幸せな2人の話 24

371 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 01:48:51 ID:7XtHd9Fs

だれなのだろう、こいつ。
しせんがきもちがわるい。
まるでゆうれいみたい。

なんでにいさんはこんなやつにさわれるんだろう?
え、いまあいつおにいちゃんっていったの?
きょうからこいつといっしょにくらす?
かぞく?

まあいいや。
にいさんはわたしだけのにいさんなのだから。
こんなじゃまものがいたからって、
なにもかわらない。


372 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 01:49:13 ID:7XtHd9Fs
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本当に面白い、何もかもが思い通りだなんて。

「あははははは」
「何か、面白い事があったの?」
「は、はわひゃっ!!」
姉さん、私。
 そんなに驚かないで」
慌てて振り向くと、後ろでアイツが顔に"?"を浮かべながら首を傾げていた。
「え、え~っと、シルフちゃん、どの辺りから聞いてたのかな~?」
「どの辺りって、何の事?」
うん、良かった、さっきの独り言は聞かれてないみたい。
兄さんにはコイツに全部話すって脅したけど、
本当はコイツにそんな事をしたら何をするか分からないもの。
はぁ、結局、コイツは厄介者のままなんだね……。
「? どうしたの?」
「ううん、何でもないよ。
 ちょっと庭を掃除していただけ」
「私も手伝う」
「ありがと~、でも、もう終わる所だからお姉ちゃんだけで大丈夫だよ」
「でも……」
「ふふ、もっとシルフちゃんが必要ながいるでしょ?
 シルフちゃんは兄さんのお嫁さんなんだから」
自分で言っていて反吐が出そうになる。
兄さんは私だけのモノだ。
偽物の恋人のオマエが入る隙なんて無いんだ。


373 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 01:49:40 ID:7XtHd9Fs
「うん、分かった」
短くそれだけ答えてアイツは私の横をすり抜けて玄関へ向かう。
もう私の事なんて全く見ていない。
「ねえ、シルフちゃん?」
「何、姉さん?」
アイツはドアノブに手を掛けながら振り返る。
「シルフちゃんは今、幸せかな?」
「うん、私は誰よりも幸せだよ、まるで夢の中みたいに。
 ありがとう、姉さん、私を救ってくれて」
そう言ってアイツは笑っていた。
陰気臭くて、ぎこちない笑顔は相変わらずだ。
アイツの背中が扉の中に消える。
「くすくす、本当に馬鹿な奴」
もしも兄さんの事を本当に信じていられれば、もっと幸せになれただろうにね。
あれだけ兄さんに愛されているんだから。
ああもう、イラつくなぁ。
私がアイツだったら絶対に兄さんを信じていられるのに……。
本当に、何で兄さんはアイツなんかを好きになったのだろう?
まあ、いいや、そんなの考えるだけ無駄だよね。
後で私だけの兄さんにいっぱい慰めてもらえば良いだけなんだから。


374 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 01:50:08 ID:7XtHd9Fs
兄さんの事をたくさん考えて何とか感情を抑え込めた時には、
火はもうすっかり全てを燃やし尽くしていた。
残っているのは真っ黒な灰だけ。

「これでお終い、だね。
 勝ったのは雪風、負けたのは兄さん。
 優勝賞品は兄さんを一生分、くすくす」

これで良い。
これでもう、兄さんを失うことを恐れなくていい。
私は兄さんがずっと欲しかった。
それが何時からかなんてもう覚えてもいないくらいに。
いつも、兄さんと居ると心地良かった。
初めはただそれだけで満足できた。
幼心に兄さんとずっと一緒に居たいと思っていた。
でも、それだけじゃ満足できなくなった。
兄さんの一番になりたいと思った。
それでも満足できない。
兄さんを私の物にしたい。
兄さんから私以外の物がなくなれば良いのにって思った。
だから兄さんから、体も心も奪ってしまいたい。
そう渇望するようになった。
それが、御空路 雪風という兄さんの妹の本当の姿。
なのに、兄さんはどんなに手を尽くしても私のものにならなかった。
気付けば少しずつ兄さんは私の側から離れていった。
そうやって兄さんがいなくなるのが、怖かった。



375 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 01:50:50 ID:7XtHd9Fs
「本当に、怖かったなあ、今まで」

