夢十夜――第二夜『喪神/金の龍』――◆F0cKheEiqE
どしゃり―――
と、何か重たい物が、地面に落ちる音が響き、続けて、
びしゃり―――
と、水か、あるいは水を多分に含んだ何かが、地面にまき散らされる音が響いた。
まき散らされた水が、液体が、地面へと音も無く広がり、そして吸い込まれていく。
液体は、水よりも遥かに濃い粘質の物で、鉄錆びた異臭を放っていた。
それは大量の血液であった。
土がむき出しの地面に転がった物は大きく二種類。
大きな何かの塊と、それから延びたり散らばったりした、
細く長い何かや、小さな塊の数々であった。
小さかったり、長かったりするものの色は、赤であったり、
青であったり、黒であったりしたが、総じて何か粘質の液体に覆われ、生温かく、微かな湯気を放っている。
鉄錆びた異臭と、排泄物の悪臭が、混ざって立ち上った。
それは、臓物であった。
それは、下半身と泣き別れになった、誰かの上半身であった。
左肩口から一文字に、右の腰まで綺麗に通った一太刀に、その人物は肉体を両断されていた。
上半身と別れた下半身は、上半身より少し離れた所に転がっていた。
そんな誰かを、見下ろす一つの影がある。
影の右手には抜き身の段平一つ。切っ先からは滴る血の粒。
影は屈みこみ、転がった誰かの下半身の袴の裾で、
刀を濡らす血を拭い、パチリと、鞘に刀を納める。
そして影は、
ニィッ―――
と、薄く笑ったのであった。
◆
夜空を背に、二人の剣客が対峙している。
片や、柄を長くとった細身の居合太刀を腰間に下げた、凛々しく、年若き少女である。
片や、二本の太刀を差した、総髪、茶筅髷の、雄々しい風貌の老人である。
六、七間ほど間を開けて対峙していた二人であったが、
少女、左手を腰間に、右手を柄への居合腰、
老人、大刀二本差しの上方の柄頭に左の掌に乗せながらも、右手はだらりと下がったままで、
臨戦態勢の少女と比べれば、些か、戦いへの消極性を感じさせる有り様であった。
少女が、ズズイ、と殺気立ちながら摺り足で間合いを詰める。
老人、僅かに縮んだ間合いを広げながらも、しばし逡巡していた様子であったが、
「止むを得ぬな…」
と、些か薩摩訛りを感じさせる言葉をつむぐや否や、
鯉口を切り、刀をスラリと音も無く引き抜き、
右半開、切っ先を下に向けた、“逆八双”とでも言うべき独特の構えを取る。
「タイ捨流、
東郷重位」
老人の名乗りに応えて少女曰く、
「無双真伝流、
高嶺響」
少女、高嶺響は、憎悪の籠った瞳で、老人、東郷重位を睨みつけながら言った。
「人斬り…あなたを、斬る…」
両者の対峙は全くの偶然から始まった。
香坂しぐれを追う響と、
武田赤音を追う重位とが、
ばったりと交錯してしまった事に端を発する。
両者ともに、追うべき者の逃げ足が予想以上に素早く、
尚且つ両者ともに追跡の開始に些か出遅れた事もあって、
二人揃って標的に追いつけぬまま、互いに接触そてしまったのが不運であった。
特に、東郷重位にとっては不運であった。
響にとって、香坂しぐれの殺害は、必要事項であっても最優先事項では無い。
一方、重位に取って武田赤音の抹殺は、御留流の太刀筋を守る為にも、
何にもまして優先されねばならぬ使命であった。
当初、重位は響の隣を素通りし、赤音の追跡を続ける予定であった。
響の方も誰かを追っていたらしい事を、重位は気配で察していた。
響の方も自身の標的の追跡を優先するであろうし、
故にここでは、敢えて戦う必要は無いと、先方も判断するだろうと、重位は考えていた。
