タブンネ親子セット

ヒウンシティの繁華街から、ちょっと小路を入ったところに
知る人ぞ知るタブンネ料理のお店があります。その名を『ヘルタブンネ』。

カウンター数席とテーブル2席の小さなお店ですが、半年先まで予約で一杯だとか。
御主人はタブ虐が高じてこの道に入り、どうすれば一番美味しく
タブンネを食べられるか、日々研究し続けているとの事です。
今日は特別に、この店一番人気の『タブンネ親子セット』の調理過程を見せていただきましょう。

店の一隅には煉瓦製の窯があり、そこに鎖で縛られたタブンネが1匹連れられて来ました。
「何をするの、放しなさいよ!」とばかりにミィミィ騒いでいますね。
それをかついで窯の中にいれ、首だけが出るようにした鉄製の蓋が被せられました。
そして足元に薪を入れて火をつければ準備はOK。
下の方が熱くなってきたタブンネは「ミッ!ミーッ!」とやかましいですが、
それも次の料理のエッセンスの一部なのだそうです。

まずは食前酒として『タブンネの涙』が出されました。
貴重品なので水割りなのだそうですが、それでも濃厚な甘さが口の中に広がります。
カウンターでは御主人が、ベビンネを2匹用意しています。
1匹はさいみんじゅつで眠らされており、幸せそうに眠っていますね。
起きているもう1匹の方はチィチィ騒いでいますが、透明なプラスチック製の
四角い筒の中に入れられました。狭くてほとんど身動きできず「チィチィ!」と叫ぶだけのようです。
一体、どのような料理になるのでしょうか。

眠っている方のベビンネを皿の上に乗せた御主人は、剃刀と包丁を取り出しました。
まず剃刀でベビンネの腹部の毛を全部剃り落とした上で、包丁でスッと切れ目を入れます。
腹の肉を綺麗に切って取り除くのですが、動脈を巧みに避けているので、血が少しも出ません。
そして心臓と肺だけを避けて、内臓を切り分ければできあがり。
一品目『ベビンネの活け造り』の出来上がりです。

早速箸をつけてみるとしましょう。新鮮な臓物は適度な歯ごたえがありながら、
肉とは思えない甘みがあります。噛んでいると舌の上でとろけて、口の中に香りが広がります。
腹の肉も脂が乗っていてかなりいけます。素晴らしい味わいですね。
御主人のこだわりとして、生後一週間のまだ乳しか飲んでいないベビンネを使うのだとか。
木の実を食うようになってからでは、この味は出せないのだそうです。

そして我々が活け造りを堪能している間、窯で焼かれているタブンネが
「ミヒィ!ミヒィーッ!」と泣き叫んでいるようですね。
よっぽど熱いのかと思ったらそれだけではなく、料理されたベビンネの母親なのだそうです。
子供が目の前で腹を割かれて、食われる様子を見せ付けることによって、
極上のミィアドレナリンが分泌されるのだとか。

内臓を平らげた我々に、御主人は面白いおまけがあるとおっしゃいます。
腹がカラッポになったベビンネの耳元でパンと手を叩くと、ベビンネがビクンと目を覚ましました。
目をこすりながら起きようとしています。どうやら内臓がなくなっているのに生きているようですね。
名人の板前が活け造りにした魚を、水槽に放り込んだら泳ぎ出すというのを聞いたことがありますが、
御主人もそれをタブンネでできないかと思い立ち、あれこれ試行錯誤してようやく成功したのだそうです。
事も無げにおっしゃいますが、何百匹ものタブンネを切り刻み、苦労の末に会得されたのでしょう。

ベビンネは起き上がろうとしますが、内蔵も腹筋もなくなっているのでうまく起き上がれません。
それでも尻尾を使って反動で何とか立ち上がりました。バランスが取れずフラフラしていますね。
なるほど、これがおまけですね。なかなか可愛らしく滑稽な見世物です。
内臓が空っぽで、背骨に心臓と肺だけがくっついているだけなのに、
それでも生きているベビンネの生命力と、何より御主人の包丁捌きには感服するしかありません。

その内母親タブンネの悲鳴に気づき、「チィッ!」と叫びますが、もはや立っているのも難しく
皿の上にバッタリ倒れてしまいました。チィチィ泣き叫んでいますが、もう立てないようです。
これは後の料理で使うとかでしばらく放置するそうです。

