二重影 ◆F0cKheEiqE



ドッペルゲンゲル【Doppelganger】
(ドッペルゲンガーとも)
1:生き写し。分身。
2:自身の姿を自分で目にする幻覚現象。

『広辞苑』より―――







巌流、佐々木小次郎は驚愕していた。
月下の路上、『自分自身』と対面したからである。

沖田総司に逃げられた後、
ようやくを森を抜け、街道に出る事が出来た小次郎は、
相手を求めて南下し、城下へと向かう積りで居た。

しかし、いざ南へ向かわんとしたその時である。
小次郎の背中を、名状しがたい妖気が突き抜けた。

はっとして振り向けば、一人の男が北より歩いて来るのが見える。

長い何かを背負った、長い髪の男である。
暗闇で、この距離ではまだ顔がよく解らない。

(ふふ、丁度いい・・・)

小次郎は、体の向きを反転させると、
自ら男の方へ近づいて行く。

総司に虚仮にされた鬱憤を、
北より来る男を嬲り殺しにして晴らすつもりなのだ。

しかし…

「うっ!?」

月光により男の顔が明らかになる。
それを見るや否や、小次郎は呻いた。
彼の視線の先にいるのは自分自身の分身であった。
『それ』は自分よりもはるかに年を食っている。
『それ』の顔面の右半分は醜く潰れている。

しかし『それ』は確かに己自身であった。
他ならぬ自分自身の事である。
自分が一番知っているのは言うまでもない。
それ故に理解できる。
理屈ではなく、心で、魂で理解できる。

目の前にいる男は確かに自分だ。


自分が見ている。
自分を見ている。
自分を見つめている。


気が付けば両者は目と鼻の先の距離で対峙していた。

片方は長髪の美青年。
片方は、顔の半分を失った美丈夫。
格好も年も違う二人だが、
恐ろしく良く似ている。まるで鏡写しのように。
その二人が見つめ合っている。
一方は青ざめた表情で、
一方は彫像の様な動かぬ表情で、
互いに見つめ合っている…


『ドッペルゲンガー』という怪現象がある。

ドイツ語の「ドッペル (doppel)」は、
英語の「ダブル (double)」に該当し、
その存在は、自分と瓜二つではあるが、邪悪なものだという意味を含んでいる。

以上の意味から、自分の姿を第三者が違うところで見るまたは、
自分で違う自分を見る現象のことである。

この怪現象は現在では心理学、生理学の分野で、
ある種の精神の病気として研究が進んでいるが、
本来はドイツにおける民間伝承であった。

曰く、もう一人の自分は死神であり、
見た人物の死を予兆していると言い、
また、その人物は自分の分身によって殺されるのだと言う。

では、この場合、影なのは果たしてどちらだ?



「妖怪っ!」

正気に戻るや否や、小次郎は抜刀していた。

眼前の存在に対する理由の無い嫌悪感が、
沸き立つように体に充満している。

何故かは解らなかった。
ただ、無性に、目の前の存在の消滅を小次郎の魂は望んでいた。

何故気に食わないのか解らない。
しかし、自分と同じ姿をした、この「醜い」男が、
今こうして自分の目の前で息をしている事に恐怖と怒りを覚えていた。

それは己の存在に対する根源的な恐怖であった。

鏡の中の自分が、自分自身の影が、
独り歩きして自分のようにふるまっていたとすれば、
人はそれを殺そうとするだろう。

自分の存在を根っこから揺さぶる、
自分のお同位存在を、常人は許容できまい。

故に小次郎は、抜刀するや否や飛びかかった。

剣は大上段。
「燕返し」を仕掛ける!

(得物を抜く暇さえ与えん!)
相手は既に自分の間合の中。
初撃で決まれば真っ向唐竹割り、
たとえ相手が避けても太刀筋は反転し、
逆流してくる二撃目が相手を下から割る。

しかし相手は小次郎の予想を超えた『妖怪』であった。

男の右手が閃いたかと思えば、
「三メートル」の長刀は鞘から解放されていた。

小次郎の初撃はこれに弾き飛ばされる。

「クウッ!?」
(弾かれた!?しかしこれで終わりでは無いっ!)

