George(2006-10-24)
≪魑魅魍魎 美食の宴≫ 第二章 天狐
薄暗い大広間の奥に、鈍い妖気を放つ妖怪が座っていた。
側には側近らしい小太りの妖怪狐が一匹…
側には側近らしい小太りの妖怪狐が一匹…
「おお、戻ったか戻ったか!!」
側近の妖怪狐が言う。
天邪鬼は小走りで広間の中央まで進むと、膝を立てるようにしてしゃがみ込む。
天邪鬼は小走りで広間の中央まで進むと、膝を立てるようにしてしゃがみ込む。
無言で佇むこの妖怪…そう、第三の刺客と言われているアノ妖怪である。
「天邪鬼、ただいま戻りました…」
「うん? オヌシどうした、その頭の被り物は…天狐様の御前であるぞ!!
失礼であろう!?」
「うん? オヌシどうした、その頭の被り物は…天狐様の御前であるぞ!!
失礼であろう!?」
妖怪狐が続けて天邪鬼を窘めようとすると、第三の刺客…
天狐と呼ばれる、その妖怪が口をひらいた。
天狐と呼ばれる、その妖怪が口をひらいた。
「まあよい…よくぞ戻った天邪鬼…して、例の物は持って帰ってきたか?」
「は、はい…お頭の言うとおり、しかと…」
「は、はい…お頭の言うとおり、しかと…」
と、天邪鬼が懐に手を入れようとすると、またしても妖怪狐が叫ぶ。
「これ、天狐様と呼ばぬか!!」
「あ、すいませんでした…〝まだ、慣れないもんで〟つい…」
「オヌシ、少し頭が足りぬようじゃな!! いくら領内とはいえ、いつ誰が聴いている
やもしれんのだぞ!? いい加減に憶えたらどうじゃ!!!!」
「は、はいっ…申し訳ありませんですっ!!」
「あ、すいませんでした…〝まだ、慣れないもんで〟つい…」
「オヌシ、少し頭が足りぬようじゃな!! いくら領内とはいえ、いつ誰が聴いている
やもしれんのだぞ!? いい加減に憶えたらどうじゃ!!!!」
「は、はいっ…申し訳ありませんですっ!!」
二匹のやりとりに、少しウンザリした天狐が割って入る。
「もう良いか? …このままでは一寸も話が進まぬわ…」
そう言われると、妖怪狐もこれ以上口を挟むまいと一歩後ろに下がる。
天邪鬼が懐に入れっぱなしの腕をゆっくりと抜き出す…。
手に握られた物は、何やら薄紫色に光る小さなビンだった。
天邪鬼が懐に入れっぱなしの腕をゆっくりと抜き出す…。
手に握られた物は、何やら薄紫色に光る小さなビンだった。
天狐は天邪鬼の話を最後まで聞く気はさらさら無いらしく、その小さなビンを
嬉しそうに眺めながら言った。
嬉しそうに眺めながら言った。
「…は…はい…で、では…失礼いたします…」
こめかみに薄っすら汗を浮かべながら、天邪鬼はゆっくりと立ち上がると
踵をかえし立ち去ろうとした…その時…。
踵をかえし立ち去ろうとした…その時…。
フワリ…と、天邪鬼の被っていたボロが、ユラユラと床に落ちた。
「…何なんじゃ、オヌシのその頭は!?」
妖怪狐が問う。
「あ…いやその、色々ありまして…へへへっ…」
天邪鬼はバツ悪そうにボロを拾い上げると、スタスタと広間を後にした。
扉を閉め、長い廊下を走る天邪鬼の耳に、大爆笑する二つの声が
聞こえて来た。
扉を閉め、長い廊下を走る天邪鬼の耳に、大爆笑する二つの声が
聞こえて来た。
「ひぃ~~っひっひっひっ、トゥキンだトゥキン!! トゥキンヘッダーだぁ~~っ!!!!
ガハハハハハハッ!!!!」
ガハハハハハハッ!!!!」
天邪鬼は、もう泣きそうだった…
一生懸命、命をかけて任務を果たした結果がコレなのか?
そう思うと何だか切なくなったのだった。
一生懸命、命をかけて任務を果たした結果がコレなのか?
そう思うと何だか切なくなったのだった。
「…俺…もう組織やめようかなぁ…」
ポツリと呟き、天邪鬼は去って行った…。
さて、こちらは変わって「猩妖軒」。
西洋各国仕込みの佳味を揃え、卓越したシェフの技で料理を提供する
人気店で、三凶の一つである。
人気店で、三凶の一つである。
先ほどからこの猩妖軒で、何やらキョロキョロと店内を見回す妖怪が一匹。
「(う~ん、や…やべェ、どうしよう…)」
天狐より「猩妖軒」偵察を命じられた「小鬼(しょうき)」のワビスケだった。
天邪鬼の頭で一頻り大爆笑したその足で、気分も軽くこの猩妖軒に
来たのだが、店に入るなりドギモをヌカレタのである。
天邪鬼の頭で一頻り大爆笑したその足で、気分も軽くこの猩妖軒に
来たのだが、店に入るなりドギモをヌカレタのである。
「(が…外人ばっかりじゃねェか…)」
そう、この店猩妖軒はシェフを始め、従業員すべてが外国の妖怪達だったのだ。
「(…俺…英語喋れねェよ!! …どうすりゃいいんだ!!!?)」
メニューを見ると、何だかミミズの這ったような文字が並んでおり
どう考えても解読不可能なのだ。
そうこうする内に従業員がオーダーをとりに来て、ワビスケは適当に
メニューを指差し料理を注文したのだった。
どう考えても解読不可能なのだ。
そうこうする内に従業員がオーダーをとりに来て、ワビスケは適当に
メニューを指差し料理を注文したのだった。
「(な、何なんだよ…ったく…お頭も酷ェよな!! こんな店だなんて一言も…)」
などと、色々な思いが交錯するうち料理が運ばれて来た。
ワビスケの前に「ナイフとフォーク」が置かれる…。
ワビスケの前に「ナイフとフォーク」が置かれる…。
「…………」
もちろん「小鬼のワビスケ」なんかに使えるはずがない。
「(まぁ~じぇ~かぁ~よッ…こんなモンでどうやって食うんだ、ええッ!!!?)」
背中に冷汗がツゥ~~っと、音をたてるように流れる。
「あっ…え~っと、箸…おハシぷりぃ~ず!?」
出てきた言葉がコレである…もう、絶望的であった。
「オホンッ…あ~ッ…ハ、ハ~シありま~すかァ↑…?」
イントネーションを上げたところで、どうにもならない。
しかし、これが今のワビスケに出来る、精一杯の闘いだった…。
しかし、これが今のワビスケに出来る、精一杯の闘いだった…。
「はい、お箸ですね…少々お待ち下さいませ…」
固まるワビスケ…。
「(何だよ…普通に…話せるん…じゃ…ないの…)」
店の奥でクスクスと笑う声がしたが、今のワビスケには聞こえていなかった。
「ほら、遊んでないで仕事して…」
従業員を静かに注意したのは、この店のシェフ「キキーモラ」であった。
視線を料理から片時も離す事なく、卓越した手さばきで次々と仕事をこなす。
第三の刺客…天狐の手先が店内に居る事を、彼女は知っているのか?
それとも…。
視線を料理から片時も離す事なく、卓越した手さばきで次々と仕事をこなす。
第三の刺客…天狐の手先が店内に居る事を、彼女は知っているのか?
それとも…。