ずうっと、兄さんの前では心が通じている妹の振りをして。
アイツの前では、明るくて家族思いの優しいお姉ちゃんを演じて。
ははは、本当に怖かった。
だって、そんなの全部嘘なんだもん!!
あははははは
アイツなんて大嫌いだし、兄さんの事なんて全然分からない。
分かるわけないじゃない、兄さんの心の中なんて。
あの人が何を思っているのか、
それを知る事ができるならどんな代償だって喜んで支払うわ。

「くすくす、そういえばシルフちゃんはよく言ってたよね~。
 私と兄さんは本当の兄妹だから、お互いの事が分かるんだって。
 ひょっとして私と兄さんの心が繋がっているって本当に思っているのかな?」

何回も見たあのアイツの不愉快な目線が頭に浮かぶ。

「ふざけないでよね、そんな訳ないじゃない」

アイツはいつも何かあると私を羨ましがった。
ただ兄妹というだけで兄さんの事が何でも分かるんだって言って、
いつもいじけた陰気臭い目で私を妬んでいた。
アイツがそうやって無神経な事を喚く度に何度も神経を逆撫でされた。

「ふざけないでよ、幽霊女。
 私がどれだけ兄さんの事を知り続けていたのか、何も知らないくせに」

アイツがくだらない事でいつも落ち込んでいる時にもだって、
兄さんは何を喜んでくれるのか、
兄さんは何を私に求めているのかの答えを必死に探していた。
なのに、アイツは何もしない癖に私と同じ妹として扱われていた。
私以上に兄さんから愛された。
兄さんの事なんて何も分からない癖に。
兄さんに好かれるような理由なんて無いはずなのに。
アイツはただ妹というだけで兄さんから大切にされた。
ただ血が繋がっていないというだけで兄さんに求められた。
妬む資格があるのは私の方だ。


376 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 01:51:20 ID:7XtHd9Fs
私だって本当はアイツと何も違いなんて無い。
どれだけ頑張っても兄さんを理解できなかった。
兄さんが今まで何をしていたのかは全部知っている。
でも、兄さんがどうしてそれをしたいのか、
何を思ってそれをするのかなんて全く分からない。
だから、兄さんがちょっとでも変わればすぐに兄さんの事が分からなくなる。
私には兄さんが分からない、分からないから怖い。

「兄さん、本当に怖かったんだよ?
 兄さんがいつか私の前から消えてしまうんじゃないかって、
 ずっとその事に怯えてたんだよ?
 だって、兄さんにとって私はかけがえのない存在なんかじゃないんだもの。」

私にとって兄さんはずっと特別な存在だった。
兄さんもにとっても特別な存在だと思っていた。
兄さんは私だけには特別に優しかった。
私の気持ちだけは特別に理解してくれた。
私の為ならば特別に自分自身を犠牲にしてくれた。
そして、特別に私に笑いかけてくれた。
兄さんは私だけのモノなんだ。
それが当然なんだと思って、何も疑わなかった。
でも、アイツが家族に加わって、
私と兄さんの関係はアイツの所為で大きく変わってしまった。
兄さんは心の閉じたアイツの為に色々なことをした。
アイツにはそんな事をする価値なんて無いのに。
兄さんの献身、それは私にだけ与えられた特権のはずなのに。
あの廃墟だってアイツに"特別"に教えていた。
あの場所は兄さんの特別な雪風と2人だけの秘密だった。
私は新しく来たアイツに兄さんが盗られてしまうのだと焦った。
そして、アイツを追い出せば兄さんは取り返せるのだとも考えて安心した。
だから、あの日わざとアイツを怒らせて、兄さんの前で私を殴らせた。
アイツの心は不安定だったから拍子抜けするほど簡単だった。
これで簡単に、兄さんを取り戻せると思った。
兄さんは絶対に大切な雪風の敵は許さない。
だから、兄さんは私の為にアイツを追い出してくれて、
私はまた兄さんの特別に戻れると信じていた。
けれど、兄さんはあの時、私を見捨ててアイツを追いかけた。



377 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 01:52:32 ID:7XtHd9Fs
アイツが家出をした夜の事はよく覚えている。
残された私は訳が分からなかった。
どうして兄さんが私の隣に居ないのか。
アイツをどうして追いかけるのか、私には何も理解できなかった。
夜遅くになって、やっと帰ってきた兄さんの背中は血で真っ赤だった。
ガラスの破片だってきらきらと光っていた。
なのに、兄さんはアイツの頭を撫でながら笑っていた。
アイツの心と体を傷つけないために。
兄さんの笑顔はずっと私を守ってくれていた笑顔と同じだった。
アイツはまだ出会ってから3ヶ月の他人なのにどうしてあんな顔が出来るのだろう?
あの時はただもやもやとした違和感を感じるだけだった。
でも、そういう疑問を持ちながら兄さんを見ていると少しずつ分かってきた。
兄さんは家族であれば私でなくてもきっと誰でも良いんだって。
兄さんにとっての私はアイツと何も違わない"唯の"大切な妹で、
私は兄さんにとって大切な存在なんかじゃないんだって分かった。