しかし、重位に取っては不運な事に、上記したが如く、
響にとって、香坂しぐれの殺害は、必要事項であっても最優先事項では無かった、と言う事である。
そして、響が、重位の体から立ち上る人斬りの気配、
瀬田宗次郎を斬った際に染みついた血臭を一見で感じ取り、
斬って捨てるべき修羅の輩と判断してしまった事は、重位にとってはさらなる不運であった。
鷹は鷹を知り、狼は狼を知り、虎は虎を知る様に、
達人は達人を知る。
響が一見にして重位の『危険性』を認識したように、
重位もまた、響が相当な『使い手』である事を喝破していた。
そして、彼女を斬らずして赤音を追う事が、余りに難しい事も、また…
(女子を…ましてやこのような娘を斬る剣では無いが…黙って見逃してくれる相手ではない)
(無視して撒くにしても、迂闊に背を曝せば一太刀でばっさり…娘ながら、それぐらいの腕はある相手よ)
言葉尻より察するに、勝負に乗っているとも思えぬ彼女が、
何故、重位に斯くも鋭い殺意を向けるのかは、彼には解らぬが、
剣士である以上、降りかかる火の粉は払わねばなるまい。
意を決した重位は、スルスルと間合いを詰める。
一方、響は居合腰のまま動かず、重位の一挙一動見逃すまいと鋭い双眸で睨みつけている。
(許せない…)
響は、東郷重位に激しい怒りを感じていた。
身に纏う血臭と、立ち居振る舞いに現れる強烈な殺気は、
男、東郷重位なる男が、この享楽的な催し物に参加した「人斬り」である事を如実に語っている。
これで既に二人目…
この「御前試合」ほうり込まれてまださして時間が経っていないにも関わらず、
相対した人間がことごとく人斬りとは…
この調子ではかの人別帖に記された剣士たちの一体どれほどが、
この茶番に付き合っているものか、先が思いやられ、陰々滅滅としてくる。
その反面、人斬り達への響の憎悪と、彼女の闘志は、弥が上にも高まりを見せる。
剣を玩具に淫する不埒者ども…残らず成敗してくれる。
そう、気炎を吐く響であったが、果たして彼女は気が付いているだろうか。
人斬りを許さぬ偏執的なまでの固陋なる精神、相手を人斬りとみるや容赦なく切り捨てる非情さ、
その有り様は、彼女が忌避する人斬り以上にあるいは人斬りのようである事に…
そんな双方の思惑をよそに、
否応無く、勝負は進み、双方の間合いは狭まる。
一たび必殺の意志を込めて剣を抜き放ってしまった以上は、
どちらか一方が血の海に沈まねばなるまい。それが立ち合いの摂理と言う物である。
双方の間は、すでに四間ほどになっていた。しかし刀の間合いには少し遠い。
柳生新陰流の「水月」にある様に、刀剣の射程範囲は、
自分の足さきからおおよそ三尺ほどであると言われる。
しかしこれはその場から動かなかった場合であって、踏み込みを行う場合はその限りで無い。
と、言えども四間はまだ双方共に遠い。
間が三間に詰まる。
その時、響が動く。
全身の筋肉が膨張し、右手が柄を掴む。
――『遠間にて斬る也』
無双真伝流の技の一つ。
俊足の、大股の踏み込みに乗せての横殴りの居合太刀。
常よりも遥かに長い射程を持つ彼女の居合太刀にとって、三間とは水月の内にも等しい。
相手の刀剣の射程外からの先制攻撃。これが響の算段。
そんな響にとっての誤算は、敵手、東郷重位もまた、同じだけの射程距離を持っていたという事。
正に一瞬。
彼女が居合を、その鞘の内から放たんとしたその瞬間、
すなわち、彼女の注意が、ほんの一刹那、重位から刀・技へと移った瞬間、
重位は『飛行』し、白刃は彼女の目前に迫っていた。
(なっ!?)
