暗雲◆OBLG3wT6B.
薄く雲の掛かりだした月の下を少女、
魂魄妖夢は歩いていた。
へろな村と仁七村どちらに向かうかは一先ず街道に出てから決めようと考えた彼女は、
現在ほノ陸の街道を歩いている。
どちらの村に向かっているかと言うと、街道に出た彼女は結局、異変解決には勘がつき物と,
自らの直感に従い仁七村に向かう事に決めたのであった。
理由はどうであれ、行き先を定めた妖夢は足早に仁七村へと向かっていたのだが、
視線の先に大小二つの人影が歩いているのを見かけると、
二人に追いつくために飛んで行くことにして…
「飛べない…」
今まで彼女は目立たぬようにと歩いて移動していたので、
自らに掛けられた制限には気付かなかったのだが、いざ飛び立とうという段になって
自分の体に異常が起きていることに気が付いたのだ。
「もしかして弾幕も撃てなくなっているのかしら…?」
突如、自分の体に起こった異常に不安を覚えながらも妖夢は何時もの様に、
剣から自身が最も得意とする鱗形の弾幕を撃とうとしたが失敗に終わった。
それでは他のものはどうかと、自分が出せる弾幕を一通り試したが、
結局弾幕を撃つことは出来なかった。
今までに無かった事態に焦りながらも、これも異変の内なのかもしれないと考え、
自分の体に起こった異常の検証を続ける。
「こんな状態じゃ、あれも無理だろうけど一応確認しておくか…」
”あれ”とは半霊を自分の姿に変形させる技なのだが、この技は精神を落ち着かせ
集中しなければならず、まだ半人前の妖夢では普段でも持って十秒が限界なので
今の状態では到底出来ないだろうと思っていたが、とりあえず確認とばかりに
精神を落ち着かせ…
「一瞬だけ変わった!」
どうにか半霊の姿を変える事は出来そうなので、さらに集中し何度か試すと
3秒程は半霊の姿を変えたままでも維持すること出来ると分かった。
しかし、半霊の姿を変えるのに掛かる時間はいつもと変わらず2秒程度なのだが、
変形の直後の疲労感は普段より強く、戦闘中に多用は出来そうに無かった。
「何でか分からないけど、飛べない上に弾幕も撃てないわ」
「それに一応、半霊の姿は変えられたけど、やたらと疲れるし」
飛行能力と弾幕が使えなくなり多少の不安と困惑を抱える妖夢だが、これも異変の内と
諦めてからは、半霊の状態を確認していたが、それもひと段落した頃に半霊が
そわそわしだしたと思い周囲を見渡すと、先程まで前を歩いていた二人がすぐ近くまで
来ている事に気付いたのだった。
◆
仁七村へと向かい街道沿いに進んでいた吉宗と小兵衛だが、
自分の達の後方に気配と僅かな物音を感じると、歩みを止めた。
「はて?今何か物音がなさりませんでしたかな」
「……そういわれると僅かだが何か物音がしたかもしれん」
「行ってみますかのう?」
「いや、今は船を押さえるのが先だ」
「しかし、船は仁七村の他にもあるやもしれませぬし、人が居るかもしれぬならば
其方へ行ってからでも遅くないのでは?」
「確かに船が一隻しか無いという道理はないが…
まあ其処まで言うのなら船は音の正体を確かめに行ってからにしよう」
こうして妖夢の居る方向へと歩き出した吉宗と小兵衛は、奇妙な光景を目にする。
少し歩いたところで見えてきた二つの人影が、何故か何も無いところで、走ったり
跳んだりしているのだ。そして、さらに近づいて行くと人影の正体が少女である事は
分かったのだが、さっきまで二人居たたはずが今は一人になっていた。
その代わりに、少女の周りを人の頭ほどの白い物体が付き纏うように漂っているのだが、
次の瞬間に、その白い物体が少女と同じ姿に変わったのであった。
「あれは何なんだ!」
「うむ。妖魔の類ですかな?それにしては童女の姿をしておりますが…」
あまりに奇妙な光景に混乱した二人は、不用意に近付きすぎて妖夢の半霊に
気付かれたのであった。
◆
「あなた達は殺し合いをしているの?」
周囲のことを忘れ半霊の状態を確認していた妖夢もまた、
突然現れた二人に対して戸惑いを隠せずに、こんな質問を投げかけた。
普段の彼女なら異変の際は、斬って回れば首謀者に辿り着けるなどと物騒なことを考え、
実際に終わらない宴会の異変の時などは、斬れば判ると言いながら
怪しい人物を襲っているのだが、今回は突然の事態に対応できずに
言葉が先に出てしまった様だった。
「余はこの様な御前試合は認めぬし、勿論人を殺して回る気は無い」
未だ困惑している吉宗は、妖魔の類かも知れぬ者に対して律儀に返答し、