378 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 01:57:13 ID:7XtHd9Fs
そう理解してから、私は変わった。
兄さんを自分だけのモノにする為に、
兄さんにとって本当の特別な存在になろうと必死に努力した。
兄さんに気に入られるように兄さんの好きな事を覚えた。
兄さん好みの外見を研究した。
それに、兄さんが望むように、大嫌いだったアイツの優しいお姉ちゃんにもなった。
あの能天気で明るい性格だって初めは兄さんに気に入られる為の演技だった。
もっとも、今では私の本当の性格なんて分からなくなっちゃったけど。
それだけじゃない、勉強も、運動も、遊びも、
兄さんが興味を引くだろうあらゆるものは先んじて学んだ。
チェスだって絵画だってそう、兄さんの好みを必死に分析して、
兄さんが興味を持つずっと前から死に物狂いで努力した結果。
そうやって兄さんの先を行けば、兄さんは私を追いかけるだけしか出来なくなる。
そうすれば、兄さんは私だけに心を奪われる。
そうなれば、兄さんは私だけのモノになるって私は信じていた、なのに


379 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 01:58:11 ID:7XtHd9Fs
「 なのに、何?
 チェスはルールも知らない位の初めてで何年も勉強してきた私を倒せて、
 絵はたった1年ちょっと描いていたらプロへの道?」

歯を食いしばる、ぎり、と軋む音がした。

「……ふざけてるよね。
 なんでそうやって、いつも私を追い抜くの?
 私なんてすぐに要らなくなるの?
 兄さんは何なの?
 私は兄さんが欲しいんだよ、その為に必死に努力したのに!?
 なのに、どうしてそうやって私の手の届かない場所にいつも行くの!?」

いつもそうだった。
私は兄さんの先を歩いていたはずなのに、
気付けば兄さんの遠い背中を追わされていた。
今までこれだけ兄さんに尽くしてきたのに。
あんなに兄さんを楽しませてきたのに、
私のモノになってくれない。
兄さんはいつも楽しむだけ楽しんで、私を置いていく。

「私は兄さんの玩具じゃないんだよ?
 逆じゃない、兄さんが私のモノなんだよ?」

そして、私を散々遊び尽くした後に兄さんから帰ってくる言葉は、
いつも”ありがとう”だった。




380 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 01:58:37 ID:7XtHd9Fs
「ありがとうってどういう意味?
 あははは、兄さんはどうして私がこんな事を続けていたって思っていたの?
 まさか、本当に兄妹で通じ合っているなんて、馬鹿なアイツみたいに?
 それとも無償の愛? 
 この前だって私に言ったよね、
 何回も、何回もしつこいくらいに、ありがとうって。
 あれ、どういうつもりだったのかな~?」

ふざけないでよ、兄さんを私のモノにする為に決まっているじゃない。
全部、その目的があったから出来たんだよ?
とても苦しかった、辛かった、怖かった。
それでも、兄さんの特別な存在になる為に必死で努力をした。
そうすれば兄さんの心を、体を、私だけのモノにできる。
それだけを望みにここまで来たのに、
そんなの欠片も見えなかったじゃない。
ただ残った僅かな報いがありがとうだけ?

「どうしてそんな事が言えるの?
 兄さんは私の想いを踏みにじったんだよ?
 ありがとうって、それがどれだけ酷い言葉か分からないの?
 兄さんには私がどんな気持ちだったか分からないの?」

ありがとう、と言われる度に見せられる、
私の大好きな兄さんが見せる大っ嫌いな笑顔は、
必死に兄さんの背中を追う私を嘲笑う様にしか見えなかった。
兄さんの優しさなんて私には残酷な仕打ちにしかならなかった。