『飛行』といっても、実際に空を飛ぶのではない。
翔ぶが如く、踏み出す勢いで足を滑らすのである。
示現流と言えば、その稲妻の如き太刀先の速さと、
受け止めた相手の太刀ごと敵を両断する太刀先の力強さばかりが著名だが、
上記した二つと同様に恐ろしいのは、その踏み込みの鋭さと速さである。
示現流に熟達した剣士は、大動脈が脈を一つ打つ間という、ほんのわずかな短い時間の中で、
三間の距離を三歩の大股の『飛行』で詰める事が出来るのだと言う。
重位のそれは、正に『飛行』、『縮地』と呼ぶに相応しい、見事な寄せ足であった。
「クウッ!」
抜くには間合いも時間も足りぬ、そう判断した響は、
右逆袈裟に襲いかかる重位の太刀筋を柄頭で迎え撃つ。
ギンッ!
と、鋼同士がぶつかり合う甲高い音が鳴り、火花が散って、
柄頭が東郷の太刀を弾き飛ばす。
柄は斬り柄、柄頭は頑丈に造られた居合刀であったのが幸いした。
見事、重位の鋭い太刀筋を受け止めたのだ。
そのまま、パッと後ろへと後ずさる。
(チイッ!)
初撃を外された重位は思わず心中で呻く。
一刻も早く武田赤音を追わねばならぬと言う焦りが重位にはある。
故に、一撃で仕留めるべく、示現流の太刀筋の一部とも言ってもいい、
『飛行』を用いてまで繰り出した一撃が防がれてしまったが故である。
それは、『タイ』を捨てきれぬ重位の、無意識での踏み込みの甘さ故でもあったが、
示現流の太刀筋を前提に組まれた『飛行』の歩法と、タイ捨流の太刀筋の齟齬の為でもあった。
(エエイッ!)
太刀筋を封じられ、全力を出そうにも出せぬとは言え、それでもなお、やらねばならぬが武士の道。
一たび命を受ければ、腹を斬り、友を斬り、親を斬り、仏を斬る。
寡兵で大軍相手の殿をし、寄せ手を晦ます囮となり、段平一つで敵陣に食い込む…
それが、武士と言う生き物である。
毒づきながも、弾かれた太刀を右上段へと流し、二撃目を繰り出さんと足を詰める。
右上段からの袈裟掛け。今度は逃がさん!
しかし、そんな重位の目前で、響が取った行動は、
敵手に背を向けると言う物であった。
(!)
逃亡!?
否、この殺気は逃げる人間の出せるモノではない。
ならば罠か?
響の不可解な行動に、重位が『驚』の色を見せる。
普段の重位ならば、策ごと斬り下げんと、構わず飛び込み所を、
『タイ』を捨てきれぬが故に生じた一瞬の『見』の隙を、響は決して見逃さない。
響は、背を向けると同時に手繰り寄せた居合刀の柄頭を両の手で叩き、
後方へ疾風の如く押し込んだ。
――『水月を突く也』
敢えて背を見せることで相手の隙を誘い、
鞘の先で相手の水月(鳩尾)を突く技は、
響の体勢に合わせて、鳩尾では無く、重位の顎先を見事撃った。
その一撃は見事、重位の脳髄を振動せさしめ、
一瞬、ほんの一瞬、重位を『喪神』せさしめた。
これが勝負を行く末を決めた。
そして…
◆
こんな夢を見た。
◆
重位は不意に目を覚ました。
気が付けば、さる部屋の座布団の上で正座をしていた。
部屋、造りから察するに方丈であった。
畳張りの部屋の障子は全て開け放たれ、縁側と、一面が雪に包まれた庭が見える。
空にあるのは満月で、その月光は白雪に反射され、
外は、夜とは思えぬ、幻想的な青白い明るさに包まれていた。
しばし外を見ていた重位であったが、
正面に目を戻すと、自分の正面、少しばかり間を置いた場所に、