ようやく其の事に思い至ったのか
「余のことはいい。それよりそちは妖魔か何かなのか?」
漸く怪しい少女の正体を問いただしたのだった。
「私は半人半霊。生きているけど死んでいる存在ね。妖魔が何かは知らないけど、
私は半分は人よ」
「それと、私は人間からしたら理解できない存在かもしれないけど、
私もこの異変の解決が目的で、試合なんてする気が無いのは確かよ」
「半人半霊とな。ならばお前が人の部分で、其処に浮いておる白い物が
霊の部分とでもいうのかの」
「そうよ」
「ふむ。確かにその白い物からはこの世の物とは思えない気配がするがの…」
今まで黙って妖夢と半霊を観察していた小兵衛は、妖夢に白い物体の事を問いただすと、
彼女が臆面も無く質問の内容を肯定するので、浮世離れした半霊の存在からも、
彼女が本当に半人半霊であると信じても良い気になるのであった。
「上様。この童女は見たところ試合をする気も無いようですし、
ここは一つこの童女と情報の交換をしませぬか?」
「そうだな。何か変わった存在である事は確かなようだし、興味もあるしの」
「私もそれで良いわ。異変の首謀者は分かっているんだから斬って回る必要もないしね」
話が纏まると小兵衛から順に吉宗、妖夢と名乗っていった。
「して、妖夢は半人半霊と言っておたが、わしは長く生きておるがその様な存在は
聞いた事が無いのじゃが…」
「それは仕方ないわ。私は幻想郷からここに連れてこられたんですから…」
緊張が解けたのか、小兵衛が失踪した祖父とどこか似た雰囲気をしているからかは
分からないが、幾分柔らかくなった口調でそう答えると、小兵衛と吉宗は
揃って首を傾げるのであった。
「幻想郷というのは…」
妖夢は幻想郷について、人間と妖怪が共存している事や、妖夢が幻想郷の中に在る
冥界の白玉楼の西行寺幽々子というお嬢様に仕えている事、
幻想郷では弾幕ごっこという遊びが少女達の間で流行っていて、
決められたルールの中で人間と妖怪が決闘している事、
力の有る妖怪が偶に異変を起こしては弾幕ごっこで退治されている事、
妖夢も異変の片棒を担いで退治された経験がある事、
妖夢自身も異変を解決したことがある事などを語った。
さらに、まとめて先ほどの行動の理由についても説明を施した。
「なんと俄かには信じられないことを…」
「……嘘にしては話が出来すぎておるが、真のこととも思えぬの」
「だがそれで先ほどの光景にも納得がゆくな。そちの半霊を人の部分と同じ姿に
変えていたとはな…」
「うむ。それにその様な国があるのならば、黒幕が死者を甦らせられたとしても
不思議ではなくなるの」
「妖怪と人間が共存しているというのも驚くべきことじゃな」
「ああ。それに妖怪がそちの様に童女や女の姿をしているというのも…」
余りにも自分たちの常識からかけ離れた妖夢の話に、二人は取り留めない感想を言いながら、考えを巡らせるのだった。
(尾張藩が異界から妖を呼び寄せたり、死者を甦らせる事等出来るとは思わぬが、
尾張藩が妖術を使うものと繋がっているのかもしれぬ。そうなれば益々陰謀を暴かねば
後々に大きな災いを呼ぶことになるだろう)
(この吉宗も黒幕が甦らせた本物かも知れぬが、何か隠しておるようだしの、
妖夢のように人外の者という事も考えられる。もう少し様子をみておくかの)
「それと、一つ聞いておくが、妖夢は主催者に心当たりはないのだな?」
「はい。この様な事を起こせそうな人とういうか妖怪は知っていますが、
その方は私もよく知っていいるので、最初に少年が殺された場には居なかったと断言できます」
妖夢が主催者に心当たりがない事まで聞くと、異界の、それも人外の者が
試合に混じっている事を半信半疑とはいえ理解した二人は、
自分達が今の時点で主催者について考えても無駄と判断し、これからの方針を考え始めた。
「さて、もう今この場で考えられることは少ないだろう。どうじゃろう、
妖夢よもう一度そこの半霊の姿を変えてはくれぬか?」
「いいですけど、疲れるので一度だけですよ…」
そう言うと妖夢は精神を集中し半霊を自分の姿に変えるのであった。
「…確かにこの様なものを見せられてはいよいよ、お前の言葉を信じねばならぬな」
間近で妖夢の半霊が彼女の姿に変わるのを見た小兵衛はそう呟くと、吉宗も頷くのであった。
「普段は楼観剣と白楼剣と言う二振りの刀を使って弾幕を出しているから、
その二本が見つかれば弾幕も使えるようになるかもしれないのですが…」
「ならば、余らと共にこの陰謀の主の正体を探らぬか?