「兄さんは酷い人だよ。
 だから、こんなのを私に答えだなんて言えるんだ……」



381 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 02:00:42 ID:7XtHd9Fs
私は燃え尽きて細かな灰になったそれを睨め付けた。
それは風に吹かれてぱらぱらと宙に舞っている。
何が描かれていたのかもう分からない。
それはほんのちょっと前まではとても綺麗な絵だった。
劇場跡で遊んでいる小さな少年が一人と少女が二人。
白い髪の少女と少年が手を繋いでいて、黒い髪の少女は少年の肩へ抱きついている。
三人ともみんな笑っている。
それは懐かしいようで決して有り得なかった光景、
だって小さな頃の私が壊したんだもの。
だからそんなのは、とても綺麗なだけの絵だった。
それを見た時に私は兄さんの言う答えの意味が分かった。
その3人のいる劇場が全てを物語っている。
そこは私が私だけの兄さんを失った場所、
アイツが私から兄さんを2回奪った場所。
兄さんは綺麗事にまた私を引きずり込む積りなんだ。
兄さんの求める答えっていうのは、アイツと兄さんは恋人で、
私と兄さんは兄妹、どちらも兄さんにとって大切な二人。
そういう、誰もが笑いあえる綺麗な世界があって、
私たちが出会った時からそれが私たちの理想だった。
そういう事にしてしまいたいんだよね?
私がずっと兄さんに抱いていた想いも、
兄さんが手に入らない苦しみも無かった事にして。


382 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 02:01:07 ID:7XtHd9Fs
兄さんは全然知らないないんだね?
私がどれだけ兄さんの為に苦悩して、呻いて、壊れそうになったか。
そして、どれだけ兄さんの事を私が愛しているのかも。
最後まで兄さんは結局、私の事を分かってくれないんだ?
私はずっと迷ってたんだよ?
私の願いが叶えば兄さんはもう笑えなくなるし、永遠に閉じ込められる。
本当にそれで私は良いのかなって、
兄さんも私も幸せになる方法もないのかなって、何度も考えたのに。

兄さんの嬉しそうな笑顔に胸が熱くなった。
それが私でなくアイツに向けらているのは分かっていたのにずっと見ていたくなった。
兄さんとキスをした瞬間は今でもはっきりと思い出せる。
ほんのちょっとの間唇を重ねただけだったけど。
私を妹としか見ていないはずの兄さんのプレゼントに息が出来なくなるほどときめいた。
アイツにやっていることのただの真似事なのに胸の鼓動が抑えられなかった。
兄さんに頭を撫でられた時の私は言葉も出せないくらい幸せな気持ちになれた。
あの時、私の告白を否定しないでくれた兄さんの答えに涙が出そうだった。

「そして、俺は雪風もアイツも幸せになれる答えを出して見せるよ」

兄さんは私の気持ちを理解なんてしていていないって分かっていたのに、
兄さんの口先だけの言葉に希望を持った。
兄さんがいつか私に答えを与えてくれて、私は救われると思っていた。
私は兄さんを信じていなかったけど、心から兄さんを信じていた。


383 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 02:01:54 ID:7XtHd9Fs
でも、裏切られた。
あんなに期待していたのに、兄さんから帰ってくる言葉は最後まで感謝だけ。
そんなのいらない、私は兄さんにありがとうなんて言って欲しくない。
私は兄さんに求めて貰いたかった。
側に居て欲しいとか、必要とか、そんな綺麗な言葉を掛けるのじゃなくて。
誰よりも愛している、って言って欲しかった。
兄さんがアイツへ告白する時みたいに。
そうしたら私は兄さんに騙され続けてあげても良かった。
だから、私は兄さんにその手掛かりを教えてあげたし、
何度も兄さんに問い掛けた。
それを兄さんは私のゲームと取り違えてたみたいだけど実際は逆。
もし、私の誘惑に兄さんが負けてくれたら。
私に妹以上の欲望を抱いてくれたら。
少しだけも、私の為にアイツを裏切ってくれたら。
私も愛してくれるっていうのなら。
私は今までみたいに兄さんの思うままにしてあげる積りだった。
兄さんの望む便利な妹の立場でずっと我慢してあげようと思った。
それが私の出せる最愛の兄さんへの最大限の譲歩。
なのに、兄さんは一度も受け入れようとはしなかった。
アイツなんかを求めた癖に。


384 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 02:02:22 ID:7XtHd9Fs
アイツと兄さんが付き合ってから、何度も考えた。
どうして抱き合っているのは私じゃなくてアイツなんだろう。
私じゃなくてアイツがどうして、兄さんに告白をされているのだろう。
兄さんに愛される資格があるのはアイツじゃなくて私のはずなのに。
確かに兄さんとアイツの距離を縮めたのは私だ。
でも、私はアイツが兄さんに愛されるように仕組んでなんて無い。
それに、アイツに付き合うのに疲れた兄さんが、
私の所に戻ってくるかもしれないとだって期待していた。