弾き飛ばされた太刀筋が空中で反転し、
流星の如く男に襲いかかる。

しかしここで小次郎の第二の誤算、
男の長刀は、なんと小次郎の太刀筋とそっくりそのまま同じに、
反転して小次郎に襲い掛かって来たのである。

二人の男が、二つの太刀筋が、ガッと交錯する。
そして・・・・


「がぁぁぁぁぁぁっ!」
地に臥したのは、果たして小次郎の方であった。

同一人物の勝負である。
だとすれば、経験がより多く、武蔵による敗北を経験した、
『佐々木小次郎』の方に軍配が上がるのは自然であった。

小次郎は死んではいなかった。
死んではいないが…

「ぐぉぉぉぉぉっ!」
小次郎の顔の左側には、恐ろしく大きな裂傷が出来ていた。
左目はもはや使い物になるまい。

激痛に顔面を血まみれにしながら地にのたうつ小次郎を尻目に、
男は長刀を鞘に戻すや、何事もなかったかのように小次郎に背を向け、
すたすたと道を南下していく。

『小次郎』には自分の同位存在すら眼中に無い。
彼が求めるのは、宮本武蔵ただ一人のみ!

【はノ参/路上/一日目 黎明】

【佐々木小次郎@異説剣豪伝奇 武蔵伝】
【状態】:健康、武蔵への強い敵愾心
【装備】:直刀・黒漆平文太刀拵
【所持品】:支給品一式
【思考】 :武蔵を倒す
1:武蔵を探す
2:立ちふさがる者は全て斬る
【備考】
※人別帖を見ていますが、
武蔵の事しか頭に残っていません






「ぐぉぉぉぉっ・・・ぐぉぉぉぉぉっ!」
小次郎は左顔面を手で押さえながら、
凄まじい叫び声をあげて地に蹲っていたが、

「ぐぉぉぉぉっ、ぐぉぉぉぉっ!」
「ぐぉぉぉぉっ、ぐぉぉぉぉっ!」
「ぐぉぉぉぉっ、ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「ぐっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「 ぐ わ  ぉ ぉ っ ! 」

阿修羅如き形相で突如立ち上がった。

「ぐわぉぉっ!どいつもこいつも、俺を虚仮にしやがってぇぇぇっ!」
「殺してやる!どいつもこいつも皆殺しだぁぁぁっ!」

左顔面と、首元を血まみれにした小次郎の形相はもはや人間の者では無い。
まさに悪鬼その物である。

小次郎は地に落ちた打ち刀を拾うや否や、
方向も確かめずに闇雲に走り出した。

もはや理性など消し飛んでいる。
今の小次郎は野獣と言っても過言ではない。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…」

「 コ ロ ス ゥ ッ !!」

今宵、新たなる修羅が生まれた。

【はノ参/路上/一日目 黎明】

【佐々木小次郎@史実】
【状態】軽傷(のどに打撲)、左目失明、出血、極度の精神錯乱
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:参加者をすべて倒して最強を示す
一:コロスコロスコロス…
【備考】
※沖田の名前を知りません
※佐々木小次郎(傷)の名前を知りません
※宮本武蔵のことを覚えていないようです
※完全暴走状態です。理性は消し飛んでいます。





二人の小次郎の立ち合いを、屈木頑乃助は冷徹に見つめていた。
藪の中から、まるで蝦蟇の様に地に伏して二人を窺っていた頑乃助だが、
『小次郎』が去り、「小次郎」が何処へと走りだした後に、
むくりと藪から首を出した。

その後、蝦蟇が取った行動は…

【はノ参/藪の中/一日目 黎明】

【屈木頑乃助@駿河御前試合】
【状態】健康
【装備】木刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:死合に勝ち残り、勝者の褒美として千加を娶る。手段は選ばない。
一:???
※頑乃助の行動指針は、次の書き手にお任せします。

※原作試合開始直前からの参戦です。
※総司、小次郎の太刀筋をある程度把握しました。
※小次郎及び総司の名前は知りません。


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蘇る巌流 佐々木小次郎(傷) [[]]
天才剣士二様 佐々木小次郎 鳥獣戯剣
夢見る蝦蟇は、大地に伏す 屈木頑乃助 鳥獣戯剣

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最終更新:2009年03月28日 23:56