弾幕と言うのがどういったものかは分からんが、
道中でその楼観剣と白楼剣と言う刀も一緒に探してやろう」
「小兵衛もそれでいいな」
愛用の刀があればと、力なく呟く妖夢に対し吉宗は、同行を申し出たのだった。
「はい。それがしも妖夢との同行を考えおりました」
「それに元来の力が出せぬとはいえ、お前ぐらいの身の丈でその様な長物を
見事に扱っている所をみると、流石に首謀者を斬ると言うだけの事はある。実力も十分じゃろう」
どことなく祖父に似ている、目の前の小粋な翁に褒められた事もあってか、
「そうね。異変の解決は何も一人でしなければならない訳でもないし、
私の方こそ宜しくお願いします」
主である幽々子と満月の異変を解決した時の事を思い出しながら、妖夢はそう答えたのだった。
「さて、これから如何しますかな?」
「一先ず最初の目的を果たすために、仁七村へ行こう」
「人外の者を異界から連れ来れるような者が、船で外へ逃げられるようにしておるとは思えぬが、
船を確保しておいて損はないだろう」
「私もそれで良いわ。元から仁七村へ行くつもりだったし。」
「それと、お二人の話を聞かせてくれませんか?」
三人は行き先を定めると、残りの情報交換をしながら仁七村を目指すのであった。
様々な思いを胸に…
(徳川の為、ひいては日本の為にもこの御前試合を止めねば…)
(人外の者まで紛れておったか。この試合の黒幕は底が知れん。もっと情報を集めねばな…)
(幽々子様…)
◆
次第に月に掛かる雲が濃くなっていくなか、三人はその事に気付かない。月に叢雲花に風
という諺が表す通り、好事には何かと邪魔が入るものだ。三人の主催者打倒という「好事」に
血の雨が降るような事がなければいいのだが…
【
徳川吉宗@暴れん坊将軍(テレビドラマ)】
【状態】健康
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:主催者の陰謀を暴く。
一:仁七村に行って舟を押さえる。
二:小兵衛と妖夢を守る。
【備考】
※この御前試合が尾張藩と尾張柳生の陰謀だと疑っています。
※御前試合の首謀者と尾張藩、尾張柳生が結託していると疑っています
【
秋山小兵衛@剣客商売(小説)】
【状態】健康
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:情報を集める。
一:仁七村へ行く
二:吉宗を観察して本物か騙りか見極める。
三:妖夢以外にも異界から連れて来られた者や、人外の者が居るか調べる
【備考】
※御前試合の参加者が主催者によって甦らされた死者かもしれないと思っています。
※一方で、過去の剣客を名乗る者たちが主催者の手下である可能性も考えています。
※御前試合の首謀者が妖術の類を使用できると確信しました。
※御前試合の参加者が主催者によって甦らされた死者だという考えが強くなりました。
【魂魄妖夢@東方Project】
【状態】健康
【装備】無名・九字兼定
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:首謀者を斬ってこの異変を解決する
一:仁七村へ行く
二:愛用の刀を取り戻す
三:自分の体に起こった異常について調べたい
【備考】
※東方妖々夢以降からの参戦です。
※自身に掛けられた制限に気付きました。
制限については、飛行能力と弾幕については完全に使用できませんが、半霊の変形能力
は妖夢の使用する技として、3秒の制限付きで使用出来ます。
また変形能力は制限として使う負荷が大きくなっているので、
戦闘では2時間に1度程しか使えません。
※妖夢は楼観剣と白楼剣があれば弾幕が使えるようになるかもしれないと思っています。
【半霊の変形能力について】
東方萃夢想、東方緋想天の魂符 「幽明の苦輪」、魂魄 「幽明求聞持聡明の法」
をスペルカードなしで使えるようにしたものです。
自分の行動をなぞって動きます。また、半霊の方は色が少し薄くなるので見分けられます。
参考動画
ttp://www.youtube.com/watch?v=5E-nTkrCBm0
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最終更新:2009年08月31日 02:25