気配一つ無く、背を向けた坊主頭の僧形の男が座布団の上に胡坐を掻いていた。
その後姿には見覚えがあった。
部屋の間取りにも見覚えがあった。
この部屋は、京都西郊、保津川近くの万松山の天寧寺のそれに他ならない。
さすれば、自分の正面に座るこの男は…
僧形の坊主頭が振り向いた。
月明かりに曝された横顔は、年のころ三十程と見えた。
色白で鼻梁の高い、痩せ形の美僧であった。
「師匠…!」
呻く様に重位は低く叫んだ。
忘れるはずも無い、天真正自顕流が継承者、善吉書記、俗名・寺坂弥九郎政雅、
東郷重位の人生を変えた、剣の師匠その人であった。
「重位殿、久しいな」
そう言うと、善吉は微笑を浮かべながら重位の方へと向き直った。
天正十六年師走、杯を交わして別れて以来、時は流れる事既に二十年以上。
にも関わらず、善吉は容姿容貌が、別れを交わしたその時より一片たりとも変わってはいなかった。
「お久しゅうござる師匠!息災無い御様子で!」
重位は破顔した。京都と薩摩は余りに遠い。
二度と相まみえる事は出来ぬと思っていた師匠であった。
「うむ、大事無い。所で重位殿…」
相変わらず微笑みながらも、善吉の双眸に鋭い光が宿った。
「そこもと、随分と無様な有り様じゃの。故に、こうしてまかり出て来たわけじゃ」
「よもやジゲンを棄て、タイ捨の太刀を使うとは…」
その言葉を聞いた瞬間、思わず重位は平伏していた。
「師匠、これには故が御座る!断じて、ジゲンの太刀を軽んじておる訳ではござらぬ!」
何故、二十年以上手紙すら交わさなかった善吉が、
本人ですら天狗に攫われたとしか思えぬ仕業で参加した御前試合の様子を知っているのか――
その不自然さに気が付く事も無く、冷や汗を流しながら、重位は事の次第を述べた。
善吉は黙って重位の言葉を聞いていた。
そして、重位の言葉を全て聞き終えると微笑みながら言った。
「重位殿、封印を解かれい」
「さ、されど師匠、拙者には…」
「――『満』の心」
善吉の一言に、重位の動きが止まった。
「そこもとに問う。『満』の心とは如何なるものなりや」
「それば――」
重位、答えて曰く。
「『満』の心とは、当流の意地なり」
「『満』の字義、開く所、三千世界に満ち、つづむる所、方寸のうちにあることなり」
「『満』の心、それは万事を知らぬ、赤子の心に似たり」
「生まれいずるその時にあふれいずる、一代の威勢に似たり」
「貴人高家を恐れずして足蹴にする心なる」
「いかなる名剣をも、足に当たれば踏み折らんとする心なり」
「この心にあらば、如何なるモノとて、斬れぬモノは無きなり」
「生まれいずる所、はや死の始めなり」
「死すれば大界は我が心のままなり」
「これ兵法の第一の心得なり…」
「されば、再びそこもとに問わん」
「今のそこもとに、『満』の心、在りや無しや」
「・・・・・・」
この問いに、東郷重位、答うる事あたわず。
答えぬ重位に、善吉は言った。
「ジゲンを封じ、しがらみで心を封ずるそこもとには、『満』の心は決して宿らぬ」
「この心こそ、当流の意地故にじゃ」
「いや、今のそこもとには、相討ちの剣法に過ぎぬタイ捨の意地、
体を捨て、待を捨て、対を捨てる心すら宿る事はあるまい。今のそこもとに、この戦は勝てぬ」
「しかし、ジゲンの太刀筋を曝せば、この東郷重位の忠義が立ちませぬ!」
「ならば死ぬか?」
「…ッ!?」
「死んで無様を曝すか?現に今のままでは、そこもとは間違い無く死ぬ」
「それは…」