何でアイツなの?
アイツは兄さんの気持ちなんて分からずに喚き散らしてるだけじゃない。

何でアイツじゃないといけないの?
アイツが兄さんの為に出来る事なら、全部、私の方が上じゃない。

何がアイツにあるっていうの?
豊かな体? 綺麗な顔? 硝子みたいに澄んだ赤い目? 雪みたいに白い髪?  
くす、兄さんが外見で惑わされるなら、私は兄さんの理想そのものなんだよ。

何で私じゃないの?
私は誰よりも兄さんに相応しい女の子なんだよ。



385 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 02:02:56 ID:7XtHd9Fs
あははは、分からないよ。
誰より兄さんの事を知ってる雪風には、兄さんの事が全然分からないよ。
アイツを愛する兄さんなんておかしいよ?
血の繋がりなんて関係無い、私を求めない兄さんなんて有り得ないんだよ?


 じゃあ、もうそんな兄さんの自由なんて、必要ない。
 だったら大好きなアイツに壊されて、私のモノになっちゃえば良い。


それが兄さんの残酷な答えへの、残酷な私の答えだ。
兄さんが全部悪いんだ。
私を兄さんだけしか見られなくしたから。
兄さんが私以外を見るから。
私を兄さんが見捨てるから。
兄さんが私の事を理解してくれないから。
私が信じていた答えを出してくれなかったから。


386 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 02:03:17 ID:7XtHd9Fs
なんだ、本当は兄さんに勝つどころか勝負にすらなっていないじゃない。
結局、私は兄さんに振り回されていただけなんだから。
それって今までと何も変わってなかったって事だよね?
なら、全部兄さんの自業自得なんじゃない。

「そうだよ、兄さんが全部悪いんだよ。
 生まれてからずっと雪風に酷い仕打ちをしてきたんだから。
 でも、だから天罰が当たっちゃったんだよね~」

今の兄さんは、無能だ。
一番大事だった物も失って、夢見たはずの日々はもう取り戻せない。
そして、もう兄さんの理想は手に入らない。
最後に残されたもの、私やアイツを振り払う力すら無い。
これからの兄さんは永遠に私の玩具だ。
そう、あの日までの私と全く同じように。



387 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 02:03:57 ID:7XtHd9Fs
「あははははは、どんな気分か、兄さんには分かるかな~。
 ねえ、いっぱい素敵な夢を見せてもらって、素敵なお話を何度も聞かせてもらって。
 たくさん、たくさん、期待させて。
 でも、最後に何にもあげな~いって意地悪されるんだよ?
 辛いでしょ、隣にいる最愛の人に想いが届かないのって。
 苦しいでしょ、体一つだって自分の思い通りにならないのって。
 これで、兄さんは雪風にどれだけ酷い事をしたのか少しは分かってくれたかな~?」

兄さんの事をずっと愛していたわ。
でも、それと同じくらいに残酷な兄さんを憎んでいたんだよ。
どうして、本当の雪風の心を理解してくれないのって、ずっと叫んでいたんだよ!!
あははは、でもいいよ、もう全部許してあげるね。
だって、雪風の一番欲しかった兄さんはもう雪風のモノなんだから。
大丈夫だよ、兄さん。
兄さんは、兄さんにとってのアイツや雪風みたいに、
どうでもいい何かなんかじゃないんだよ。
だから、ずっと、もう二度とどこにも行けないように、
誰かに盗られてしまわないように、
私の手元からいなくなったりしないように、
暗くて狭い箱の中に大事に仕舞ってあげるからね。
それから、シルフっていう重い鎖で縛ってあげる。



388 幸せな2人の話 24 sage 2011/02/05(土) 02:04:32 ID:7XtHd9Fs
私は目を閉じて、兄さんの姿を思い浮かべる。
目蓋の裏にはっきりと、優しく笑いかける兄さんの顔が写る。
いつかは兄さんだってまたそうやって笑える日が来る。
ううん、絶対に来させてみせる、だよね。

「兄さんは私のモノ、愛してるよ、兄さん」

一番欲しかったのに、ずっと手が届かなかった物を手に入れられた。
私はもう絶対に逃がさない、逃がしたりなんてするものか。

私は幸せだ。

そして、この幸せをこれからもずっと閉じ込める、永遠に。


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最終更新:2011年03月26日 11:24
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