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魑魅魍魎 美食の宴_第二章9

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George(2006-10-28)

魑魅魍魎 美食の宴≫ 第二章 天狐

宗旦狐は思い出していた…つい3日ほど前の事を…。
静かな夜だった…あと一時間もすれば夜も明けるだろう。

宗旦狐は縁側に座り、良く手入れをされた庭を見ながら
冷えた「ぶるぶる茶」を飲んでいた。

「…相変わらず、先生の煎れたお茶は美味しい…」

今でこそ定食屋を営む夜行であるが、遥か昔は「妖怪料理界の風雲児」
とまで呼ばれ、その世界において並ぶもの無しと言われた大怪物である…。
その夜行、茶の道にも深く精通しており「妖怪茶界の伝道師」の名も
持っていた…宗旦狐や鬼婆が誕生する前の話である。

その日、宗旦狐は半ば強引に連れ去られる形で夜行の家に居た。
懐かしい顔と暫し会話をした後、店が心配だと帰ろうとした時に
留守にはちゃんと、見張り用の「つるべ火」を置いてある…と夜行に言われ
今夜は泊まるようにとすすめられたのだった。
鬼婆は、例の三馬鹿「切り切りトリオ」の「まいんどこんとろーる」を
解除するための薬を取りに行くと言って、一度「黒塚亭」へ戻って行った。

「龍球アイランド」より夜行が呼び寄せた弟子の「柳女」の柳葉卯月は
到着するなり夜行と30分ほど話をした後、宗旦狐との挨拶もそこそこに
すぐに出かけてしまったのだった…。

「どうじゃ…少しは落ち着いたかの?」
「あ、先生…良いお風呂でした…」
「うむ…それはなにより…」

暫く宗旦狐と夜行は、昔話に花を咲かせた後…
話は三凶潰しを目論む「刺客集団」へと変わる。

「何ででしょうねぇ…僕はただ、純粋に美味しい料理を作って楽しみたい
 だけなのに…三凶だって、べつに僕や〝彼女達〟が望んでなった訳じゃない…」
「…じゃがな…世の中と言うのは、そう言うモンじゃよ…オヌシが望むと望まざるとに
 かかわらず、いずれこうなる事はわかっとったじゃろ? うん!?」
「ええ、まあ…」
「肩書が欲しいんじゃろなぁ…そんなモン、なぁ~んの役にもたちゃあせんのに…」
「まったく、そうですねぇ…三凶の名が欲しいなら、べつにあげてもいいのになぁ」
「カッカッカッ、相変わらず欲の無い奴じゃ…
 じゃが、もうそれだけでは済むまいて…どうやら彼奴等は三凶の肩書が欲しい
 だけではなさそうじゃしなぁ」
「そう言えば、あのチラシが配られる前日に来たっていうのは…」
「おぉ~そうじゃそうじゃ、忘れとった!!」

そう言うと夜行は自分の頭をピシャリと叩くと、さも嬉しそうな顔をして
話を続けた…。

「覚えておるじゃろ? ほれ、昔オヌシ達が三凶と呼ばれる少し前じゃ…」
「…………?」
「袋貉の伝吉じゃよ!」
「なっ……で…伝吉 !!!?」
「あやつ…オヌシ達三凶を憎んでおったからなぁ…」

その日、とうとう宗旦狐は一睡もせずに夜行の家をあとにした…。

「(何で今さら、あの伝吉が…)」

宗旦狐がぼんやりと考えていると、血相を変えてクダが飛び込んで来た。

「宗さんタイヘンでやす!! 妖怪狐連盟が動き出しやした!!」
「妖怪狐連盟が?」
「へ、へい…何でも天狐様をかたる奴等の居場所をつきとめたとかで…
それから…!!」
「いいから、落ち着いて…クダ君…」
「……派遣されたのは銀次組だそうでやんす!!」
「!!………」




一方、時を同じくして千邪ヶ谷では突然の敵の襲来に、屋敷内は緊迫した
空気に包まれていた。

「ええい!何をもたもたしておるのじゃ!! さっさと準備せんか!!
天邪鬼はどうした? ワビスケは?ワビスケはまだ戻らぬのか?!!!」

先ほどから喚きちらしているのは、側近の妖怪狐である。
物見の報せから、もうすでに30分が経過していた…。
妖怪狐連盟より派遣された「銀次組」が、この屋敷に向かって来ているのだ。

「そう慌てるでないぞ…情けないの~ぅ…」
「し、しかし天狐様…このままでは!?」
「どうせ来るのは、下っ端の狐どもであろう? 我の敵ではないわ…」

ウィーンウィーンと、何やら不気味な機械音のような物が鳴響く中
まったく動じない天狐に、少しイラダチを覚える側近狐であったが
逆らう事はできず、深く息を吐くと静かに天狐にたずねる。

「で…では、天狐様が直々に…?」
「ホホッ、馬鹿を申すな!! なぜ我があのような下賎な狐の相手をせねば
ならぬのじゃ? 奴等の相手はソコにおるわ…コレ、出て参れ!!」

そう天狐が言うと、広間の隅から一匹の妖怪が現われた…。

「御呼びでしょうか、天狐様」
「うむ…どうやら我の屋敷に、身のほど知らずの大馬鹿物達が向かって
来ておるそうじゃ…ちと相手をしてまいれ…」
「は…この袋貉の伝吉にお任せくださいませ!!」
「見事討ち取ったあかつきには、褒美をとらせるぞ!」
「は…では…天狐様の座っておられる、その席を…」
「コッ…コレ、無礼であるぞ!! たかが貉の分際で!!」

側近狐が怒りちらす。

「よいよい…コレ伝吉…オヌシのその素直さ…気に入ったぞ…」
「はっ…」
「よかろう…では行ってまいれ」

天狐がそう言うと、伝吉は風のように消え去った…。
広間には、また不気味な機械音だけが響いていた。

「て、天狐様…本当にアノような約束、よろしいんでしょうか!?」
「かまわぬ…どうせ〝すぐ飽きる〟であろう…?」
「は…はあ…」

そう言うと、側近狐はチラリと天狐を見つめ…

「あ…あのぅ…」
「なんじゃ?」
「貉ごときに座らせるのなら…その前に、ぜひ一度ワタクシにも…」
「だめじゃ…」
「あ…はい…申し訳ございません!!」

伝吉は勢い良く扉を蹴破ると、洞窟の外に飛び出した。
断崖の遥か下方に「銀次組」達の物であろう、松明の狐火が見えた…。

「へへっ…これで手柄をたてりゃあ、アノ椅子は俺様のモンだ!!
 一度でいいから座ってみたかったんだよなぁ~っ!!
 あの最新マッサージチェアーッ!!!!」


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