「そんなものが、東郷重位の、薩摩隼人の生き様か?」
重位は、二の句を次がず、着物の裾を握りしめた。
しばし沈黙が流れた。
沈黙を破ったのは、善吉であった。
「役目を全うするばかりが、忠義の示し方ではあるまい」
「そ、それは…?」
「それを考えるのは、そこもとであろう」
問う重位に、善吉は静かに答えた。
再びしばしの沈黙。しかし先程より、鈍く澱んだ時間が流れた。
「重位殿、立ち会えい」
善吉は、どこから取り出したモノか、ユスの木の木刀を、重位に手渡すと、
自身は立ち上がって、すたすたと庭先に向かう。
「されど師匠、外は…」
うず高く積った雪でござる…そう言おうとして、
重位は、はたと言葉を止めた。
いかなる怪異か、つい先ほどまで厚い白雪に覆われていた庭先は、
雪一つ無い地面を曝している。
それだけではない。
確かに師走の雪景色であった筈の外の様相が、
青葉も初々しい、さわやかな皐月の春景色に変貌していた。
変わらぬのは、ただ満月だけである。
その有り様は、善吉と重位が初めて会った日の景色に酷く似ていた。
両者は対峙した。
善吉は、ジゲン唯一無二の構え、トンボに構えた。
一方、重位は、木刀の鍔元を顎の前に寄せ、刀身を真っ直ぐ立てる、タイ捨流・無二剣の構えであった。
双方、スルスルと間合いを詰め、水月の間合いに達した時…
先に、太刀を繰り出したの重位であった。
そして、木刀を跳ね飛ばされ、前のめりに地に伏したのも重位であった。
ジゲン流、『満』の心より繰り出される雲耀之太刀であった。
地に伏しながら、重位は一瞬『喪神』し、
覚醒して立ち上がった時には、心は『初心』に帰っていた。
即ち、『満』の心――
「世話を掛けました師匠。お陰で、大事な物を思い出しました」
剣客同士――
太刀打ちを通じてしか解り得ぬ事がある。
重位は、善吉の雲耀之太刀を通じて、師匠の『思い』を受け取ったのである。
重位の言葉に、善吉は微笑みを以て返答した。
それで、心は通じた。
「来たようじゃな」
不意に、林の方へ目をやった善吉につられて、
重位もまた善吉の視線の先を見た。
そこのは一人の女武芸者が立っていた。
無双真伝流、高嶺響――
「ゆけい、重位殿」
言葉を受けて、重位は響きと対峙した。
その構えは、タイ捨流の物では無く…
「“示現流”、東郷重位、推参―――」
そこで、東郷重位は覚醒した。
現実時間に換算して、刹那に満たぬ師との再会であった。
◆
響は、『水月を突く也』を受け、たたら踏む重位に、追撃の一撃を仕掛けんとした。
『発勝する神気也』――
その一撃で、重位は血の海に沈む筈であった。
奥義を仕掛けんとした、正にその時、
一瞬の『喪神』より覚醒した重位には、先ほどとは別人の様な殺気が篭もり、
『キェェェェェェェェェェェェェェッ!』
猿叫一声!
並みの人間ならば是のみにて気死しかねぬ、
常軌を逸した気合いの一声に、響の体が刹那、金縛りにされる。
その最中、重位の構えは変わっていた。
柄を握った親指と人差し指は浮かせ、
中指は締めず緩めず、薬指、小指は締めて持つ、
右手を柄にやわかくそえる、タイ捨の構えより、
右の拳を耳の辺りにまで引き上げ、左手はただやわく添えた、
八双に似た構えへと――
金縛りの解けた響は、怯まず、再度奥義を仕掛けんとするも、
それは叶わなかった。
なぜならば、響は見たからだ。幻視したからだ。
それは――
(金の…ッ!?)
