな」
「しっ、失礼します!」
傘の左側端っこに、おずおずと吹雪が入った。
(あいあい傘!?司令官と!?こ、これはあくまで傘が一つしかないから仕方なくであって司令官の厚意に甘えているのであって、あいあい傘というあの……そういう感じのあれではなくって…)
この世界全てに冷やかされているようでどうにも恥ずかしい。

「あの……やっぱりお気持ちだけで十分です!艦娘は濡れるのは慣れっこですし。その、傘小さいから司令官が濡れてしまいますし……ご迷惑、でしょうし……」
俯きながら、最後の方はほとんど聞き取れないような小声で断る。

その言葉に返ってきたのは、ふん、という小さいため息ひとつ。
「俺は一度もお前を迷惑だなんて思ったことは無いぞ」
頭の上から諭すような口調が降ってくる。
「さっきのはただ運が悪かっただけだ。だから気にするな。それに……」
少し間を空け、もったいぶったような、恥ずかしいような口調で続く。

「好きな娘に頼られるというのはなかなかいい気分だからな」
「!!!!」
吹雪の頭に電撃が迸った。
好きな娘。好きな娘。間違いなくそう言われた。好きな娘―。

「わっ、私も……私も……司令官の事……す…」
「?」
「す……すごく信頼しています!」

まっすぐ前は向けない。
右隣はもっと向けない。
だから、伏し目のまま、今言える精一杯。

「そいつは、嬉しいね」
頭の上から響いた言葉通りの口調の声に、吹雪は右側に体を寄せ、車道側を同じ歩幅で歩く彼の腕にぴったりと密着する。
冷たい雨の中、小さな傘の中だけが温かかった。

おまけという名の蛇足

「鳳翔さん、目安箱に入っていたもの買ってきましたよ」
「目安箱……ですか?いえ。私は何もいれていませんよ」
帰ってきた二人を待っていたのは、鳳翔の意外な返事だった。

「えっ、じゃあ誰が……」
顔を見合わせる二人の後ろから駆け寄る者が一人。

「提督ー!あの、目安箱なんですけど……」
「比叡さん?」
「比叡か。目安箱がどうした?」

駆け寄ってきた比叡は肩で息をしながら慌てて尋ねる。
「あっ、あの、目安箱に間違えて買い物メモ入れちゃって……あっ!それ!買って来てくれちゃったんですか!?すいません!!」
「なに、暇だったんだ気にするな。代金は後でいいぞ」
「ていうか、比叡さんだったんですね」

深々と頭を下げた比叡が、財布を取り出しながら補足する。
「すいません。カレーを作ろうと思って必要なものをメモしてたんですが……」
「「……え?」」

耳に届く、残酷な真実。
「お二人には腕によりをかけて特性比叡カレーご馳走します!」
「「ひええええええーっ!?」」
二人の絶叫が鎮守府にこだました。

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吹雪
最終更新:2014年12月26日 21:33