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魑魅魍魎 美食の宴_第二章

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George(2006-10-15)

魑魅魍魎 美食の宴≫ 第二章 天狐

千邪ヶ谷の岩肌に、ポッカリと口をあけた洞窟がある。

入口は決して大きいとは言えないが、中に入ると意外なほど広く感じる。
奥に進むと朱塗りの大きな扉があり、左右には申し訳程度の灯かりにしか
ならない松明が、パチパチと音をたてている。

その扉を一匹の妖怪が、持たれかかるようにして開いた。
重い音が洞窟内に響き渡る…。

「しっ…死ぬかと思った…!!」

ボロボロの布キレ一枚を身に着けたその妖怪は、ふらふらと扉の中に
入って行った…。
扉の中は意外と明るく岩の廊下を進むにつれ、その明るさは増していく。
廊下をぬけた先にあるのは、なんと大きな中庭だった。
どんな原理で「そうなっているのか」は不明だが、ここはまるで昼間のように明るい。
その中庭のちょうど中央に、ゴロンと横になり居眠りをかます
一匹の妖怪が居た…。

「おいっ!!」

ボロを纏った妖怪が叫んだ。

「うん?」

眠い目を擦りながら起き上がった妖怪「小鬼(しょうき)のワビスケ」は
怪訝そうに声の方に振り向く。

「おお!! どうした、そのナリは!?」
「どうしたも、こうしたもねぇ!! テメェのおかげで死ぬトコだったんだぞ!!」
「おりょ?」
「おりょ?じゃねぇ!! テメェの話じゃ、あの〝けるべろす〟とか言う犬
図体ばっかりの馬鹿犬だって言ってたじゃねぇ~か!!」
「おお、アレかぁ…ヤバかった?」
「ヤバかったどころの話じゃねぇ!! 俺はもうスグで食われるトコだったんだぞっ!!」
「フ~ン…そうか、そんなに凄ぇのかぁ!」
「うっ…テメェ~ッ…」

悪びれる素振りなど微塵も見せず、妙に納得してみせるワビスケは
そんな事は後回しとばかりに話を切り返す。

「お…そう言えば、お前なんでそんなモン頭からかぶってんだ?」
「!!…しっ…知りてぇか?…ああっ!!!!」

そう言うやいなや、声の主「天邪鬼」は、頭からかぶったボロを力一杯脱ぎ捨てた。

「ギャッハッハッハッハッ!! な、何なんだお前のその頭 !!!? ああ?
出家でもしたのか!? グハハッ!!!!」
「クッ…テ、テメェ~ッ…!!」

なんと天邪鬼の頭にあるはずの、二本の角が無い。

「ブハハハッ、俺知ってる!! お前、ロー○・オブ・ザ・○ングに出てただろ!?
ええっ? あの最後に死んじゃうヤツ!! ブハハハハハハッ!!!!」
「むっ…むぉぉっ、殺すっ!!!!」
「まっ、待ってくれっ!! ヒッ、ヒヒッ…笑わせないでくデっ…グハハハハハハッ!!
〝もう殺す〟だって、ヒイ~~~~ッヒッヒッヒッ!!!! そっ、そのっ…その頭でっ!!
ヒイ~~~~ッ!! は、腹割れるぅ~~~~っ!!!!」

たしかに今の天邪鬼の姿は笑えた…角が無ければ、ただの怪しいオヤジにしか
見えない…。

「うるるるああぁぁ~~~~っ!!!!」

怒りが頂点へと達した天邪鬼は、ワビスケの胸倉を掴む。
しかしワビスケの笑いがおさまる様子は無い。

「わっ、わかった…ヒッ…お、おデが悪かったっブッ…
ぼう…わダわダいかダっ、ブッ☆」

あまりのワビスケの刺さりっぷりに、天邪鬼はだんだんと馬鹿らしくなって来た。

「フンッ…と、とにかくっ…本当に死ぬトコだったんだっ…少しは心配しろっ!!」
「ガヒヒッ、…ヒッ…はぁ~あ…で、何があったんだごっ!!」

まだ刺さり続けてるワビスケに、心底あきれる天邪鬼。

「とっ捕まったんだよっ…黒塚亭の鬼婆に…!!」
「へぇ~っ、んで?」
「あの〝けるべろす〟とか言う馬鹿犬のエサにされそうになった…
変な薬は飲まされそうになるしっ!!
それにしてもあん畜生、俺様の自慢の角を骨だと思って
ガリガリかじりやがってっ!!」

ワビスケは、あの「ケルベロス」が天邪鬼の角をドッグフードの「ガム」のように
ガリガリと齧る様を想像すると、更に笑いが止まらなくなる。

「フッ、フ~ンッ…グフッ、で…でも助かって良かったじゃねぇ~か、ああ?」
「良くねえっ、テメェ、あの犬は大丈夫だ、輸入犬だから時差ボケしてるって
言ったじゃねえか!! それに、あんなデカイとも聞いちゃいねえっ!!!!」
「ブッ…だって、写真で見た時ゃあ、そんなデカイと思わなかったんですもん!!」
「写真で見りゃあ、何でも小さいに決まってんだろうがっ!! ああっ!!!!」
「ま、でも何か、イメージチェンジって感じで…ブホッ…小ザッパリしてて
なかなか御似合いよ、君☆」
「るせぇっ…ところでアノカタはいらっしゃるのか!?」
「ブヒッ、はあ?…ああ、先ほど戻られた…フウッ、何でも使えそうな
蕎麦屋があるとか仰っていたが…なぁ~んだか上機嫌だったなぁ…
あっ、それから例のチラシ、もう千枚刷るらしいぞ…今日も徹夜だ!!」
「おう、そうか…ま、とりあえず報告が先だ…行ってくる…」
「へぇ~い、行ってらっしゃい…ブッ、ヒッ…ヒヒヒヒッ!!」

天邪鬼はソソクサと中庭の先にある屋敷へと入って行った。
しばらく笑いを堪えた後、ワビスケは静かに立ちあがり呟いた。

「さぁ~てと、俺は猩妖軒に行かなくっちゃだなぁ…あ~ぁ、面白かった!!」


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