それは一匹の龍であった。
黄金に輝く、雲を突き、天を翔する雷龍であった。
雷龍は顎門をカッと開いて響に喰らい付けば、忽ち、響の上半身は食いちぎらる。
幻の中、響の体に一瞬、灼金を突き入れたの様な感覚が走ったかと思えば、
響は、意識を永遠に手放した。
示現流『雲耀之太刀』――
『満』の心より繰り出された無双奥儀太刀は見事、
高嶺響の肉体を両断していた。
◆
刀を鞘に戻し、高嶺響の二つに別れた死体を再度一瞥すると、
ぽつりと一つの歌を詠んだ。
『稀にあう 峯に積れる 空の雪』
『鳥鳴く懐 清き雪山』
それは、離別の際、師より賜った帰去来の辞であった。
封印を破った事に後悔は無い。
ならば己の忠義は立つのか?
立つ、立たせる。
『満』の心のままに、重位は思う。
かくなる上は、示現の太刀筋にて、残れる武芸者をことごとく斬った後、
太刀筋を見たりし柳生の者ども、その背後にいるであろう徳川の者ども、
示現を盗み見し者、一族郎党に至るまでことごとく撫で斬りにし、
その上で腹かっさばいて果てるまで。
そもそも柳生の郎党が参加せしこの御前試合、
薩摩隼人が勝ち上がれば、元よりタダでは済むまい。
されば『不忠者』は『不忠者』らしく、
殺人刀にて推し通り、最後には一人の『狂人』として果てるのみ。
「それが、拙者の忠義でござる」
東郷重位は笑った。
それは、掃天の如く清々しい笑みであった。
同時に、殺気に満ちた恐るべき笑みであった。
【高嶺響@月華の剣士第二幕 死亡】
【残り五十九名】
【へノ陸 道の合流点/一日目/早朝】
【東郷重位@史実】
【状態】:健康、『満』の心
【装備】:打刀、村雨丸@八犬伝
【所持品】:支給品一式×2
【思考】:この兵法勝負で優勝し、薩摩の武威を示す
1:次の相手を斬る。
2:薩摩の剣を盗んだ不遜極まる少年(武田赤音)を殺害する。
3:殺害前に何処の流派の何者かを是非確かめておきたい。
【備考】
※示現流の太刀筋を解禁しました。
※示現流の太刀筋を小袖の少年(武田赤音)に盗まれた事に対する危機感は消えましたが、
依然、優先的に狙います。
◆
「むっ!?」
「どう…したの…?」
「いや、しぐれ殿、なんでもありません」
ようやく出会った目明きの少女、香坂しぐれは、
右手首を斬らた重傷者であった。
故に、着物を破いて包帯と為し、介抱していた
富田勢源であったが、
その最中、盲目であるが故に発達したその鋭敏な感覚で、強烈な剣気の爆発を、
その肌で感じたのである。
そして勢源は視た。
北の空で、天に昇る金の龍の幻を。
そして理解した。
恐るべき兵法者が、この御前試合に降り立った事を。
【へノ陸 南部の道の傍ら一日目/早朝】
【富田勢源@史実】
【状態】健康、驚き
【装備】蒼紫の二刀小太刀
【所持品】支給品一式
【思考】:護身剣を完成させる
一:しぐれを介抱する
※
佐々木小次郎(偽)を、佐々木小次郎@史実と誤認しています。
【香坂しぐれ@史上最強の弟子ケンイチ】
【状態】疲労大、右手首切断(治療中)、両腕にかすり傷、腹部に打撲
【装備】無し
【所持品】無し
【思考】
基本:殺し合いに乗ったものを殺す
一:右手の治療をする
二:武器を探す
三:
近藤勇に勝つ方法を探す
四:高嶺響はいずれ殺す
【備考】
※登場時期は未定です。
※所持品は全て民家に置いてきました。
※高嶺響の死亡を知りません
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最終更新:2010年06月25日 22:08