次に御主人は、先程もう1匹のベビンネを入れておいた透明なプラスチック製の筒を手に取りました。
よく見ると足元の方には、1マスが約5ミリくらいの細かい網目の金網がつけてあります。
そして筒と同じくらいの面積の板がついた棒を手に取り、筒の天井の方からグッと押しました。
「ミキュゥゥ!」
押し込まれたベビンネは悲鳴を上げますが、御主人はさらに力を込めて棒を押します。
「チィィィィギヒィィィィィィ!!」
すると足元の金網の目から、ところてんのように細い麺状になったベビンネの肉が押し出されてきました。
なるほど、このプラスチックの筒は、ところてんの天突き器だったというわけですね。
「ピギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!」
上から押し潰され、足の方から細かくスライスされていくベビンネの甲高い絶叫が長く続きます。
細断された肉がある程度の量になったところで、皿に盛り付けて酢醤油をかけて完成。
二品目『ベビンネところてん』です。

いただいてみましょう。なるほど、まさしく感触はところてん。つるりと喉へ流れ込んでいきます。
ただ飲み込むのも勿体無いので噛んでみると、高級肉のような肉汁が溢れ出てきました。
言ってみればただの生肉なのに、噛めば噛むほど濃厚な味が湧いて出てきます。
これもまたミィアドレナリンの成せる業なのだそうです。
ベビンネの地獄の苦しみと引き換えに、この絶品の喉越しと味わいが生み出されるというわけですね。

御主人が天突き器の止め具を外すと、ベビンネは漫画のように四角いブロック形になっています。
「フィ、フィィ…」おっ、まだ生きていますね。
上半身がほとんど押し潰され、残り半分がところてん化したというのに、すごい生命力です。
そして御主人は、ところてんベビンネと、先ほどの生け造りベビンネをつまみ上げました。
母親タブンネに見せ付けてから、沸騰した鍋の中に放り込みます。
「ヂィィィィ!」「フィィィ……」「ミヒィィーーーッ!!」親子3匹の悲鳴が交差します。

と言っても、ベビンネ2匹の方は内臓なし&圧縮状態でもはや瀕死。たちまち声は途絶えました。
母親タブンネも、被せられた蓋の隙間から濛々と煙が上がり、もはや時間の問題なのですが、
ベビンネ達の最期を見せ付けられた上に、自分の胴体も焼かれる二重の拷問に
「ミビィィィギャァァァァ!!!」と、喉も裂けんばかりに泣き叫び続けています。
この店に集うタブンネ食通やタブ虐愛好家にとっては正にメシウマ。
この悲鳴によって、ますます食欲が湧いてくるのだそうです。

そしてほどなく母親タブンネが息絶えたところで、窯の火が止められました。
太い鉄串で突き刺されて窯から出された母親タブンネの首を切断した御主人は、
こんがり焼かれた腹の肉を豪快に切り取り、皿に盛り付けます。
そしてベビンネを煮込んだスープを添えて完成です。
三品目のメインディッシュ『ローストタブンネのミィミィスープ添え』です。

実に美味しそうです。早速いただきましょう。
ロースト肉は、もうなんと表現したらいいか、わからないほどの旨さです。
香りといい歯応えといい肉汁の濃厚さといい、箸が全く止まりません。一生食べ続けていたいと思えるほどです。
そして合間にミィミィスープもすすってみます。一見するとただの白湯のようなのですが、
これがまた絶妙な味わい、肉の脂をさっぱりと洗い流してくれるので、また肉を食べたくなります。
気がつけば仕事も忘れて3皿目のお代わりをしていました。私としたことが……。
これではタブンネのようなぽってりお腹になってしまいますね。

お店では他にもおつまみとして『からしタブンネ』や『凍みタブンネ』など
各地の郷土タブンネ料理も楽しめるそうです。
「タブ虐だけではなく、そこから生まれる味わいを一人でも多くの人に知っていただきたい。
 また、私が知らない新たな調理法があれば、是非教えていただきたい。
 私はお客様と喜びを分かち合いつつ、共に成長していきたいのです」と熱く語る御主人。
みなさんも一度是非足を運んでみてはいかがでしょうか。

(終わり)

  • おいしそうだな -- (名無しさん) 2015-09-05 18:51:37
  • 作者GJ -- (名無しさん) 2015-09-05 18:52:02
  • 面白い -- (名無しさん) 2016-07-17 23:48:40
  • おいしそう! -- (名無しさん) 2017-02-28 07:32:59
  • これ面白いwww -- (名無しさん) 2017-03-16 07:10:53
  • お腹が空いてきた… -- (名無しさん) 2017-05-01 20:18:30
  • お腹空いた -- (名無しさん) 2017-06-13 07:29:58
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最終更新:2014年06月19日 23:01